『ラッキーアイテム』 第3話
桜:「3分遅刻!」
桜の家に無事に着いたが、僕は遅刻した。
○:「服を選ぶのに時間がかかって…ごめん…」
桜:「いいよ!許すっ!(笑) 桜の部屋に早く行こ?」
桜は僕の手を引く。
○;「あれ?桜の両親は?」
部屋に行くためにリビングを通ったが誰もいなかった。
桜:「お出かけ中だよ?桜たちに配慮してくれたの!
2人きりで楽しみなさいって!」
○:「へぇ…」
有難いな…
桜:「それと…21時くらいに帰るから
それまでに2人きりじゃないと出来ないことは
済ませておきなさいって…///」
桜は頬を真っ赤にしながら小声で囁いた。
○:「そうなんだ…///」
恥ずかしいな…こんな配慮されるなんて…
桜:「だから、今から…//」
○:「うんっ…」
僕たちはたっぷりとイチャイチャした。
幸せな時間を過ごしていた。
そして、いつの間にか19時になっていた。
○:「今からはお話しようよ。」
ずっとキスやイチャイチャしているのも飽きる。
桜:「そうだねっ。あっ、ケーキ食べる?」
○:「お腹空いているから食べたいけど…
桜の誕生日ケーキでしょ?僕が食べていいの?」
桜:「○○と一緒に食べたいの!」
桜は冷蔵庫からケーキを持ってきた。
桜:「美味しい〜///」
○:「本当にお腹空いた…」
僕たちはパクパクとケーキを食べ進める。
桜:「いっぱい動いたから?///」
○:「そんな感じ…」
運動すると甘いものを食べたくなります。
桜:「桜があーんしてあげる!///」
桜はイチゴを人差し指と親指で掴み、僕の口に入れた。
○:「美味しいっ。桜にもあーんしてあげるね。」
僕も桜と同じように桜の口にイチゴを入れる。
桜:「ふふっ…/// 美味しいっ…///」
桜は満面の笑みを僕に見せてくれた。
この笑顔が僕は大好き。
桜と奈央の笑顔を見るだけで
僕は辛くて厳しい練習をこなせた。
○:「改めて、誕生日おめでとう。
誕生日プレゼントは何がいい?」
誕生日プレゼントはまだ買えていなかった。
桜:「うーん…五輪の金メダル!!!」
桜は来年の2月の大会のメダルを指定してきた。
○:「えっ…?金メダル?」
意外だった。洋服とか現実的なものだと思っていた。
桜:「○○と2人で過ごせる時間で十分だけど…
金メダルを獲ってほしい!」
○:「分かった。メダルね。」
桜:「奈央ちゃんの誕生日プレゼントも
たぶん、金メダルでいいから…効率がいいよ!」
○:「効率いいと言われても…(笑)」
金メダルってそう簡単に
獲れるものでもないし…
桜:「大丈夫!○○なら
必ず獲れると桜は思っているから!」
桜は僕の手をギュッと握る。
○:「ありがとう…頑張るよ。」
僕も桜の手を握り返した。
僕たちは21時まで色んな話をしていた。
夏休みに奈央と3人で旅行に行きたいとか。
また家族で食事をしたいとか。
奈央にメダルをかけてあげたいとか。
僕たちは希望ばかり話していた。
でも、そんな希望は簡単に砕け散った。
桜母:「桜!○○君いる⁈」
21時になり桜の母親が部屋に入ってきた。
桜:「そこにいるよ?」
○:「居ますけど…焦ってどうしたんですか?」
桜の母の額からは汗が噴き出ていた。
桜母:「○○君の家の前に警察が!」
○:「えっ…?」
桜の両親の車で僕は家に戻った…
さっき言われたことは冗談だと思っていたのに…
○:「何これ…」
家の前にはパトカーが数台止まっていて
僕の家の4分の3が黒焦げになっていた。
桜:「どういうこと…」
○:「お父さんとお母さんは…奈央は…?」
3人の姿が見当たらなかった。
警察:「冨里○○君だね?」
警察官が僕に話しかけてきた。
○:「あっ、はい…」
警察:「詳しいことは署の方で話すよ。そちらの方々は…」
桜母:「○○君の親戚です。」
警察:「でしたら、一緒に署の方まで…」
僕は桜の両親の車で警察署に向かった。
警察署に着くと個室に案内された。
○:「あの…どうして家が燃えたり…
何かあったんですか…?」
警察:「君の家に強盗が入ったんだ。」
桜:「強盗⁈」
警察:「君の妹さんから通報があったおかげで
被疑者をすぐに捕まえることができた。」
警察:「でも、通報から到着する間に…」
○:「間に…?」
警察:「いや、その前なのかな…
君の家族は皆んな殺されて
家に火がつけられていたんだ。」
えっ……
○:「冗談は辞めてくださいよ!!」
そんなわけない…殺されるって…
僕は警察官の言うことを信じられなかった。
○:「殺されたって…そんなわけ…
僕の家族は今どこに!!
病院で手当てしているだけですよね!!」
警察:「…」
警官は俯く。
○:「本当に…?」
警察:「ああ…残念ながら…」
警察が到着した時に
既に父、母、奈央は
大量の血を流して倒れており
家に火がつけられていた。
到着した際に
金品が入ったとみられる袋を所持して
立ち去ろうとしていた男を警官は取り押さえた。
その男はナイフを所持していたため
現行犯で逮捕された。
警察:「防犯カメラの映像から
その男が犯人と特定できた。
今、取り調べを進めているが
犯人は黙秘している。」
○:「動機は…?僕はこんな男知りませんよ!」
犯人の写真を見せられたが見覚えがなかった。
警察:「今、この男と君の
ご両親の関係を調べている。
だから、待っていてほしい。」
数日はかかると言われた。
○:「…」
何も考えられなかった。
信じられなかった。
桜:「○○…」
桜は涙を流しながら僕を抱きしめてくれた。
桜父:「あの…遺体は…」
僕たちは安置室に案内された。
そこには白い布を掛けられた3人の遺体があった。
警察:「君のご両親の遺体は
火の影響で全身が焦げている…
だから、見ないほうがいいと思うよ…」
○:「奈央は…」
警察:「妹さんの遺体は手前の…」
僕は白い布を剥がした。
○:「奈央…」
冨:「…」
奈央の顔には少しだけ火傷の痕があった。
○:「奈央…奈央…!!」
奈央の体を揺すったが何も反応がなかった。
警察:「妹さんの刺し傷が一番多かった…
50箇所くらい…滅多刺しだよ…」
桜:「50箇所もナイフで…」
○:「なんで…奈央だけ…」
一番多いって…何もしていないだろ……
警察:「これは推測でしかないが
妹さんは逃げようとしたところを刺されたと思う。」
○:「逃げようとした…?」
〜〜〜〜〜〜〜~〜〜〜〜〜〜〜
・奈央サイド
これは奈央が殺される数分前
冨:「〜♪」
私は音楽を聴いていた。
お兄ちゃんに言われたから
ちゃんとヘッドホンをつけている。
冨:「あっ、この願いごといいかも…♪」
私は願いノートを引き出しから取り出す。
冨:「そろそろ、7冊目を買わないといけないかな…」
私は小学生の時から願いノートをつけている。
本当にくだらない願いごともある。
冨:「お兄ちゃんとアイスを買って
2人で当たりを引く…と。」
ただ書くのが楽しかった。
最初の3冊は割と本気な願いごと。
お兄ちゃんがメダルを獲ったら
このノートを見せると決めていた。
特に1冊目は見せたい。
お兄ちゃんへの想いが書いてあるから。
1冊目の最後の数ページには
お兄ちゃんへの想いを綴っていた。
その数ページに綴る日は毎年4月1日。
冨:「あれ???」
1冊目が見つからなかった。
冨:「どこに置いたかな?」
いつもバッグに入れて
持ち歩いていたはず…
冨:「あっ…茉央の家かな…?」
昨日泊まった時に茉央にノートを見せたし…
その時に置き忘れたのかな…
冨:「あとでメールして
明日、学校に持ってきてもらおう!」
冨:「お腹空いてきたから
お菓子食べようかな…」
お腹がぐ〜っと鳴った
冨:「お兄ちゃんから貰ったお菓子は
まだ残っているよね…」
私はヘッドホンを外して
お菓子が置いてある1階に向かった。
_______________________
冨:「お父さん⁈ お母さん⁈」
私が1階のリビングに行くと
父と母が血を流して倒れていた。
リビングは物が散乱していて
強盗に襲われたようだった。
リビングの窓ガラスが割れており
そこから侵入されたのではないかと推測できた。
冨:「警察に電話だよね…」
父と母の様子が心配だったが
まずはこの状況を伝えないといけない。
冷静にならないと…
冨:「もしもし…強盗が入って…
はいっ…父と母がお腹から血を流して
倒れて…はいっ…」
これでよしっ…
冨:「救急車も呼ばないといけないかな…」
と電話をしようとしたその時…
?:「っ⁈」
リビングに見知らぬ男の人が入ってきた。
冨:「だれ…えっ…⁈」
私は見知らぬ人が持っていた凶器を見て
すぐにその場を離れようと走った。
?:「ちっ…」
冨:「はぁ…はぁ…」
ヤバい…逃げないと殺される…
奈央は必死に走った
そして、玄関に辿り着き
扉を開けて、外に出ようとしたが…
冨:「あっ…⁈」
階段の段差につまずいて、転んでしまい…
冨:「うっ…」
?:「はぁ…はぁ…逃がさない…」
奈央に追いついた男は
奈央の腹部にナイフを刺した。
冨:「っ…」
?:「クソっ…金品を探す時間が
お前のせいでなくなるじゃねぇか…」
男は何度もナイフを突き刺した。
冨:「…」
バカじゃん…私…
段差に気をつけろって
周りをちゃんと見ろって…
お兄ちゃんに何度も言われたのに…
こんな大事な時に…
あと少しで逃げられたはずなのに…
あっ…視界がボーっとしてきた…
私…×ぬのかな…
お兄ちゃん………
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
○:「奈央っ…」
奈央に体に被せられた布を捲ると
傷で身体はボロボロになっており
○:「痛かったよね…辛かったよね…」
先日、脱衣場で鉢合わせた時に
たまたま見てしまった綺麗な裸体ではなかった。
ボロボロで痛々しくて…
綺麗というかけらもなかった。
○:「僕が居れば…」
奈央を守れたはず…
なのに…僕は桜と体を重ねて幸せな気分になっていた…
桜:「○○…」
○:「奈央や
お父さん,お母さんが苦しんでいる間に…
なんで、僕は…!!!」
最低だ…
桜母:「それは違うわよ…」
桜父:「○○君が生きていることを
両親は安心するから…」
○:「うぅ…何でだよ…
奈央が殺されるくらいなら…
僕が殺されたほうがよかった…」
桜:「違うよ…!!」
桜は僕を抱きしめてくれた…
○:「最低な人間だろ…
人が苦しんでいるのに自分は…」
○:「彼女と幸せな時間を過ごしていた…」
桜:「でも、桜が誘ったおかげで
○○は無事でいられたから…」
僕は桜の一言にムカついた…
○:「何だよそれ。
桜が奈央と3人で過ごしたいと言えば
奈央も×なずに済んだだろ!!!!」
○:「お前が2人きりで
過ごしたいと言わなきゃ…!!
僕の家族全員でお祝いしようと言えば
誰も×なずに済んだ!!!」
僕は桜の胸ぐらを掴み、愚痴を吐いた。
桜:「○○…」
桜は怯えており…
数時間前の笑顔はなくなっていた。
桜父:「○○君…悪いのは犯人だからな…
何かに当たりたい気持ちは分かるが…」
○:「そんなの分かっていますよ…
桜が悪くないって…でも、自分を許せない…」
苦しんでいるのを知らずに
僕は楽しんでいたから…
警察:「ちょっと…失礼…」
警察官は電話に出るために部屋を出ていった。
○:「奈央にメダルをかけてあげたいって
その目標を目指して頑張っていたのに…
願いノートを叶えるって言ったじゃん…」
ノートも火で燃えてしまっただろう…
何もかもなくなった…
○:「何でだよ…犯人は何で…!!
うちの家を狙ったんだよ!!!」
警察:「○○君、たった今連絡があって…
被疑者が亡くなったそうだ…」
○:「は…???」
突然、倒れて、そのまま亡くなったらしい。
だから、動機もわからなかった。
分かったのは犯人に
多額の借金があったことだけ
警察から伝えられた。
そして、両親と犯人の接点は何もなかった。
_______________________
数日後
菅:「○○君…」
一:「大変だったね…」
父、母、奈央の葬儀が執り行われて
クラスメイトもたくさん来てくれた。
菅:「学校…すぐに来なくてもいいからね…
真夏先生も理解しているから…」
○:「うん…ありがとう…」
この時の自分は頭がボーっとしていた。
まだ夢なんじゃないかって…
奈央は生きているんじゃないかって…
でも、手を洗って
冷たい水の温度を感じるたびに
これは現実なんだと思わされた。
五:「○○先輩…」
○:「茉央ちゃん…」
奈央の親友の茉央ちゃんが僕に話しかけにきた。
五:「奈央が亡くなったと聞いて…私…
お泊まりを2日間にすればよかったって…」
奈央は亡くなる前日に茉央ちゃんの家にいた。
五:「2日間にしていれば…」
茉央ちゃんも後悔していた。
○:「茉央ちゃんの責任でもないから…」
悪いのは犯人だから…
そして、僕が家に居れば…
奈央を助けられた…
五:「○○先輩…
奈央の分まで生きてくださいね…」
○:「うん…もちろん…」
僕はその日から必死に生きようとした。
一人になった僕は桜の家に
お世話になることになった。
少しずつ学校も行ったり
少しずつスケートの練習をしたり
徐々に復帰しようとしてきた
最初はファンの人や記者が
練習場に集まったり、騒ぎになったが
コーチや協会の人が騒ぎをおさめてくれた。
少しずつ練習に集中出来ていた…
しかし、6月上旬…
○:「はぁ…はぁ…」
コーチ:「大丈夫?そんなに
息上がったことあった?」
○:「初めてです…
それにちょっと…目眩もして…」
コーチ:「病院で検査してきたら?
大会もあるから念の為にね。」
僕は念の為、検査をしに行った。
そこで史緒里先生に言われた。
久:「腫瘍が見つかったよ…
このまま治さなければ余命5年。」
と…
○:「余命5年…?」
いきなりの余命宣告に戸惑いを隠せなかった。
久:「治療しなかったらの話だよ。
治療をすれば全然治る病気。
でも、治療費が高いのよね…」
○:「いくらですか…?」
久:「薬と手術費用を見積もると
約1000万円になるよ。」
○:「そんな大金…」
すぐに用意しろと言われても…
○:「治療をしなくても
5年は持ちますよね…?」
久:「うーん…5年が限界かな…」
○:「じゃあ、来年の大会には…」
5年持つのであればいける。
久:「症状を抑える薬を飲めば
参加はできると思うけど…
手術した方がいいと思うよ…」
○:「でも、手術をしたら
リハビリもありますよね?」
久:「そうだね。2ヶ月くらいは必要かな。」
それだと選考会に間に合わないし
コンディションを調整できない。
○:「じゃあ、手術はしないでほしいです。
何とか持たせたいので…」
僕はその日から薬を飲むことになった。
桜:「検査はどうだったの?」
○:「貧血だって。全然問題ないよ。」
桜の両親には余命宣告された事を伝えたが
桜には嘘をついた。
彼女に心配をかけたくなかった。
薬を飲み始めて、数日は元通りの状態になった。
4回転も普通に跳べるようになったが…
7月上旬
○:「ごめん…今日は休む…」
桜:「お大事に…体調第一だからね…
体調が悪いと選考会には出られないから…」
僕は学校を休むようになった。
体力が限界を迎えていた。
それでもメダルだけは獲りたかった。
だから、スケートの練習を優先にした。
夜は練習に行って
朝から晩まで睡眠をとる。
不規則な生活が数日ほど続いた。
しかし、そんな生活も長くは続かなかった。
7月中旬に僕が学校に行ったとき…
○:「はぁ…はぁ…」
秋:「○○君、大丈夫?」
○:「大丈夫ですっ…」
授業中に突然汗がダラダラと噴き出て
胸も苦しかった…
桜:「保健室行ったほうがいいよ…
桜が連れていくから!」
○:「大丈夫だから…はぁ…はぁ…」
口では大丈夫と言っていたが
○:「あっ…」
僕は倒れてしまった。
菅:「○○君!!」
桜:「○○!」
秋:「担架持ってこないと…」
一:「私も手伝います!」
○:「はぁ…はぁ…」
そのまま、僕は病院に搬送された。
そして、史緒里先生にこう言われた。
病気の進行が早まっているから
激しい運動をやらせることは出来ないと。
久:「繰り返し言うけど
手術をちゃんとすれば…病気も治って
スケートは出来るようになる。」
○:「でも、来年には間に合わないですよね…」
手術、リハビリ、調整
どう考えても間に合わなかった。
久:「うん。5年後の大会に
照準を合わせるしか…」
○:「そんなの…無理ですよ…」
5年後にはまた新しい選手が出てくるから
メダルを獲れる保証もない。
病気が完治する保証もない。
何もかも分からないのに
1000万円という高額な治療費を
かけられる自信がなかった。
○:「分かりました…手術はしません。
スケートもしません。」
久:「本当にそれでいいの?
○○君の意志に私は従わなきゃいけないけど…
私は治したほうがいいと思うよ?
治さないって…このまま×ぬよ?」
○:「はい。それでも構わないです。
もう…何もかもどうでもよくなりましたから…」
このまま×ねるのであればそれでいい。
それに高額な治療費を払うのは勿体ない。
家族が苦しんでいる時に
僕は幸せな時間を過ごしていた。
これは神様からの天罰だ。
だから、甘んじて受け入れなければならない。
これでいいんだ。
そして、僕は入院することになった。
何も考えなくていいと思ったら
少しだけ気が楽になった。
家族の痛みを感じるために
ナイフで×のうとしたけど
史緒里先生や看護師のあやめさんに止められた。
○:「はぁ…」
病気が少しでも早く進行して
さっさと×にたい。
僕の願いはただそれだけだった。
メダルなんかどうでもよかった。
さっさと×んで、天国で奈央たちに謝りたい。
僕だけ幸せな時間を
過ごしていてごめんなさいって…
コンコン(ノック音)
○:「どうぞ…」
桜:「○○…」
桜が病室に入ってきた。
○:「どうしたの…?そんな暗い顔して…」
桜は僕の名前を呼ぶ時
いつも笑顔でいたが、この時はなかった。
桜:「なんで、桜に黙っていたの…?」
○:「黙っていた…?話したでしょ?
夏休み明けには退院出来そうって。」
桜には余命のことを話していなかった。
桜:「嘘つき!5年で×ぬって
お母さんとお父さんから聞いた!!」
○:「…」
桜:「治療費が高いから手術を受けないことも
手術をしたとしても来年の大会には
間に合わないことも全部聞いた。」
桜:「治療しようよ!○○なら5年後でも必ず獲れるから!」
○:「治療費は誰が出すの?」
桜:「協会に治療費を寄付する人が
たくさんいて…500万円は集まっているから...」
僕は数日前に病気のことを世間に公表した。
普段なら寄付は有難いけど今は有難くなかった。
○:「残りの半分は?」
桜:「桜が借金して、出す。」
○:「何を言っているの…?
借金って…500万円を
どうやって返済するの…?」
簡単に集まるお金じゃないし…
桜:「コツコツと返済していく。
夜のお店とかで働いたりして…
そうすれば、必ず返済できるから!」
○:「夜のお店って…」
僕のために桜が辛い思いをするなんて
桜にそんな事はさせたくなかった。
○:「桜が辛い思いをするんだよ…?
夜のお店って…やっぱり…」
桜:「ううん…桜は大丈夫だから!
○○のためだから…!」
○:「僕のため…」
桜:「そうだよ…!○○のため!」
○:「…」
桜:「○○がメダルを獲れる手伝いをしたいの!
その為なら、桜はHなことだって…」
○:「桜は僕のために動いてくれるの?」
桜:「もちろん!
桜は○○の彼女で幼馴染だから!」
○:「じゃあ、桜に頼みたいことがある…」
こう言うしかなかった。
○:「2度と僕に関わるな!!!」
桜:「どうして…?なんで…?
桜は○○を助けたくて…」
○:「僕を助けたい?僕は×にたいんだよ!!!
これは神様が与えてくれた天罰だ。
桜が僕を助けたいのなら…
今すぐに僕を×せよ…」
桜に辛い思いをさせたくなかったし
僕は×にたかった…
僕は×ぬべき人間だから…
家族が苦しんでいる時に
幸せな時間を過ごしていたから…
桜:「そんな事出来るわけないじゃん…
○○、生きてよ…お願いだから…ねぇ…!」
○:「うるさい!!しつこいんだよ!!」
○:「ずっと思っていた!
お前はいつもベタベタくっついてきて
正直、しつこいんだよ!!」
本当は思っていないけど
こう言うしかなかった。
○:「僕が×にたいって言っているんだ!
僕の邪魔をするな!僕のためと言うのなら
2度とここに来るな!」
桜:「○○…桜はね…○○を…」
○:「お前の顔はもう見たくない…
失せろ…2度とここに来るな…!!!」
桜:「うぅ……」
桜は大粒の涙を流しながら病室を出ていった。
桜の両親にも来ないでほしいことを伝えた。
僕のために時間を
割いてほしくなかったから…
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
和:「…」
○:「これが僕と桜が別れた理由…
僕だけが苦しめばいいから…
桜には自分の人生を大切にしてほしかった…」
彼は過去を話した後、泣いていた。
和:「○○君は病気を治したいんでしょ…?」
苦しめばいいって…
今が辛いと言っていると同じ…
○:「本当は治したい…」
○:「でも、虫が良すぎる…
家族が苦しんでいた間に
自分だけ幸せな時間を過ごして…
生きているだけでも申し訳ないのに…
僕に高額な治療費を出すなんて…」
彼と言うことも少しは理解できる。
私も彼と同じ状況になったら
同じ考えになってしまうだろう
○:「このまま×にたいけど
余命5年だからまだ×までは長い…
早く×にたいのに×ねない…」
○:「僕は来年の大会で
メダルを獲りたかったのに…
頂点に立ちたかったのに…」
○:「奈央にメダルを見せたかったのに…」
○:「僕の願いは何も叶わない…」
彼は泣きながら、弱音を吐いた。
私は彼の病室を後にした。
一:「あっ…和。」
桜:「…」
桜と美空が廊下の椅子に座っており
桜の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
和:「桜、○○君から話を聞いた…
桜が○○君の治療費を稼ぐために
夜のお店で働きたいって言っていたことも…
過去も聞いたよ。」
和:「○○君は桜に
辛い思いをさせたくないから
強く言ったって…
自分の人生を大切にしてほしいって。」
桜:「分かっているよ…そんな事…
○○が本心で言っていないのは分かっている。
だからこそ辛いの…○○を助けられないから…」
桜は消え入りそうな声で声を振り絞る。
桜:「○○は何も悪くないの…
悪いのは○○の家を狙った犯人…
なのに○○は全て自分が悪いと思っている…」
一:「○○君は責任感の塊だよね…」
桜:「うん…治療費も寄付があるし
協会もある程度負担してくれるから
ちゃんと治せばいいのに…」
桜:「桜が言っても
○○はもう聞いてくれない…」
彼は幼馴染の桜と完全に関係を
断とうとしている。
桜:「○○の心を動かせる何かがあれば…
っていっても…奈央ちゃんはもういないし…」
彼の心を動かせる何かか…
桜:「どうしよう…」
桜は頭を抱えていた。
和:「とりあえず、今日は帰ろう。」
桜:「そうだね…
面会時間も今日はそろそろ終わるから…」
一:「咲月は明日学校に来られるのかな〜。」
和:「咲月にも今日のこと話そうかな…」
私たちは病院を後にして、帰路についた。
_______________________
・茉央サイド
五:「はぁ…」
私は家のベッドに寝転んでいた。
スマホや本などを触らずに
ただ、横になりながら
天井を見つめていた。
五:「○○先輩…」
私は目を瞑り、先ほどの出来事を思い出した。
・○○の病室
○:「久しぶりだね。茉央ちゃん。
2学期が始まって数日経ったけど
夏休みボケは解消された?」
私は1ヶ月ぶりに○○先輩の病室に行った。
五:「はい…」
○:「よかった…茉央ちゃんが
無事に生活できるのを
奈央も祈っていると思うからね。」
五:「私のことはどうでもいいですよ…
○○先輩のほうこそ…治療しないと…
このままだと、○○先輩は…」
×んでしまう。
奈央もこれは望んでいない。
奈央は○○先輩のことを
ずっと気にしていた。
○:「僕はこれでいいんだよ…
神様の天罰だから…」
○:「家族が苦しんでいるのに
幸せな時間を過ごしていた人間に対する罰。
だから、これでいいんだよ…
変に逆らうと神様は怒ってしまうからね。」
五:「…」
○:「はぁ…僕が生きるのではなく
奈央が生きるべきだったね…」
○○先輩は作り笑いを浮かべた。
私は○○先輩に何も言えなかった。
生きてほしいとか
そんなのは間違っているとか
部外者の私が口出していいのか
分からなかったから。
○○先輩は桜先輩も拒絶したと噂で聞いた。
五:「奈央の言う通りだった…」
お兄ちゃんは責任感の塊
奈央が亡くなる数時間前に
話してくれたこと…
______________________
・2021年 4月17日 午前9時
五:「これが願いノート?」
奈央とお泊まり会をしていた。
冨:「そうだよ!これが1冊目。
いつもバックに入れて持ち歩いているの!」
五:「意外と綺麗だね…
小学生の頃から書いているんでしょ?」
そのノートはボロボロではなかった。
冨:「大切にしているからね。特に1冊目は。
いつかお兄ちゃんに見せてあげるの。
あっ、茉央には特別に見せてあげるね!」
奈央はノートのページを捲る。
五:「私が見てもいいの?」
冨:「いいよ!茉央は親友だから!」
冨:「こんな感じ。
願いごとは小学生の頃に書いたから
ちょっとだけ字が汚いの(笑)」
確かに字のバランスが少し変だった。
五:「これが大切なの?
願いごとが本当に
些細なことばかりだけど…」
冨:「願いごとも大切だけど
本当に大切なのは最後の数ページ…」
奈央はページを捲って
最後の数ページを見せてくれた。
五:「これは…?願いごとじゃない…?」
冨:「お兄ちゃんへの想いが書いてあるの。
毎年4月1日に書いている。
ほら、これは今年に書いたやつ。」
五:「なるほどね…」
冨:「お兄ちゃんはね…」
冨:「優しくて、私のことを考えてくれる
思いやりのある人なの…
でも…そのせいでお兄ちゃんは自分の意志を
押し殺しているんじゃないかって…」
五:「自分の意志を押し殺す?
スケートもやりたくて、やっているわけじゃないってこと?」
冨:「スケートは楽しんでいると思うけど…
私に金メダルをかけてあげたいという目標のために
難易度の高いジャンプをやろうとして…
いつか怪我するんじゃないかって…
私は心配で…」
冨:「それに私が熱を出した時は
奈央が熱を出している時に
スケートなんかやってられないって。」
冨:「大会をサボった時もあるから…(笑)」
五:「えっ?○○先輩ってシスコンなの?(笑)」
冨:「さすがに違うと思うけど(笑)
本当に責任感の塊っていうか…
真面目っていうか…
だから、自分のやりたいことを
やってほしいってこのノートで伝えたいの!」
五:「○○先輩は奈央の言う通り
自分の意志を押し殺している。」
神様からの罰なんかないのに…
○○先輩は優しいし、真面目。
そんな人に神様が罰を下すわけない。
五:「ねぇ…奈央…?○○先輩に
このノートを見せるべきだよね…?」
私の手には
『願いノート No.1 奈央』
と表紙に書かれたノート
これは奈央が亡くなる直前に
私の部屋に泊まった時に置き忘れたもの
翌日の学校で渡すつもりだったもの。
メダルを獲った後に見せると
奈央が言っていたから…
どうすればいいか分からないまま
数ヶ月が過ぎてしまった。
五:「今しかないよね…」
奈央ならお兄ちゃんを助けるためなら
いつでも使っていいと言ってくれると思う。
このノートは奈央の意志そのものだから
これを見せれば、○○先輩は
きっと考えを改めるはず。
本心を言ってくれるはず。
五:「でも…どうやって渡せばいいんだろう…」
五:「明日、桜先輩に相談しようかな…」
【第4話に続く】
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