詩37 焦燥/記憶/憧憬
焦燥
とほひ……、と言ふ
そのこゑを発する唇の
とほさとそのとほひ往来に近ひ言葉の
手の指と
胸の(湖の……、
波の形に
こゑそのものを湿らすやう
降り しぶき そよぎ
しづかにやんで去つてゆく
雨の降り方と
その震へる水量とを合はせるけふに
となり耳を傾けて
雨音を寂しんでゐる
しづく……、と言ふより
したたり あるひはこはく
時めく雨の降る様子へ
その心優しく しかし表へ
こゑを表すことの難しひ しどけなさに触れつつ
#礫
記憶
目(…と目…、)のほとりに漂ふ
その目(…と目…、)のとほく
(程近ひ…、)間の
目(…の深ひまろみ…、)に至る奥行きを
(目に…、)
憶へてゐた……
ほほえみ(だつたらうか)(あるひは)
夢の笑まひの
笑みから笑みへ
至るとほり道を行くやうに
目(…と目…、)のほとりの道路を
(目の在り様を…、)
憶へやうと歩く片はらの
(片へに漂ふ……)
人とともに
サッとかすめ取り 手許へ置かうとし 又は
盗み そして(日差しの内の心へ……、)
そつと返した 人と 人らのゐた晩春の今へ
#礫
憧憬
けふを
けふと言ふけふらしひと
人伝てに
あたかも日と風と草の湿つた今とを
思ふやう
ここへけふの
手ざはりとしか言ひやうのなひ
春の
やつと調ふ
こゑの明るく恥じらふ様子を
綴り 憶へ 何をか願ひ
そしてそのけふは
ひと日ののちにまたけふかも知れなひやうな
儚ひ思ひでゐる
うるはしひと言はば
その無窮のけふは
人伝てに
ひとの在るしづけさのまま 寂しく美はしひ
#礫
2022年5月27日に、詩人の和合亮一さんが Twitter で行った企画、詩の礫「Ladder」に参加しました。そこに投稿した詩です。
※ Ladder =梯子
※新型コロナウイルス感染症に惹起された現況を「有事」と考えて創作物をツイートする企画です。
※題を付しました。
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