キャッシュポイントのない世界にのめり込む。航空会社のエチケット袋を集める楽しみ
【100人duet No.2】
セイチさんの仕事は士業だ。
あめ色のメガネをかけて、スーツを着こなすプロフィール写真から、(いい意味で)硬い仕事ぶりがうかがえる。
そんなセイチさんのプロフィール欄で目を惹くのが、
趣味:航空会社のエチケット袋の収集 である。
セイチさんは「ゲロぶくろの収集」と言う。
これまで20年近く、100枚以上を集めたとか。
なぜ集めていらっしゃるんですか?
私の愚問にセイチさんはコンサルタントらしい答え方をしてくれた。
「僕、ストレングスファインダーの上位の資質が『収集心』なんですよ。集めることが大好きで、特にニッチなジャンルに興味があるんです」
聞くところによると同じ航空会社でもデザインやサイズに変遷が見られるらしい。
「たとえばこれ、ANAなんですけど、同じ色の同じデザインに見えて、こっちにはALL NIPPON AIRWAYSって書かれているでしょう?微妙な違いがあるんです」
あ、ほんとだ。何か意味があるんでしょうね。
「ここ10年で変化が大きかったのはJALですね。尾翼のロゴが変わるにつれて袋のデザインも変わっています」
(へえ、そうなんだ)
お気に入りの航空会社のゲ〇ぶくろってありますか?
「ありますよ」
「たとえばこれ、アリタリア航空。色とシンプルなデザインだけでアリタリアってわかるでしょ。多くを語らずともわかるのがいいですよね」
「それからベトナム航空。機材のナンバーが記載されているんですよ。ベトナム航空の今の主力機材はこれだっていうトレンドを袋で表現しているのがわかりますね」
「しかもデフォルトのデザインとは別にバリエーションを持っているところもいい」
「こういうところがコレクター魂に火をつけるんですよー」
ポーカーフェイスなセイチさんの表情が緩んでいく。
どうやら集めた100枚の航空機にすべて搭乗したわけではなく、時には海外出張に行く友人に「もらってきて」と頼むらしい。最初は怪訝な顔をしていた友人たちも、今では「はい、これ、フィリピン航空な」ってお土産感覚で渡してくれるとか。
ここまで聴いて、ふと思った。
こんなふうに企業のビジュアルデザインを愛でる人がいるんだと。どんなマークにも企業の思いや意図が込められているのは知っていたけれど、そこに思いを寄せ続ける人の存在は見落としがちだ。
もうひとつ。
目的もなく、ただそれ自体を楽しむことの喜び。
セイチさんは「集めるのは興味があるから。探し歩く時がいちばん楽しい。そこに有益性があるわけじゃない」と言う。
だよね。
私の【100人duet】も同じ。
人に会って話を聴いて、こうして文章にするのがただ楽しい。
セイチさんも私も企業のキャッシュポイントを生み出す手伝いをしているけれど、キャッシュポイントのない世界にのめり込む楽しみもある。なんだかそんな言葉が浮かんだ。
「実はこれをどこで表明するかが今後の課題なんですよね」と話題が変わる。
セイチさんはこのニッチな取り組みをどこかでアピールしたいという。
「日経新聞の最終面に『文化』というコーナーがあるでしょ。いつかそこに載りたいんです」
「そこには長年変わったジャンルに取り組んでいるエッジの効いた人たちが登場するんですよ」
それは楽しみだ。
その時には『世界のゲ〇ぶくろを集めて20年』みたいなタイトルがつくんだろうか。