専門医Tier表を作成してみた
日本専門医機構の投稿が炎上していた。
何を言っているのかよくわからないのだがそれはさておき、日本専門医機構が基本領域と定める19領域についてTier表を勝手に作成することにした。
専門医資格の価値というと反感を買うだろうが、実際にそれを決めているのは病院などの雇用主側なのだ。
専門医の先生からの批判は覚悟の上だ。自分の持っている専門医を馬鹿にされたと思うかもしれないし、俺の専門科は美味しいバイトがあるのにお前は知らないんだなと思う人もいるだろう。仮にすべての専門医を集め議論したところでどうせ自分の持っている専門医サイコー!となるから決着はつかない。医師の知人すら少ない自分だからこそ、依怙贔屓に囚われずに判定できると思う。
たくさんのスポットバイト募集案件を探してきた筆者が、浅すぎるという批判も覚悟の上で独断と偏見で決めていく。
エビデンスは一切存在しないためそこはご了承ください。
まずはじめに
筆者はすべての専門科を心から尊敬しているしなくてはならない存在だと考えている。ドロップアウトしたからこそ日夜病院で働き日本の医療を支えている先生方には頭が上がらない。この記事は決して揶揄しているわけではなく、怒りの表明だ。頑張っている先生方が報われておらず不公平に感じるからこそ発表したい。
ただの民間団体である学会が独自に専門医を作っていたころならいざ知らず、専門医機構が公にできまとめている今だからこそ専門医の価値が平等でないなら上方修正などの調整はすべきだろう。19の専門科を横一列に並べていかにも同列のように見せること、それは嘘は付いていないだろうが欺瞞だ。
日本専門医機構は厚生労働省とも密接にかかわっており”専門医の質や分布等を把握”した上で何らかの対応をすべきだろう。
専門医Tier表を作ろうと思ったきっかけ
筆者は過去野戦病院と言われる劣悪な労働環境で働いていたが、そんなことは何の評価もされないという悲惨な現実を身をもって痛感した。
ブラック労働よりもゆるふわ勤務で”価値のある”専門を持っていた方がずっと評価が高いのが現実なのだ。”価値のない”専門医では路頭に迷うことになる。
専門医を取るにあたって学会に参加したり維持するだけで時間もお金も消費する。ドロップアウトした医師免許単騎勢より本当にリターンで勝つことが出来るのか考える必要がある。ただのバイト医に金銭面では大きく劣後する専門医資格もあるため要注意だ。
わかりやすい具体例を挙げよう。
こちらは同じ病院から同時に募集が出された当直案件だ。
この病院のグループ病院に昨年寝当直に行ったが1回4.5万円の賃金であった。寝当直の相場は3.5万~4.5万あたりであるという補助線を引くと心臓血管外科の当直代2万がいかに舐められているかがわかるだろう。
せっかく心臓外科の知識を持ち術後管理が出来る医師になっても、医師免許しか持ってない医師より給料が低くおさえられるという現実を目の当たりにすれば心臓外科という専門性を最も低く評価しているのは病院だ。こういった専門医は含み損をたたき出すだけの存在ともいえる。
前提
今回は東京圏在住の男性医師であることを基準に考える。
女性であることは現在の日本ではその辺の専門医資格を軽く凌駕する”資格”だ。女医限定の専門科不問高額バイトも多い。
女性は診療科を自由に選べばいいと思う。
〇〇科じゃないのに何がわかるのか?と言われるかもしれない。しかし全部の科の専門医を取ることは出来ないし、それではいつまでたっても比較することはできない。
筆者は専門医を持っているのか、持っている場合は何科なのかを公表しない。
専門医を持っていないのに言うのか、〇〇科専門医を持ちドロップアウトしているから〇〇科専門医を良く(または悪く)言うのかなど、どの立場であっても絶対に批判されるからだ。読んでいる人にバイアスを与えてしまうのも避けたい。
評価の基準
①女医に駆逐されないか(≒男性であることを理由に不採用にならないか)
一部の診療科は男性医師は排除される傾向にある。一般的な内科健診は女医希望もあるが、眼科健診で女医希望は見たことがない。
②専門医をとるのにあたり劣悪な労働環境でないか
甲南医療センターなどのハイリスクな職場は論外だ。自分の健康すら守れない医師に患者は救えない。
③バイトはしやすく若いうちに時間を取れるか
俺は一日20時間働いた、年に休みは5日間だけだったなどと豪語する上司がいるような病院や診療科は資産形成の上で大きな障害となる。夜間や休日も出勤の必要があったり、呼ばれる可能性があるとバイトが入れられずお金も稼げない上に身体は消耗するという二重苦だ。
病院からの電話に妨害されず異性とデートできるかという点も結婚など今後の人生を考えれば重要だと思う。
④専門科なしのバイト医と比較して給料で負けていないか
後期研修の期間に負けているのは仕方がないがその後も勝ち目がない診療科もある。
一生において稼ぐ金額の合計が同じでも最初に多く稼いだ人の方がインデックス投資の福利の力を考えると強い。そのため総額では少なくとも(医師免許単騎勢よりはるかに努力した)専門医側が勝つべきなのだが、そうとも言い切れない診療科も残念ながら存在する。
⑤その診療科特有の健診バイトがあるか
競争率は低ければ低いほど良い。
医師免許だけあれば応募可能なら相場も下がるだろう。
⑥専攻医でドロップアウトしても他の医師と比較して優位に立てるか
専門医を取れずにやめてしまっても学んだことが無駄にならないのであればそれは強みと言える。
どの程度の専門医を想定しているか
専門医をとった程度で同期の中では使えない扱いの奴こそが真の専門医の価値を表す。
サブスぺまで取ってバリバリできます、部下の指導もできますでは本来の専門医資格のみの価値から逸脱している。
それでは改めて発表します!
ここからは具体的な診療科について解説していく。
Tier S
麻酔科
フリーランスの麻酔科医が鬼の稼ぎを見せたため専門医資格の維持方法が変更になりナーフされたがまだまだ健在だ。国家資格の麻酔科標榜医も強いが、専門医にランクアップすればバイト代も上昇する。麻酔科専門の紹介業者もあり日給は12万や最低10万円保証の歩合制など勤務条件も多岐にわたる。
麻酔科だけは残業代が出る病院や麻酔科だけはオンコールの待機料が設定されている病院があることからわかる通り病院内の扱いが別格である。
週3常勤医も存在しており、他科では考えられない働き方も可能だ。
女医が多く残業やオンコールを押し付けられがちではあるが、女医希望の患者も特にいないため男性であるという理由だけで排除されにくいという点も強い。
昨日小池都知事の3選が決まった。都知事が推し進めているように、この先東京都が無痛分娩無料にするとバブルが起きるかもしれない。
余談だが、麻酔科医と結婚した医師は麻酔科ってこんなに貰えるんだと驚きがちだ。
精神科
精神科専門医というより精神保健指定医が強い。精神科のバイト案件は多い上に金額が違う。
精神科でなくとも出来るメンタルクリニックもあるようだが定期非常勤などとなるとあった方が良い案件を獲得できるだろう。
筆者は救急指定なしの病院で寝当直をやった時、わざわざ指定医の先生が一時間ほど出勤していた。医療保護入院でもないのだが指定医でないとできないことがあるらしい。
眼科
専門医を取らなくても専攻医レベルで眼科健診が可能なのが強い。コンタクトバイトも昔はともかく今では眼科医でないと採用が難しいだろう。
パワハラで病んでドロップアウトしても研修医上がりの3年目とは違うのがでかい。そして患者に女医希望がいなさそうなのも高得点ポイントだ。
耳鼻科
ここは異論が出そうなところだが筆者は耳鼻科をトップティアに位置付けている。専門医を取らなくても専攻医レベルで耳鼻科健診が可能なのは眼科と同じだが、眼科より給料が上がる傾向がある。
筆者がみた最高額は2023年12月の大田区羽田空港日給20万だ。耳鏡を使う必要があり耳鼻科医を指定されていた。ちなみに客室乗務員の健診だった。
頭頚部領域は12時間に及ぶ手術があるなど、ロングオペがネックとなる方も多いだろう。しかし椅子に座って手術ができたり、その大変なイメージのおかげで女医の参入を防いでいる。
新規専攻医数は減っていると聞くが、開業も可能でロングオペを避けつつ研修していけば割と良いのではないだろうか。
Tier A
皮膚科
皮膚科はもっと良いのではないかと誰もが思うだろう。しかし多数の女医の参入によって男性は不利になる点が問題だ。
皮膚科クリニックのバイト募集はたくさんあるが保険診療だと薄利多売になりがちで大変そうだ。1人で3列回しているクリニックもあった。
美味しい美容皮膚科バイトは女医が優先されること、専門医を取るのに5年かかり、論文など面倒な作業が必要なこともマイナスポイントだ。
ちなみに都内の皮膚科クリニックを女性が受診すると、受付から「本日の医師は男性ですが大丈夫ですか?」と聞かれることもある。このように女医の進出で男性は容易に排除される可能性がある点がマイナスだ思う。
ただし他の診療科と異なり『六畳一間で開業できる』と言われているのは強みだ。
病理/放射線科
こちらは人数も少なく正直なところバイトの情報がない。
放射線なら遠隔読影も可能であり寝当直しながら読影している医師もいるという。出張健診に行くと「健診の合間に読影は禁止です」と注意事項が書かれている場所もあり、健診しつつ読影バイトもこなす強者も存在する。
実際のところはわからないがこの両者は事業所得にできるという噂もある。
何より時間外に呼び出される可能性がゼロなのも大きい。深夜3時に「先生が昨日見ていたプレパラートなんですけど」なんて電話は絶対に来ない。
IVRなどのサブスぺは今回は考えない。
そもそもIVRだって手技が終わればすぐに帰宅している印象だ。IVRを依頼した主科はその後ICUに患者さんを運び採血をしないといけないし、結果が出るまでの1時間は帰宅不可能だ。
小児科
コロナ禍初期では定期非常勤バイトは切られ、常勤の給料も下げられ散々であった。しかしその後コロナワクチン接種が始まり需要がV字回復、小児科のワクチン接種は小児科専門医限定の募集が多かった。
筆者がこの目でみた最高日給はなんと50万!
ネット上の画像を見ると75万の募集もあったようだ。小児科専門医さえあればNICUの管理なんてできなくてもOKだ。
ワクチンが下火になった後も小児患者がメインの往診バイトで荒稼ぎもでき、爆発力があるためTier Aとした。
女医希望の患者(親)もいること、患者本人はぐったりしていても親は元気なためクレームが強いことはマイナスだ。
形成外科
こちらは皮膚科とほぼ変わらないが、昭和かと思うほどのパワハラ指導が存在すること、美容への転科は自身の外見にも大きく依存することなどからTier Aだ。
Xで有名な弁護士が担当したパワハラ裁判も形成外科医である。
泌尿器科
透析バイトが可能なことが大きい。
透析バイトなんて誰でも出来るだろうと思われるかもしれないが現在の専攻医制度では他の分野にノータッチであることが多く、今後は透析バイトができない医師が増えていくと予想している。
また、ED治療薬を売ったり包茎手術の道へ進むこともやりやすいのではないかと思う。こちらは字面の通り女医が来ることはなさそうだ。
Tier B
産婦人科
最近は女医増加もあり男性医師は圧倒的に不利な立場になっている。
レディースクリニックの口コミを見れば、産婦人科なのに男性医師が担当でした星1みたいな書き込みもある。
都心の婦人科バイトはほぼ女医限定だとは思うが男性でも応募可能なバイト自体は存在する。
MRTは女医限定の募集はそもそも男性の画面に表示されない仕様になっているが、筆者(男性)の画面に表示される出張健診案件も多い。具体的には埼玉県加須市などは女医が近づかないのかよく募集しているイメージだ。
専攻医期間はそれなりに辛いと思うが専門医取り立ての男性医師でもクリニックに就職可能なこと、スネアをやるのは専門医がなくても経験があればできるということで何の資格もない医師とは一線を画すためTierBの中でも上位とした。
整形外科
最近の研修医の中で人気絶頂の整形外科だ。急性期/慢性期/ハイパー/ハイポ/健診/開業なんでもありのため人気になっていると考えられる。手術時間も腫瘍と脊椎を除けば短いのも良い。
しかし体育会系の雰囲気についていけない脱落者もいること、足持ち3年と言われていること(現在は器具で固定するので違うらしい)、実際に足持ちをしたが20分で限界であったという超個人的な理由でマイナスにとらえている。
確かに同じ医局派遣の外来バイトでも整形外科だけは給料が若干いい話も聞くがそれでもせいぜい日給10万だ。
整形外科当直であれば採血が必要ないためレントゲン撮影をしてすぐ患者さんを帰して寝ることが出来るのは内科当直にはできない強みだろう。
総合診療 救急
総合診療科とは何だろうかよくわからない。どの科にコンサルトすればいいかわからない時にコンサルトしている。大きい病院でも救急科の医者と面子が一緒だったりする。
バイト内容は下記の内科とほぼ変わらないと思う。
内科
医者の王道、内科である。甲南医療センターの件もそうだが消化器内科や循環器内科はブラック労働であることが多い。その割には出張健診は専門科不問であり、内科外来バイトは大変だったりもするのであまり旨みはない。
しかし心電図や画像の読影ができれば院内健診も出来るだろう。内科でないのに内科外来をやらされていた昔と違い、今後は他の診療科あがりだと内科外来が簡単には出来ないと思う。
臨床検査 リハビリ
この2つはまったくわからない。ブラック労働ではなさそうなのでTierCの二つと比較するとランクが上であることは間違いない。
Tier C
外科 脳神経外科
メジャー内科・メジャー外科はブラックな労働が必須となる時期もある。内科は専門医プログラムの募集も多いため比較的楽なところを厳選することもできるがメジャー外科は厳しいだろう。
寝てない自慢、病院に何連泊した自慢など未だ昭和の労働環境と思わせる指導医が勢ぞろいなのも厳しい。
外科系全般に言えるが専攻医がいるハイボリュームセンターにはダヴィンチがある。前立腺などの手術では画期的だろうが、他の診療科では無理やり適応にしたり自費診療で手術をしたりと本当に効果的なのか疑問だ。最近では胆嚢摘出術もダヴィンチで始めたらしい。
ダヴィンチの画面を眺めているだけの作業は非常に退屈で、刺身の上にタンポポを載せる仕事より虚無だ。
画面を見て学べ、細部まで見れば自分も上達すると指導されるがそれが出来るなら今頃筆者はプロゲーマーになっている。
外科系がこのように時間を消耗する中、内科系は手技や外来を経験することができる。内科系もJ-Oslerで大変だろうが勉強できる分まだマシだろう。
そして部長クラスになっても給料が少ないのか救急当直などをしているのは絶望的だ。
以下に消化器外科学会が発表した外科医の年収を示す。
回答者のうち病院長や教授などの役職者が37%も占めているが年収2000万以上はわずか15%にとどまる。外科専門医どころかサブスぺまで取った人たちがこの状況だ。辛い労働環境で修業を積んでも金銭面では評価されているとは言い難い。
こちらは消化器外科のデータだが脳神経外科もおそらく変わらないだろう。
嘘か実か、新専門医制度が始まる前は専門医試験は脳外科が一番難しいと巷で言われていた。しかし竹田くんの出現でその取柄すら失われつつある。
終わりに
on the job trainingの時代からすべての患者にbest performanceを出す時代へと変わった。
新専門医制度の前と後では何でもやらされていた時代からその診療科のことだけをやらされる、その診療科のことしかできない時代になったと感じる。学生実習で回ってきただけのポリクリ生に開頭させていた時代とは違うのだ。
研修医や学生は診療科ごとの有利不利をよく考えて専門科を選択すべきだ。
最後に参考までに2024年のとあるスポットバイト案件の画像を提示する。
こちらは某省庁から某クリニックへ回ってきたスポットバイトである。
実際には日勤or夜勤(準夜勤+深夜勤)の採用であり日勤の医師は日給20万、夜勤の医師は日給36万となっていた。
どんな専門性が必要なのかと思われるかもしれないがなんと専門科不問の案件だ。そのため医師の応募が全国から100人以上あったという話だ。実際の勤務内容もゆったりとしていて、主に他の医師や看護師さんと話をしながら過ごしていた。
あくまでも一時的なスポットバイトであり現在この案件はもちろんない。
しかしここで強調したいのはコロナワクチンの件でもわかった通り国が本気を出せばここまでのお金が出るということだ。
厚生労働省、日本専門医機構の”本気”に期待したい。