09 暗い影
本家では、私達は何不自由のない生活をさせてもらえました。帰る家がある、家に帰ればご飯がある、お風呂にも入れる、暖かい布団でゆっくり眠れる。
母が亡くなった後の、あの荒れた生活と比べたら、何一つ不自由のない、むしろ幸せと言ってもいい生活でした。
しかし私達の背後にはいつも、両親の死という暗い影が付きまとっていました。
その暗い影は様々な形で吹き出し、常に私達や周囲の人たちの気持ちをザワつかせる原因となりました。
弟は学校でケンカをしたり、イジメに遭うようになり、目つきがだんだん暗く、時に鋭くなりました。それは死の直前の父の目つきにそっくりでした。
妹は友達とつるんでスーパーで万引きをし、学校に通報されました。悪いことに、そのスーパーは伯父さんの会社の取引先でした。
「お得意さんの店で万引きするなんて、アンタの妹は一体どういうつもりだ!」
普段は温厚な伯母さんから、鬼の形相でそう詰め寄られて、私は手をついて謝ることしかできませんでした。
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