『ラッキーアイテム』 第4話
○○君の過去を聞いた翌日の早朝
和:「どうすればいいのかな…」
桜と○○君を仲直りさせて
○○君に考えを改めさせる。
その方法を一晩中
考えても思いつかなかった。
和:「とりあえず、ご飯食べよう…」
普段通り、私は制服を着て
朝食を食べるために1階に向かった。
遠:「和、おはよう〜。」
姉が朝食を食べながら、テレビを観ていた。
和:「お姉ちゃん、お母さんとお父さんは?」
普段は母と父がいるのに
なぜか、姉一人だけだった。
遠:「お仕事に行ったよ。大事な会議があるんだって。」
和:「ふーん…」
私は姉と普通に会話できるようになった。
和:「いただきます…」
少しご飯も冷めていたため、レンジで温めた。
遠:「そういえば、和?あやめと会ったの?」
和:「あやめ…?」
遠:「ほら?前に話したでしょ?
私の友達が乃木病院で看護師やっているって。」
和:「お姉ちゃんの友達ってあやめさんだったの⁈」
遠:「そうだよ(笑)
患者の男の子から転校生の姉は
モデルの遠藤さくらと聞いたらしくて
この前、電話がかかってきた。」
遠:「まあ、再婚して妹ができると
あやめには言っていたから…
和ちゃん可愛いね!と褒めていたよ。」
和:「恥ずかしい…」
可愛いと言われるのは慣れない。
遠:「毎日のように病室に
来ていると言っていたけど
そんなにその男の子が大切なの?」
和:「実はね…」
私は○○君の事を話した。
○○君に話しかけてあげてほしいと
史緒里先生に言われたこと。
そして、○○君の記事を読んで
助けてあげたいと思ったことを
遠:「そうなんだ…
和が行っている病室の子って
あの冨里○○君なんだ…」
私はニュースを
普段見ないから知らなかったけど
彼には大量のファンがいた。
和:「○○君は私に過去を話してくれたけど…
どうすれば、彼を助けられると思う…?」
私は方法が分からなかった。
遠:「うーん…私はニュースで
見たことしか知らないからね…
助けられる方法ね…」
私もそうだ。
彼と同じ境遇になっていないから
偉そうなことは言えない。
でも、彼を助けたい。
本当は治したいと言っていたから…
自分の意志をもっと見せてほしい。
和:「何かあるのかな…?」
幼馴染の桜でも
彼を動かすことはできなかった。
それでも、彼の心を
動かせるものは何かあるはず…
遠:「星座占いを参考にしてみたら?」
和:「ふざけているの?」
馬鹿馬鹿しいでしょ。
こんな大事なことに占いを参考にするなんて。
遠:「ふざけていないよ。
何かの参考になるかなと思って。
ほら、今、星座占いやっているから。」
テレビで星座占いをちょうどやっていた。
和:「星座占いね…」
参考になるのかな…??
半信半疑で私は星座占いを見ていた。
和:「1位は射手座…?」
あれ?射手座って…
和:「○○君の誕生日だ…」
彼の誕生日は12月7日。
ネットで検索するとすぐに出てきた。
遠:「ラッキーパーソンは妹の親友?」
和:「妹の親友…」
彼の星座のラッキーパーソンだから
妹は奈央ちゃん、そして、その親友は…
和:「茉央っていう子…?」
奈央ちゃんは亡くなる直前に
茉央ちゃんの家に泊まっていた。
そこで何か話していたら…
特別なことを話していたら…
和:「聞いてみる価値はありかな…」
○○君の病室にも昨日来ていたから…
遠:「天秤座は最下位だ…」
姉は最下位だった。
______________________
・学校の教室
菅:「風邪が早く治ってよかった〜」
咲月が教室に入ってきた。
和:「よかった!でも、無理はしないでよ?」
完全に回復するまでには
意外と時間がかかるからね。
菅:「もちろん!」
咲月はバッグを机の横にかけて椅子に座る。
菅:「そういえば、昨日は○○君の病室行った?
私がいない時に行った事なかったよね?」
一昨日まではずっと咲月と一緒に行っていた。
私一人や咲月がいない時に
行ったことはなかった。
和:「昨日、行ったけど…」
菅:「けど?」
昨日のことを話すかどうか迷っていた時に…
桜:「…」
桜が教室に入ってきた。
菅:「あっ、桜!おはよう!」
桜:「おはよう…」
桜の目の下にクマができていた。
菅:「桜、どうしたの?
すっごい目の下にクマが…」
桜:「考えごとしていて…」
桜はゆっくりと椅子に座った。
和:「もしかして、○○君のこと…?」
桜は私の問いかけに無言で頷いた。
菅:「あのさ…私が休んでいた間に何かあった…?」
和:「あったけど…
桜、昨日のことを言ってもいいかな…?」
桜:「いいよ…」
桜は小さな声で返事をすると
鞄の中から英単語帳を取り出して
時間を潰すように読み始めた。
私は咲月に昨日の出来事を話した。
菅:「○○君が過去を…」
和:「うん…話してくれたの…
本当は治したいって言っているのに…」
彼は治すのをためらっている。
彼の性格が邪魔をしていた。
桜:「夜考えたけど、もう方法なんかないよ…
桜でダメなら…奈央ちゃんしか…」
桜:「奈央ちゃんが生きていたらなぁ…」
桜は単語帳をバッグに仕舞う。
和:「その事だけど…○○君の妹の親友の
茉央ちゃんは何か知っているのかな…?」
桜:「茉央ちゃんが…?どうして、そう思うの?」
和:「奈央ちゃんは亡くなる数時間前まで
茉央ちゃんの家にいたわけでしょ?」
和:「だから、何かあるのかなって…
それに今日の星座占いだと
射手座が1位でラッキーパーソンは
妹の親友だから。」
桜:「星座占い?」
桜はハテナマークを浮かべる。
まあ、そりゃそうよね…
普通はこんな馬鹿馬鹿しいものを信用しないよね。
菅:「射手座って、○○君の星座だよね。」
桜:「うん。でも、○○は
星座占いを信用していないし…
あんなもので機嫌を左右されるなんて
馬鹿馬鹿しいって前に桜は言われたの。」
そういえば、桜は占い好きだったね
和:「○○君が信用していなくても
茉央ちゃんに話を聞く価値はあると思う。」
桜:「たしかに…奈央ちゃんが
亡くなって以来、茉央ちゃんと
話す機会もそんなになかった。」
和:「昨日、○○君の病室に
行ったのも気になるよね。」
私たちが来る前に茉央ちゃんは病室にいた。
二人が何を話していたのか正直気になる。
和:「だから、茉央ちゃんに話を聞こう?」
桜:「そうだね。今から茉央ちゃんの教室に…」
桜が立ち上がろうとした時…
菅:「二人ともその必要は無さそうだよ?
ほら、教室の入り口…」
咲月は教室の入り口を指す。
和:「あっ…」
桜:「茉央ちゃん…」
五:「桜先輩は…」
茉央ちゃんが桜を呼ぼうとしていた。
私と桜と茉央ちゃんは
人気の少ない校舎裏に向かった。
五:「和先輩は○○先輩と
毎日会っているんですね。」
和:「毎日じゃないよ。」
一昨日は行っていないし…
桜:「咲月と週4で
行っているから、ほぼ毎日だよ。」
五:「○○先輩と仲の良い証拠ですね。」
仲は良いのかわからないけど
少しは話せるようになったのかな?
五:「和先輩は○○先輩の
過去を聞いたんですよね?」
和:「うん…昨日、
奈央ちゃんのことも聞いた。」
五:「それなら、話してもよさそうですし
このノートを見せてもよさそうですね。」
彼女はノートを鞄から取り出す。
そのノートの表紙には
『願いノート No.1 奈央』と書かれていた。
和:「願いノート…奈央って…」
彼の過去で聞いた
奈央ちゃんが書いていたノート…
桜:「これは…奈央ちゃんの!!
なんで、茉央ちゃんが持っているの⁈」
どうして、茉央ちゃんが…?
五:「奈央が亡くなる直前に
私の家に来ていたのは知っていますよね?」
和:「うん。聞いた。」
五:「奈央がたまたま忘れていったんですよ…」
茉央ちゃんは奈央ちゃんの葬式後に
奈央ちゃんのノートを見つけたらしい。
五:「でも、どうすればいいか分からなくて…」
桜:「ずっと保管していたの?」
五:「はい…
でも、昨日、○○先輩と話して
○○先輩は奈央の言った通り
自分の意志を押し殺して…
このまま亡くなるのは奈央も望んでいない。
だから、このノートを見せるべきかなって…」
茉央ちゃんはノートを桜に渡す。
桜:「見てもいい?」
五:「どうぞ。奈央は桜先輩にも
見てほしかったと思うので。」
茉央の言葉を聞いた後
桜はノートを開いた。
桜:「ふふっ…奈央ちゃんが蘇ったみたい…」
桜はノートを読みながら、微笑んでいた。
和:「どんな内容だろう…」
私はノートを見ようとしなかった。
私は転校生だから
2人と違って、関係性も薄い。
だから、見る権利なんてないと思っていた。
桜:「和も見ないの?」
和:「えっ?見てもいいの?」
桜:「見てもいいよ!
○○が過去を話すということは
和のことも大切な友人と思っているから。」
桜:「だから、ほら。見ようよ。
奈央ちゃんも見てほしいと思っているから。」
和:「う、うん…」
私は桜の近くに足を運び
ノートを自身の目で確認する。
和:「お兄ちゃんとアイスを食べる…」
願いごとは大したことなかった。
子どもの字と考えたこととはっきり分かる。
でも…
和:「優しい子なんだね…」
会ったこともない。
顔も知らない。
それなのに字や文章から
優しい子というのが伝わる。
桜:「でも、○○がこれを見て
考えを改めてくれるのかな…」
和:「うん…」
私たちが見ているページには
願いごとしかなくて…
正直、彼の心を動かせるかは分からない。
五:「最後の数ページに
奈央の想いが書いてあります。」
桜:「最後の数ページ?」
五:「はい。奈央が
毎年4月1日に書いていたものです。」
桜:「開いてみよう…」
桜はページをパラパラと捲り
最後の数ページを開く。
桜:「これだ…やっぱり奈央ちゃんは分かっていたんだ…」
和:「そうだね…」
最後の数ページには奈央ちゃんの想い。
いや、これが本当の願いごと。
このページを見せれば
彼は本心を話してくれる。
自分の意志を押し殺さずに過ごしてくれるはず。
桜:「ありがとう。茉央ちゃん。
これなら○○を救えると思う。」
桜はノートを茉央に手渡す。
五:「もっと、早く渡せばよかったですよね…
私が早く渡せば、○○先輩を救えて
桜先輩と○○先輩が別れることも…」
桜:「ううん…大丈夫だよ…」
桜:「それに昨日よりも前に見せても
○○の心を動かせるかは分からない。
○○が和に本心を話した
今こそチャンスだと思う。」
和:「えっ?私?」
私なんか彼と出会ってから
まだ数週間しか経っていないのに
私に話した時がチャンス?
和:「どういうこと?」
桜:「○○が本音を溢すなんて滅多にない。
和に対して安心感があったから
○○は本心と過去を話した。
だから、桜なんかよりも
和がこのノートを○○に渡すべきだと思う。」
和:「ちょっと待ってよ…
本当に私でいいの?」
桜のほうが相応しいと思うのに…
私が彼と過ごした時間は
まだ数時間にも満たないのに
五:「私も和先輩がいいと思います。」
和:「茉央ちゃん…」
五:「昨日、私が病室に行った時の
○○先輩の表情は少し明るかった。
それは和先輩のおかげです。」
五:「だから、今日の放課後に
このノートを○○先輩に渡してください。」
茉央は和にノートを渡す。
五:「私と桜先輩だと心配をかけたくない
という心理が働く可能性があります。
今、奈央の想いを伝えられるのは
和先輩しかいません。」
和:「そこまで言われたら…」
私が役目を果たすしかない。
和:「でも、成功するのかな…」
私がでしゃばって良いものなのか…
桜:「大丈夫。和なら必ず出来る。」
桜は私の肩に手を乗せる。
和:「うん…頑張る…」
2人の想い、そして
奈央ちゃんの想いを無駄にさせない。
和:「でも、桜と茉央ちゃんも
病院にはついてきてよ?」
私一人で行くのは不安です。
桜:「もちろん!」
五:「○○先輩が本心を
話してくれたら呼んでください!」
和:「うん!本心を引き出せるように頑張るよ!」
決意した私はノートを両手で大切に抱きしめた。
キーンコーンカーン…
和:「ヤバっ!ホームルーム始まる!」
五:「走りましょう!」
桜:「遅刻扱いは勘弁!」
チャイムの音を聞いた私たちは急いで教室に戻った。
無事に遅刻にはならなかった。
そして、ソワソワした状態で一日の授業を終えた。
・放課後
一:「疲れた〜!!」
菅:「遅刻ギリギリに来るからだよ(笑)」
美空は私と桜が教室に入った直後に
ダッシュで教室に入ってきた。
一:「でも、和と桜も遅刻しそうに…」
桜:「桜たちはお話ししていて遅れたの!
美空と違って、寝坊じゃないから!そうだよね!和!」
和:「…」
この後、このノートを…
一:「和〜?」
美空は和の背中を軽く叩く。
和:「えっ?どうしたの?」
一:「今日の和はずっとボーっとしているよね。
悩みごとでもあるのかな?もしかして、恋とか⁈」
和:「違うよ!!恋とかじゃなくて…その…」
桜:「○○のこと?」
和:「うん…」
一:「えっ?○○君がどうかしたの?」
美空は私と桜と茉央ちゃんとの会話を知らない。
桜:「この後、和は○○と大事な話をするの。」
一:「大事な話?」
菅:「今朝、茉央ちゃんと話していたことが関係するの?」
和:「うん。」
菅:「じゃあ、今日、私は○○君の
病室に行かないほうが良いのかな?」
桜:「そうして貰えると有難いかな。」
菅:「了解!和、頑張ってね!
美空、今からカフェに行こう!」
咲月は美空の手を引く。
一:「あ、ちょっと!
よく分からないけど頑張ってね!」
美空は私に向かって
ウインクをしてきた。
桜:「行っちゃったね(笑)」
和:「頑張らなきゃ。」
もう不安もない。
私が○○君に奈央ちゃんの想いを伝える。
五:「桜先輩~!和先輩~!」
茉央ちゃんが鞄を持って、教室の入り口にいた。
そして、私たちは病院に向かった。
五:「頑張ってください!
和先輩のペースで大丈夫ですので焦らずに!」
2人とは8階のエレベーター前で別れることに。
桜:「それと治療費の事について
協会の人に今から電話してくるね!
和は○○に想いを伝えることだけに集中してね!」
和:「ありがとう。」
そして、私は彼の病室の前に…
和:「ふぅ…」
呼吸を整えて、彼の病室の扉をノックした。
筒:「あっ、和ちゃんだ。」
扉が開いて、看護師のあやめさんが顔を出す。
和:「○○君に用があって…」
筒:「入っていいよ。
検査はもうすぐ終わるから。」
あやめさんに手招きされて
私は彼の病室に入った。
○:「はい。検査終わりました。」
彼はあやめさんに血圧計を渡す。
筒:「うーん…ちょっと悪いかな…」
あやめさんはパソコンに数値を入力する。
筒:「あとで史緒里先生と一緒に来るね。」
そう言い残して、あやめさんは出ていった。
○:「はぁ…」
彼はベッドの上に寝転がり、ため息をつく。
○:「このまま、×ねたら楽なのに…」
彼は天井を見上げて
思ってもいないことを口にする。
○:「今日も咲月さんはいないの?」
和:「ううん。美空と一緒にカフェに行った。
今日の学校には来たよ。」
○:「そうなんだ。
和さんはついていかなかったの?
こんな病人に構わなくてもよかったのに。」
和:「私は○○君と話したかったから。」
○:「僕と話したいね…
何も話すことなんてないでしょ…」
彼は私のほうを向いて、辛そうな顔をした。
和:「あるよ…話したいことがたくさん。」
○:「ふーん…」
彼は布団の中に潜ってしまった。
和:「桜は気づいていたよ。
○○君が本心で酷いことを
言っていないって。」
○:「…」
和:「○○君を助けられないのが辛いって…」
私が話しかけても、彼は応答しない。
和:「治そうとは思わないの…?」
○:「昨日も言ったでしょ。」
治すという言葉に彼は反応した。
○:「自分だけが
生き残るのは虫が良すぎるって。
このまま、×んでいくのが
僕には似合っている。」
和:「それが○○君の本心なの?」
○:「本心だよ…」
和:「本当に責任感の塊だね。」
○:「だって…和さんも分かるでしょ⁈
自分だけ幸せな気持ちになって
その間、家族は苦しんでいて…」
彼は涙目で私を見つめてきた。
和:「分かるよ。」
○:「だから、本心を
押し殺さないといけないんだよ…
こうするべきなんだよ…」
彼は涙を流しながら訴えてきた。
○:「本当は治したいよ…もっと生きたいよ…
でも、奈央やお父さん、お母さんは
僕なんかよりも苦しい思いをして…」
和:「だから、自分も
苦しい思いをしなきゃって考えているの?」
○:「うん…僕だけ幸せなのは許されない…」
彼はやっぱり責任感の塊。
大切な人が苦しんだのなら
自分も苦しまないといけないと抱え込む。
和:「家族が○○君の幸せを許してくれたら?」
○:「僕の幸せを許す…?」
和:「今日、○○君に会いに来たのは
これを渡したかったから。」
私は奈央ちゃんのノートを鞄から取り出す。
○:「⁈」
彼はノートを見て、無言で目を見開き、
○:「そ、それは…奈央のノート…?」
3秒後に彼は口を開いた。
○:「でも、どうして…和さんが⁈」
和:「茉央ちゃんに貰ったの。
奈央ちゃんは亡くなる直前に
茉央ちゃんの家にノートを忘れたみたい。」
和:「どうすればいいか分からなくて
ずっと持っていたんだって。」
○:「そ、そうなんだ…」
和:「ノート渡すよ。私も中身を見た。
このノートは奈央ちゃんの
○○君への想いが書いてあるから。」
私は彼にノートを渡した。
○:「…」
彼は無言でノートを読み進めていた…
○:「奈央…」
ページを捲るにつれて
彼は涙をボロボロと流し始める。
その涙は彼の責任感の塊を
徐々に溶かしているようだった。
○:「奈央っ…」
和:「…」
そして、彼は奈央ちゃんの想いを読み始めた。
・2022年 4月1日
冨:「お兄ちゃんへ…」
奈央はNo.1のノートに想いを書き始めた。
今日から私も高校生だね。
お兄ちゃんと同じ高校に通えるのが嬉しい。
お兄ちゃんは来年に大会があるね。
お兄ちゃんなら必ず獲れるよ。
でも、一つだけお願いがある。
お願いといっても
このノートを見せるのは
メダルを獲った後だから
意味はないかもしれないね
お兄ちゃんは自分の意志を押し殺す癖がある。
私が熱で体調を崩している時に大会をサボったり
私のことを気にかけてくれるのはいいけれど…
もっと自分の意志を出してほしい
私の身に何かあったとしても
やりたいことをやってほしい。
自分を押し殺さなくていい。
私はお兄ちゃんがやりたいことを
やっているのが見たい。
お父さんとお母さんもそう思っている。
だからね…お兄ちゃん。
もっと、わがままになってもいいんだよ。
冨:「よしっ…」
○:「奈央…(涙)」
彼はノートを閉じて、大粒の涙を流す。
○:「わがままになってもいいの…?」
和:「奈央ちゃんはそう言っているよ。」
奈央ちゃんは全部気づいていた。
彼がどういう性格なのかも行動も全て読めていた。
○:「治したい…スケートをやりたい…」
○:「メダルを獲って
奈央のお墓の前で報告したい…」
彼は徐々に
○:「うん…スケートをやりたい…
もっと生きたい…」
自分の意志を言葉にしていった。
○:「でも、治るのかな…
メダルを獲れるのかな…」
そして、不安も吐露した。
○:「ブランクもあるから…」
ギュッ…
○:「和さん…」
私は彼の手を両手で握った。
和:「○○君なら必ず出来る。
だから、不安にならなくてもいい。
願いを叶えたいのなら逃げずに立ち向かう。
奈央ちゃんならこう言うと思うよ。」
後悔しないように行動するしかないの。
そうすれば、必ず道は拓く。
○:「そうだね…うんっ…逃げない。
病気もちゃんと治療する。
ありがとう。和さん。もう迷わない。」
彼の表情は明らかに変わっていた。
決心をして、意志を感じるような
絶望のオーラは完全に消えていた。
和:「お礼を言うのは私じゃないよ。
このノートを書いた奈央ちゃん。」
和:「ノートを大切に保管していた茉央ちゃん。
そして、○○君のことを大切に考えてくれた桜。」
私はただこのノートを渡しただけ。
2人がいたから、彼の本心を引き出せた。
○:「そっか…」
和:「桜にちゃんと謝らないとね?」
○:「うん…来てくれるかな…」
彼は携帯電話を取り出す。
そして、メールを送った。
○:「早く謝りたいな…」
和:「すぐに来てくれると思うよ。
桜と茉央ちゃんもこの病院に一緒に来たから。」
○:「えっ?そうなの?」
和:「うん。たぶん、数秒で来るんじゃない?」
コンコン(ノック音)
病室の扉がノックされた。
○:「本当だ(笑)」
○:「本当に酷いことを言ってごめん…」
彼は桜に謝罪した。
桜:「ううん…大丈夫だよ…
○○が治したいって言ってくれてよかった。」
桜は○○に抱きつく。
○:「でも…夜のお店で働かないでね…
桜が辛い目に遭うのだけは嫌だから…」
桜:「うん…働かないよ!」
桜:「それにね、
さっき協会の人に電話で聞いたら
治療費の寄付が2000万円になったって…」
○:「えっ?本当に?
前までは500万円しか…」
桜:「ファンの一人が
1000万円出してくれたんだって。
○○の演技を見て
頑張れているから、寄付したらしいよ。
あとは他にも多くのファンの人が…」
五:「○○先輩は多くの人に
支えられているんですよ!」
○:「そっか…じゃあ、ちゃんと
治さないといけない…ゴホッゴホッ…」
彼は急に咳き込んだ。
桜:「○○!」
○:「大丈夫…少し咳き込んだだけだから…」
和:「大丈夫って…血が…」
彼の手には血が付着していた。
○:「大丈夫。最近はこんな風に
血を吐くこともしばしば…」
彼はティッシュで付着した血を拭いた。
桜:「史緒里先生を呼んだ方がいいよ!」
○:「史緒里先生は後で来るって言っていたから。
あっ、その時に治療したいことを伝えなきゃ…」
コンコン(ノック音)
○:「史緒里先生かな…」
久:「分かった。治すように進めるよ。」
彼は史緒里先生に病気を治療することを伝えた。
○:「ありがとうございます。」
久:「それで治療費は…」
桜:「協会に寄付されたお金が
あるみたいなので大丈夫です!」
久:「えっ?1000万円集まっているの?」
桜:「2000万円集まっています!
最近、1000万円寄付した人がいるみたいで…」
筒:「○○君には熱心なファンがいるんだね。」
○:「本当に有難いです…
いつかその人にお礼をしなければ…」
久:「熱心なファンねぇ…
その人のためにも治さなきゃね。
はい。薬。」
久:「血圧の数値が悪かったから
血圧を安定させるための薬ね。
明日には病気の治療についての
資料をまとめて持ってくるから
それまでは待っていてね。」
史緒里は薬をテーブルに置く。
○:「忙しいのにありがとうございます。」
久:「気にしないで?」
久:「私も治してほしいと思っていたから。
またリンクで滑れるように
一緒に治療頑張ろうね。」
○:「はいっ。」
久:「あやめ。彼が薬を飲んでから
1時間くらいは見張っていて?
何かあったら困るから。」
筒:「分かりました。」
史緒里先生は病室を後にした。
筒:「ということで
しばらくは見張っているからね。」
○:「はいはい…」
彼は薬を飲んだ。
筒:「桜ちゃんと仲直り出来たんだね。」
桜:「はいっ!」
筒:「でも、どうして急に治療をしたいって…」
○:「あー、これです…」
○○は奈央のノートをあやめに見せた。
筒:「なるほどね…」
○:「茉央ちゃんがノートを
保管していなかったら
桜が僕のことを気にかけてくれなかったら
和さんがノートを持ってこなかったら
僕は治療したいと思わなかったです…」
筒:「3人に感謝しなきゃいけないね。」
あやめはノートを○○に手渡す。
桜:「一番は和のおかげだね。」
和:「えっ?私はそんなに…」
奈央ちゃんのおかげだと思うし…
ただ、渡しただけだよ…
桜:「和がいなかったら
○○は治療したいと言わなかったと思う。
そうだよね?○○。」
○:「うん…和さんがいなかったら…
僕は立ち直れなかった…」
○:「だから、ありがとう…」
和:「う、うん…///」
何だろう…これ…
彼にお礼を言われるのが
今までで一番嬉しいかもしれない。
桜:「でも、和が
占いのことを言い出さなかったら
茉央ちゃんと話していなかったかもね。」
五:「占い?」
○:「どういうこと?」
和:「星座占いで○○君の星座が1位で
ラッキーパーソンが妹の親友って…」
五:「そうだったんですね!」
○:「オカルトが酷いよ…」
彼は苦笑いした。
桜:「占いは信用出来るんだよ?○○。」
○:「はいはい…
どうせ、たまたまでしょ…
こんなに綺麗に当たるのはほとんどない。」
○:「外れる時は綺麗に外れるから。
でも、和さんが占いを
参考にするなんてびっくりした。」
和:「お姉ちゃんが星座占いを
参考にしてみなよって言ったから…」
私は占いを信用していなかったし…
本当にお姉ちゃんの思いつきだよ。
筒:「さくがそんな事を言ったんだね。」
和:「そうだ!あやめさんと
お姉ちゃんが親友って…
お姉ちゃんから聞きましたよ!
びっくりしました!」
筒:「私もびっくりしたよ(笑)
運命的だなって思って。
さくらは元気にしている?
最近会えていないんだよね…」
あやめは手を頬に触れる。
和:「元気だと思います!」
筒:「なら、よかった。」
桜:「和のお姉ちゃんに会いたいな〜」
桜はお姉ちゃんのファンだ。
桜:「○○も会おうよ!」
○:「別に僕は…」
和:「そうだよ。○○君は芸能に興味ないから。」
彼はお姉ちゃんのことを知らなかったし
ずっとゲームをしている。
筒:「和ちゃん、それは違うよ?
○○君はとある女優の大ファンだから。」
和:「えっ?」
○:「ちょっと、あやめさん…///」
彼は頬を赤くする。
桜:「とある女優って誰ですか?」
筒:「それは内緒かな。
でも、○○君はその女優が出ている
ドラマをひたすら見ているよ。」
和:「そうなんだ…」
なんか、意外かも…
○:「暇すぎて、ドラマを
観ていたらハマったの…」
桜:「誰だろう…気になる!!!」
和:「誰かな…」
○:「予想しないで。」
私たちは面会時間の
ギリギリまで談笑していた。
彼の病室の空気は温かかった。
______________________
・史緒里サイド
○○君が治療したいと言った日の夜
私は親友の待つ個室の焼肉店に行った。
久:「遅刻だー…」
彼の資料の作成に時間がかかってしまい
約束の時間を10分もオーバーしていた。
売れっ子の彼女を
待たせているのは申し訳ない。
久:「ごめん、遅くなった!」
山:「遅いよ〜、史緒里。
もう注文しているよ?」
彼女は私の親友である美月。
そして、ドラマに何本も出ている
売れっ子の女優だ。
久:「ごめん。資料の作成が終わらなくて。」
私は席に座る。
山:「許す!お医者さんの仕事は忙しいもんね!」
私と美月は小さい頃からの幼馴染。
久:「美月に比べればそんなに…」
美月は毎日のようにお仕事みたい。
それに比べて、私はそんなに…
山:「命を預かっているほうが
ストレスかかると思うから。
史緒里のほうが大変だと思うよ?
ぷはっ…」
彼女はお酒を飲む。
山:「それよりも…
冨里○○君はどんな感じなの…?
治療しないって言っていたんだよね…?
私は彼のファンだから治してほしいんだけど…」
美月は○○君の大ファン。
ファンになって1年らしい。
久:「今日、治したいって言ってきたよ。
だから、治療についての資料をまとめていたの。」
私が彼の担当になったことは
なぜか美月に知られてしまった。
本当はいけないけど
美月なら信頼できるから
彼について話している。
山:「本当に⁈
じゃあ、私の寄付した
治療費も使ってくれるのかな?」
久:「彼の幼馴染が1000万円を
治療費に寄付した人がいるって
言っていたけどあんたでしょ?(笑)」
山:「そ、そんなこと…ないもん…」
女優とは思えないくらい
図星というのが伝わってきた。
久:「図星だね(笑)
匿名で送ったんだね。」
山:「そうだよ…
だって、私は人気女優でしょ?
名前を出すと色々と迷惑が…」
自分で人気と言っちゃうんだ(笑)
まあ、言ってもいいくらい
人気なのは事実だけど。
久:「彼は美月のことを知らないかもね。」
山:「彼は芸能関係に疎いと思うから。」
芸能についての
話をしていることを聞いたことがない。
山:「そんなぁ…
彼に会いに行って自己紹介しないと…」
美月は分かりやすく落ち込んだ。
久:「いつか会わせてあげるよ。
彼も寄付した人にお礼をしたい
って言っていたから。」
山:「約束だからね!」
久:「もちろん。」
山:「あとは何をプレゼントで贈ろうかな…
無難にお菓子とか?」
久:「お菓子は制限かけるから。無理だよ。」
医者として当然のことを果たしますよ。
山:「服とか…うーん…迷うなぁ…」
コンコン(ノック音)
店員:「お待たせしました。」
店員の人が焼肉を持ってきた。
久:「ありがとうございます。」
山:「お肉♪」
美月は肉を焼き網に乗せる。
山:「とりあえず、乾杯!」
久:「うんっ。乾杯!」
私たちは乾杯して、お酒を一口飲んだ。
山:「写真集プレゼントしようかな…」
久:「あの過激なやつを?」
水着とかお風呂とか
際どいやつが多かったけど…
山:「過激じゃないよ!健全です!!!」
久:「はいはい(笑)」
私たちは近況を話しながら、焼肉を楽しんだ。
【第5話に続く】
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