モデラートの本当の意味
「おまえたち、モデラートの意味を知ってるか?」
大学のオペラの授業で、演出家の先生から投げかけられた質問だった。
Moderato(モデラート)
ピアノを習ったことがある人ならみんな知っていると思う。音楽用語で速度記号、楽譜の一番始めにかかれているアレだ。この曲をどれぐらいのテンポで演奏するのか示す速度記号。
Andante(アンダンテ)より速く、Allegro(アレグロ)よりは速くない。
ふたつの中間の速さ。
”中くらいの速さで“
「それも合っている、でも違う。”中庸をたもつ”んだ」
この年に取り組んだオペラはモーツァルトの「魔笛」、私は夜の女王の役をいただいた。このときは、フィナーレの中で夜の女王がザラストロたちに最後の復讐をしにモノスタトスらと共に現れる場面をうたっていた。
”中庸をたもつんだ”
「最愛の娘を宿敵に奪われ、その娘さえも宿敵側につき、裏切られた。お前たちはいま怒りに身を落とした復讐の鬼だ。もうすぐ殺したいほど憎い相手に会える、いまにも相手に殴り掛かりそうなその拳を、反対の手で必死に抑えているんだ」
「moderato(モデラート)でうたうんだ」
moderatoはイタリア語で、意味は「節制のある、適度の、中庸な」
なぜ、中くらいの速さでうたうのか。
ただの記号としてみていたら取りこぼしてしまうものが、そこにはたくさんつまっていた。
抑えきれずにあふれ出る喜びを
抑えきれずこぼれ落ちてしまう悲しみを
とどめてもなおにじみ出る怒りを
”モデラート”
表現できる歌い手になりたい。
すくいとれる人でありたい。
今日も音楽に感謝を。
最後までお読みいただきありがとうございます。娘のおやつ代にさせていただきます…!