Cutibacterium acnesについて
2024.12.25、今年最後のmicrobiology conferenceは僕が担当でした。
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50歳男性。2年前に髄膜腫摘出術を受け, 以降経過フォローされていました。頭部CTで髄膜腫摘出部位に血腫が出現し, 1年ほど前から頭痛を伴うようになりました。徐々に増大していったため, 今回血腫摘出目的に入院となりました。しかし, 血腫と思われた病変は, 肉眼的に黄色肉芽を伴い膿瘍を疑うものであり, 感染症科コンサルトとなりました。
グラム染色では形態が安定しないグラム陽性桿菌を認める他, 背景にほとんど白血球反応を認めないもののヘマトイジン結晶を有しており, 血腫感染が考えられました。グラム染色形態・経過からCutibacterium acnesを疑い, すでに開始されていたセフトリアキソンを継続していただき培養を待つ方針としました。すると, 嫌気培養開始4日目にやや光沢のある小さなコロニーが発育し, 質量分析にてC. acnesと確定できました (Figure 1)。
Figure 1. 左. 膿瘍グラム染色, 中央. 拡大, 右. やや光沢のある小径のコロニー
Cutibacterium acnesは放線菌門プロピオニバクテリウム綱に属する耐気性, 嫌気性, 芽胞非形成性のグラム陽性多形性桿菌です [1]。100年以上前に尋常性ざ瘡の患者から初めて分離され, 当初はBacillus spp.やCorynebacterium spp.に誤分類されていました [2]。しかし, 1946年にDouglasとGunterにより, この微生物が嫌気的条件下で乳糖をプロピオン酸に発酵させるPropionibacterium spp.に近いことを証明しました [3]。その後, 2016年にPropionibacterium spp.のゲノム解析が行われ, Propionibacterium acnesはCutibacterium acnesへと再分類されました [4]。
C. acnesは皮膚の毛包脂腺や口腔, 消化管, 泌尿器・生殖器の常在菌ですが, 通常病原性はないため侵襲性軟部組織感染を起こすことはありません (Figure 2) [5-6]。しかし, バイオフィルムを形成するため, インプラント関連感染の際には起因菌として問題となります [7-8]。特に, 人工関節, 心血管デバイス, 乳房インプラント, 眼内レンズ, そして脳血管系デバイスなどでの感染がよく知られており, インプラント埋め込みから数ヶ月〜数年経って生じることが特徴です [5]。余談ですが人工関節の中では他の関節に比べ肩でC. acnesが起因菌となることが多く, これは胸部に皮脂腺が多く分布しているためと言われています [1]。
2004年, C. acnesはWGSによってtly (推定溶血素) 遺伝子とrecA (DNAの修復と維持) 遺伝子の塩基配列に基づき, I型, II型, III型と呼ばれる三つの異なる区分に分けられました [6]。その後亜分類が行われ, 現在は, IA1, IA2, IB, IC, II, IIIの6つの主要な系統型に分けられています [9]。すべての系統型が正常な皮膚に見られますが, IAは尋常性ざ瘡に罹患した皮膚に多く見られるのに対し, 他のタイプ, 特にIBとIIはインプラント関連感染と関連しています [10]。
Figure 2. C. acnesの分布と細菌量 [6]
C. acnesは嫌気から微好気条件で, 血液寒天培地, ブルセラ寒天培地, チョコレート寒天培地, BHI寒天培地など様々な培地で発育します。注意すべきはその発育の遅さであり, 組織培養では, 例えば人工弁で10日間 [11], 人工関節で14日間 [12] まで培養を延長する必要があります。そのため, 起因菌としてC. acnesを疑っていることを細菌検査室へ伝え, 培養を延長してもらうことが重要です (当院ではシェドラー寒天培地を使って, 最大14日間まで延長しています)。
さて, 今回は髄膜腫摘出後, 人工硬膜留置患者におけるC. acnesによる硬膜下膿瘍です。開頭手術後のC. acnes感染について, 手術から症状出現まで中央値39日 (範囲: 9日〜28年間) とフランスから報告されています [13]。C. acnes単独での感染に絞った場合の中央値は57日であり, 複数菌感染の場合は共感染する微生物によってより早期に症状が出現しうります。本症例ではいつから感染が生じていたのか不明ですが, 1年前から頭痛が生じており, その時点ではすでに感染が成立していたと考えられます。また, 術前のCRPは正常だったのですが, 先述のフランスからの報告でも30%の患者でCRP上昇を認めなかったとされています [13]。
治療は, 外科的ドレナージと抗菌薬投与が基本となります。薬剤感受性は良好で, ペニシリンやセフトリアキソンなどβラクタムには一般に感受性があります。クリンダマイシンやキノロン, ミノサイクリンの感受性は報告によって差があるものの, 感受性が残っていることも少なくありません [14-15]。また,リファンピシンがバイオフィルムに対して効果があると言われており, ペニシリンとの併用で付与効果も確認されています [15]。一方で, 嫌気性菌治療薬としてよく用いられるメトロニダゾールは活性がないため注意が必要です。メトロニダゾールはプロドラッグであり, 細菌内で還元されニトロソ化合物に変換されて作用します。また, その変換過程で生じるヒドロキシラジカルが抗菌作用を発揮するのですが, C. acnesを始めとした芽胞非形成菌は還元酵素を欠くため, メトロニダゾールに対して自然耐性となります [16]。
今回, セフトリアキソンで経験的治療を行いましたが, 感受性結果を見てアンピシリンへ変更をお勧めしました。治療期間について, 中枢神経系に生じた膿瘍として最低6週間の点滴加療は必要ですが [17], 今回膿瘍洗浄後ではあるもののDuraGenや骨弁が新たに埋め込まれており, 人工物が残存している状態です。そのため, ある程度suppressiveに治療が必要と判断し, 点滴治療後, 半年程度内服治療を継続していただく方針としました。すでに硬膜が外されており中枢移行性を気にするべきか悩ましいところですが, 既報では計半年程度クリンダマイシンやアモキシシリンを使用されるも12ヶ月の追跡で再燃を認めていないため [13], さほど気にしなくても良いのかもしれません。そのため, 今回はクリンダマイシンでのサプレッション治療を推奨する予定としました。
<Reference>
1. Mandell, Douglas, and Bennett's Principles and Practice of Infectious Diseases, 248, 2977-2984.e3
2. Bojar RA, Holland KT. Acne and Propionibacterium acnes. Clin Dermatol. 2004;22(5):375-379. https://doi.org/10.1016/j.clindermatol.2004.03.005
3. MOORE WE, CATO EP. VALIDITY OF PROPIONIBACTERIUM ACNES (GILCHRIST) DOUGLAS AND GUNTER COMB. NOV. J Bacteriol. 1963;85(4):870-874. https://doi.org/10.1128/jb.85.4.870-874.1963
4. Scholz CFP, Kilian M. The natural history of cutaneous propionibacteria, and reclassification of selected species within the genus Propionibacterium to the proposed novel genera Acidipropionibacterium gen. nov., Cutibacterium gen. nov. and Pseudopropionibacterium gen. nov. Int J Syst Evol Microbiol. 2016;66(11):4422-4432. https://doi.org/10.1099/ijsem.0.001367
5. Portillo ME, Corvec S, Borens O, Trampuz A. Propionibacterium acnes: an underestimated pathogen in implant-associated infections. Biomed Res Int. 2013;2013:804391. https://doi.org/10.1155/2013/804391
6. Achermann Y, Goldstein EJ, Coenye T, Shirtliff ME. Propionibacterium acnes: from commensal to opportunistic biofilm-associated implant pathogen. Clin Microbiol Rev. 2014;27(3):419-440. https://doi.org/10.1128/cmr.00092-13
7. Bayston R, Ashraf W, Barker-Davies R, et al. Biofilm formation by Propionibacterium acnes on biomaterials in vitro and in vivo: impact on diagnosis and treatment. J Biomed Mater Res A. 2007;81(3):705-709. https://doi.org/10.1002/jbm.a.31145
8. Ramage G, Tunney MM, Patrick S, Gorman SP, Nixon JR. Formation of Propionibacterium acnes biofilms on orthopaedic biomaterials and their susceptibility to antimicrobials. Biomaterials. 2003;24(19):3221-3227. https://doi.org/10.1016/s0142-9612(03)00173-x
9. Dagnelie MA, Khammari A, Dréno B, Corvec S. Cutibacterium acnes molecular typing: time to standardize the method. Clin Microbiol Infect. 2018;24(11):1149-1155. https://doi.org/10.1016/j.cmi.2018.03.010
10. McDowell A, Barnard E, Nagy I, et al. An expanded multilocus sequence typing scheme for propionibacterium acnes: investigation of 'pathogenic', 'commensal' and antibiotic resistant strains. PLoS One. 2012;7(7):e41480. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0041480
11. Fida M, Dylla BL, Sohail MR, Pritt BS, Schuetz AN, Patel R. Role of prolonged blood culture incubation in infective endocarditis diagnosis. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2019;38(1):197-198. https://doi.org/10.1007/s10096-018-3397-1
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13. Pietropaoli C, Cavalli Z, Jouanneau E, et al. Cerebral empyema and abscesses due to Cutibacterium acnes. Med Mal Infect. 2020;50(3):274-279. https://doi.org/10.1016/j.medmal.2019.09.015
14. Alkhawaja E, Hammadi S, Abdelmalek M, Mahasneh N, Alkhawaja B, Abdelmalek SM. Antibiotic resistant Cutibacterium acnes among acne patients in Jordan: a cross sectional study. BMC Dermatol. 2020;20(1):17. https://doi.org/10.1186/s12895-020-00108-9
15. Khassebaf J, Hellmark B, Davidsson S, Unemo M, Nilsdotter-Augustinsson Å, Söderquist B. Antibiotic susceptibility of Propionibacterium acnes isolated from orthopaedic implant-associated infections. Anaerobe. 2015;32:57-62. https://doi.org/10.1016/j.anaerobe.2014.12.006
16. Narikawa S. Distribution of metronidazole susceptibility factors in obligate anaerobes. J Antimicrob Chemother. 1986;18(5):565-574. https://doi.org/10.1093/jac/18.5.565
17. Bodilsen J, D'Alessandris QG, Humphreys H, et al. European society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases guidelines on diagnosis and treatment of brain abscess in children and adults. Clin Microbiol Infect. 2024;30(1):66-89. https://doi.org/10.1016/j.cmi.2023.08.016