ちぢむひと
姉の死の遠因の1つになった母の病について思い出してみようと思う。
35年くらい前、母はアルツハイマー病と診断された。
私は実家から2時間ぐらいのところで一人暮らししていたから断片的にしか把握していないが少し書いてみたい。
母が仕事を早期退職するきっかけとなったのが重度の更年期障害だったらしい。
自宅にいるようになってからうつ状態のようになり
今まで楽しんでいた読書、音楽鑑賞、親戚や近所の人とのおしゃべり、畑仕事、鼻唄までも生活から消えていった。
買い物も心もとなくなった。
田舎のことでみんな知り合いゆえ、
店の人から心配の電話がかかってきてわずか百メートルの距離なのに迎えにいったりもしたらしい。
そのうち日中も横になることが増え次第に父が怒鳴るようになっていく。
洗濯物が畳めない。
包丁の使い方がわからなくなる。
下着はぬいでそのまま。
そしていつしかそれら全てにたいして父は厳しくしつけるかのように怒鳴り続けていた。
ときには手を上げることもあった。
もともと家族に対して理不尽なまでに厳しく、恫喝や叱責で家族をコントロールしようとするようなところがあった父。その父の厳しさに身も心も萎縮していく母。
そして、それと比例するように自身も緊張を強いられ自分を見失い、
眠ることだけに執着するようになった姉。
「充分に眠れたらきっと心身とも健康にもどれる」
そんな望みがあったのもしれない。
その後、決して母の病を認めようとしなかった父が親戚縁者に責められた挙げ句、隣の県の脳神経外科に母をつれていったのは、町医者に認知症と言われてから一年半ほどたってからだった。
それから徐々に父の覚悟も決まっていったようで本格的に介護生活がスタートしたようだ。
しかし姉のほうの状況は好転せず、すでに姉は薬に頼りきりになってしまっていた。
ところで私がしたことといえば、たまに姉が私のアパートに遊びにきたときご飯を食べたり悩みを聞いたりすることぐらいで私の決まり文句は、
「忙しくしてたらそのうち眠れるよ。気にしすぎ」だった。