見出し画像

『桜は散り、歯車が止まる』第1話









【この物語はフィクションです。】






2022年12月18日  神戸






桜:「本日は本当に...」





"ありがとうございました!!!!"





この日、私たち5期生は単独ライブの最終公演を終えた。





先輩方がいない中でのライブ。

私たち5期生11人だけのライブ。

毎日のレッスンが本当に苦しくて
この最終公演まで辛い日々を送ったけど、無事に完走した。





桜:「...」






そして、私はセンターとして、このライブを終えた。










__________________________________________










〜ライブ終了後〜








桜:「...」




私は私服に着替えて、楽屋の座席に腰掛ける。





一:「さく〜、センターお疲れさま!」





桜:「みーきゅん...」





私と同じく5期生メンバーで
同い年の一ノ瀬美空が話しかけてきた。





一:「5期生の中でさくが一番成長していたよ!」





美空は私の顔を覗き込む。





桜:「ありがとっ...ふふっ」





私は美空に笑顔を見せた。





和:「BE TOGETHERの煽りが超可愛かったね!」





同じく同期の井上和が話しかけてきた。





桜:「うん...ありがとっ」





可愛いとか成長しているとか言ってもらえたけど
私は成長していると思わなかった。




少しは成長していたかもしれないが
この期間でみんなとの距離がさらに離れてしまったと思う。




みんなのほうが明らかに成長していた。




私が一番分かっていた。





瑛:「さくたん、写真撮ろう〜」






瑛紗が私の手を引く。





桜:「うん!」






私は瑛紗と一緒に写真を撮った。






瑛:「はい!チーズ!」





桜:「...」














もう、思い残すことは何もない














____________________________












2022年 12月22日 夜












この日は私が運命を決めた日。









その日は雪が降っていた。





ガコンッ...ギギッ...





桜:「強くなりたかった...」






強くなりたいって、自分を変えたいって





ずっと思っていた。




でも、私には無理なんだ。




ギギッ...ギッ...






桜:「うんっ...」







少女は1枚の歯車を持ち、その場を後にした。







桜:「...」











これでいい_____________


















〜『桜は散り、歯車が止まる』〜


















第1話『この世界から桜が消えた』














○:「ふぁあ...」







一人の青年が腕を伸ばし、大きな欠伸をした。







○:「眠いなぁ...」






僕はごく一般的な大学生である。




今日の講義は1限からということもあり、寝不足だ。






○:「今日もブログにコメントしなきゃ...」





僕はスマホを手にとり、布団から起き上がった。





僕の部屋にはアイドルのグッズが少しだけある。




壁にはポスター、机にはアクリルスタンド。



僕がコツコツと集めてきたグッズだ。




その人の笑顔で僕は頑張れてきた。



どんなに辛いことがあっても
推しが頑張っているから、自分も頑張ろうと思えた。




○:「今日は何の話題について書こうかな...」




毎回のようにお話し会に参加して
毎日のようにブログをコメントする。






それが僕の日常だった。





○:「あれ...?」










でも、平穏な日常は簡単に崩れる











○:「なんで、さくたんのブログがないの?」








僕の推しメンのブログがなくなっていた。







奥田いろは→川﨑桜→菅原咲月と順番に並んでいたのに

奥田いろは→菅原咲月になっていた。






○:「ちょっと待って...過去のブログもないじゃん...」







最初まで遡っても、推しのブログが出てこない。






○:「なんで?バグ?」






ブログが消えているバグなのか?と思い
とりあえず、僕はメンバーのプロフィール表を探した。







○:「は?さくたんがいない?」










乃木坂46の5期生は11人のはずなのに
プロフィール表には5期が10人しかいなかった。









○:「なんで、なんで...」







僕の脳内は混乱していた。






SNSを検索しても、推しの名前が出てこない。




さくたん推しのアカウントを探してもなかった。




さくたんの存在自体が消えているようだった。





○:「そうだ。『17分間』のMV。」






さくたんがセンターを務める曲





『17分間』が最新のシングルに収録されている。





MVにはさくたんが確実にいるだろうと思い
動画サイトに載っていたMVを確認した。






○:「えっ...えっ...」









MV自体は動画サイトに載っていた。






再生回数も公開日も曲も変わっていなかった。

















しかし、川﨑桜はいなかった。












五百城茉央、冨里奈央のWセンターに変わっていた。









○:「居ないじゃん...さくたん...」







MVの内容は別物だった。








確信した。推しの存在がこの世から消えたって。






○:「集合写真にもいない...」






MVの最後に映し出された写真にさくたんがいない。



頬を何度もつねっても、MVは変わらなかった。




目は覚めなかった。




涙が止まらなかった。




これが現実と突きつけられたから。











乃木坂46から川﨑桜という存在は居なくなった。






○:「休もう...」






僕は1限の講義を欠席した。














__________________________________________









和:「おはよう〜」



私は井上和。
私はアイドルグループ「乃木坂46」に所属している5期生。







今日も同期のみんなとお仕事だ。






一:「和、おはよう〜」





菅:「おーっす。」






みんなは既に楽屋に集まり、騒いでいた。







一:「あーや♪今日の私服可愛いね〜」



ア:「可愛いよ〜!」






彩:「嫌〜!」





2人は彩を抱きしめる。




この光景が日常である。





和:「また、やってるよ(笑)」







姫:「本当にそれ(笑)」





今日は姫奈の隣の席に座る。






和:「そっか。今日は姫奈が歌うのか。」






今日は私たちの番組収録がある。






姫:「そうだよ。だから、制服着ているの。」






姫奈は制服のリボンを見せてきた。






奥:「ハロウィンは終わっているのにね。」





斜め向かいのいろはが姫奈に向かってそう言った。






和:「いろハラだ(笑)」






いろはは毒があることをたまに言う。





姫:「瑛紗、まだ、私は制服いけるよね!」






瑛:「いけるでしょ。あと1ヶ月。」






姫:「1ヶ月⁈」






和:「短っ(笑)」






私たちの楽屋は笑いがいつも飛び交う。





本当に賑やかで笑顔が溢れる。






冨:「もう少し、盛れるかも。」






五:「この角度がいいかな?」







ふざけたり、写真を撮ったり、毎日が楽しかった。






10人に出会えて、本当に良かったと心の底から思えた。








この時間が永遠に続いてほしかった。





















そう思っていたのにその時間は続かなかった。








和:「そういえば、桜はどこ?」







メンバーの川﨑桜が楽屋にいなかった。






いつもは楽屋で大学の課題をやっているのに。







和:「寝坊?お手洗いに行っているの?」









私は横に座っている姫奈に尋ねた。















しかし、数秒後、彼女の口から予想外の言葉が出てきた。
















姫:「桜?誰それ?」















和:「えっ...?冗談だよね?
メンバーの桜だよ?ここに居ないじゃん。」








姫奈がボケを入れているのかと思っていた。





だって、川﨑桜は5期生の中でもファンの人に人気だから。







奥:「和、何を言っているの?全員いるでしょ。」











いろはも訳の分からないことを言っていた。







ここには私を含めて、10人しかいない。





私を含め、11人で同期全員なのに
いろはは10人で全員と落ち着いて、話していた。







姫:「さてはお主、ボケているな?」







姫奈が笑いながら、そう言った。





和:「いや、ボケてないよ!」





みんなのほうがボケていると私は訴えた。






和:「瑛紗、桜を知っているよね?」






同期で一番賢くて、記憶力もいい瑛紗に尋ねた。






瑛:「桜?遠藤さんしか知らないけど...」






瑛紗も忘れていた。






瑛紗と桜は2人で一緒にいる機会も多かったのに。







和:「そんな...本当に覚えていないの⁈」









絶望の一秒前の撮影の時に一緒に見学していたじゃん。







瑛:「覚えていないというか...」







瑛紗は首を傾げて...








瑛:「これが普通なんだけど...」










真顔で答えた。







和:「なんで...」






普通じゃないじゃん...桜だよ?川﨑桜だよ?






瑛:「本当に誰?」






明らかにおかしい状況に私の脳内は混乱していた。






和:「これが桜だよ!本当に覚えていない⁈」







私は桜と撮った写真を見せた。
みんなは記憶喪失なのか?と思った。







瑛:「可愛いけど...知らない子だね。」








和:「(嘘だ...)」






知らないって何よ...







一:「うわっ!めっちゃ可愛い子!」







ア:「誰?その子?」







私のスマホを2人が覗き込む。







一:「和の友達?」






美空が笑顔で聞いてきた。






和:「友達じゃないよ...同期だよ⁈」







美空は桜と一緒にいたじゃん。






桜は美空にくっついていたんだよ?






さくみくってコンビだったじゃん!






和:「ねぇ!ドッキリだよね⁈」






みんなが私にドッキリをかけていると思っていた。





信じたかった。






和:「奈央、茉央は知ってるよね!
川﨑桜だよ?私たちの同期!」







冨:「川﨑...」






五:「桜...?」





二人は目を見合わせた。






冨:「知らないし、最初からそんな人は居ないけど。
そうだよね?茉央。」






五:「うん。5期は10人じゃん。」






和:「...」





同期のメンバーは誰一人として桜のことを知らなかった。






菅:「疲れているんじゃない?」





咲月が私のおでこに手を当てる。




咲月の仕草から分かる。




桜はみんなの記憶から居なくなっていると。




それが当たり前になっていると。





これはドッキリじゃないと。






まるで私が違う世界の住人だった。







マネ:「うん。全員揃っているね。
あと5分で始まるから準備してね。」






マネージャーも桜を知らなかった。






あぁ...私しか知らないんだって...
現実を突きつけられた。






5分後、今日の収録が始まった。





私の心はずっとふわふわしていた。








夢を見ているんじゃないかと思い、



夢か現実か確かめるために



雛壇に座っている時、手をつねったりしたけど



痛みをちゃんと感じた。







でも、夢にいるような
別世界にいるような感覚は消えなかった。













_________________________________________











△:「1限を休むなんて珍しいなぁ。」






空きコマ中、友人の△△と話していた。





○:「ちょっと、色々あって...」





流石に全ての講義を休むのはダメだと思ったから
3限の講義から出席することにした。






△:「色々って寝坊だろ?」






○:「まあね...」






△△はアイドルファンではない。





だから、今起こっていることを話せなかった。






△:「そういや、お前の推しが
この前、番組に出ているのを見たな。」







○:「推し?」







△:「うん。なんとか...和ちゃんだっけ?
その子のお話し会に毎回行っていると
お前、言っていただろ?」








△△もさくたんのことを忘れていた。







いや、記憶が書き換えられていた。



僕は否定する気も起きなかった。



どのように変わったのかを僕は把握しようとした。






○:「そうだね。」







僕だけが川﨑桜を覚えているのか
僕以外にも川﨑桜を覚えている人がいるのか。







この世界で何が起きているのか。




メンバーは誰もこの状況に気づいていないのか。




そして、さくたんは今どこで何をしているのか。














____________________________________________











・和サイド










収録が終わり、帰りの車に乗っていた。









一:「この写真懐かしいよね。初めてのツアー。」







隣の席の美空が写真を見せてきた。







和:「うん...」







一:「次はもっと頑張らないと。」







和:「(あれ...?でも、あの写真って...)」








美空が見せてきた写真を私も持っている。





でも、美空と違って
私が持っている写真には桜がいる。







和:「(なんで...?)」







記憶と写真は何か関係があるのか。






和:「...」







この世界で私だけが桜を覚えているのか。




ファンの人は桜を知らないのか。




先輩方も桜のことを知らないのか。




そして、桜は今どこにいるのか。





数々の謎が私の頭を埋めていく。








__________________________________________









○:「はぁ...」





帰宅した僕はライブ映像を観ていた。





そこには笑顔が印象的な推しはいない。




公演を欠席したわけじゃなく
元々、そこに居なかったみたいに自然に変わっていた。







桜:「あっ!○○君、久しぶり〜!」









桜:「いつも来てくれて、ありがとう〜!」






とお話し会でいつも笑顔で接してくれた彼女がいない。




僕に頑張る気力を与えてくれた彼女はいない。




彼女はどこに行ってしまったのか。









○:「さくたんの身に何があったんだろう...」








何かがあったのは間違いない。






そうでなければ、こんな馬鹿げたことは起こらない。








___________________________________









和:「おかけになった電話番号は使われていません...」








帰宅した私は桜に電話をかけたが通じなくなっていた。



いや、元々こんな番号なんか無かったのか。






和:「メールの履歴は残っているのに...」







幸い、履歴は残っていた。








和:「はぁ...なんで...こんな事になったんだろう...」








あれから、色々と調べてみた。




乃木坂46の5期生は10人。





『バンドエイド剥がすような別れ方』は
私と咲月のWセンター楽曲。





『17分間』ではセンターが奈央と茉央に変わっている。







明らかにおかしかった。





でも、みんなはそれが当たり前だと思っている。







和:「みんなの記憶を戻すことは出来るのかな...」






記憶を失っているのなら
それを呼び起こすことも出来るはず。






私が覚えているから
みんなの心のどこかにも桜との記憶がきっとある。





私がやらなきゃ...桜のことを覚えている私が...







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜







○:「...」






僕が...





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






和:「...」







私が...







〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜







○・和:「この狂った世界を元に戻してみせる。」













この日、2人は決意した。











__________________________________________

















?:「世界は歪んだ。」







桜:「歪んでない。」






?:「そうか。」





??は少女の元から離れた。












桜:「...」




















少女は歯車を見つめていた。




















第1話『この世界から桜が消えた』Fin










【第2話に続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?