29 カメ一杯のワイン
わけみたま。それは私が初めて聞いた言葉でした。
「わけみたま?」「そう、わけみたま。」
「大きなカメに、赤いワインがいっぱいに入っている。これが神様だと思ってね。」
私の困惑をよそに、いとこのお兄ちゃんはお話を続けます。
「カメの中に入っているワインは、少し濁っていて、透明じゃないのね。それから不純物のようなものも浮いている。」
私は何となく、コルクの破片が漂っている、ちょっと濁った赤ワインを想像しました。
「そこで神様はね、何とかしてこのワインの不純物を取り除いて、濁りもなくして、透明できれいなワインにしたいと思うんだな。」
「ろ過装置なんて便利な機械はない。じゃぁどうするのかというと、神様はグラスに一杯分だけすくいとって、それを地上に向けてこぼすんだな。」
私は白いヒゲ、頭上には輪、手には長い杖を持った神様が、雲の上からグラス一杯分の赤ワインを「バシャッ!」とこぼす様子を想像していました。
「神様がこぼしたワインがどうなるかっていうと、地上にいる女の人のお腹の中にヒュッと入るんだな。それが『赤ちゃん』になるんだな。」
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