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わたしが日本を飛び出したお話し。
19歳のとき、失恋をした。
なにもかもキラキラ輝いてた日常は一瞬にして色を失ったように思えた。
バックパック片手に、日本を飛び出した。
行く宛もなく、現地に頼る人もおらず、宿も決まっておらず、少しだけバイトで貯めたお金握りしめ
ガンジス河に涙と思い出流そうって。
言語も知らなければ、どんなところかも知らない。歴史も、文化も。
馬鹿みたいにまっすぐで、純粋で、信じやすく、騙されやすいわたしには決して天国とは言えない場所だった。
「くさい。」
それがあたしの第一印象。
人も牛も猿も犬も虫もいろんな生き物が混在していた。
なんのニオイかも分からない。
うんこでもない、汗でもない、腐ったにおいでもない、なにがどうにおってるのか分からなかった。
けど、「くさい。」
それはきっと、自分が今までに嗅いだことのないにおいだったからそういう表現しか出来なかったんだと思う。
お金のないわたしは、1泊250ルピー(当時500円ぐらい)のゲストハウスに泊まり、移動は寝台列車を使った。
自分の身は自分で守らないと。女だからってなめられないようにしなきゃ。って、いつも気を張って。
寝台列車に乗る日はシャワーなんて浴びれなくて。同じ部屋の寝台ベッドはみんなインド人だし、なんかされたらどうしようってばっかり考えてた。
寝たいのに、なかなか瞼が閉じれなくて。
朝起きて、ポシェットに入れてたはずの乗車券がなくなってた。
駅員さんが回ってきて、わたしの番になったのに見つからない。
半泣きになって、パニックに陥った。
わたしの周りに寝てたインド人たちが群がってきて「どうしたんだい、なにがあったんだい」って。
あたし人生終わったーっ。
そしたら、「駅員さん、彼女は嘘ついてるようには思えないよ。もう少し時間をあげたらどうだい?」って、一人の人が言った。
困り果てたわたしを見た駅員さんは、「10分後にまた来ます。」と言った。
「大丈夫。落ち着いて探すんだ。きっと見つかるよ。」
「泣かないで、笑ったほうが可愛いよ。」
そこにいた人たちがお菓子やらチャイやら奢ってくれて、優しい言葉をかけてくれた。
1度心を落ち着かせるためにトイレに行った。
ずっと我慢してて。
ズボンを下ろそうとしたら、ヒラヒラと床に見覚えのある紙が。
ズボンとパンツの間に挟まってた。
誰かに盗られまいと、首から下げてたポケットに入れたつもりが、誤ってそんなところに。
声を出して笑った。笑いながら涙が止まらなくて、部屋に戻ったわたしは、それをみんなに話した。
みんな一緒になって大笑いしてくれた。
ムスッとしてた駅員さんも、口角上げて「よかったね」って。
馬鹿みたいだった。
今まで私はなにと闘ってたんだろうって。
いつのまにか自分自身でモンスターをつくってた。
「You are crazy girl. Haha! Have a nice trip! Your smile is so cute!」
わたしはそれから毎日笑った。嫌なことがあっても、必ず1度は笑うようになった。
大嫌いだったこの国が、少しずつ好きになっていった。