これさえ、在れば。
目の前が霞んで、ぼやけて、滲んで。
辺りは暗いし、周りの声は段々と大きくなり
耳を塞ぎたくなる。
自分の形が消えていくようで手も足も出ない日常。
さあ、どうする。
右も左も分からなくなった今、何をしようか。
きっと、ここからが自分の本当の日々を
歩けるんだと思う。
全てに当てはまる訳ではないと思うが、
私は、そうだった。
高校時代は学校が嫌いで、どこにいても辛くて
できるだけ早く早く卒業したかった。
だから、毎日をただ無心で
とにかく時間が過ぎるのを待った。
そんな時、ふと思い立って自分の部屋を変えた。
理由はないけれど、"なんとなく好き"な
家具やインテリアにして
"なんとなく好き"な香りを嗅いで、
舌が火傷するくらいの温かいお茶を飲む。
部屋の明かりは、
優しく灯るまあるい間接照明だけ。
すると強張っていた体も心も、
スーッと解けるように力が抜けた。
自分だけの空間、自分だけの時間。
誰も見ない、誰も何も言わない。
聞こえるのは自分の声と心地いい音だけ。
夜が、この時間だけが好きになった。
朝起きるのが怖くても、夜が待ち遠しかった。
私だけの夜を過ごせば、
全てがゼロに戻る感覚だったから、
居場所ができた気がしたから。
思えば、ここから、
私の「本当の日々」がスタートした。
目の前が霞むなら、滲んでぼやけるなら、
そのままでいい。前も上も向けなくても、いい。
理由なんかなく、なんとなく好きな方へ
体の力が抜けるような心地いい方へ、
自分の声がしっかりと聞こえる場所へ行けばいい。
身体の中で響いている自分の声は
私自身が耳を傾けないと聞こえてこない。
自分の音よりも、周りの音に反応していた私は
いつの間にか中身のない空洞人間になっていて、
いつも誰かが出入りするから、痛くて、痛くて。
だけれど
これさえ在れば、私は私の声が聞こえる。
これさえ在れば、いらない言葉、
いらない記憶も捨てられる。
これさえ在れば、私は。
あれから数年たった今
私は兎にも角にも、心地の良い方へ向かっている。
私を私たらしめるモノ、人に囲まれた
日常を送れている。
不思議なものです。
そのどれもが、自分とそっくりなんですもの。
やっと孤独と仲良くなれた"気がした"。
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