専門科不問の健診バイト 実践編 -よくある苦情まで含めて完全無料で公開します-

私は現在急性期病院をドロップアウト後、定職に就かず日雇い労働に従事しています。今回は専門科不問の出張健診バイトの内容について解説します。

昨今副業だの何だのを謳い公式LINEや限定コミュニティに誘導したり有料noteを販売しようとする輩が後を絶ちません。
書き物として面白い内容であれば購入してもいいと思いますし私も実際に購入したことはありますが、好条件の求人の探し方みたいな有料noteを買う必要はありません。理由は簡単で本当に有益な情報であればライバルが増えてしまい自縄自縛となってしまうため有益なはずがないからです。

健診のやり方なんて誰でも知っているだろうと思って書いておりませんでしたが、出張健診について質問されることが何度もあること、最近はそれすらも有料noteで販売する方が出てきており対抗するために無料で公開します。

この程度の内容を有料で公開している彼ら彼女らが本当に稼げているのかは皆様の想像にお任せします。

私は一年間で300件ほど健診をした上に複数の健診クリニックで実際の苦情データも見てきました。
彼らとの差別化をはかるためにそんな私が考える教科書と実際の現場の違いも記載します。そのため教科書の内容と違う点も多々あるかと思います。
また、教科書に記載されているような当たり前の内容はあえて省いていることもあります。

医学的妥当性に関しては必ずご自身で判断した上で行ってください。


はじめに

出張健診の場合は受診者さんの人数も多く、また勤務中であることからも病院の外来とは性質が大きく異なります。一人一人にかけられる時間も短く、何らかの症状を有し訴えがある方は少数派です。

例えば知り合いの開業医には、定期的に通院している患者さんの個人的な趣味を把握しその話題を毎回出す人もいます。接客業の面も大きい開業医であれば医療とは無関係の話もする必要がある場面もあるとは思いますが、基本的に初対面となる出張健診で余計な話は不要です。

『ここはお前の外来じゃない』、これは無関係の話をして診察が遅い医師に対して私が内心抱いていることです。
外来であれば自由にすればいいと思います。

準備

初期研修を終えている方であれば(つまりバイトが出来る状態の医師)特に不要と思いますが、どうしてもという方は診察・手技が見えるでも購入すればいいと思います。

医師バイトマニュアルは私も購入しましたがオススメはできません。
この本を読んで新しいバイトが出来るようにはなりません。例えば整形外科外来バイトなんて説明を読んでもいざ実践とは出来ないでしょう。産婦人科の座学をいくら学んだところで婦人科バイトを出来るようにはなりません。

基本的な考え

健診の根幹をなす考え方です。
ここは様々な意見があるとは思いますが私流です。

何らかの症状または所見がある人は口頭で専門科受診を”オススメ”するようにしています。何でもかんでも専門科受診指示は迷惑という話もわかりますので、あくまでも「気になったら行ってください」くらいのトーンです。
ただし後でいくらでも言い訳が効くようにしています。

私はよく『〇〇は専門外なので気になる場合や症状がある場合は〇〇科を受診してくださいね』と言っております。『病院に行かなくていい』は禁忌です。裁判で負けるかもしれないからです。
ボイスレコーダーで録音されていたとしても言ってないことを言ったと主張するのは可能ですが、言ってしまったことは覆せません。

たくさんの医師を育てたと豪語する某有名医師も(どういう意味かは厳密には不明ですが)「裁判では言ってなくても言ったと言えばいい、負けないから」とおっしゃっていました。

バイト医はトカゲの尻尾きりとなる可能性も大いにある立場です。そのため100回やって99回成功するのはダメで1万回やって1万回成功する必要があります。

私自身はリターン/リスクのシャープレシオを最大化するのを目標にしているというのもあり、極力リスク回避を狙っているのでこのようにしています。

一般健診

いわゆる問診・聴診のみと書かれている案件です。

問診

通常診察ブースは隔離されているのですが受診者さんの中には持病を隠したい、周りに聞かれたくない方がいらっしゃいます。例えば精神疾患です。

血圧くらいは言ってもいいかなとは思っていますが、私は既往歴を読み上げないようにしています。某有名インフルクリニックでは昨年既往歴を読み上げられて大きなトラブルが起きたそうです。
問診表に既往歴がまとめられている場所を指差して「こちらの病気で治療中
なのですね」と確認するだけでいいと思います。

診察

眼瞼結膜の貧血をチェック、首前面を触診し甲状腺腫大をチェック、胸部聴診して心雑音・不整脈をチェックが大半の医師のやり方ですし教科書通りだと思います。

貧血チェックのために目を下を触るのは、誤って目に入ってしまい痛い思いをさせることもあれば印象も悪いです。後述の特殊健診の方だと服についている塗料がグローブに触れ、それが目の近くに行くのは衛生的に良くなさそうなので避けるという方もいます。

繰り返しになりますが、ここが普段の診療と大きく異なる点で重要なことです。受診者さんは病気になり外来に来ているわけではないのです。全員に貧血を疑うわけはありませんし、そもそも血液検査でHbの項目があれば具体的な数値が判明します。病院の外来と比較して客商売の面が強い出張健診では不要という意見もわかります。

次に頸部触診です。視診・触診で甲状腺腫大があれば書くだけです。教科書には唾を飲み込んでもらうと書かれていますが実際にはやっていない人も多いかと思います。唾を飲み込むのは意外と難しいこと、そこで診察に時間がかかってしまうことなどからやらない人がいるのも仕方ないと思います。

私は現場到着後の説明で頸部触診は不要そうだなという雰囲気を感じ取ると説明しているスタッフに直接質問しています。たいてい『頸部触診は不要です、時間もないので胸の前面だけ聴診して次に回してください』と言われることが多いです。

最後に聴診です。こちらの注意点は早すぎないことです。具体的に苦情内容を見たことがありますが『2~3秒しか聴診器を当てられず本当に聞いているのか不安になった』という苦情が多くの健診クリニックに届いています。
聴診は30秒以内と書かれている案件もあるので人数や忙しさなどで空気を読むしかないと思います。
私はどんなに忙しくても、急かされていたとしても、胸の前面の最低3か所/秒数は最低でも15秒間を心掛けています。

女性の場合は服の上から聴診です。どう考えても聴診できる範囲が一部しかないのですが、それを女性自身が望んでいるので仕方ありません。明らかな心雑音であれば聞こえると思います。

服の下から聴診器を入れるスタイルの医師もいるかとは思いますが見えないところで操作すると乳房などにあたる可能性があり危険です。服の上(頸部の下側)から聴診器だけをスナップ利かせて滑り込ませる(自分の手は外にあって見える位置にある)スタイルの方が良いと思います。

とはいえ苦情内容を気にしすぎるのも良くないです。
『健診は女性医師に診察してほしい(50代女性)』『服の上からでも男性医師に触られるのは不快(60代女性)』といった苦情もあり唖然としますが、これが女性優遇国家ニッポンの現状です。

上記の苦情は都内の案件を主に扱う某健診クリニックがスポットバイト医に事前に配布したpdfファイルに記載されている内容なので見る人が見ればどのクリニックのことかわかると思います。

下肢静脈瘤などのチェック欄がある健診用紙もありますがほとんどやらなくてもいいかもしれません。というかすべてを行う時間がありません。
心配なら現場のスタッフに聞いてみましょう。やらなくていいですと言われるはずです。

特殊健診

紹介会社経由で事前にマニュアルが配布されている場合は目を通しておきます。特殊健診すべてに言えますが、いくつかの場所でマニュアルを見ればいずれ自己流ができると思います。

有機溶剤

自覚症状の問診と腱反射を見ます。打診と書かれているのはこれです。用紙にはアキレス腱反射も記載されていますが、片方の足の膝蓋腱反射だけを見ている医師も多いかと思います。

VDT

これは健診会社によってマニュアルが用意されていることが多い印象です。そもそも健診クリニックによってやる検査が違う気もします。
問診はドライアイなどの自覚症状を聞いたりします。

腰痛問診

専門科不問と書かれている案件だけを受けるようにしています。その場合は基本的に問診だけのはずです。整形外科と書かれている案件は避けています。

電離放射線

ペンライトを当てて眼を見る検査ですが明らかな白内障くらいしかわからないことも多いかと思います。そもそもペンライトが眩しすぎなので当てるのをやめたり、ペンライトがなくて会場の蛍光灯でやってくださいと言われたりまちまちです。

爪のひび割れと皮膚の潰瘍(たいてい手を同時に見る)も視診でチェックします。

クロム酸・ニッケル

鼻中隔穿孔を見るために鼻鏡を使います。片方の鼻から光を入れてもう片方の鼻に光が入ってくるかで判断します。

その他

腹部触診

ベッドがわざわざ用意されている場合はやらないといけません。
面倒ですね。

断る受診者さんもいるのですが断られた場合は健診のパッケージが変わってしまうようで(値段が変わる?)スタッフに伝えてもらう必要が出てきます。

女性の場合であっても腹部だけは見せてもらうようにお願いしています。服の上から触診は見たことも聞いたこともないですし、何よりデリケートゾーン付近を誤って触れてしまうリスクが大きいからです。

協会けんぽの場合に腹部触診があるとか聞きましたがよくわかりません。受診者本人が希望しているわけではないので妊娠中の女性でも腹部触診がある場合もあります。こういう場合、やんわりと断ってもらう方向に誘導している医師もいるそうです。

バリウム検査前問診

クリニックによって検査できない条件が一覧にまとめられています。それを見て判断します。たいてい出来ない人は受付で弾かれているかと思いますが、あえて聞くとしたら便秘の有無です。

下剤に反応しないようなひどい便秘の人はバリウムが固まり大腸穿孔を起こすことが稀にあります。緊急の検査であれば多少の合併症リスクは盛り込み済みかもしれませんが、健診で合併症を起こすのは非常にまずいです。

私は毎回水をよく飲んで出してくださいと伝えています。

おまけ

隣のブースの診察スピードが遅くて負担がかかっている時

腹が立ちますね(笑)。どう対応すべきか私もさんざん悩みました。隣がバイト医であれば紹介会社に苦情を入れるとかも考えましたが余計なことをやって迷惑をかけたくないので何もできないのが現状です。

せいぜいトイレ休憩にいって一息つくくらいでしょう。

例外として常勤医の診察が遅いのはウェルカムです。常勤医が遅いからバイト医を雇っている可能性があるからです。

おわりに

以上になります。駆け足で書いたので、書き忘れている部分もあるかもしれませんが適宜修正していこうと思います。

皆様のご活躍をお祈り申し上げます。

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