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【小説】最推しに逢いたい~Sister's Wall~第4話

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本文
芸能事務所との契約を結んで晴れて文化人として「所属タレント」になった彼方。その日の夕方、裕美たちととともに事務所からの彼方たちの家まで車で送ってもらっていた。
「美嘉と彼方君ってこんな家に住んでいたんだ」
事務所から車で約15分。和泉家は都心でありながら閑静な住宅地のそこそこ大きい一軒家だ。他のメンバーとは違いこれまで和泉宅を訪れることができなかった裕美は感嘆していた。
「そ、そうだよ『ミユ』さ…」
「今は高校のクラスメイトの裕美よ。アイドルじゃないから『ミユ』呼びはやめて」
事務所から出た為、アイドルの「ミユ」ではなく彼方のクラスメイト・米原裕美になっていたので呼び間違いを嗜める。

「おかえりなさい、カナちゃん!」
リビングでは麻衣、エレナ、栞が出迎えてくれた。「第二の自宅」と言わんばかりにどこに何かあるかを把握しておりテキパキとパーティの準備をしていた。それを見ていた裕美は
「他のみんなはここに何度も来てたんだね…なんか疎外感があるな…」
とボヤく。それに対して彼方は返す。
「今まで姉ちゃんに邪魔されてたもんな。でもこれから繋がりができたからいつでも来ていいよ」
「え、大丈夫なの?美嘉にバレたら大変なのでは?」
「もう僕は姉ちゃんの言いなりではない。帰ってきたらはっきり言ってやるよ。もともと他のメンバーも僕を支えてくれたし、こうして最推しであるキミに逢えて勇気が持てたよ」
「彼方君…そうよね、私も美嘉に言いたかった事があるし機会みつけて同じように言ってやるわ!」
最推しに逢えて高揚していた彼方と、彼の意志に心うたれた裕美により壁を打ち破る「武器」が出来た。

 話を戻していこう。お互いが美嘉に立ち向かう決意を示したところで、炭酸ブドウジュースで乾杯し彼方の事務所入りを祝うパーティが始まった。そのパーティは適当に買ってきたファミレス提供のオードブルとピザといった簡単なものではあるが、人気アイドル達が新人・彼方を歓迎する面子としては華やかなものであった。
「これでカーくんもボクたちの仲間だね」
「彼方くんの仕事はどうなるのですか?早速オファー殺到ですか?」
「それは無理ね。今日登録して、明日に仕事来るなんてそうそうないよ」
有菜と栞の勢いを美乃梨が止める発言を彼方も同調した。
「そうでしたね。僕、今週の木曜と金曜に高校の夏季テストがあるから。まあ、普段から勉強も疎かにしてないから多分僕は大丈夫。試験終わったら色々両立していくよ」
学生の本分としての勉学に関する行事・定期考査が控えていた。と言っても仕事と推し活と上手く両立させていた彼方は問題なかったのだが…
「私少しヤバいかも…」
(エレナ)「え?まさかミユは厳しいの?」
「ここ最近忙しくてなかなか勉強出来なかったから…」
裕美はレッスンや芸能の仕事もあるためなかなか勉強に割ける時間が取り辛い。ましてや復学して初の定期考査となり、ここでヘマをしたら芸能活動と学業双方に影響が出てくるからプレッシャーが大きいようだ。
「だったら明日クラスメイトと一緒に試験勉強するから、米原さんも来る?」
「え、いいの?」
「学友のピンチを助けるのは当たり前だよ、夕方から夜にかけてやるから都合いい時に来てよ」
「ありがとう。月曜は昼間レッスンだけだから夕方には行けるよ」
彼方の勉強会の誘いに裕美は思い切り乗っかった。「ミユ」である事を打ち明けられたし、もう彼方の前ではどちらの自分も隠す必要がない。それだけで気が軽くなったのだ。
「なんだかんだでミユ、楽しそうじゃん」
「でも美嘉が帰ってきたらどうなることやら。まー今のあの2人なら美嘉に打ち勝てる武器があるから大丈夫でしょうね」
しかしその「武器」は想像以上に強力であり、壁をボロボロにしてしまうことをその時の彼らは知る由もない。

 翌月曜日の夕方17時、彼方は学友たちを自宅に呼び週内にある夏季テストに備えて勉強していた。裕美は少し遅れるとSNSのメッセージで連絡があったので、トオルとケンタと共に先に始めることにした。
「しかし彼方、昨日芸能事務所と契約したのに仕事せずにテスト勉強って虚しくないか?」
学友のトオルが事務所所属となった彼方に問いかける。
「別に。事務所入ったのは水面下で行われた僕を巡る争奪戦を終わらせる為だよ。思い返してみれば価値があれば使いたがる他の事務所の奴らの勧誘凄かったからな」
実際彼方は高校1年の10月頃、ある外資系メディアが発表した「世界を変える若き才能」に選出されて以降多くの芸能事務所から声掛けられていた。しかしホワイトハッカー、学業の両立と推し活を重要視していることから断り続けていた。しかしこれでは埒が明かないと思っていたところに美乃梨から同じ事務所入りのお誘いに乗ったのだ。CheChillと同じ事務所ならミユに逢えることを期待し実現できたのだから、これだけでも十分だ。
それにいくら世界で活躍するホワイトハッカーである彼方とはいえ、まだ10代半ばの高校二年生だ。学業を疎かには出来ない。
「まあ試験終わったらボチボチ文化人として仕事はするよ」
「あーそうですか。それはとにかく勉強進めようぜ」
聞き役に徹していたケンタが話しを終わらせて勉強に戻ろうとしたところで玄関のチャイムが鳴る。ドアを開けると裕美が立っていた。
「彼方くん、お邪魔します」
「い、いらっしゃい米原さん。さああがって」
昨日誘った裕美がやってきた。クラスメイトとして来る事は聞いていたトオルとケンタも驚く事はなかった。だが裕美が人気アイドルグループのセンターとわかったら確実に驚くだろうが、裕美が怒るだろうし、口には出さないようにしていこうと彼方は心に留めている。
「お、米原もきたか!」
「4人揃ったし、本腰入れますか」
とトオルとケンタも裕美への挨拶もそこそこに夏季テストの勉強に入った。

 3時間経って20時過ぎると、さすがに集中力が途切れてきた。
「もうこんな時間か、今日はここまでにして晩御飯用意するよ」
「今から作るの面倒だしデリバリーでいいんじゃないか?」
「米原もいるからパスタとかイタリアンでいいかな」
彼方が夕飯の準備に取り掛かろうとしたらトオルとケンタが待ったをかけて、デリバリーを提案する。まあ彼方は定期配送で持っている某有名冷凍食品をわけるつもりだったが、トオルたちの案に乗っかることにした。
「疲れた~ここまで勉強に集中したの久々だよ~でも彼方くんだけじゃなくてトオルくんやケンタくんも凄いんだね。いつから仲良いの?」
「まあな。ホワイトハッカーやってる彼方ほどじゃないけど、俺たちも学業と会社経営してるからなどっちも並立するとなるとお互い大変だから、そこらへんで気があって友達やってんのよ」
料理が到着する間、裕美はトオルとケンタに質問した。それに答えるのはトオルだ。
「会社って…」
「ああ、大ヒットしているアプリを出してるからメンテナンスできるプログラマーらを雇って会社をまわしているんだ。そんなに大きくないけどな」

料理が到着し、会食中も話に花が咲いていた。
「裕美って学校以外では何やってるんだ?常に遊んでいるわけではないだろうし、何か仕事してるの?」
ケンタが何気に厄介な質問をしてきた。ケンタは普通に気になっているから純粋に質問しているのだろうが
裕美本人と事情を知る彼方は固まってしまう。それでも何か答えないとと思った裕美は口を開く。
「えーと、親戚の会社で働いているよ。そこが忙しくて一時期休学してたんだけど落ち着いたから今年復学できたんだ」
確かに嘘は言っていない。これは彼方が契約した時に初めて知ったのだが・・・

事務所との契約を締結して「ミユ」としての裕美と対面した直後、長浜副社長が語った。
「実は裕美は私の祖父である創業者の弟の孫娘なの。ひいては私も遠い親戚なの」
「聞いたことありますよ。僕、デビュー前の配信で『ミユ』が遠い親戚に引き取られたこと。それがこういう形なんですね」
「そうなの?あれそんなに再生数良くない動画だったけど見てる人は見てるってわけね」
経緯と生い立ちを知っている分彼方の方がドギマギしていた。
そんな彼方の気も知らずケンタは更に突っ込んだ質問を投げてくる。
「どういう業界なんだ」
さすがに芸能関係と言えないだろうが・・・
「え、エンターテインメント業界だよ」
確かにエンターテインメントといえば芸能以上の幅広い業界を意味するのである意味いいラインの返しだ。裕美は何とか切り抜けて安堵したが、
「なんでキツイ質問されてないお前ひやひやしてんだよ」
彼方は緊張しすぎてダウンしてた。そんなこんなで晩御飯を終えて流石に帰る時間となった。

「今度は明後日の水曜な」
21時半ごろ、トオルとケンタは先に家を出て帰路についた。裕美はそこから15分後、副社長が自ら迎えにきた。
「彼方くん、今日は裕美の勉強に付き合ってくれてありがとうね」
長浜副社長から感謝の言葉をもらいもどかしい気持ちになる彼方。
「い、いえどういたしまして。水曜日にも勉強会するけど…」
「ごめん、その日は厳しいの。わからないところは美乃梨に聞いてみるよ」
「そうか、じゃあ木曜日学校で」
「うん、今日はありがとう」
「それじゃあ彼方くん、試験終わった来週には仕事がちょっと入ると思うからお願いね」
「はい、宜しくお願いします。副社長もありがとうございます。お疲れ様でした」
裕美と副社長に挨拶すると、車が発進した。それを見届けると彼方はさっきまで賑やかだったリビングでくつろいでいた。
「さてと今日はもう寝るか…」
翌日も仕事と試験勉強に重点を置いた1日になる為、早く寝床に就こうとしたら…
「ただいま~お姉様のお帰りよ~」
ハワイでグラビアの仕事をしてた姉であり最大の壁である美嘉が1週間振りに自宅に帰ってきたのである。

つづく

#創作大賞2024 #漫画原作部門


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