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「あ、社長、本気だ」と社員に思わせるロゴマークをつくる人

【100人duet No.5】

そういえば、ロゴマークに込めた思いを経営者から聞くことはあっても、制作のプロセスを聞いたことはなかったなと、企業のビジュアルブランディングを手掛けるユリさんにお話を聴いた。
 
ユリさんはこれまで100社以上のロゴ、シンボルマーク、アイコン等をつくってきたデザイナーであり経営者である。
 
「まず、社長のお話を聴くことから始めます」
 
うんうん、そうだろう。
ロゴマークには企業の理念や哲学、歴史や価値が反映される。トップの話抜きには始まらない。
 
その話を聴けばロゴマークの輪郭が浮かぶのだろうか?
 
「いえいえ、まだまだ。ここは”核“へのアプローチ段階です」
 
核とはその会社がもっとも大切にしているもの。薄い皮を一枚一枚めくっていって最後に残る、これをなくすと自分じゃなくなる!みたいな部分のことだ。言葉にすると、伝統とか変革とか情熱とか挑戦とか?
(↑これは私がテキトーに出した一例)
 
脳がギューッと絞られていくようなやり取りを経て、社長は核の言葉にたどり着く。これが第1ステップだという。
 
そして第2ステップ。
ユリさんは社員さんたちとの時間を持つ。
 
『ロゴマーク制作委員会』?なんて名称かどうかわからないけれど、ここには各部署から選ばれた社員さんたちが「何が始まるんだろう」と不安そうに集まってくるらしい。
  
ユリさんは社長とともに絞り出した核ワードを彼らに提示し、その言葉のイメージや思うことを好きにしゃべってもらうという。業務に関係ない話でもOKルールだ。
 
(第1ステップが一点に集中していく感じなら、
第2ステップは全方位に広がるイメージっぽい)
 
ここではいろいろな話が出るそうだ。
(もちろん出るようにユリさんがファシリテートしている)
最初は静かだった社員さんたちもだんだん活気づいていく。
 
ユリさんは出てきた話を書き出し、分類し、共通点を見つけ、ラベリングして情報を整理していく。こうしてロゴマークの前提となるコンセプトが固まっていく。
 

実はここには社長が同席している。
 
「核ワード出したからあとは頼むよ、みんなで決めておいて」などと言う社長をユリさんは許さない。「社長もメンバーなんですよ」とやさしくいざない巻き込んでいく。
 
そこからはこんな感じらしい。
 
社長がしゃべり出す。いつもの調子で。
社員は微妙な顔をしている。
ユリさんはすかさず、「社長、今のお話は社員さんたちがよく理解できていないようですから、もう少し言葉を変えて伝えてみていただけますか」とやわらかく微笑みながらツッこむ。
「(え、そうなん?)」
苦悩しながら言葉を紡いでいく社長。真剣だ。
 
ある時は会社の歴史に話が及ぶ。
「こんなことがあった」と誰も知らない過去の苦労が明かされる。
思いがあふれて社長の目に涙がにじむ
 
そんな姿を見て社員は思う。
「あ、この人、本気だ」と。
 
そんなことがなんどか繰り返される。
社長と社員のガチンコミーティング。
こうしてロゴマークの原型が目に見えない空間に形づくられていく。
 
その先は第3ステップ。デザイナーの領域だ。
(ここはここでデザイナーの生みの苦しみがあるのだが、それはまた別の機会に)
 
ユリさんは「ここまでしなくても、会社の一担当者とデザイナーとのやり取りだけでロゴマークはつくれますよ」と言う。もっと言うと前提条件を整えてプロンプトをつくれば、AIが瞬時に複数のパターンを出してくるだろう。
 
「そういうつくり方もありですね。ただ、経験上、1と2のステップを踏んだ会社はその後の業績がよくなっています」
 
そうだよね。
 
ユリさんがデザインしたのはロゴマークなんだけど、実は、理念に向かってベクトルを揃えた社長と社員の一体感だからね。


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