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日本から「一番遠く離れた国」に住んでみて

 今、この原稿はウルグアイの首都モンテビデオで書いている。
季節は初夏、窓の外にはラプラタ川沿いをランニングや散歩している人の姿が見られる。
日差しは強いけど湿度は低くさわやかな風が吹いている、そんな穏やかな1月の日曜日だ。

ランブラ通り

 ウルグアイに来て14か月。1年以上住んでいると、ただの物珍しさじゃない部分も含め、この国が見えてくる。
今回は1年以上住んでいる日本人から見たこの国についてご紹介したい。

ウルグアイってどんな国?

 正式国名「ウルグアイ東方共和国」は日本の真裏にある。
東京から穴を掘るとウルグアイの沖合に出る。
直線距離はどのルートでも一緒。要は「日本から一番遠い国」だ。飛行機で30数時間、2回は乗り換えないといけない。帰るのも一緒。

 住んでる日本人にとって、この祖国との距離はなかなか厳しい。
「ちょっとやそっとでは帰れない」と思うほど日本への恋しさは募る。
 JICAでは半年に1度、国外に旅行することが認められているのだが、往復だけで4日かかる日本に戻るか?聞かれれば、よほどのホームシックでない限りは帰らないだろう。

 国土の広さは日本の約半分。それに対して人口は340万人(2023年)。これは静岡県(361万人)と同じくらいだ。
つまり、人口密度がメッチャ低い。
ただし、首都のモンテビデオにいるとあまりそれを感じない。なぜなら人口の4割がモンテビデオに集中しているからだ。バスも結構満員だし夕方には交通渋滞が起きる。

バスは結構混みます

 人種構成は、白人が約88%、メスティーソ(白人と先住民のダブル)が 約8%。感覚的にもイタリアやスペインなどヨーロッパのラテン系の国にいるような感覚だ。
 ちなみに日系人は460人、日本人は310人と超少ないので街で見かけることはほとんどない。

そんなウルグアイの特徴と言えば…

その1:自然が豊か

これ「川」です…

 首都のモンテビデオはラプラタ川の河口にある。写真でもわかる通り、川とは思えないような広大さだ。川沿いのランブラ通りはいつも散歩をする人で賑わっていて、春から秋にかけては夕日を見る人でごった返す。

街中にも、たくさんの公園があって人々の憩いの場となっている。 

 モンテビデオを一歩離れると、ラプラタ川は大西洋につながり、茶色っぽかった水が透明になっていく。陸の方は、どこまで行っても広大な平原。ウルグアイには山がない(最高で海抜500メートル)ので、ちょっと単調に思えるくらいだ。

ずっとこんな感じ

その2:治安がいい(南米では)

 南米と言えば、イメージするのが治安の悪さ。
JICAの国内研修でも「スリや強盗に気をつけろ」「道路を歩くときは気を抜くな」と散々言われてきた。
ところがモンテビデオの場合、実際に住んでみると治安の悪さを感じることは少ない。街で携帯電話を持っていてもひったくられることはなく。バスもほぼ緊張感なく乗っていられる。

バスは手軽な移動手段

 とはいえ、「南米の中では」圧倒的に治安がいいものの、場所や時間によっては危険らしい。実際、ニュースを見れば麻薬を巡った殺人事件も起きているし、在住の日本人が強盗やひったくりにあったという話も聞く。
サッカーの試合でも暴動めいたものが起きているので油断は禁物だ。

その3:人々が穏やか

 ウルグアイ人の気質は「トランキーロ」だと言われる。「穏やか」で「おっとり」。私が合気道を教えている先生だというのもあるが、出会う人は一様に優しく接してくれる。慣れない海外一人暮らしの自分にとって、彼らの穏やかさには本当に助けられている。
大国のアルゼンチンやブラジルに挟まれた小さな国で、人口もそれほど多くないため、「競争社会」という感じがあまりしない。
国全体が「自然豊かな、のんびりとした地方都市」。日本に比べるとストレスは遥かに少ないと思う。
(ただし、サッカーは除く)

その4:ウルグアイビーフ

 ウルグアイは「世界で一番牛肉を食べる国」。一人当たりの年間消費量は日本の10倍だ。飼育されている数の牛は国民の数の約3倍。

牧草だけで育つ(グラスフェッド)

 アルゼンチンから持ち込んだ牛を放し飼いにしていたところ勝手に増えたので主要産業になった、という話もあるくらいで、スーパーに肉売り場には自然の中で育った良質の牛肉が大量に売られている。

スーパーの肉売り場

もちろん名物料理はアサード(バーベキュー)。

焼き始めてから食べるまで長い

たっぷり時間をかけて炭火で焼かれた赤身の肉は、ホントにうまい。

その5:全然、不便ではない国

バスもキャッシュレス

 JICAから協力隊が行く国、というと「近代化が遅れている不便な国」とイメージされると思う。しかしウルグアイ、特にモンテビデオはそんなイメージとは全く違う。

 ウルグアイに来た当初は不便さを感じることもあったが、実際に1年住んでみると、日常生活で耐え難いような不便さを感じることはない。むしろ日本が世界の中でも便利すぎるんだろうなと思うようになった。

 モンテビデオのバス交通網は発達しているし、大規模なショッピングセンターがいくつもある。ネット環境は極めて良好、キャッシュレスも普及していて現金を使うことはほとんどない。
分野によってはむしろ日本よりも進んでるのではないかと思えるくらいだ。

その6:物価が高い

 今や円安で世界的に見ても物価が安くなった日本。それに比べるとウルグアイの物価は高い。南米でもトップクラスの高さだ。
さまざまなものを輸入品に頼っているにも関わらず関税が60パーセントもかかるため、大抵のものが割高だ。

1ウルグアイペソ=約3.6円なので…

 例えばランチは日本円で2000円程度。マクドナルドのビックマックは1個1100円くらいする。世界の物価を比較する「ビックマック指数」は堂々の世界第三位だ。

これで1400円くらい(去年)

 牛肉や果物など国内生産してるものの中には日本より割安なものもあるが、ウルグアイで買い物をする時は、日本円に換算すると買う気がなくなるので要注意。

その7:落書き、犬のフン

 自然も街並みもとても綺麗なモンテビデオ。でも、それを台無しにするのがゴミと落書き、犬の糞だ。
ゴミをポイ捨てする人は多いし、あらゆる建物には落書きがしてあってそのままになっている。ウルグアイ人に聞くと「どうせきれいにしてもすぐまた書かれるから」とあきらめの表情。

犬の糞もあちこちに落ちていて、歩くとき下を向いてないと被害にあう。
この辺りをもう少しきれいにすると、ますます素敵な国になるんだけどなぁ。とても残念。

ウルグアイ名物 犬の散歩屋さん

その8:観光、娯楽は…

 ここまで書いてきたように全体的にはかなり暮らしやすいウルグアイだが、観光地しては正直、お隣のアルゼンチンやブラジル、ペルーなどに比べると何歩も劣る。

 市内中心の観光だったら半日あれば十分だし、国会議事堂などの施設も他の南米諸国と比べて目立つようなところはない。
サッカーワールドカップ第一回の決勝が行われたセンテナリオ競技場は見どころだが、そこも行ってしまうとモンテビデオ観光はほぼ終了。あとはランブラ通りを散歩してトランキーロな時を過ごすのが一番、となってしまう。

 私自身も日本から来ようとする友人には「アルゼンチンとかブラジルと組み合わせてきた方がいいよ」と言ってしまう。
住むにはとてもいいところなんだけどね…

結論

 1年住んだ私にとってウルグアイは「とても住みやすい、いい国」。
確かに世界的な観光地は少ないし、ペルーのような先住民文化もない。はるばる日本から行く旅行先としては、いささか刺激が乏しいかもしれない。
でも、豊かな自然の中、一日過ごすだけで気分が穏やかになっていく、とても素敵な国だ。

 ちなみにアルゼンチンの首都ブエノスアイレスからウルグアイは船で1時間。モンテビデオまでなら3時間で到着する。
活気にあふれた南米だけでなく、ウルグアイの「トランキーロさ」を味わいに来てみませんか?
ではまた。

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