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『ラッキーアイテム』 第2話



菅: 「まあ…敬語になるのは仕方ないか...
それでさっ...○○君。 和を見た感想は?」

彼の目線に合わせるように咲月はしゃがむ。

○:「感想?」

彼は咲月の問いかけに首を傾げる。

菅:「うんっ。 可愛いとか超美人とか思わなかった?」

和:「いきなり何聞いているの⁈////」



超恥ずかしいんだけど

菅 : 「まあまあ…良いじゃない。」

全然良くない!

菅:「感想は?」

○:「可愛い部類に入るでしょ.. 転校生でこのビジュアルだと
大量の質問攻めにあうような気がする。」

当たっている..

菅:「可愛い部類に入るってさ…!」

咲月は私の肩をポンっと叩く。

和:「あ、ありがと…///」

恥ずかしいけど褒められるのはやっぱり嬉しい。

菅:「親の再婚の影響でこの時期に転校してきたの。」

○:「ふーん。修学旅行も行けないのか。」

ズバズバ当ててくるんだけど…

○:「僕と一緒だね。」

和:「えっ?○○君も修学旅行に行かないの?」

○:「ドクターストップがかかるから無理。」

彼は手でバツ印を作る。

和:「そうなんだ…」

夏休みの間はずっと入院していると
史緒里先生が言っていたから
修学旅行のような何日も泊まる行事は厳しいのかな…?

菅:「学校には来られないの?」

○:「行く気がない。」

○:「学校で倒れる可能性もあるし
授業受けても意味ないでしょ。
出席日数の関係で進級も厳しいから。」

確かに意味はないと思う。

菅:「でも、授業を受けにくれば
和の隣で授業を受けられるよ?
○○君の席は和の隣だから。」

○:「嫌だ。面倒くさい。」

嫌そうに彼は答えた。

私のことを嫌いと言っていないけど…
ちょっと、傷つきます…

和:「大学とかは…どうするの…?」

単位が取れないと受験資格も得られないし…

○:「興味ない。余命宣告されている人間が
そんな所に行っても将来役に立たないでしょ。」

彼は吐き捨てるように言った。

和:「余命宣告…⁈」

重要なことをさらっと言ったけど…えっ…?

○:「和さんは僕の事情を知らないの?」

菅:「知らないよ。
あなたがメダリスト候補だった事も知らない。」

和:「メダリスト候補って…スケートだよね?
瑛紗先輩が描いた○○君の絵を見た時に
スケート靴を履いていたけど…」

○:「まあ…うん…」

彼は視線を横に逸らしながら頷く。

菅:「家に帰ったら調べてみなよ!
凄いよ?くるくる飛んでいるから!」

飛んでいるという事はフィギュアスケート?
帰ったら、調べてみよう…

○:「そうだね…調べてみなよ…色々と出てくるから…」

彼は意味深な表情を浮かべ、答えた。

菅:「そうそう。
和ちゃんは委員長のお手伝い係になったから
今後はプリントをここに届けに来るよ。」

○:「もう要らないって…来なくていいよ。」

菅:「あなたが拒否しても真夏先生が持ってくるよ。
私たちが来る方がマシでしょ?」

○:「まあ…うん…」

真夏先生可哀想…


菅:「だから、今後は超絶可愛い
和ちゃんと一緒に来るからね!」

和:「咲月!!///」

その枕詞は要らないよ!!

○:「はいはい…お願いしますね…」

彼は呆れた顔で返事を返した。

そして、彼と数分ほど話した後
私たちは病室を後にした……


病院から出て、帰り道を歩いていた。

菅:「敬語も自然となくなっていたね。」

和:「そういえば…そうだね。」

意識していなかったけど
いつの間にかタメ口になっていた。

彼と話しやすかったからかもしれない。

和:「でも、私の自己紹介をしすぎな気が…」

私が美術部に入ったこと。
私の姉が人気モデルのさくらということ。
母方の苗字で過ごしていること。
前の学校では弓道をやっていたこと。

数分の会話は私の自己紹介しかなかった。

和:「彼は私のお姉ちゃんの事を知らなかったし…」

芸能関係に疎いと彼は言っていた

菅:「まあまあ…今後仲を深めるためには
自己紹介が不可欠だから!」

和:「不可欠って…私は彼と仲を深めようとは…」

ただのクラスメイトになりそうだし…
仲を深めるのは咲月たちで十分…

菅:「いやいや、和は○○君と仲良くなるよ。
だって、○○君の表情が少し良かったから。」

和:「えっ…良かったの?」

彼の表情は暗かった。
絶望を纏っているのは伝わってきたけど…
普段がどれだけ酷かったのだろう…

菅:「ほんの少しだけね?
夏休みの前に来た時はずっと布団に包まっていて…」

和:「そうなんだ…」

菅:「○○君も可愛い子が好きなのかな?」

菅:「彼も純粋な男の子ということか…」

咲月は腕を組みながら頷いていた。

和:「あのさ…余命宣告ってどういうこと…?」

彼は余命宣告されたと言っていた。

菅:「5年で死ぬんだって。」

和:「5年?随分と先だね…」

1年や半年と思っていたのに…

和:「彼の病気は治らないの?」

5年もあれば…治療も出来る気がするけど…

菅:「さあ…?
治る可能性もあるとは思うけど
彼は治す気がないからね…」

和:「×にたいって言っていたのも
治す気がないのと関係するの…?」

病室に入る前に彼は叫んでいた。

菅:「大きく関係するよ…」

咲月の表情が曇る…

菅:「家に帰ったら、彼の名前をネットで調べてみてよ…
彼が×にたいと言っていた理由も
表情が暗かった理由も大体分かるから…」

和:「うん…」

菅:「でも、彼の前では調べたことを言わないでよ…?」

菅:「当事者が一番辛いから…」

和:「…」

菅:「あっ!私はこっちの道だから…!
明日は一緒に登校しようね!」

和:「うん…!」

咲月と連絡先を交換して、私は帰宅した。
そして、すぐにパソコンを開いて
彼の名前を検索した。


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・あやめサイド

筒:「さっきより表情が明るくなったね。」

私は○○君の病室にいた。

○:「そうですか?あやめさんの気のせいだと思います。」

彼は咲月ちゃんたちが持ってきたプリントを読んでいた。

要らないと言いつつも彼はちゃんと読んでいる。

筒:「はいっ。薬。」

私は彼に薬を渡すが

○:「飲みたくないです。」

彼は私の手を跳ね除ける。

筒:「これは病気を直接治すための薬じゃないよ。
吐き気を抑えるための薬だから。」

○:「飲みます…」

彼は大人しく薬を受け取ってくれた。

筒:「今日は何回吐いちゃった?」

○:「朝に1回…
咲月さんたちが来る1時間前に1回…苦いっ…」

彼は薬を口に入れて、水と一緒に飲み込んだ。

筒:「病気を治せば、吐き気も無くなるし
またスケートできるのに…」

○:「治療費が高額だから…それに…」

彼は俯く…

○:「僕は生きてはいけない…」

彼はプリントを封筒に入れる。

○:「今の生活が心地いいので僕は満足です。
ダラダラと過ごして、眠るように死ぬのが理想です。」

彼は病気を治す気がなかった。
むしろ、×にたいと言っている。

○:「本当は誰かに刺されて亡くなりたいですが…」

○:「母や父…そして、妹の痛みを理解しないと…」

彼は封筒をテーブルに置いた。

筒:「ねぇ、咲月ちゃんたちとどんな話をしていたの?
転校生のあの子…可愛かったよね?」

○:「和さんの事を永遠と紹介されました。
僕はその紹介を黙って聞いていただけですね。」

○:「再婚してお姉ちゃんが出来て
その姉が有名な人気モデルらしいですけど…
僕は全然知らなかったですね。
遠藤…さくら…っていう人みたいです。」

筒:「えっ…?」

さくら…?

たしか…再婚して妹ができると
この前言っていたような…

あっ…それが和ちゃん…

筒:「(今度、さくに聞いてみようかな…)」

○:「まあ、自分には関係ないですし…
芸能は興味がないので…」

彼はスマホを触っている。

筒:「芸能に興味がないのは嘘でしょ?
知っているよ?ある女優が出演する
ドラマを観まくっているのを。」

○:「…⁈」

筒:「朝の連ドラも観ているし…写真集もここにある。」

私はテーブルの引き出しから写真集を取り出す。

○:「どうして…そこにあることを!///」



筒:「○○君の担当だから当たり前でしょ?
掃除もたまにやっているんだから。
それにしても…水着や際どいカットが多い…」

私はパラパラとページをめくる。

筒:「ちゃんと男の子だね〜」

○:「普通にファンなんです…
いやらしい目で見ていないですから…」

彼は布団で顔を半分隠す。

筒:「これは史緒里先生には内緒にしておくね。」

担当看護師の私だけの秘密ということで…

○:「ありがとうございます…」

私は写真集を元の場所に戻した。

筒:「可愛い子が大好きな○○君。」

○:「その呼び方は辞めてください…」

筒:「あなたは幼馴染で彼女の可愛い
桜ちゃんを一方的に振ったけど
いつ仲直りするつもりなの?」

○:「…」

彼の表情が固まる

○:「したくないです…」

彼は布団に包まる。

○:「桜の話題はもう出さないでください…」

筒:「分かった。もう出さないよ。
それと…さっきはごめんね。
生きたほうがいいとか言って…」

○:「いえ…僕も大声を出してすみませんでした…」

筒:「1時間後に夕食運んでくるね。」

○:「ありがとうございます…」


彼の病室を出て、私は廊下を歩く。

筒:「…」

あんな風に家族がいなくなったら
普通の精神状態で居られる人はいない。

だから、彼の気持ちも少しだけ分かる。

でも…

筒:「(本当にそれでいいのかな…)」

と私は思ってしまう。

それに彼は自分の意志を押し殺しているように見えた。


_______________________

・和サイド

和:「何これ…」

○○君の名前を検索すると多くの記事が出てくる。

一番上の記事を開くと
そこには2021年4月17日 
○○君の家族は強盗殺人犯に殺された挙句
家も燃やされて、犯人は
取り調べ中に亡くなったと書かれていた。

和:「残酷すぎる…」

和:「精神がボロボロになるよね…
でも、余命の話は…この記事かな。」

私は別の記事を開く。

和:「体に腫瘍が見つかり
彼は余命5年と6月上旬に診断された。
冨里○○が競技活動を引退すると連盟は発表した。」

その記事の日付は7月21日。

和:「立て続けに起こったんだ…」

でも、彼と桜の間に
何があったのか全く読めない…
治す気がないのもよく分からない…

和:「人生に疲れたから…?」

だから、×にたいと言っていたのかな…
病気を治そうとしないのかな…

和:「まあ、いいや…ネガティブな記事は閉じる…」

彼にはこの話をしないように…

和:「そうだ…彼のスケート姿を見よう…」

彼が輝いている姿を見てみたかった。

理由は特にない。単なる好奇心。

和:「凄っ…」

動画サイトで彼の名前を検索した。

検索すると、彼が4回転のジャンプを
何度も決めている映像が出てきた。

和:「美しい…」

ジャンプだけじゃない。
一つ一つの手先も美しい。

瑛紗先輩の絵のように彼は輝いていた。

和:「メダリスト候補…分かる気がする…」

綺麗だもん…

コンコン(ノック音)

和:「なに?」

和母:「和?さくらは
お友達の家に泊まるらしいから
先にお風呂入っちゃいなさい。」

母がドアを開けて、話してきた。

和:「ご飯は?」

お風呂の前にご飯のはず…

和母:「ご飯を炊き忘れたから、今炊いている。
だから、先にお風呂入って?」

和:「はーい。」

私はパソコンの画面を開いたまま
階段を降りて、浴室に向かった。


和母:「もう…パソコンの
画面くらい閉じなさいよ…」

和の母は和のパソコンの前に足を運び

和母:「えっ……」

パソコンの画面を見て…立ち止まった。

和母:「…」

そして、画面を閉じることなく、部屋を出ていった。

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・さくらサイド

遥:「再婚して出来た妹はどんな感じなの?」

私は高校時代からの友人の遥香の家に来ていた。

遠:「超可愛い。」

遥:「そうなんだ…いつか会いたいなぁ。」

遥香はショートケーキを口に運ぶ…

遠:「それよりデザイナーのお仕事はどう?」

遥香は大学卒業後にデザイナーになった。

遥:「まずまずかな〜。そこそこ休みもある!」

遥香は絵が得意だから、天職だと私は思う。

遥:「でも…あやめは忙しいよね…」

今日は友人のあやめも来る予定だったが
看護師のお仕事が忙しいから来られなかった。

遠:「大変そう…」

あやめの姉と母が看護師をやっていたため
その影響であやめも看護師になった。

遥:「7月くらいからは高校生の男の子の
担当になったみたいだけど
あやめはその子とお話しするのは楽しいと…」

遠:「お話しって…(笑)」

ちゃんとお仕事できているのかな?

遥:「まあ…楽しくやれているならそれでいい!」

遠:「確かにそうだね!」

ずっと辛い中、仕事をするのは
精神的にキツいからね。

楽しい要素が少しでもあるのが一番!

遥:「今度は3人で集まりたいね〜」

遠:「だね!あとであやめの都合がいい日を聞かないと…」


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彼と初めて会った日から
咲月と一緒にプリントを
渡しにいく日々が続いた。

徐々に彼と会話が
スムーズにできるようになってきて
たまには瑛紗先輩と一緒に彼の病室に行った。

彼の表情は少しずつ
良くなっているように感じたが
それでも、少し暗かった。

和:「えっ?咲月休みなの?」

一:「風邪を引いちゃったみたい。」

私が転校して2週間経った時
咲月が体調不良で欠席した。

和:「私一人でプリントを渡しに行かないと…」

一:「私も一緒に行くよ?
久しぶりに○○君の顔を見てみたいし!」

和:「本当⁈ 一緒に行こう!」



私はクラスに少しずつ馴染むことが出来てきた。
その中でも咲月、美空と話す機会が多かった。

彼女たちとは今後も長い付き合いになりそう。

そして、他のクラスメイトとも話せるようになった。
他愛もない話をずっとしていた。

桜:「…」

しかし、桜とは話すことはほとんどなかった。

放課後になり…○○君の病室に行く時間。

一:「そうだね!何を話そうかな〜。
普段、何しているのか気になる!」

和:「普段はゲームしているよ。」

一:「あっ、そうなんだ!
何のゲームだろう…気になるな〜。」

荷物をまとめて、私と美空が教室を出ようとしたその時…

桜:「ねぇねぇ…」

桜が話しかけてきた。

和:「どうしたの?」

桜:「桜も一緒に行っていい…?」



私たちは病院に入り、エレベーターに乗った。

一:「珍しいね!桜が行きたいって!
○○君に来ないでって言われていたでしょ?」

桜:「うん…でも、やっぱり…○○に会いたくて…」

和:「そっか…」

幼馴染なんだよね…何で来ないでと言われたのかな…

桜:「ねぇねぇ、和?」

桜が私の肩を揺らす。

桜:「○○の表情とかは…?」

和:「表情?うーん…暗いというか…
でも、最初に会った時よりは少しだけ良くなったかも。」

リンクの姿には程遠かった。

桜:「生きたいとか…病気を治したい…とかは?」

和:「全くないよ。それに学校に行く気もなさそう。」

桜:「そうなんだ…やっぱり、桜が言ってあげないと…」

桜は拳を握る。
彼を助けたい。そんな意志を彼女から感じた。



和:「着いたよ。」

私たちはエレベーターを降り
8階の廊下を歩いて、彼の病室を目指すと

五:「…」

和:「誰だろ…?」

4号室から知らない女の子が出てきた。

制服はうちの高校のものだった。

桜:「あっ…茉央ちゃん…」

五:「桜先輩…どうも…」

茉央と呼ばれた女の子は
会釈をして、私たちの横を通り過ぎた。

和:「桜、知り合い?」

桜:「○○の妹の…親友…」

妹って…殺された妹だよね…?

一:「たしか…あの子は1年2組だったよね!」

桜:「…」

和:「そうなんだ。」

まあ、今は気にしないほうがいいか…

和:「入るよ〜。」

病室の扉をノックして、扉越しに声をかけた。

病室に入ると、彼はゲームをやっていた。

○:「和さん、ごめんね。あと1戦だけで終わるから。」

彼はゲームに集中していて
美空と桜がいることに気づいていないようだった。

○:「よしっ…勝てた…」

彼はゲームの電源を切った。

○:「今日はプリントっ…⁈」

ゲームを仕舞った彼は美空と桜がいることに気がついた。

○:「美空さんと…桜…」

彼は桜を見て、驚いているようだった。
私と美空には目もくれなかった。

桜:「…」

○:「咲月さんは?」

一:「咲月は風邪を引いてお休みだよ。
だから、私たちが来たというわけ!
久しぶりに○○君の顔を見たいと思ってね!」

○:「ふーん…」

彼は渋々納得していた。

和:「これ、プリントね。ここに置いておくから。」

○:「ありがとう…」

私は封筒をテーブルに置く。

一:「ずっとゲームしているの?」

○:「うん。最近はずっとゲームかな。」

一:「つまらなくない?外に出たいと思わないの?」

○:「思わないよ。今の生活は心地いいから。」

和:「…」

彼はそう言い残して、窓の外を眺めた。

○:「今が一番楽しい…」

桜:「嘘つき…」

彼が楽しいと呟いた直後に桜は言葉を吐いた。

和:「桜…?」

桜:「ねぇ!本当に今が楽しいの⁈」

○:「楽しいけど…?」

窓の外を見ながら彼は答える。

桜:「嘘だよ!スケートをやりたいんでしょ!」

○:「…」

桜:「病気を治そうよ!治療費は桜が出すから!
働くから!借金してもいいから!」

桜は自分の思いを彼に訴えた。

一:「桜…」

○:「それを言いにここに来たんだ…」

彼は私たちのほうを向く。

桜:「考えを改めてよ…お願い…」

○:「前にも言ったよな…僕は×にたいって!!!」

桜:「それは間違っている!」

○:「間違ってなんかいない!」

彼は声を荒げた。

○:「もう一度言うよ。
2度と僕の前に顔を見せるな!!
これ以上、お前の馬鹿な考えを聞いても
何の得にもならない!時間の無駄だ!」

桜:「…」

○:「出ていけよ…」

桜:「○○…」

桜の目に涙が溜まっていく…

○:「失せろ!!!」

桜:「っ…」

桜は涙を堪えながら、病室を後にした。



一:「桜…!!」

美空は桜を追いかけて出ていき
病室は私と彼の2人きりになった。

和:「○○君…」

桜に何であんな冷たく…
付き合っていたんじゃ…

○:「ゴホッゴホッ…」

彼は激しく咳き込む…

和:「大丈夫⁈」

私は彼に駆け寄り、近くにあったバケツを手渡す。

○:「バケツはいらない…久々に大声を出して…ちょっと…」

彼はペットボトルの水を一口飲む。

○:「ふぅ…」

彼は一息ついた…

和:「桜と何があったの…?2人は幼馴染だよね?」

○:「うん…」

和:「付き合っていたって咲月から聞いた…
どうして、あんなに拒絶するの…?」

桜は○○君のためを思って、言ってくれているのに…

○:「桜は自分を犠牲にしようとした。
僕が犠牲になればいいから…突き放すしかない…」

和:「…」

○:「和さんは知っているでしょ…?
僕の家族が全員殺されたこと…」

和:「うん…ネットで調べた…」

意外だった。彼からその話が出てくるなんて。

○:「そっか…じゃあ今から話すよ…
ネットに載っていないこと…
僕の過去の全て…桜との日々も
そして、家族が殺された日の全貌を…」



・桜サイド

桜:「うぅ…○○…」

一:「桜…大丈夫だよ…」

私は病院の廊下にある椅子に座り、泣いていた。

桜:「桜…○○を救いたいだけなのに…」

一:「桜の想いはいつか伝わるから…ね。」

美空が私の背中を撫でてくれる。

桜:「うんっ……」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

○○と桜が小学生の頃…

○:「桜ちゃん、スケート始めたの?」

桜:「うんっ!やってみたいなぁと思って!」

○:「僕も始めてみようかな。」

桜:「桜と一緒にやろうよ!
○○君は運動神経いいから
絶対、上手くなるよ!」

僕と桜は幼稚園からの幼馴染。
本当に仲良しだった。

桜:「やっぱり、○○君は凄いね。
ずっと、スケートの練習している!本当に偉いよ!」

○:「楽しいから!桜ちゃんが誘ってくれたおかげだよ!」

僕はスケートにどハマりした。
憧れの選手と同じ髪型にもした。

本当にハマった。

桜:「辛い…コーチが厳しい…」

○:「大丈夫だよ…?
一緒に頑張ろう。僕がそばに居るから。」

桜:「ありがとう…○○…」

桜と僕はずっと一緒にいた。
お互いを励まし合いながら

何年もスケートを続けた。



そして、中学3年の頃に僕と桜は付き合った。



僕たちは同じ高校に進学した。

桜:「凄い!今の4回転ループ⁈」

高校に進学しても、僕はスケートを続けていた。
桜はあと少しでスケートを辞めると言っていた。

僕は辞めようと思わなかった。

○:「そうだよ。」

桜:「3本目だよね?サルコウにトウループに…」



メダルを獲りたかった。
いつかメダルを獲って、頂点に立つ。

それが僕の目標になった。

○:「うん。頂点に立つには4回転が何本も必須だからね。」

その為に僕は4回転のジャンプを練習しまくった。

桜:「凄いよ!○○なら絶対にメダルを獲れるよ!」


高校の帰りに桜と一緒に
練習場に行き、夜遅くに帰宅する。
1年の時はその繰り返しだった。



○:「ただいま〜。」

○父:「おかえり。」

○母:「ご飯出来ているわよ。」

○:「ありがとう。母さん。」

母は遅い時間でもご飯を作ってくれた。

?:「お兄ちゃんおかえり!」



○:「奈央。まだ起きていたの?」

冨:「起きていたって…
まだ夜の10時だよ?
子ども扱いしないでほしいな〜」

妹の奈央がテレビ番組を観ていた。

○:「その番組って…」

冨:「お兄ちゃんの特集番組だよ?」

奈央が観ていたのは僕の特集番組。



○母:「奈央ったら…何度も
同じ番組を観ているのよ。」

○:「ふーん…物好きだね…」

僕は箸で唐揚げを口に運ぶ。

冨:「大好きなお兄ちゃんだもん!
氷上の天才!かっこいいよ!」

大会で優勝することも多くなってきたことで
世間から氷上の天才と呼ばれるようになった。

○:「恥ずかしいな…」

褒められるのは嬉しいけど恥ずかしい。

冨:「いつかメダルを獲ってよ?」

○:「分かっているから。
奈央に金メダルをかけてあげる。でしょ?
何度も言われているから覚えているよ。」

僕は奈央のために必死だった。

奈央はいつも応援してくれていた。
だから、その恩返しをしたかった。

冨:「お兄ちゃんがメダルを獲ったら
この願いノートを見せるから!私の願いを叶えてよ!」

奈央はノートを見せる。

○:「そのノート…何冊目?」

奈央は願いノートをずっと書いていた。

冨:「今は6冊目かな?」

冨:「でも、1冊目の願いを特にしてほしいな。」

○:「了解。
それより、高校受験の勉強はどうなの?
あと数ヶ月で受験でしょ?」

冨:「順調だよ!茉央と一緒に頑張っているから!」

茉央。奈央の親友だ。
中学1年生の頃に仲良くなったらしい。

うちにもたまに遊びに来ている。

冨:「お兄ちゃんと一緒に登校したいな〜」

○:「さあね…僕は高校辞めるかもしれないし。」

スケートが忙しくて、僕は単位が取れるか心配だった。

冨:「あっ!約束だからね!
私が高1の間は高校を辞めない。
1年間は一緒の高校でいたいから!」

○:「はいはい。」

○:「今すぐに退学しても問題ないのに
奈央のために高校には通いますよ。」

先日、僕は高卒認定試験に合格した。
いつか忙しくなるかもしれない。

大学に進学する可能性もあるかもしれないから
一応、取っておいた。

冨:「ありがとっ!お兄ちゃんっ!」

奈央と茉央は僕たちと同じ高校に合格して
毎朝、奈央と一緒に登校することに。

僕の練習が夜遅くまであるため
帰りは一緒に帰らなかった。

それでも、楽しかった。
奈央が笑顔でいるのが嬉しかった。

奈央の笑顔を見るだけで
僕はメダルを獲ろうと頑張れた。



そして…

2021年4月16日



○:「疲れた〜」

僕はリンクの外に出て、ベンチに寝転んだ。

桜:「お疲れさまっ」

桜はお水を持ってきてくれた。

桜:「来年にはメダルを獲れそうだね!」



○:「気が早い。」

2022年に4年に一度の大会があった。

○:「ちゃんと選考会で結果を残さないと。」

桜:「そうだね。」

桜は僕の練習を毎日見にきていた。

桜:「そういえば、今日はいないの?美術部の瑛紗先輩。」

○:「3年になって、受験勉強しなきゃいけないみたいで。」

桜:「受験勉強か…桜も頑張らないとなぁ…」

桜はスケートを辞めて勉強に専念していた。

○:「お互い頑張ろうね。」

桜:「うん!」

○:「そろそろ、帰ろう。今日はもう遅いから。」

桜:「あっ、手を繋ぎたい…///」

僕たちは手を繋ぎながら練習場の外に出た。

桜:「明日の約束は忘れないでよ?」

○:「忘れるわけない。
桜の誕生日を2人でお祝いする約束でしょ?」

半年以上前から約束していた。

桜:「うんっ!本当はお泊まりがよかったけど…」

○:「女子ってそんなにお泊まり好きなの?
奈央も今日の夜は茉央ちゃんの家に泊まっているけど…」

奈央は明日の昼間に帰ってくる予定だ。

桜:「奈央ちゃんのお泊まりとは違うよ…
桜のお泊まりはイチャイチャ…///」

○:「たしかに…最近はキスとかしていなかったよね…」

桜:「うん…/// だから
明日はお泊まりじゃないけど…
イチャイチャしたいなぁって…///」


桜は頬を赤くしながら、僕を上目遣いで見てくる。

○:「いいよ。いっぱいイチャイチャしよう。」

桜:「ふふっ…///ありがとっ…///」

僕たちは手を繋ぎながら
練習場の外にある階段を降りる。

桜:「嬉しいな…○○と
2人で過ごせるなんて…///」

桜は僕の指に自分の指を絡めて
上目遣いでこちらを見る。

○:「ほら。この階段はちゃんと足元を見る。」

桜:「あっ、そうだった…」

前に桜がこの階段で滑って、落ちそうになった。

だから、この階段は注意して歩かなければならない。

この長い階段から転がり落ちて
当たりどころが悪ければ、即あの世行きだ。



桜:「よいしょ…」

桜は足元を確認しながら歩く。

桜:「ふぅ…無事に降りられましたと。
これでたくさんくっつけるね…///」

○:「うん…///」

僕と桜は恋人繋ぎで
肩と肩が時々触れ合うくらいの距離で歩いた。

僕も桜のことが好きだ。
こんなに可愛くて優しい彼女は素敵。



あまり口には出さなかったが
桜と2人きりで過ごせるなんて嬉しかった。

正直、この日を楽しみに練習を
頑張っていたところもある。

僕はその日の夜、楽しみで眠れなかった。



そして、2021年4月17日を迎えた。



○:「どの服がいいかな…」

家を出る直前になっても僕は服で悩んでいた。

冨:「ただいま〜」

悩むこと数十分後、奈央が帰ってきた。

○:「ヤバっ…奈央が帰ってきたということは…」

時計を確認すると家を出る時間の5分前になっていた。

冨:「お兄ちゃんまだいたの?」

奈央が部屋に入ってきた。

○:「服はどっちがいいかなと悩んでいて…」

冨:「私は左がいいと思うよ?
スケートの衣装の色に似ているから!」

○:「じゃあ、こっちにするか…」

僕は奈央の選んだ服を羽織る。

○:「ありがとう。奈央。」

冨:「ううん!気にしないで!」

○:「そうだ。茉央ちゃんの家に忘れ物はしなかった?」

リュックの中に荷物を入れて
僕は部屋を出ようとした。

冨:「多分、していないと思う!
というか、していたとしても
学校ですぐに会えるから問題ない!」

○:「まあ…確かにそっか…」

○:「行ってくるね。」

冨:「うん!楽しんできてね!」

○:「あー、あと…
奈央の部屋のスピーカーの音がデカいから
曲を聴く時はヘッドホンをつけた方がいいよ。」

近所迷惑になるからね。

冨:「了解っ!」

○:「じゃあ、行ってきます。」

冨:「行ってらっしゃい!」

奈央は笑顔で見送ってくれた。

僕は母と父にも桜の家に行ってくることを伝えて家を出た。

○:「今日は桜と一緒に楽しむ…」

楽しい日にしようと決意して
普段よりも早歩きで桜の家に向かった。

○:「うわっ…ヤバい…遅刻する…走ろう…」

数時間後、冨里家で惨劇が起こるなんて知らずに…

【第3話に続く】

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