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2章第10話 打ち上げだわーい!

【目 次】


 翌日、千葉ちゃんたちはすぐに昭ちゃんを訪ねました。昭ちゃんは「びっくりしたけど、まあ、歳だしね」と落ち込んでいる様子はなく、お母さんの方を心配していました。お通夜とお葬式の日にちを聞いたので、メンバーは夫々に都合の良い方に出席することにしました。
 

 そして夜が来ると、いつもの「いらっしゃい」で打ち上げが行われました。全員が席に着くと、さとしちゃんが話を始めました。
 
さとし: 昨日は大変お疲れさまでした! 大成功だったと思います。ひとえに先生たちのお陰です。ということで、花束を贈呈いたします!

佳純ちゃんが花束を寿美ちゃんに渡しました。
 

さとし: では、スピーチをお願いします。

千 葉: えー、この度は…

加 藤: お前はいいから、チャミちゃん先生。

だれも異論を唱えません。

 
千 葉: チッ!

寿 美: みなさん、素敵なお花、ありがとう。そしてお疲れ様でした。フォーメーションは本当に素晴らしく、とても初心者の踊りには見えませんでした。また、西洋の諺に「マナーは人をつくる」というのがあるようですが、皆さんのダンスタイムでのマナーも素晴らしかったです。みなさん、ありがとう。

河 合: 千葉にも話させてやれよ。

ヤ ス: 一応習ってるんだからな。よし、話せ。

千 葉: チッ! まあ、いいか。えー。

と、話し始めると全員から「短くな!」のダメ押しが入ります。こいつらは、奥さんの前でも、実に千葉ちゃんを雑に扱います。

あっ、つい千葉ちゃんに感情移入して「こいつら」と書いてしまいました。いかん、いかん(汗)。(作者)

千 葉: 「みんなで昔のように何かしたい」気持ちは、ダンスのレッスン、そして、今回のフォーメーションと言う形で完全実現されたと思います。今日は上手に踊れた余韻に浸りながら、大いに飲みましょう! そして、君たちの残り少ない人生、頑張って下さい。

全 員おいおい!


乾杯になりましたが、男からの罵声が飛び交います。女性たちは大笑いしています。


寿 美
: これは私たちからのお祝い。今日の飲み会に役立てて下さい。

全 員: さすが、チャミちゃん先生!千葉ちゃんとは違うなー!

千 葉: うるせーやい!

寿 美: あなた、いいわね。こんなに素敵なお友達がたくさんいて。

千 葉: 言うな。こいつら、調子こくから!

美 和: それにしてもさ、始まる前はドッキドキで、「やめたいっ」て思ったけど、終わった瞬間、「またやりたい」って思って、おっかしかったわー。

純 子: 練習の時は難しくて「もうやめたい!」って思っていたけど、絶対、またやりたいわー!

ミッチ: 最後も笑顔で決めたしな。俺たちの実力は相当なもんだぞ。

幸 子: また、黒池町のうぬぼれが始まったって言われちゃうわよ。

ミッチ: うぬぼれでも何でもない。事実だ。
 

 全員のうっとりした表情から、綺麗に踊り切った姿を浮かべているのが良く分かります。

この物語が映画やドラマ化されたときには、ここで、まるで違う、プロが同じことをした場合の映像が流れる。そこまで考えているのだ。(作者)



 みんなが「うっとり」しているのだから、そっとしておけば良いものを ―― 

寿 美: それはあくまでも勝手な妄想かも知れないわよ。

 と、スマホの写真を見せたものだから、全員、口を開けたまま固まったのでした。それは、引きつる顔、顔、顔、しわくちゃの顔のオンパレードだったのです。
 

 沈黙を、さとしちゃんが明るい声で破りました。

さとし: ま、千葉ちゃんだけは笑顔だな。さすがだな!
 

 しかし、この一言が仇となり、なぜか、他の人たちがショックを隠そうとするかのように、千葉ちゃんに対して突っ込み始めたのです。 
 

美 和: でもさ、でもさ、間違えてたよ。

幸 子: でしょ、でしょ。悪いと思って言わなかったけどさー。千葉ちゃん間違えてたわよねー。

千 葉: うるさいわいっ!
 
大笑いである。他のメンバーも次々と突っ込み所を考え始めている。


千 葉: 正直、みんな以上に緊張してたと思う。帰る前、トイレで教室の市川先生と会ったら、「素晴らしいフォーメーションでしたね」と、すっごく褒めてくれたんだけど、その後で、「でも千葉さんだけが間違えてましたね」って笑われちゃってさぁ。危なくズボンにひっかける所だったよ。

寿 美: やめてー!

千 葉: 大丈夫、自分のじゃないから。

寿 美: もっと悪いじゃない! バカね!


さとし
: チャミちゃん先生、こう言ってはなんですが、こいつはステップは間違えるし、おしっこはかけるし、ご飯はこぼすし、なんも変わってないですよ。

千 葉: おしっこはかけてないし、ご飯は関係ないし、間違ったのはステップ1か所だけだろ!

加 藤: いいや。お前、3年の「合唱コンクール」本番で堂々と別のパート歌ったよな。

千 葉: そこまで戻るのかい!

ヤ ス: そうよな。お前が間違ったから、テナーのパートがみんな釣られちゃって、ガタガタになったべや。ほんと、当てにした俺たちが間違ってたわ。

佳 純: それに、弁当はこぼしてたわよね。

寿 美: やっぱり? この人が最初に勤めた会社の女性から今も年賀状が届くんだけど、去年の年賀状に「いまもご飯こぼしていますか?」って書いてあったのよ!


 チャミちゃんまで加わったのですから、千葉ちゃんは降参するしかありませんでした。


千 葉: まあまあ、そういう話もあるかな。みんな、笑ってくれてありがとね。ところで、話を変えて悪いけど、みんな、ダンスタイムでも全然気後れしないで、大したもんだったな。

美 樹: えへん! 私たち、密かに旭川のフリー・ダンスに行って、慣らしていたのよ。

佳  純: みんなで、千葉ちゃんやチャミちゃん先生に恥かかすわけにいかないって!

千 葉: …そうだったのか…。なんか、ウルウルしてきて…漏らしそう。

全 員: やめろって!
 


 大いに盛り上がった打ち上げが終わり店を出ると、外は本冷えしていました。いつものように、さとしちゃんが「では解散ということで」と挨拶すると「良いお年を!」の声が銀座通りに響きました。

 千葉はタクシーを呼んでいました。アルコールが入ると歩くのが面倒になってしまうのです。そして、タクシーを待ちながら、「明日から正月に向けていろいろやらなきゃなー。まだ開けていない引っ越し荷物も、なんとかしなければなー」と思いながら、帰路に着く仲間の後姿を見ていると、叫び声が響きました。

「はやく、新年会やりてーなー!」

「北国ダンサー物語」(作:神元 誠)

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