淋しさを抱える夜も、クジラの様な眉毛も。

真夜中に流れるミスチル。
それだけでセンチな気持ちになってしまう。
目を瞑ればあの日の夜に還る。

東京タワーの見える部屋で
夜明けを迎えた夜もあった。

小さく震える肩、
何度も名前を呼ぶ声、
雨の中笑い合う玉蜀黍の様に並んだ歯、
アスファルトを背に感じて手を伸ばしても届かないもどかしさに二人の距離を感じたあの日ーー。

ねぇ、

返事の代わりに甘いタバコの香りが漂う。

目を瞑って思い出す。

そんな夜もあったな、と。

きっと、
きっとね。

誰しもそんな日々を抱えて生きてきた。

魚のような目のかたち、
クジラの様な眉毛も愛しくて。

何度も何度も手を振った駅のホーム。

上りと下りの電車を何本もやり過ごして
また繋いだ手が嬉しくて

どこまでも伸びるような夜、
足音を立てないように上る階段。

皆で寝不足の顔で駅に向かう渋谷の街、
ぴったりとしたパンツに揺れるピアス。

たくさんの笑顔と
またね、を繰り返して

今がある。

昭和、平成、令和を跨ぐ物語は
まだ続いていく。

ちりん、となる風鈴と
川のせせらぎ。
扇風機の回る音。

しんしんと降り積もる雪の冷たさも
隣で飲んだミルクティも
触れたくて仕方無かった横顔も

全部心に残ってる。

音と共に溶け出し私を包み込む。

言葉が頭に溢れる、そんな夜に。