デンマークのAI Innovation Houseに行ってきた
先日、機会を得て、デンマークのヴァイレ市(Vejle)に設立された、AIとデジタル関連のインキュベーション組織に行ってきた。AI Innovation HouseのCOO、ミカエラ・アナセン(Michaela Andersen )さんが案内役だ。
AI Innovation Houseとは?
3年ほど前にAIやITテクノロジーに特化したインキュベーション組織として作られ、最先端の技術の展示やイベント、マッチングサービスなどを行なっている。大手企業の入居ばかりでなく、自治体が支援するスタートアップなどのオフィスなどもあり、特に特にAI周りのビジネスの促進、グリーントランジション(Green Transition)に注力しているんだそうだ。最近資金も獲得し、2023 – 2025年にかけては、「社会におけるAI」に関するプロジェクトを実施する予定だという。
三体のデジタルヒューマン
AI Innovation Houseには、3名のデジタルヒューマンがいる。デンマークにはどこにでもいるPepperちゃん、Made in ChinaでDesign by Denmarkだというロボット、そしてNTTDataのit.humanだ。
余談だが、ミカエラさんは、PepperをSheと呼んでいたのが印象的だった。私は、PepperはPepper君だとおもっていたから。そして、二つのロボットが日本産のようだけれども、ミカエラさんはどこから来たのか知らなかったし、NTTDataという名前は知っていても「中国かしら?」と言われて、のけぞった。すっかりロボットはグローバル市民になっているんだろうか。
AI Innovation Houseの二つの役割
AI Innovation House設立のその背景には、AIが人の理解の範囲を超えて社会に影響を及ぼしていることへの懸念がある。例えば、Unreal Engineが提供するMeta-Humanを知っているだろうか?2021年に公開された高粒度のデジタルヒューマンで、一見、本物の人間と見間違えるぐらいの精度を誇る。私は知らなかったが、ゼレンスキー大統領のメタヒューマンが作成され、フェイクニュースが流される事態があったんだそうだ。(例えばこれ)
これだけの精度で、仮想人間が作れるのであれば、これを売って金持ちになるぞ!からではなく、まず倫理的な観点からよく考察や議論がされるべきであると考えるのが欧州らしい。AI Innovation Houseは、自らを『Centre of Future Studies』として位置づけている。
もちろん、デンマークは、これが未来のビジネスのタネであることも認識している。AI Innovation Houseの大きな目的としては、AIの現状を知り、可能性を探る研究を通して、将来の社会におけるAIについて理解し、当該分野でのデンマークやヴァイレ地域でのAI関連ビジネスの優位性を確立していこうとするもの。それを産官学連携で進めているところはとてもデンマークらしいし、戦略的だなと思わされる。
AIクラスターの妙
なにしろ、クラスターがあることで、地域のAIとデジタル関連のプロジェクトや企業をまとめて外部に案内できるため、自治体が産業を売り込むときにも役立つし、海外の人たちがデンマークで何かやろうとか、一緒にやりたいと思った時に、アクセスしやすくなるんだそうだ。確かに、そうだ。
今は国内プロジェクトが中心だけれども、例えばヴァイレ病院と協力しヘルステック・ライフサイエンスなどに取り組んだり、若者をボードメンバーに招聘したり、地域の大学と協力体制を作ったり、デンマークのデジタルイニシアチブDigital Lead (これもなかなかのもの。そのうち紹介したい)と協力したりしていて、AIハブやオピニオンリーダーを目指していることが伝わってくる。秀逸なデンマークの仕組みづくりをここにも見ることができた。
AI Innovation HouseのCOO、ミカエラ・アナセン(Michaela Andersen )さん、ありがとうございます!