『ラッキーアイテム』 第9話
2021年 11月
私と○○が付き合って、数日が経った。
和:「来月にはリンクで滑るの?」
○:「うん。軽くだけどね。」
和:「見に行ってもいい?」
○:「いいよ。僕も和に来てほしいと思っていたから。」
状況が少しだけ変わった。
桜や咲月たちと病室には来るけど
みんながいるのは僅か数分。
その後は私と彼の2人きり。
みんなが私に気を遣ってくれていた。
和:「ねぇねぇ?手を繋いでもいい?」
○:「うん。いいよ。」
だから、こうやってイチャイチャできる。
イチャイチャすると言っても
和:「あれ…?今日、手が冷たくない?」
○:「そうかな?あっ、さっき手を洗ってきたからかも。」
手を繋いだり、ハグをするだけ。
和:「なるほど〜。じゃあ、私が温めてあげる。」
キスはまだしたことない。
突然、その先もしたことない。
したいと思うけど、する機会がない。
病室でイチャイチャするのは控えないといけないし
まだ、付き合って数日しか経っていないから
キスをするのは早いと思っている。
○:「温かい…」
和:「よかった…///」
キスをしなくても十分幸せだ。
彼と居られるだけで本当に幸せ。
○:「そうだ。明日、学校行くよ。」
和:「えっ⁈ 本当に⁈」
彼が前に学校に来たのは数週間前。
○:「うん。12月で辞めることも決めているし
なるべく、和と学校で過ごしたいなと思って。」
和:「○○…嬉しい…///」
○:「あっ、でも、昼休みまでね。」
和:「十分だよ!昼休みって事はご飯も一緒でしょ?」
学校で恋人とご飯を食べられるって青春だ…///
和:「ご飯はどうするの?」
○:「桜のお母さんが作ってくれるって
桜が言っていたよ。だから、大丈夫。」
和:「そっか!」
本当は私が作ってあげたかったけど
まあ、今日の明日じゃしょうがないかな。
和:「今度、来る時は私が手作り弁当を作るよ!」
○:「えっ?作れるの?」
和:「うん!簡単な料理くらいは!」
お母さんがいない時に自分で作っていた経験があるんです!
○:「じゃあ、お願いしちゃおうかな。
和の手料理食べたい。」
和:「オッケー!今度、作ってみるね!
何かリクエストとかある?」
○:「ベタだけど、ハンバーグとか?」
和:「了解!ハンバーグね!」
和:「あっ、でも、ハンバーグだと弁当には不向きかな?」
冷めちゃうし、美味しさがなくなりそう。
和:「ねぇ、私の家に今度来る?
その時にハンバーグを作ってあげるよ!」
○:「ありがとう。
和のお姉さんにも挨拶しないとね。
あとは和のお母さんにも。」
和:「うん!今度伝えておくね!
○○がお家に来たいと言っているよって。
お姉ちゃんも○○に会いたがっていたから。」
お姉ちゃんが家にいる日を聞かないと…
せっかく、○○が来るならね。
和:「あっ、そろそろ帰らないと。」
○:「うん。」
私たちは手を離す。
和:「じゃあ、また明日ね!」
○:「うん。また明日。学校で会おうね。」
和:「うん!」
そして、私は彼に数秒間ハグした後、病室を後にした。
これが最近の日常だった。
和:「〜♪」
家に帰っても、彼とのやりとりは続く。
メール上で他愛もないことを話していた。
今は将来、どんな家に住みたいかを話している。
私は海が見えるところに住みたいと言った。
彼は街が見渡せる場所に住みたいと言った。
どんな家があるかをネットで検索して
その画像を彼に送る。
彼はぶつぶつ意見を言ってくるけど
同棲を検討しているようで楽しかった。
彼も同じ気持ちだと思う。
遠:「和〜。お風呂空いたよ〜。」
先にお風呂に入っていた姉が扉越しに話しかけてくる。
和:「はーい。」
彼に今からお風呂入ってくるねとメールを送った。
どうでもいいことでも私たちは報告しあっていた。
それが楽しかった。
和:「ふふっ…///」
ニヤニヤしながら、今日も湯船に浸かるんだ。
翌日
○:「はぁ…学校って疲れるね。」
和:「偉いでしょ?私が毎日来ているのは。」
あっという間に時間が過ぎて、今は昼休み。
私と彼は中庭の片隅にあるベンチに座っていた。
○:「偉いよ。僕なんかゲームばかり。」
和:「ズルいなぁ。」
和:「でも、トレーニングもやっているんでしょ?」
○:「まあね。最近は走ったりしている。」
彼は弁当箱を開ける。
和:「止められないの?史緒里先生に。」
激しい運動は出来ないと言っていたような。
○:「あやめさんに監視させているから問題ない。」
和:「監視させているって(笑)」
○:「事実だから。
まあ、あやめさんも気分転換になるから
感謝していると言っていたし。」
彼はご飯を一口食べる。
和:「あやめさんと2人きりかぁ…」
ズルいなぁ…
○:「なに。また、嫉妬?」
和:「だって、あやめさん可愛いし。
看護師と患者って…距離が縮まりやすいでしょ…」
おまけにあやめさんは年齢若いし…
そういう関係になってしまう可能性もある。
○:「全くないよ。」
和:「本当に?」
怪しいんだけど…
○:「本当。っていうか、どうやったら距離縮まるの。」
○:「もしかして、そういうビデオとか観ているの?」
和:「なっ…///」
○:「あー。そういうのを観ているから
不安になっちゃうんだ。」
彼は悪戯っ子のように笑みを浮かべた。
和:「み、観てないよ!!!/////」
○:「一度も?」
和:「そ、それは…」
和:「ち、ちょっとはあるよ…///
でも、毎日観ているとかはないから!!」
そういうのに興味ある歳だし…
観たことあるに決まっているじゃん。
○:「そっか。」
和:「そうよ…本当に意地悪…」
頬を膨らませて、彼を睨んだ。
○:「安心して。何もないから。」
彼は私の腰に手を回して、真っ直ぐな視線で私の目を覗く。
○:「僕は和だけだよ?」
和:「う、うん…///」
彼の目に私の顔が映っているのが見える。
私の頬が乙女みたいに真っ赤に染まった。
○:「まあ、本当に大丈夫だから。」
彼は私の顔から離れると弁当を食べ進める。
○:「和は何もないよね?」
和:「えっ?」
○:「和って可愛いからモテるでしょ?
だから、僕以外の人に…」
彼は寂しそうな表情をする。
和:「ないよ!私は○○一筋!」
やっぱり、私たちは似た者同士。
和:「○○依存症だよ。私は。」
○○がいなくなったら、
私は抜け殻になってしまうだろう。
○○がいない世界は楽しくない。
○:「ふふっ。そっか。よかった。」
彼がいる世界で私は生きたい。
和:「私のお弁当食べる?」
○:「んー…トマト食べたい。」
彼は私の弁当の左隅にあるミニトマトを指す。
和:「○○、口開けて。」
○:「こ、こう?」
彼は少しだけ口を開けてくれた。
和:「うん。あーんしてあげる…///」
和:「私のお弁当食べる?」
○:「んー…トマト食べたい。」
彼は私の弁当の左隅にあるミニトマトを指す。
和:「○○、口開けて。」
○:「こ、こう?」
彼は少しだけ口を開けてくれた。
和:「うん。あーんしてあげる…///」
指でミニトマトをつまみ、彼の口に運ぶ。
○:「パクッ…」
和:「ちょっと…///」
一瞬だけ私の指は彼に咥えられた。
○:「美味しい。」
でも、彼は全く気にしていないようで
私の体温だけが一気に上昇する。
和:「…///」
はぁ…体が熱い…///
○:「和もトマト食べる?」
彼の弁当箱にもミニトマトが入っていた。
和:「食べる…///」
あーん、してくれるのかな?と思っていたのだが
○:「はい。」
和:「えっ?」
彼は私の手のひらに乗せただけ。
和:「むっ…」
あーんしてくれると思ったのに…
期待通りにいかずに私は拗ねてしまう。
○:「不満?」
彼はニヤッとしながら、私の顔を覗く。
和:「ずるいよ…分かっているんでしょ…」
彼の表情から簡単に読み取れた。
○:「えっ?何が?」
ムカつくぅ!!!
和:「あーんしてよ…///」
上目遣いで私はお願いした。
○:「ふふっ。言ってくれなきゃ分かんなかったよ。」
明らかに分かっているのに彼は嘘をつく。
○:「あーん。」
でも、悪い気はしない。
和:「パクッ…ふふっ…///」
やり返すように彼の指を私は咥えた。
○:「指までは食べないでよ。」
和:「お返しだよ…///」
彼の指を咥えるのをやめて
私はトマトを味わう。
トマトの味なんか分からない。
酸味も甘味も何も感じない。
ただ、幸せの味だった。
和:「美味しいっ…///」
○:「よかった。もう1個食べる?」
彼はミニトマトを既につまんでいた。
和:「食べるっ!///」
・桜サイド
桜:「…」
私は中庭の光景を教室から眺めていた。
菅:「幸せそうだね。和と○○君。」
咲月が私の横に来る。
桜:「うん。楽しそう。」
菅:「桜は平気なの?○○君に彼女ができて。」
菅:「和が○○君の彼女になって。」
桜:「和以外の人が○○の彼女だったら
正直、ムカついていると思う。」
私が彼女のほうが絶対、○○は幸せなのに。
そうやって、嫉妬してしまうだろう。
桜:「でも、和ならムカつかない。
っていうか、和なら負けを認めないといけない。」
桜:「和のほうが○○の隣に相応しい。
だからね、桜は平気だよ。
○○が笑って過ごしていてくれればいいの。」
これは強がりなんかじゃない。私の本心。
菅:「強いね。桜は。」
桜:「ううん。強くない。」
本当は1ヶ月前まで落ち込んでいたんだ。
もう一度、○○と付き合いたいって。
和よりも桜を優先にしてほしいって。
でも、○○の表情を見て、完全に吹っ切れた。
あぁ…私じゃ勝てないなって…
桜:「和が支えてくれれば、
○○は必ずメダルを獲れるよ。」
菅:「そうだね。」
私と咲月は黙って、中庭にいる二人の様子を眺めた。
○○は途中で帰り、私はいつも通り、放課後に病室へ行く。
○:「さっきぶりだね。」
和:「うん(笑)」
何度も会いたい。何度会っても飽きない。
それくらい、私は彼に依存している。
和:「何を観ていたの?」
彼はタブレットで何かを観ていた。
○:「美月さんが出ているドラマ。」
和:「ふーん…」
○:「まあ、和がいる間は観ないから。」
彼はタブレット端末をカバンにしまう。
○:「観ていると、和が嫉妬しちゃうし。」
和:「ありがと…///」
○:「こっち来なよ。はいっ。ハグしてあげる。」
和:「うんっ…///」
私は彼の胸に飛び込む。
学校ではこんな風にイチャイチャ出来なかった。
だからなのか、余計に彼にくっつきたくなる。
○:「和、良い匂いする…」
和:「髪の匂いは嗅がないで!///」
○:「だって、良い匂いがするから。」
和:「だからって、嗅がないで…///
心臓の鼓動が速くなっちゃうの!///」
こう言っているけど、実は私も彼の匂いを嗅いでいる。
私も彼の匂いが大好きだから。
でも、これは彼には言っていない。
○:「っていうか、シャンプー変えた?」
和:「変えた…流石だね。」
○:「変態みたいに言わないで。」
和:「変態だもん。匂いを嗅ぐなんて。」
軽蔑した目で彼を睨む。
もちろん、これは演技だ。
○:「仕方ないじゃん。好きなんだもん。
和だって、好きな人の匂いを嗅ぎたいでしょ?」
彼はしょぼんと落ち込む。
か、かわいい…///
○:「和は僕の匂い嗅ぎたくないの?」
彼はうるうるした目で尋ねる。
こういう表情もできるの⁈と驚かされた。
和:「か、嗅ぎたいよ…///」
彼の表情に私は本音を引き出される。
和:「ううん。嗅いでいるもん。
○○の匂いが大好きだから。」
私は隠していた事を話した。
○:「嬉しい…///和、大好き…///」
彼は私をぎゅーっと抱きしめる。
和:「ふふっ…///
私も○○の匂いが大好きだよ…///」
私たちはずっと抱き合っていた。
何かをするわけでもなく
ただ、ずーっと抱き合っていた。
それが幸福を一番満たすから。
和:「好き…///」
○:「うん。僕も好きだよ。」
面会時間が終わるまでハグを続けた。
和:「ただいま〜。」
彼との幸福な時間を過ごした私は
鼻歌を歌いながら、帰宅した。
和母:「おかえり。ずいぶん、機嫌が良さそうね。」
母が玄関で迎えてくれた。
和:「ふふっ。転校してから毎日が楽しいの!」
和母:「そう。よかった。」
和母:「ご飯出来ているから
早く鞄を置いてきなさい。
さくらもご飯食べているから。」
和:「はーい。」
私は部屋に鞄を置いて、食卓に向かった。
遠:「本当に楽しそうだね。」
姉は私の向かい側で唐揚げを頬張る。
和:「うんっ。楽しい。」
和母:「和が楽しんでいるのなら良かった。」
母は私の目の前にご飯を運んでくる。
和:「お母さんが再婚したおかげだよ。」
母が再婚しなかったら、私は彼と付き合っていない。
遠:「それよりさ…いつ、○○君に会えるの?」
姉が箸を止めて、聞いてきた。
和母:「…」
和:「うーん。分からない。
でも、○○も会いたいって言っている。
お姉ちゃんがいる日のほうが良いと思っているけど…」
遠:「私がいる日ね…」
遠:「スケジュールいっぱいなのよね…」
姉は人気モデルだから当然といえば当然。
和:「また今度でいいよ!」
遠:「いや〜、でも、和の彼氏だからね。
できる限り、早めに会いたいんだけど…」
姉が白米を口にしようとした時
和母:「えっ…今なんて言った…?」
遠:「んー?あれ?お母さん知らないの?
和は○○君と付き合ったんだよ?」
和:「うん。」
お母さんには話すタイミングがなかった。
和母:「嘘でしょ…」
母の顔が何故か青ざめていく。
和:「お母さん、どうしたの?」
和母:「お願い…和。今すぐに彼から離れて…」
母は真剣な表情で私に訴えてきた。
和:「ど、どういうこと…離れてって…なんで…⁈」
母の訴えに私は戸惑ってしまう。
和母:「離れたほうがいいの…
和には話していなかったけど…実は…」
和母:「冨里○○君の家族を殺したのは
私の元旦那で…あなたの実の父親だからよ…」
和:「えっ…」
何よそれ…本当に言っているの…?
遠:「お母さん、本当なの?」
和母:「本当だよ。
私とあの人が離婚したのは
あの人の浪費癖が酷かったから。」
確かに犯人の借金が多かったと聞いたけど…
和:「で、でも…犯人の名前や顔は…」
和母:「それは和が覚えていないだけ。
実際、警察は私の元にも聞きにきた。
でも、あの人と最後に会ったのは何年も前のことだから。
特に何も言われなかった。」
和:「…」
和母:「本当は彼に謝らなきゃいけないし…
一生かけて償わないといけないの…」
和:「…」
和母:「だから、彼と離れて…
友達ならまだ良かったけど、恋人関係は…。
今すぐに別れろとは言わないよ…
でも、この事がバレたら…
相当、恨まれるから…バレていないうちに…」
何よ…何よ…
和:「っ…」
私は箸を置いて、リビングを後にする。
遠:「和…!」
和母:「ごめん…和…
私があの人をちゃんと見てあげていたら…
彼の家族が×ぬことはなかったのに…」
遠:「…」
和の家のリビングの空気は重かった。
和:「嘘でしょ…何でよ…」
私は自室のベッドに潜り込む。
和:「嘘だと言ってよ…お母さん…」
私には犯罪者の血が流れている…
しかも、○○の家族を殺した犯人の…
和:「はぁ…どうすればいいの…」
彼が苦しんでいたのは分かっている…
彼は立ち直っているけど、
彼の家族を奪ったのは変わらない。
私の父が彼の家族を奪ったのに…
和:「私は幸せな気分で過ごしていた…」
彼が苦しんでいる間もずっと私は幸せで…
和:「最低な人間じゃん…私…」
それで彼を助けたいって…馬鹿すぎるでしょ…
彼を苦しめておいて、何様…
和:「でも、好きなのに…」
あんなに恋しているのに…
和:「別れたくないのに…」
ずっといたいのに…
和:「どうすればいいのよ…!!!!」
私はその日、大粒の涙を流した。
彼を想う気持ちがあるからこそ葛藤で心が苦しかった。
和:「うぅ…○○…」
精神的にショックを受けてしまった私は
翌日、学校を欠席した。
【第10話に続く】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?