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人生で最もぶっとんだ1年間を振り返って
「人生何があるかわからない」とはよく言うけれど、私はこの1年を通して身をもってそれを実感した。
ちょうど一年前、今日と同じように雨が降っていた。
その日は夕方からの出勤。いつもは余裕を持って家を出るが、珍しく家を出る時間がギリギリになり、慌てて家を飛び出して自転車に乗った。多少の雨ならと、傘もささず雨に濡れながら自転車を漕いでいた。
ちょうど職場が目前に見える踏切を通り過ぎたところで、急に視界がぐらついた。突然胸に強い衝撃が加わり、肺がへしゃげた感じがした。しかし、恥ずかしさのあまりそこに長時間倒れていることはできなくて、大きな衝撃を受けた体に鞭打って自転車と自分を起こし上げた。そこから肺と胸郭を広げて思いっきり息を吸えるようになるのにしばらく時間がかかった。でも仕事に遅れる訳にはいかず、おばあさんのような中腰で弱々しく自転車を押しながら歩いた。
おそらく同じ職場に向かおうとしていた人たちは、盛大に自転車で滑って横転した私の一部始終を見ていたであろうが、誰一人と私に「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたり手を貸すことはなく、横目で見て足早にその場を去っていった。自業自得ではあるが、こけて怪我をしている私に全くの無関心な人々に心が傷んだ。
しかし、いつもなら「もう最悪や」となるところがこの時の私はとても強くてこんな状況にも不思議とポジティブだった。
前置きは長くなったが…
実はこの日は、私が今の旦那さん(以降、彼)と初めてデートをした日だった。
その日、私は夕方から仕事があったため、昼間に一緒にランチに行くことになった。
そこで、私はチーズ食べ放題が売りのチーズ専門店に行くことを提案した。
チーズはおしゃれだし、美味しいチーズのランチを食べればもしかしたら二人の距離も縮まるかもしれないと安易に選んだのだが、誤算があった。チーズは間違いなく美味しかったのだが、チーズの匂いは香ばしいという素晴らしいものではなくて、独特のかなりきついものだった。
初めてのデートでお互い緊張しているのもあって、途中から自分たちが臭いのかチーズが臭いのか何がなんだかわからなくなった。挙げ句の果てに彼が鼻に手をあてて「もう限界、違う店に行きたい」と言ったのでその場を後にすることとなった。
正直、1件目のチーズレストランは大成功というには程遠く、私たちの間にも微妙な空気が流れていたが、2件目に行ったカフェは居心地もラテの味も、もちろん匂いも全く問題なく完璧でとても良い時間を過ごすことができた。
私たちは出会ったばかりにして、お互いの価値観や宗教観、人生のゴールなどについて語り合い、またそれらがとても似ていることを認識し合った。
私は、私が今までずっと探してきていた理想の考えや価値観を持った理想の人が突然目の前に現れたことを悟った。
そして出会って間もない彼のことを、恋愛関係あるなしに関わらず大好きになった。この感覚は初めてで、大親友になるにせよ、恋人になるにせよ、彼がこれから私の人生で大切なパートナーになることを確信した。
後にその確信は現実になっていくのだが、自分でもびっくりするぐらいに彼と出会ってから私の人生が動き出していくスピードは早かった。
周囲の人に私たちの話をすると、中には私たちの展開が早すぎて、特に旦那さんが外国人であることから怪しいという反応をする人もいるが、私にはなんの迷いも後悔もなく、全てがなるべくしてなっていったと思っている。
今日仕事が終わって最寄りの駅に降り立つと、大きな傘をさした彼が私を待ってくれていた。彼の左の薬指にはきらりと光るものがある。
1年前も雨だったよねと二人で話しながら家までの帰り道を一緒に歩いた。
「お腹すいた?野菜たっぷりのスープを作っておいたよ」と彼。
1年前は想像もしなかった幸せな今がここにある。なんて幸せなんだろう。今に心から感謝。
来年の今日は一体、どこで何をしているのだろう。来年は1年を振り返って何を思うだろう。
人生何があるかわからない。
今に感謝し、やってくる未来にワクワクし続けたい。