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読了記録/52ヘルツのクジラたちー町田そのこ

「52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く世界で一頭だけのクジラ。何も届かない、何も届けられない。そのためこの世で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれる少年。孤独ゆえに愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、魂の物語が生まれる」(背表紙引用)


あらすじ、書き写してて悲しくなってきますね。何も届かない、何も届けられない。52ヘルツのクジラの声は重低音でした(Youtubeで聴けます)。悲しい声ではなく逞しい声に聞こえるのは音程が故なんでしょうね。自分の声にばかり気を取られて、わたしは人の声をちゃんと拾えてるんだろうか。


本文の引用と覚書と。

思い出だけで生きていけたらいいのに。たった一度の言葉を永遠のダイヤに変えて、それを抱きしめて生きていけるひとだっているという。(略)アンさんと共にあった日々で身を飾り、生きていけたらいいと心から願う。

水の中で相手の声が響いてくるってどんな感じなんだろうね。わたしはね、相手の思いに全身を包まれるんじゃないかなって思うんだ。

ひとというのは最初こそ貰う側やけんど、いずれは与える側にならないかん。いつまでも、貰ってばかりじゃいかんのよ。

良い物語とは、それが創作物であっても決して他人事にはならない。読む者の心に火を灯し、明日への糧になるものなのだ。(中略)人と人は互いを知ることからすべてが始まる。他人を理解することこそが、自分自身を知ることにもなる。

解説より

ありがたいことに宝石のように抱きしめている言葉や情景がいくつかあって、宝箱から取り出しては眺めて、磨いて、また仕舞ったりするわけです。素敵な瞬間を本当にありがとうと思ったり、その言葉が自分の骨格になっているのだと再認識するわけです。

もらってばかりでいないで、自分も与えることができる人間でありたいと定期的に思いつつ、与えることができている!という自覚がある時は、自意識過剰であったり、自分の考えや感情を押し付けているだけな場合もあるから怖いなとも思います。丁寧に人と接することができていればいいなあ。自戒もこめて。

本の末尾の解説部分に書かれているのですが、本書が本屋大賞に辿り着くまでのストーリーがすごく素敵でした。良い作品が必ずしも売れるとは限らなくて、日の目を見ないことも多々あるのでしょう。でも今回のように、1人の熱量が大きなムーブメントを引き起こすという話は、胸を打たれるものがありますね。

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