岩場でオオカミ魚
潮が引くと現れる岩場は、特に夏の間は子供たちのいい遊び場だった。岩場にできる大小さまざまな水たまりには小魚が泳いでいた。時には逃げ遅れた少し大き目の魚を見つけることもあったが、それでも捕まえるのは容易ではない。
水たまりの中には腰までの深さの所もあった。底の様子が分からないので入るには少し勇気がいたが、それでも入って、恐る恐る底の様子を足で探っていくと、幾つかウニを見つけることがあった。1個か2個でも大収穫だ。
岩場での釣りには竹竿を担いで行った。餌は岩場にくっついている「エラコ」を捜した。エラコとはキノコのシメジのような感じでチューブ状の物が束になって生えていて、そのチューブの底をギュッと摘まむと、上からエラコが出てくる。それは長いミミズにカツラを被せたような格好をしている。
岩場の沖の方と右側には、それぞれ数メートル離れたところに多少大き目の岩があったが、そこは引き潮になっても、殆どの場合は水を被ったままだった。その岩と足元の間の深みに針を落として遊んだのだが、そんなに素晴らしい魚が釣れるわけではなかった。しかし、時に立派なカレイが釣れると、喜び勇んで帰り、母に煮つけにしてもらった。小さなカレイばかりの場合は物置の軒先に干して、干物にして食べた。
そんなある日、岩場の沖の方で釣り糸を垂れていると、隣の同級生の竹竿が大きくしなった。竿が重い。友人が叫んだ。
「重い! ガンジーだ!」
始めて耳にする名前にどんな魚かと思って見守っていると、滅茶苦茶恐ろしい顔をした、1.5メートル程の、茶色で、太いウツボのような魚が海面から跳ね上がった。彼は岩の上で暴れるその魚の頭を捕まえると、「こうやらないと危ない」と言って岩に打ち付けた。
そんな恐ろしげな顔をした魚が、この岩場に棲息しているとは全く知らなかったが、後にも先にも、僕がガンジーを見たのはその時だけだった。
大人になってからそれがオオカミ魚であることを知った。
●参考までに、平板氏のブログを添付します。
●また、信じられないショート動画も添付します。
平板氏のブログの中には、「噛まれると大変だから、釣り針に掛かったら棒で一発ぶん殴って気を失わせてから針を外して海に返す」と話した漁師さんがいたという一節がある。また、ショート動画では頭だけになったオオカミ魚の口にコーラを近づけたら激しく噛みついているが、これって本当なんだろうかと思ってしまう。しかし、以前に、切り落とされたヘビの頭に人が噛まれた話を読んだことがあるので、オオカミ魚の場合もありうるのかも…。
オオカミ魚を釣り上げた友人は、きっと危険なことを知っていたのだろう。何も知らない僕が下手に手伝おうとしていたら、危なかったかも知れない。
(まこと)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?