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(舞台感想)next to normal

心を揺さぶられました。
想像の斜め上をいく話に衝撃を受けました。

ネタバレします。



双極性障害を患う主人公のダイアナと、その対応に苦慮する家族の物語。
ストーリー、音楽、演者がガッツリと組み合った、「骨太の作品」と思いました。

イントロダクション

最初はゆるゆると始まったように見えました。
母(ダイアナ)、夫(ダン)、息子(ゲイブ)、娘(ナタリー)の4人家族。
ありふれた日常に見え、退屈で少々眠いと思いました。次第にダイアナの尋常ではない様子が示され、彼女は双極性障害を患っていることが明らかになります。

提示

息子(ゲイブ)は既に死んでいて、我々が見ていたゲイブはダイアナの幻覚と分かります。
この瞬間、舞台がガラッと変わりました。
音楽はロック調になり、ダイアナのボルテージが一気に上がり、その迫力に目が覚めました。

新しい精神科医(ドクター・マッデン)との診察では、ドクター・マッデンが突然ロックスター的なシャウトをします。ビックリしましたし客席では笑いが起きましたが、繰り返されるうちに、これはダイアナの疾患が見せる景色なのだろうと思いました。

説明を「音楽」で行う。
面白いと思いました。

転回

ダイアナの症状が良くなるにつれ、息子(ゲイブ)の幻覚は消えるどころかますます強大になります。
死んだはずのゲイブは、天使のような天真爛漫さで「僕は生きてるよ、側にいるよ〜!」と意気軒昂に歌うのです。( “I'm alive” )
ダイアナがゲイブの幻覚から離れられない「疾患の手強さ」を感じ背筋が凍りました。

ゲイブ役の甲斐翔真さんの歌唱があっぱれでした。イキイキしていて怖すぎます(素晴らしかった)。楽曲的にはこの曲がクライマックスと思いました。

ダイアナの苦闘は続きます。
ダイアナの状態はジェットコースターのようにアップダウンし、失意に泣き、怒り咆哮します。

ダイアナ役の望海風斗さんの演技は圧巻でした。
2階席からの遠目でしたが、シンとした場面も、激しい動きも美しかったです。卓越した表現者でいらっしゃると思いました。

収束

夫(ダン)もまた、息子(ゲイブ)の死から立ち直っていなかったと気付いたのは、ダイアナが家族と決別し、去った後のことでした。
ゲイブに抱きしめられて歌うダン。
ダイアナにばかりに意識が集中し気づいていませんでした。誰も(私が?)彼を気遣っていなかった。

娘(ナタリー)と同級生(ヘンリー)が “Hey” と呼びかけ合う歌は愛らしかったです。お互いを思う優しい気持ち。物語の収束を予感しました。

終曲

最後は「力強い合唱」で締めくくられました。
1幕の途中から辛くて大泣きしていましたが、最後は爽快な気持ちで劇場を出ることが出来ました。
終曲( “Light” )が、私たちに希望を持たせてくれたのだと思います。


追記

20年近く前ですが、私は仕事で衛生業務に携わることがあり、双極性障害の名前と概要だけは知っていました。
言われないと、その方が病気と分からないと思った記憶があります。当時はご家族のことに思いが至りませんでしたが、ダイアナ達と同じように “next to normal” を目指して生活していらっしゃったのかもしれません。


お読みいただきありがとうございました。


●データ
公演日程
2024/12/6(金)~12/30(月)
東京・日比谷シアタークリエ
2025/1/7(日)~1/9(火)
福岡・博多座
2025/1/11(土)~1/13(月)
兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

【音楽】トム・キット
【脚本・歌詞】ブライアン・ヨーキー
【訳詞】小林 香
【演出】上田一豪
【出演】
ダイアナ:望海風斗
ゲイブ:甲斐翔真
ダン:渡辺大輔
ナタリー:小向なる
ヘンリー:吉高志音
ドクター・マッデン:中河内雅貴