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『桜は散り、歯車が止まる』第10話






第10話『無力な自分、低い天井を睨む』






翌朝



桜:「おはよ...」



桜が眠い目を擦りながら、起き上がる。



○:「おはよう。気分はどう?少しは落ち着いた?」



昨夜、桜は和ちゃんたちと話した影響でずっと落ち込んでいた。


僕は彼女を落ち着かせるために彼女の手をずっと握っていた。



桜:「少しは落ち着いたよ。」



彼女はそう言うが、僕の目にはまだ落ち込んでいるように見えた。まだ、不安が残っているように思えた。



○:「そっか。なら良かった。
今日はどうする?一緒に課題をやる?」



そろそろ、課題を提出する時期になってきた。
彼女も僕もレポート課題が多い。
今日は講義もないため、進めるべきだと思ったから提案した。



桜:「うん。やる。」



と彼女が言ったので僕たちは一緒に課題をすることに。


前に課題をやった時は僕に話しかけてきたり
つまらなそうに課題をやっていた。

でも、今は違った。

様子が心配になるくらい、真面目にやっていた。

何かを忘れるために課題に集中しているようだった。





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・和サイド




菅:「そ、そんな...」



瑛:「桜は自らこの状況を作り出したってこと⁈」



和:「う、うん...」



桜と会った翌日、バースデーライブの
リハの合間に昨日の出来事をみんなに説明した。



五:「何それ...桜が望んだ世界なの?5期生が10人って...」



冨:「私たちの思い出は!!!」




みんなは昨日の私たちと同じように動揺していた。



彩:「なんで、桜を捕まえてこなかったの!
無理矢理連れて帰ってくればよかったじゃん!」



彩は美空の胸ぐらを掴む。



一:「出来るわけないよ...私たちだって動揺して...
それに桜は瞬間移動して、消えたし...」



奥:「瞬間移動?」



いろはは首を傾げる。



ア:「その場でパッと消えたの。」



姫:「本当に映画やドラマみたいにね。」



菅:「それでこれからどうするの?
桜は私たちに関わらないでって言ったんでしょ?
普通に取り戻すのは難しいと思うけど...」



咲月の言う通りだ。

同じように桜に会いに行っても、難しい。



和:「それは...桜が何でこんな事をしたのk...」



と話していたその時だった。






?:「ねぇ。最近、コソコソ動いているけど何?」




と背後から誰かに話しかけられた。




菅:「あっ...」



和:「さくらさん...」





遠:「今はバスラのリハだよ?雑談してる暇あるの?」



和:「そ、それは...」



雑談ではないと言おうとしたけど、話せなかった。

だって、さくらさんは私に対して厳しかったから。



遠:「それに昨日、和ちゃん、美空ちゃん、
姫奈ちゃん、アルノちゃんは何してたの?」



さくらさんはスマホの画面を私たちに見せる。



和:「⁈」



画面には私たちが桜と○○さんと話している様子が映っていた。



遠:「これ。あなたたちを見つけて写真を撮った。
どういうこと?一般人にこんな風に詰め寄るって。」



さくらさんの表情が怖かった。



遠:「自分たちがアイドルってこと忘れてる?
ちゃんと自覚あるよね?飛鳥さんも卒業したんだよ?」



一つ一つの言葉が私たちの心に突き刺さる。



遠:「変なことはやめて。リハに集中してよね。」



と言い残して、さくらさんは部屋を出ていった。




菅:「さくらさんの言う通りかもしれないね...」



和:「えっ...?咲月、何を言ってるの?」



菅:「だって、バスラがあるじゃん。
これ以上、桜のことばかり気にしても...
桜は私たちを拒絶しているし...」



咲月は目を伏せながら、こう言った。



和:「咲月は!桜が居なくても良いって言うの⁈」



咲月の言葉に苛つき、私は咲月に詰め寄る。



菅:「そう言うことじゃない!!!
本当は私だって桜を探したい!
で、でも...それでバスラが上手くいかなかったら...
ファンの人に申し訳ないでしょ...」



正論だった。私は桜のことばかり考えていた。

でも、私はアイドルで多くのファンの人たちがいる。

その人たちに無様な姿を見せちゃいけないんだ。



菅:「バスラのリハに集中しながら
桜について、みんなで考えよう?」



和:「う、うん...」





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・○○サイド



○:「課題終わった...桜はどう?」



夕方に差し掛かった頃、僕は課題を終えた。



桜:「まだ終わってない。」



と彼女はパソコンの画面を見ながら、返事をした。



○:「そっか...。終わったら、また呼んで?」



と言い、僕が部屋を出ようとすると



桜:「どこに行くの?」



と寂しそうな声で尋ねてきた。



○:「??さんに呼ばれてるの。時計の前にね。
あ、別に浮気とかじゃないから安心して?
すぐに戻ってくるから。」



桜:「う、うん...」



彼女は渋々納得してくれた。



僕は左手でペンダントに触れ、惑星へとテレポートした。





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・○○サイド



?:「やっと来たね。」



時計の前で??さんが座っていた。



○:「課題をやってて遅くなりました。すみません。」



僕は慌てて、彼女に駆け寄る。



?:「ううん。大丈夫だよ。
さっき、○○くんの言われた通りのことをやったよ。」



○:「あ、ありがとうございます。
それで和ちゃんはどんな感じでしたか...?」



僕は??さんの隣に腰掛ける。



?:「前よりは桜ちゃんのことを探さなくなりそう。
まあ、ライブに専念してほしいし...
彼女たちも理解してると思うからね...
○○くんの読み通りになると思うよ。」



○:「それは良かったです...」




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数日前



?:「和ちゃんたちの写真を撮る?」



○:「ええ。和ちゃんたちが
僕たちに詰め寄るのは間違いないですし。
そこを撮ってほしいんです。
そうすれば、一般人に詰め寄る行為を咎めれるので。」



桜:「アイドルとして自覚を持ってと言うってこと?」



○:「そんな感じ。もうすぐ、バスラもあるし
こうやって言えば、和ちゃんたちは会わなくなる。
特に咲月ちゃんはバスラ優先にすると思うし...」



?:「なるほどね。分かった。やってみるよ。」



○:「ありがとうございます。」



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?:「桜ちゃんのことを彼女たちは何も知らないからね...。
○○くんは桜ちゃんから全て聞いたんでしょ?」



○:「聞きました。
あんなに悩んでいたなんて思いもしなかったです。」



数日前、桜の悩みと想いの全てを僕は知った。

僕は何も知らなかったし、
彼女のことを何も分かっていなかった。

だからこそ、彼女のことを支えてあげたいと思った。



?:「○○くんに聞きたいんだけどさ...
桜ちゃんがもしも乃木坂に戻りたいって言ったらどうする?」



○:「どうもしません。僕は彼女を支えるだけ。
僕は川﨑桜の彼氏でもあり...ファンですから。」



彼女の決断を僕は尊重する。

ただそれだけだ。



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○:「...」



??さんが居なくなった後、僕は時計を見つめていると



神:「??との話は終わったんだろ?」



背後から神様が話しかけてきた。



○:「終わりましたけど、あなたに聞きたいことがあったので。」



神:「ほう?なんだ?」



○:「大切な想いは世界が歪んでも消えないんですよね。」



神:「ああ。それがどうかしたか?」



○:「______________ 」



僕は気になっていたことを神様に質問した。



神:「ああ。その場合も消えない。
どんな状況でも大切な想いと思い出は消えないからな。」



○:「それが聞きたかったです。安心しました。」




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・桜サイド



桜:「はぁ...」



彼がいなくなって部屋で私はため息をつく。

昨日からずっとモヤモヤしていた。

和たちと久しぶりに話してから...。



桜:「乃木坂から消えたいと思って
和にも関わらないでと伝えたのに...
なんで、こんなにモヤモヤするんだろ...」



彼の言う作戦の通りに進んでいて、私は嬉しいはずなのに



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和:「待って...!桜!もう一度、話を...」



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和の声が忘れられなかった。



桜:「はぁ...」



と再びため息をつくと



○:「ただいま。」



彼が部屋に戻ってきた。



○:「課題は終わった?」



彼は私の横に座り、尋ねる。



桜:「ううん。あと少しで終わる。」



○:「そっか。じゃあ、桜が課題を終えた時に
すぐにご飯食べれるようにするためにご飯作るよ。」



桜:「ありがと。○○。」



彼を待たせてはいけないと思い、
私は急いで課題を終わらせた。





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○:「ごちそうさまでした。」



桜:「ごちそうさまでした。」



彼の作ってくれた料理を食べ終えた。

彼は自炊をそんなにやっていないと言っていたけど
多分、大嘘だと思う。彼の作ってくれた料理は美味しい。

本当に彼は何でもできる。



○:「お風呂はどうする?今日も一緒に入る?」



桜:「うん...」





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桜:「...」



私は○○に背後から抱きしめられながら、湯船に浸かる。



○:「桜?やっぱり、元気ないよね?
昨日のことがあったから...?」



と彼は心配そうに聞いてきた。



桜:「うん...。○○の作戦通りに進んでいるのに...。
なんか...ずっと、モヤモヤして...」



○:「モヤモヤ?」



桜:「分からないの...。
これで桜は○○との生活を楽しめるはずなのに...」



何だろう。この感覚。嬉しいはずなのに喜べない。



○:「大丈夫だよ。僕がそばに居るから。」



と彼は私を安心させるような言葉をかけてくれるが



どこか物足りなかった。



桜:「物足りない...」



私は思ったことを口にした。



○:「えっ...?」



桜:「○○...お願い...私の脳内を○○一色で埋めて...?
和たちや乃木坂のことを忘れさせて...?」



このモヤモヤを解決するのは彼からの愛しかない。

私の直感がそう言っていた。



○:「い、いや...でも...」



彼は私のお願いの意図を把握したのか動揺していた。



これも彼の優しさなんだ。



桜:「お願い...私を愛して...」



○:「...」



彼は無言で頷くと、私の唇に愛を伝えてきた。

その夜、私は彼の愛と優しさを存分に味わった。

その間、私の脳内は彼一色だった。

私は本当に幸せだった。



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○:「ふぁ...」



翌朝、太陽の光で僕は目覚めた。



桜:「おはよう〜」



生まれたままの姿の彼女が僕に微笑んだ。



○:「おはよう。体調は大丈夫?」



桜:「大丈夫だよ。昨日、○○が
愛をたくさん伝えてくれたから幸せ。」



彼女の笑顔が少しずつ戻ってきた。



桜:「○○?」



僕の肩に顎を乗せて、彼女は僕の名前を呼んだ。



○:「ん?」



桜:「愛してる!」



と笑顔で愛を口にした。



○:「僕も。桜のことを愛してるよ。」



と言い、僕は彼女の頬にキスをした。




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・和サイド


先生:「和ちゃん、大丈夫?キレが全然ないよ?」



和:「すみません...」




翌日、バスラのリハをしていたが
私は全く集中できなかった。

原因は自分でも分かっていた。



先生:「ずっと考えごとしてるようだけどさ
ダンスのことだけを考えられないようだと
はっきりいって、いない方がマシだよ。」



和:「...」



先生の一言に反論することができなかった。



先生:「一度、顔洗ってきて気持ち切り替えて。」



和:「分かりました...」




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和:「はぁ...」



私はお手洗いの洗面所で顔を洗った。



和:「集中しなきゃ...悩んでても仕方ない...。」



鏡を見ながら、私は自分に言い聞かせていると



山:「和ちゃん、大丈夫?」




山下さんが化粧室に入ってきた。



和:「あっ、お疲れさまです!
ちょっと、集中できなくて...
でも、顔も洗ったので大丈夫です!」



と元気をアピールした。



山:「なら良いんだけど...」



和:「あっ、リハに戻りますね。
戻らないとまた、怒られちゃうので...失礼します!」



私は駆け足でリハに戻った。



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・美月サイド



山:「はぁ...」




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梅:「確かに助ける立場だもんね。私たちは。」



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山:「助ける立場ね...」



美月は顔を3回ほど洗い、リハへ戻った。





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・和サイド



和:「疲れた...」



リハが終わり、私は床に座り込む。



菅:「このペースで曲を覚えるとか...」



五:「ちょっとしんどいかも...」




一:「ちょっとじゃなくてかなりキツい...」



咲月、茉央、美空もまた私の近くで座り込む。



和:「桜を取り戻す時間はあるかな...」



菅:「ずっと考えてたの?」



一:「もう厳しいんだけど...
桜が私たちを拒否しているし
ちょっと、これ以上は...」



と2人は否定的だった。



和:「2人ともこのままでいいと思ってるの⁈」



五:「和...。2人もちゃんと考えてるよ。
でもね...桜を乃木坂に戻す方法も分からないし...
桜が何でこの状況を生み出したのかも...
何も分かんないから無理だよ...」



和:「もう...なんで、桜は...」



みんなの言うことも分かってるけど...

私はこの状況を何とかしたかった。

5期生全員で5期生ライブを成功させたかった。

桜が居ない5期生ライブなんか絶対に嫌だった。



和:「はぁ...」



無力な自分はレッスン室の天井を見上げ、ため息をついた。

希望なんかもうどこにもなかった。

絶望しかなかった。




と思っていたその時だった。












?:「川﨑桜。神奈川県出身。
2003年4月17日生まれの19歳。」





と私たちの背後から声が聞こえてきた。



菅・五・一「えっ...?」



和:「えっ...」



内容が内容なだけに私たちはすぐに声の方向を向いた。






?:「フィギュアスケートを10年やっていた。
愛称はさくたん。そして、5期生楽曲「17分間」のセンター。」



声の主は淡々と桜のことを口にする。



菅:「桜のことを...」



和:「な、何で...それを...」




















和:「山下さん...!!!」

















山:「ふふっ。頑固な桜ちゃんに苦戦してるみたいだね。
ねぇ?私が助けてあげよっか。この狂った状況を戻すために。
川﨑桜ちゃんが乃木坂46にいる世界を取り戻すために。」





山下さんは私たちに微笑み、こう言った。



山下さんは綺麗なペンダントを首から下げており、
そのペンダントは私たちの希望を表すように輝いていた。





第10話『無力な自分、低い天井を睨む』Fin




【第11話へ続く】

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