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『桜は散り、歯車が止まる』第3話











第3話 『再会』









○:「さくたん...」



桜:「○○くん...」



乃木坂駅の僕たちがいる場所は静寂に包まれた。


桜:「...」



○:「...」



どういうことだ...


さくたんは僕のことを覚えている...


彼女は確かに僕の名前を呼んだ。


僕のことを覚えているということは
乃木坂46としての記憶も持っているということ。


だって、僕がさくたんと話したのはミーグリの時だけ。


つまり、この現状もさくたんは理解している?



○:「...」


僕の脳内が混乱していると





桜:「○○くんは桜のこと覚えてるの...?」



彼女は首を傾げて、僕に問う。



○:「う、うん...で、でも...えっ...乃木...」



僕が頷くと



桜:「そっか...!よかったぁ...!」




さくたんは満面の笑みを浮かべた。



桜:「○○くん、覚えてくれてたんだ...!!」



彼女は本当に嬉しそうだった。

僕にはそれが不思議でしょうがなくて



○:「さくたんに聞きたいことがあるんだけど...」



桜:「なになに?」



○:「なんで、乃木坂から消えてるの?」



ストレートに疑問に思っていることを聞いた。



桜:「...」



彼女は僕の問いに俯いた。



○:「17分間のセンターも何もかも変わっているよ?
ねぇ、さくたんは何で...」



僕がさらに詰めようとした時











桜:「変わってないよ?」



彼女は真顔でそう言った。


○:「変わってないって...いや、さくたんは乃木坂で!」



桜:「もう...相変わらず...しっかりしてるんだね。
ミーグリの時のまんま...真面目すぎるよ。」


彼女は僕を少しだけ睨んだ。


○:「真面目すぎるって...」


彼女はまるで何かを拒絶しているようで
何かを隠しているようで
僕の話を聞いてくれようとしなかった。



桜:「ねぇ?今から空いてる?」



○:「空いてるけど...」


課題も終わったから、そう答えると...









桜:「今から、桜とお散歩しよっ!」


と彼女は誘ってきた。


○:「お散歩って...どこを?」



桜:「乃木坂駅の周辺だよ!
桜がお散歩好きなのは知ってるでしょ?」



○:「それはもちろん...」


彼女がお散歩好きというのはラジオやブログで知っていた。


桜:「だから、一緒にお散歩しよっ?
たくさんお話ししよっ?」








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桜:「○○くんって一人暮らししてるんだ!
じゃあ、料理とかもできるってこと?」



○:「いや、料理はそこまで...冷凍食品くらいしか...」


駅から出た僕たちは道を歩いていた。


桜:「一人暮らしって大変でしょ?
洗濯物とか掃除とか...あと寝坊とか!」


彼女は僕にずっと話しかけてきた。


○:「まあ...そこら辺は慣れだから...
あと、寝坊は元々しないタイプ。」


桜:「凄い!桜なんかずっとギリギリで
寝坊しそうになってるのに!」


彼女はミーグリの時と同じだった。
いつも僕に話しかけてくれた。
他のファンの人たちにも彼女は同じように接してくれて
彼女の人気は順調に上がっていった。


だからこそ、疑問に思う。



○:「...」



なんで、彼女は乃木坂のことを話したがらないのか。
ミーグリのことも覚えているのに。


彼女は乃木坂から消えているのに...


桜:「○○くん、元気ないの...?」


彼女は足を止めて、僕に話しかける。


○:「へっ?」


考えごとをしていたため
彼女からの問いかけに変な声が出てしまう。


桜:「ずっと、俯いてるもん...
桜と話すの好きじゃない...?」


さくたんは寂しそうな表情をしていた。


○:「いや、好きだけど...」



桜:「そっか!なら、よかった!ふふっ 」


彼女は寂しそうな表情から、また笑顔に戻った。


○:「...」


今度こそ、ちゃんと聞かないと...
なんで、乃木坂に居ないのか...
乃木坂について何も触れないのか...


○:「あのさ...」


と彼女に声をかけようとしたその時



プルルルル...



桜:「あっ、桜のスマホだ。」


彼女の携帯電話が鳴った。


桜:「え?今どこに...今日、会う約束...あっ!」



○:「...?」



桜:「ごめんなさい!今すぐに行きます!」



彼女は相手に謝り、電話を切った。



桜:「ごめん。○○くん。お散歩はここでお終いみたい。」



彼女が相手に言っていた言葉で
何かの約束をしていたと推測できた。



桜:「また、お散歩しようね?」



○:「う、うん...え?また?」


これで終わりだと思っていたから意外だった。


桜:「うん。またしようね。
だって、○○くんと話すの楽しいもん!」



○:「...」


桜:「だからさ...桜と連絡先交換しよっ?
次のお散歩の約束をするために!」


彼女に言われるがまま、僕は彼女と連絡先を交換する。


連絡先アプリの新しい友達の一覧には
SAKURAと表示されていた。


桜:「○○くんのアイコンってライブ会場の写真なんだ...。」


彼女は画面を見て、立ち止まっていた。


○:「あの...約束は大丈夫?」


桜:「そうだった!今日はありがと!」


彼女はスマホをバッグに仕舞い、僕に視線を移す。


桜:「今日の夜にメール送るから待っててね?」


○:「うん...」


桜:「またね〜」


彼女は手を振り、去っていく。





と思っていたのだが...







桜:「あっ...そうだ...」



○:「...?」



彼女は立ち止まり



桜:「○○くん!」



振り向き、僕の名前を呼び...














桜:「○○くんが私のことを
覚えていてくれて本当によかった!
私の想いが完全に叶いそうだよ!」


















こう言い残して、彼女は再び歩き始めた。


○:「...」


僕は彼女の後ろ姿を見えなくなるまで見ていた。

いや、見ていたというよりもただボーっと立っていた。


○:「どういうこと...」


私の想いが完全に叶いそうって...


○:「帰ろっ...」


深く考えても今は何も起こらないし...


僕は近くの駅で電車に乗り、帰宅した。












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・桜サイド


桜:「...」



○○と別れた桜は道で立ち止まる。


桜:「ここで使お...」


桜は自身の右手の親指につけられた指輪に左手をかざした。


桜:「...」






左手をかざすと光が桜を包み込み、彼女の姿は道から消えた。










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・桜サイド



桜:「ふぅ...」



私はとある場所にテレポーテーションした。



?:「桜ちゃん、やっと来たね。」


??さんは携帯電話を触り、待っていた。


桜:「ごめんなさい。すっかり忘れてました...」



?:「まあ、別に私も来たところだから良かったけど。
それより、なんか嬉しそうだね?」



桜:「えっ⁈」



私は思わず、頬を押さえる


?:「何か嬉しいことでもあった?
嬉しいことがあったから、会う約束を忘れてたの?」



桜:「嬉しいことですか...ありましたよ!
実はさっきまで私のファンの人と一緒に居たんです!」



?:「ファンの人?
えっ、桜ちゃんのことを覚えていたの?」



桜:「はい!奇跡的に!だから、それが嬉しくて...
私が想っていたファンの人だったので...!」



?:「想っていた?」



桜:「この時計の歯車を外す時に想っていたんです。
あの人には私のことを忘れないでほしいって...」


私は巨大な時計を見つめた。


桜:「あの人が覚えてくれていたから
私の想いは完全に叶いそうです。」


これで私の願いも想いも全て叶う。
私の思い通りになる。


桜:「メンバーも私のことを
忘れてくれて...これで私は...」


私の想いは...



?:「でも、そうはいくかしら?」



桜:「どういうことですか?」



?:「和ちゃんだけはあなたのことを覚えていたよ。」



桜:「えっ...なぎが...なんで...」



何で覚えているの...


?:「今日、あなたと話したかったのは
これを伝えたかったから。どうするつもり?」



桜:「...」



?:「和ちゃんはあなたを必死に探すと思うよ。」



桜:「私のことを覚えているのが
なぎだけなら大丈夫です。
なぎもいずれ諦めてくれるでしょうから...」



?:「諦めなかったら、どうするの?」



桜:「...」



?:「仮に和ちゃんが諦めずに
あなたのことを探し当てたとしたら。」


なぎが諦めなかったら...


桜:「その時は...」




その時は...










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・○○サイド




○:「はぁ...」


家に帰り、僕は床に寝転がる。


○:「さくたん...」




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桜:「○○くんが私のことを
覚えていてくれて本当によかった!
私の想いが完全に叶いそうだよ!」



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○:「どういう意味だろう...」


彼女の言ったことがずっと引っかかっていた。


○:「またいつか知れるのかな...」


彼女は乃木坂のことを何も話してくれない。
彼女が乃木坂から居なくなったこの現状も。


○:「その時を待つしかないのかな。」


彼女が話してくれるその時まで。

彼女にしつこく迫ってしまうと
彼女とは会えなくなるだろう。

だから、待つしかないのかなと思った。

○:「和ちゃんには話そうかな...」


こんなにも早くさくたんが見つかると思わなかった。

それに和ちゃんも僕と同じようにさくたんを探している。

話すべきか...


○:「いや、話さないほうがいいか...」


和ちゃんは5期生の記憶を戻そうとしている。

それにさくたんのことを言っても
和ちゃんの負担を増やしてしまうだけ。


○:「僕だけでさくたんのことを探ろう。」


それがいい。

和ちゃんが全員の記憶を戻すのを待つんだ。











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・和サイド


和:「ごめん!遅くなった!」


私はクリスマスパーティーに参加するために
みんなが集まる部屋に行った。


一:「せっかくのクリスマスなのに!」




菅:「どこで何してたの?ミーグリ後なのに。」



和:「ちょっと買い物に行ってて...
ほら、ケーキを買ってたの。」


本当は○○さんと会っていた。

でも、それがバレると面倒なので
別の理由を信用させるためにケーキを購入した。


瑛:「ありがと〜!」



菅:「気が利く〜」


瑛紗と咲月はケーキを箱から取り出す。


一:「次、和が歌って〜?」


美空がマイクを渡してくる。


和:「え、カラオケやってたの?」



菅:「そうだよ。
この前のスタ誕ライブで披露してた曲をやったりね。」




冨:「ほら、和も歌ってよ!残酷な天使のテーゼ!」



和:「はいはい...」


私は曲を入れて、歌う姿勢を作る。


和:「残酷な〜♪」









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和:「ふぅ...」



私は曲を歌いきる。

スタ誕ライブで歌った時のように全力で気持ちを込めた。



和:「次、誰歌う...?って...みんな、聴いてた?」



菅:「聴いてたよ。」



一:「でも、このケーキが美味しすぎて!」



みんなは私の歌を聴くよりもケーキで満足していた。


和:「本当に...」


まあ、いっか...みんなは楽しそうだし


和:「もう一曲歌おうかな。」


私は曲を選択する画面を開く。


和:「よしっ...」


そして、私はとある曲を選んだ。




和:「揺れている君のdancin'shadow〜」




瑛:「あれ...?この曲...」



一:「Be togetherだ!」



和:「ドアの前クラクション鳴らせば夜が始まる〜」


この曲は桜がスタ誕ライブで歌っていた。

みんなはこの曲のことを覚えていないのかもしれない。

でも、この曲をみんなの前で
歌えば、何かが変わるのかなって。


そんな期待を込めて、この曲を選んだ。



和:「Be together〜」



桜があのライブでやっていたように

桜と同じように桜のように可愛い声で
煽ることは出来ないけれど桜を憑依させて、歌った。




和:「はぁ...」



菅:「和、可愛かったよ!」



一:「いつもよりも可愛くなるように意識してた?」



和:「いや〜、どうだろ?」


みんなは思い出す素振りを見せなかった。

これは桜を意識して、歌ったのに。

私のことばかり褒めてくれていた。

桜のほうがもっと上手く出来るのに。

桜を思い出してほしかったのに。

そう思ったら、何だか悲しくなってきて





和:「ごめん。眠いから帰るね?」


帰りたくなった。


菅:「あ、ケーキは?まだ食べてないよね?」


部屋を出ようとすると咲月が私を呼び止める。


和:「自分用に買ってあるからいいよ。
それはみんなで食べて?じゃあ、おやすみ。」


荷物を持って、私は部屋を後にした。














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・瑛紗サイド



一:「なんか、和が悲しそうだった。」



菅:「確かに...」



冨:「疲れているのかな?ほら、今日もミーグリだったし。」


私たちはテレビを観ながら、ケーキを食べていた。


瑛:「...」


みんなは食べ進めていたが、私はフォークを止めていた。


一:「てれぱん、ケーキ食べないの?」



瑛:「う、うん...」


美空に促され、私はフォークを手にとる。


瑛:「モグモグ...」


何かが引っ掛かっていた。

和がBe together を歌っていた時から。


菅:「和が歌っていた曲ってスタ誕でやったことあった?」


冨:「ないと思うよ。」


一:「Be togetherもいつか番組でやる日来るのかな?」


瑛:「...」


みんなの会話を聞いていると












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?:「テンションを上げることに
慣れていなかったので苦労しました」


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何かの映像が私の頭の中を支配した。



瑛:「え、スタ誕でやったよね?」



今降ってきた映像はスタ誕のスタジオだった。



一:「えっ?やってないよ。」



瑛:「でも、伊藤さんが...」



※オズワルドの伊藤さんのこと



瑛:「イェーイって言って、後ろから出てきてって...」


何でか分からないけど、映像が降ってきた。


菅:「そんな事あった?」



一:「ないよ!(笑)」



冨:「瑛紗もお疲れじゃない?
ほら、夢で見たことが現実と
勘違いしてたこととかあるでしょ?」



瑛:「う、うん...」


そうだ。これは疲れ。


瑛:「美味しい。」


疲れを誤魔化すために私はケーキを一口食べた。









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・和サイド





和:「はぁ...」



自分の部屋に戻った私はシャワーを浴びていた。


和:「思い出してほしかったんだけどなぁ...」


私の想いはみんなに届かなかった。


和:「出来るのかな。
みんなの記憶を思い出させるなんて。」


思い出す素振りを全く見せなかった。


和:「私なんか...」









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○:[5期生の中で唯一彼女のことを覚えている
和さんにしか出来ないと思います。
だから、お願いします。みんなの記憶を戻してください。]



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和:「いや、私にしかできない。」


○○さんもこう言っていた。私がやらなきゃ誰がやるんだ。


和:「頑張ろっ...」


みんななら、必ず思い出してくれる。


和:「信じよう...みんなを。」


私はシャワーで不安や心配を流した。








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・瑛紗サイド



瑛:「何だろう...さっきのBe togetherの感じ...」


私の知らない記憶が降ってきた。


いや、忘れていた記憶?それとも、夢?


瑛:「でも、夢じゃないような...」



現実な気がするけど、何だろう...思い出せない。


瑛:「スタ誕で歌っていたとするなら、あの子は誰...?」









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?:「テンションを上げることに
慣れていなかったので苦労しました」



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顔がはっきりと思い出せない。



瑛:「誰だろう...あれは...メンバー...?」



脳を必死にフル回転させるが



瑛:「分かんない...」



何も分からない。



瑛:「疲れているだけなのかな...」



知らないうちに体が悲鳴を上げているのかな。



瑛:「もう休もう...」



私はお風呂を急いで済ませて、眠りについた。










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・○○サイド



プルルルル...



○:「電話...」


録画した番組をテレビで観ていると、電話がかかってきた。


○:「さくたん...?」


携帯の着信画面を見ると、さくたんからの電話だった。


ピッ


僕はすぐに応答した。




桜:「もしもし〜」



応答すると、彼女の声が聞こえてきた。


○:「もしもし?」



桜:「○○くんの声だ〜」



○:「会う約束は大丈夫だったの?」


彼女は会う約束があると急いでいた。


桜:「う、うん。何とか間に合った(笑)」



○:「そっか。よかった。」


今でも推しと電話するのが夢のようで
どんな会話をすればいいのか分からない。


桜:「○○くんは今、何してたの?」



○:「今?録画した番組を観てたところ。」



桜:「録画した番組って?」



○:「乃木坂工事中だけど...」



桜:「そ、そっか...」


彼女の返事のキレが悪かった。


○:「なんか、ごめん。」

だから、謝った。


桜:「ううん。大丈夫。
○○くんは乃木坂好きだもんね...」


さくたんの声のトーンは低かった。
乃木坂のことを本当に触れたくないのかな?と思った。


○:「そ、そういえば、さくたんは今何してたの?」


僕は急いで話題を切り替える。


桜:「家に帰って、お風呂入った後だよ。
ベッドで寝転がりながら、電話してるの。」


○:「寝なくてもいいの?僕に電話かけるとか...」


現在の時刻は23時


桜:「ううん。○○くんと話したかったから。」




○:「僕と話したかった?」



桜:「○○くんとたくさんお散歩したかったのに
さっきは出来なかったから、その埋め合わせ的な?」



○:「そ、そうなんだ...」



桜:「○○くんは桜と話してて楽しい?」



○:「楽しいというか...夢みたい。」



桜:「夢みたい?」



○:「だって、さくたんと電話できると思ってなかったし...」


推しと繋がれるなんて思わなかった。


桜:「現実だよ?これは。
今、桜は○○くんと電話してるよ。」



○:「現実...」


推しと繋がれているのも現実。


そして、推しがグループから消えているのも現実。


そう思ったが口に出すのをやめた。


桜:「そうだ。○○くんって明後日空いてる?」



○:「明後日?空いてるよ。」









桜:「じゃあさ...」



























桜:「明後日、二人でお出掛けしよっ?」





第3話 『再会』Fin




【第4話へ続く】

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