『桜は散り、歯車が止まる』第4話
第4話 『ふたりでよかった』
桜:「明後日、二人でお出掛けしよっ?」
さくたんはそう言った。
桜:「おーい。○○くん?聞こえてる?」
○:「う、うん。」
二人でお出掛けというワードに動揺して
彼女の問いかけに返すのを忘れていた。
桜:「二人でお出掛けしたいの。ダメかな?」
○:「ううん。ダメじゃないよ。」
断る理由はなかった。
彼女と居れるのは本当に嬉しい。
また、彼女が隠したがっていることを
知れるかもという期待があった。
桜:「よかったぁ!」
彼女が笑顔で喜んでいるのが想像できた。
○:「でも、二人でお出掛けってどこに行くの?」
想像つかなかった。
映画に行くのか、今日と同じようにただお散歩するのか
それとも軽めの旅行をするのか。
僕はデート経験もそんなにないからよく分からなかった。
桜:「うーん。映画とかカフェとか?
まあ、明日決めればいいかな〜
あ、朝早くから行きたいかも!」
彼女のテンションは上がっているように感じた。
桜:「何時くらいがいい〜?」
いや、これがテンションが上がっているのが
本当の彼女なのかもしれない。
○:「え、さくたんが集合できる時間でいいよ。
ほら、僕は寝坊とかあまりしないし。
そこそこ早起きだから。」
だから、僕は彼女に合わせるほうがいい。
桜:「え〜、何時だろ。じゃあ、10時とか?」
○:「いいよ。集合場所はどうする?」
桜:「集合場所は渋谷駅のハチ公前でいいかな。」
○:「うん。いいよ。でも、見つけられるかな。」
桜:「どういうこと?」
○:「いや、ハチ公前って人が多いし...
さくたんを見つけられるのかなぁって。」
渋谷のスクランブル交差点は人も多いし
ハチ公前は待ち合わせで使う人も多い。
人混みの中から、さくたんを見つけられる自信がなかった。
桜:「大丈夫だよ!桜が○○くんを見つけるから!」
○:「本当に?僕、見つけるのって難易度高いよ。」
派手な格好もしないし、髪も染めてない。
身長も平均的だし、量産型タイプだと思う。
桜:「○○くんを見つける自信はあるよ?
誰よりも自信あるもん。
○○くん発見選手権があったら優勝できるよ。」
彼女は真面目なトーンで言っていた。
○:「何それ(笑)」
それが少し面白くて
そんな選手権あるわけないし
と心の中でつっこんだ。
桜:「馬鹿にしてるよね!本当に自信あるんだよ?」
○:「じゃあ、バレないように
帽子とかマスクつけようかな。」
そんなに見つける自信があるのなら
こっちは見つからないようにしたくなる。
桜:「それは卑怯だよ!」
○:「冗談だよ。普通の格好でいるから。」
不審者扱いされても勘弁だ。
桜:「よかった。見つけたら、すぐに駆け寄るね?」
○:「うん。」
桜:「あ、もう24時だ。」
彼女がそう言ったため、僕も時計を確認する。
○:「本当だ。さくたんは時間大丈夫なの?」
桜:「大丈夫だよ〜。大学も冬期休暇に入ってるから。」
○:「そっか。」
彼女は大学に通っている。
ということは消えたのは乃木坂にいたということだけ。
桜:「○○くんも大学生でしょ?課題とか大丈夫?」
○:「僕は大丈夫だよ。それなりに計画的に進めてるから。」
締切に追われるのが嫌だから、計画的に僕は進めていた。
というのも数ヶ月前に追われすぎて、大変な目に遭ってしまった。
桜:「ふふっ。やっぱり、真面目だね。」
彼女は真面目と言ってくれたけど
そういう目に遭いたくないという意志から来ているだけだった。
○:「さくたんは大丈夫なの?」
桜:「んー、やばいかも。」
彼女はそう言いながら、笑っていた。
○:「大丈夫?」
桜:「何とかなる!と信じたいかなぁ。」
○:「お出掛けなんかしないほうが...」
課題やる時間にあてるほうが良くない?
桜:「ううん!楽しみがないと課題も頑張れないから!」
○:「じゃあ、今日はもう電話終わったほうが良さそうだね。」
桜:「えぇ⁈」
○:「そりゃ、そうだよ。
明日は課題にあてるんでしょ?
寝不足だと課題は頑張れないし。」
効率悪くなると思う。
桜:「もっと電話したいのに〜」
彼女は悲しそうな声を発する
○:「後から辛くなるだけだよ?
それに明後日、お出掛けをするんだから。
それまでは頑張ろうよ。」
桜:「分かった...」
○:「じゃあ、また明後日ね。」
桜:「うん!楽しみにしてる!おやすみ〜」
○:「うん。おやすみ。」
ピッ...
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・桜サイド
桜:「○○くんとお出掛けだ...///」
彼との通話が終わり、私は布団に潜り込む。
桜:「デートだ...///」
二人きりでお出掛け。
彼はデートというワードを
一度も出さなかったけれどこれはデート。
桜:「どんな服を着ていこうかな〜」
デートは明後日だけど、今から待ちきれなかった。
桜:「いやいや、課題を少しでも終わらせないと。」
彼とのデートを楽しみに頑張らなきゃ!
桜:「おやすみにゃさい...」
私は深い眠りについた。
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瑛:「むにゃむにゃ...」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
?:「待ってるからね。支えるからね。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
瑛:「はっ...」
瑛紗は目を覚まし、起き上がる。
瑛:「今のは...」
何かの夢を見て、私は目を覚ました。
瑛:「何だろう...」
誰かに支えてもらっていたような...
瑛:「夢?いや、でも...」
夢じゃないような気がする。
夢とは違う何かがあるような。
何か大切なことを忘れているような。
そんな気がした。
瑛:「今、何時だろ...」
私はスマホで時計を確認する。
瑛:「8時...えっ⁈ やばっ!」
今日の仕事の集合時間は9時。
瑛:「アラームはつけたはずだったけど...」
昨日は疲れてたから、お風呂を済ませて、早めに寝た...。
あ、アラームつけ忘れてたかも...
昨日はすぐに寝ちゃったから...
あり得る...
瑛:「いや、後悔しても遅い。早く準備しないと!」
私は速攻で準備して、仕事へと向かった。
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・和サイド
和:「ぱん、遅くない?」
お仕事の集合時間が近づいていたのだが瑛紗が来ていない。
菅:「確かに。寝坊とか?」
一:「昨日、疲れてるっぽかったからね。」
和:「え、そうなの?」
菅:「うん。和が帰った後から...」
和:「私が帰った後...?」
ガチャ...
瑛:「セーフ...」
楽屋の扉が開き、息を切らした瑛紗が入ってきた。
和:「おはよう。寝坊?」
瑛:「うん。アラームをつけるのを忘れちゃって。」
そう言うと、彼女は荷物を自分の席に置く。
和:「大丈夫?昨日、疲れてるって咲月に聞いたんだけど。」
私がいなくなった後のことは分からない。
瑛:「あ、うん...。大丈夫だよ。
早く収録の準備しないとね。
今日は私が歌う番だから。」
でも、今も瑛紗はどこか疲れているように思えた。
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・瑛紗サイド
瑛:「...」
今日はスタ誕の収録。
私はこの為に全力でボイトレやレッスンを積んできた。
でも、何だろう。
昨日から積んできた感じがしない。
何かが欠けているような気がする。
練習を積んできたはずなのに何かを失っているような。
一昨日まではそんなことは無かった。
でも、昨日、和がカラオケで
Be togetherをやってから何かがおかしい。
瑛:「〜♪」
私は自分の歌う曲を歌いながら、必死にその何かを探していた。
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瑛:「...」
自分の番が終わり、今は収録の休憩時間。
私はひな壇に座り、ぼーっとしていた。
瑛:「(あの記憶は...)」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
?:「テンションを上げることに
慣れていなかったので苦労しました」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
瑛:「(何だろう...)」
確かにスタ誕の記憶だった。
夢にしてはあまりにも鮮明すぎる。
瑛:「(あれは...)」
ぼーっと、スタジオの照明を眺めていると
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
?「えー?私、...ちゃんにしか
不思議ちゃんって言われたことないんだけど。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
瑛:「⁈」
また別の映像が脳内に降ってきた。
瑛:「(何これ...)」
顔ははっきりと分からないでも、思い出したい。
大切な何かだと思うから。
瑛:「(この顔を思い出したい...)」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
?「てれさがいて、よかった。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
瑛:「はぁ...はぁ...」
何これ...誰なの...あなたは...
私は左手で頭を抑え、必死に思い出そうとした。
思い出そうとすると胸が苦しかった。
和:「ぱん、どうしたの?」
和が私の横に来たのが分かったけれど
瑛:「はぁ...はぁ...」
和に返事することができず
バタン...
瑛:「...」
和:「瑛紗!!!」
私は倒れ込み、意識を失った。
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翌日
・○○サイド
○:「(寒っ...)」
午前10時、僕は渋谷のハチ公前にいた。
今日はさくたんとのお出かけの約束。
昨日は彼女との約束が楽しみでずっとぼーっとしていた。
○:「(もうそろそろかな...)」
とスマホの時計を見ながら、待っていると
?:「わっ...!」
と可愛らしい声が聞こえ
○:「⁈」
僕の腰に誰かの手が触れた。
僕は振り向き、声の主を確認する。
桜:「おはよ〜」
確認する前から分かっていた。
この可愛らしい声は彼女だろうって。
○:「おはよ。」
桜:「ごめんね?待ったよね?」
彼女はお洒落な服を身に纏う。
ブログで見ていた通りの上品な服装だった。
○:「ううん。大丈夫だよ。」
本当は10分ほど待ったけど
彼女に謝らせるのは違うから、大丈夫と言った。
集合時間よりも早めに来るのは僕の癖だし
本当は集合時間ぴったりに来るのがいい。
学校でよく言われるような
5分前行動はお出かけには不要だ。
○:「今日は映画とカフェで合ってるよね?」
昨夜、彼女からメールが来た。
10時30分からの恋愛映画を観た後に
カフェでゆったり食事をしたいと。
桜:「そうだよ〜。夜遅くにメール送ってごめんね。」
昨日、彼女からメールが来たのは22時。
○:「大丈夫。それまで、課題をやってたんでしょ?」
課題があると彼女は言っていた。
桜:「うん。課題は半分くらいしか終わらなかったけどね。」
彼女は苦笑いしながら、舌をぺろっと出す。
○:「一旦、今日は課題のことを忘れて、
また明日以降、課題を頑張らないとね?」
今日はお出かけ。彼女はそれを楽しみに昨日を頑張った。
今日は一旦、リフレッシュをするべきだと思う。
桜:「うん!」
僕たちは映画館へと歩き始めた。
僕たちの姿は周りからどう見えているのかな。
カップルに見えているのかななんて想像をした。
想像していることをさくたんに
気づかれないように僕は彼女の横を歩いていた。
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・瑛紗サイド
瑛:「はぁ...」
私はベッドで布団にくるまっている。
昨日、意識を失った後、
マネージャーさんに連れられて、病院に行った。
病院に着いた時、私は高熱だったらしく
点滴を打ったり、薬を処方された。
その後、家に帰り、昨日の夜からずっと布団の中にいた。
瑛:「思い出せなかった...。」
人は頭をフル回転させると
熱が出ることもたまにあるみたいだから
この熱の原因は間違いなく、思い出そうとした事。
瑛:「私が変な感じになったのは一昨日から...」
和がBe togetherを歌った後から。
あの後から私はぼーっとすることが増えた。
瑛:「あれ?確か...」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
和:「瑛紗、桜を知っているよね?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
数日前に和が川﨑桜という名前を言っていた。
私たちの同期と言っていた。みんなに聞きまくっていた。
瑛:「待って...和が言っていることって...本当のこと...?」
和以外のみんなはその子を知らないと言っていた。
でも、和が本当のことを言っているとしたら
私たちはとんでもないことをしている...
大切な何かを忘れている。
瑛:「私が思い出したいこととその子は関係している...?」
突然降ってきた映像の子は名前も顔も分からない。
でも、私が思い出したいことと何か関係があるんじゃないか。
そんな予感がした。
瑛:「和を呼ぼう...」
このモヤモヤを解決したかったから
私は部屋に来てほしいと和にメールを送った。
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桜:「ポップコーンペアセットください!
飲み物はジンジャーエールで!」
○:「僕はファンタメロンで。」
映画館に着き、チケットを発券した後
僕たちは売店でポップコーンとドリンクを購入した。
普段、僕は映画を鑑賞する際は何も食べない。
お金が無駄だと思ってしまうし、
映画に集中出来なくなりそうだからだ。
しかし、彼女がここに来る途中に
食べようと言ってきたため、僕はその提案に乗った。
店員から僕はポップコーンを受け取る。
Lサイズのポップコーンの量は多かったため
僕が彼女の代わりにトレイを持つことにした。
僕たちは券を係員の人に見せ、
恋愛映画が放映されるスクリーン1番に向かった。
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桜:「この席、見やすいね!」
僕たちがとった席はちょうど真ん中の席。
首を痛めることもなく、快適に映画を観られる場所だ。
桜:「ポップコーンも美味しいし!」
僕たちが買ったのはキャラメル味のポップコーン。
桜:「○○くんも食べなよ?桜だけじゃ食べきれないよ。」
彼女に促され、僕もポップコーンを口にする。
ポップコーンを食べ、どんな内容かな〜とか
上映前に流れる予告映像を観て
この映画面白そう〜と軽い雑談をしながら
僕たちは上映を始まるのを待った。
桜:「映画終わったら、感想話そうね?」
彼女は耳元で甘く囁き、スクリーンのほうに顔を向けた。
○:「(ちゃんと観なきゃ...)」
感想を話そうと言われたら、ちゃんと観ないといけない。
そんな気持ちが働いて、僕は彼女とのお出掛けというのを一旦、忘れて、映画に集中することにした。
上映が開始されると彼女は
こちらを見ることなく、スクリーンに没我していた。
序盤の10分はあまり集中出来ずに
彼女の横顔をチラ見していたが
徐々に僕もスクリーンへと集中していった。
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・和サイド
和:「体調は大丈夫?熱は下がった?」
瑛紗に呼ばれて、私は瑛紗の部屋に足を踏み入れた。
瑛:「大丈夫。熱はうん...もう下がったよ。」
和:「よかった。昨日は心配したよ。
スタ誕の収録の合間にいきなり倒れるんだもん。」
そのおかげで収録は少しストップして
収録が終わる時間も普段よりも遅かった。
瑛:「ごめん。」
和:「ううん。体調が良くなったのならよかった。」
数日後には紅白歌合戦がある。
だから、何事もなくてよかった。
和:「それより、何で私を部屋に呼んだの?」
瑛紗から送られてきた文章には
『部屋に来てほしい。
なぎに聞きたいことがある』と書かれていた。
瑛:「川﨑桜って...前に和が言っていたでしょ...?」
和:「えっ...⁈」
なんで、瑛紗から桜の名前?
あの時は知らないと言っていたのに。
瑛:「私、何かを忘れている気がするの...お願い...教えて...?」
瑛紗は涙目になっていた。
和:「...」
その涙を見て、私は決めた。
瑛紗に桜のことを話すことを。
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・瑛紗サイド
瑛:「私、何かを忘れている気がするの...お願い...教えて...?」
私は和に頼んだ。
このモヤモヤを解決してほしいと。
和:「桜はね...甘えん坊なの。」
和は私の横に座り、話し始めた。
瑛:「甘えん坊...」
和:「用もないのにみんなの名前を呼んだりしてね?
私の一個上だけど歳下みたいで
5期生の中でも可愛いに特化していたの。」
ということは私の一個下...
和:「その可愛さを武器に
この前のスタ誕ライブでBe togetherを歌ったの。」
瑛:「Be together...スタ誕ライブってこの前の?」
和:「そうだよ。神戸公演でね。みんなは忘れていたけど。」
だから、Be togetherを歌ったんだ。
それもあのカラオケでの和は
いつもより可愛さを意識していた。
その桜って子を意識していたのか...
和:「桜はBe togetherをやる時に
テンションを上げるのに苦労していたと言っていた。」
瑛:「えっ...?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
?:「テンションを上げることに
慣れていなかったので苦労しました」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
私の脳内に降ってきた映像だ。
和が言っていることと全く同じだった。
瑛:「ねぇ!テンションを上げるのに
苦労したって言っていたのはスタ誕のスタジオ?」
和:「うん。そうだけど。」
瑛:「じゃあ、伊藤さんがイェーイって
言って後ろから出てきてって...」
あの後に脳内に降ってきたものもそのスタ誕の収録?
和:「それは桜に言っていたことだよ!
え、なんで、それを覚えているの⁈」
和は目を見開き、驚いていた。
瑛:「分からない...Be togetherを聴いてから...」
あの後から突然、降ってきたんだ。
そのBe togetherに関係すると思われる映像や他の映像も...
瑛:「ねぇ。その桜って子の写真を見せて!」
その子の写真を見れば、何かが分かる気がする。
全てが分かる気がする。
和:「はいっ。これが桜の写真だよ。
私と一緒に載っているものだけどね。」
和はスマホの写真フォルダを開き
その桜という子の写真を見せてくれた。
瑛:「これが...桜...ちゃん...」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
?「えー?私、桜ちゃんにしか
不思議ちゃんって言われたことないんだけど。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
瑛:「うっ...!」
昨日、倒れる直前に降ってきた映像が再び脳内を支配する。
和:「瑛紗!大丈夫⁈」
和は私の背中をさすり、スマホを私から取ろうとするが
瑛:「大丈夫だから...!」
私はそれを拒否して、桜ちゃんの画像を見る。
和:「瑛紗...」
瑛:「ねぇ、和?
その桜ちゃんは私のモノマネをしていた?」
あれは私のモノマネだと思う。
あの映像の声も少しだけ聞こえてきた。
私の声に似ていた。
和:「していたよ。結構似てた。」
やっぱり...
瑛:「ねぇ!和!私とその桜ちゃんはどんな関係だった⁈
単なる同期じゃないよね⁈」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
?:「てれさがいて、よかった。」
?:「待ってるからね。支えるからね。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あの映像もその桜ちゃんの言葉だとしたら
私と桜ちゃんは特別な関係があったはず。
和:「瑛紗と桜は絶望の一秒前の
MV撮影を一緒に見学していた。
桜は学業の関係で発表が遅れたの。」
瑛:「絶望の一秒前...」
絶望の一秒前というワードを聞いたその瞬間
私の脳内にとある映像が流れた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
瑛:「はぁ...うらやましい...
みんなと一緒にMV撮影したかった...」
私は発表が遅くなる関係で
絶望の一秒前の撮影に参加できなかった。
?:「だよね...」
瑛:「参加したかったよ...」
悔しかった。みんなに遅れていたから。
みんなはキラキラした姿でダンスパートを踊っていた。
しかし、私はただ座ってみているだけだった。
その現実に涙が止まらなかった。
?:「でも、一人じゃなくてよかった。」
瑛:「えっ...?」
?:「てれさが居なかったら
私は何もできずにもっと辛い気持ちだった。」
瑛:「桜ちゃん...私もそうだよ。
桜ちゃんがいてよかった!」
私は思わず、隣の子と手を繋ぐ。
?:「私もだよ。」
桜:「てれさがいてよかった!」
彼女の顔と笑顔が私の脳内にはっきりと浮かんだ。
瑛:「お互いこれから頑張ろうね!」
桜:「うん!」
私たちはお互い励ましあったんだ。
ふたりでよかったって
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
瑛:「さくたん...」
先ほどの映像が脳内を駆け巡り
私の目から一粒の涙が流れる。
和:「瑛紗?」
和は心配そうに私の肩に手を乗せる。
瑛:「さくたんさん...しゅわしゅわ...」
和:「瑛紗、それは桜の!
もしかして...桜のことを思い出したの⁈」
和は私の目を覗き込み、私の肩を揺らした。
瑛:「うん...思い出したよ...全部思い出した...」
何もかも思い出した。思い出した瞬間、
私の目からは大粒の涙がいくつも溢れた。
瑛:「なんで...忘れていたんだろ...
あんなに大切な人だったのに...
さくたんは優しくて、ずっと支えてくれる人なのに...」
私が発表遅れるって決まった帰り道に
待ってるからね、支えるからねと言ってくれたのに
和:「瑛紗...」
瑛:「川﨑桜は乃木坂46の5期生じゃん!!
5期生は10人じゃない!それなのに...
私は何でこんなにも重要なことを...
ごめん...さくたん...ごめん...和...」
こんなにも重要なことを忘れるなんて...私は...私は...
最低な...
和:「大丈夫だよ。思い出してくれてよかった。」
和は私を温かく抱きしめてくれた。
瑛:「ごめん...本当にごめん...」
その温かさに私は身を委ねるんだ。
和:「今、桜がどこにいるのかも分からない。
なんで、乃木坂46から消えているのかも。
なんで、みんなが記憶を無くしたのかも分からない。
だから、桜を探すのを協力してほしい。
瑛紗、お願いできるかな?」
和から言われなくても分かっている。
そんな協力してと言われなくても
自分から言うつもりだった。
瑛:「当たり前でしょ...当たり前じゃん...
桜は私たちの仲間だから...!!!」
協力するに決まってる!
桜は私たちの仲間だから!
こんな状況で世界が回ってたまるもんか...!
桜がいない世界なんかもう嫌だ!
この瞬間、私はとても大切な記憶を取り戻した。
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・○○サイド
桜:「恋人の記憶を忘れるなんて...
なんか、悲しい映画だったね...」
○:「うん...幸せな映画かと思ったら...」
映画を見終わった僕たちは近くのカフェに足を運び
フレンチトーストを食べながら、映画の感想を話していた。
桜:「やだなぁ...私だったら...記憶をなくすなんて...」
彼女は悲しそうな目をしながら、トーストを口にする。
映画を見終わってからずっとこんな感じだった。
彼女はここへ来る道で言っていた。
私は感情移入しやすいタイプで重たい映画を観ると
ずっと引きずってしまうって。
○:「僕もかな...」
でも、彼女の言うことが引っかかっていた。
映画の状況とは違うけれども
メンバーはさくたんの記憶を忘れている。
もしも、さくたんの記憶を思い出したら
どんな風になってしまうのか。
そこが気がかりだった。
桜:「映画の話ばかりしちゃうと
暗くなっちゃうから、話題を変えよう〜」
○:「そうだね。」
そこから、映画の話は全くしなかった。
ファッションの話とか普段の生活の話とか
他愛もない会話をし続けたんだ。
その間、僕は彼女がいない乃木坂のことを一切考えず
ただ、彼女との会話を楽しんでいた。
彼女と過ごす時間はあっという間で
席も混まなかったため、カフェに5時間も滞在していた。
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桜:「はぁ〜。長く話しちゃったね。」
僕たちは駅までの道を歩く。
辺りはすっかり暗くなり、街灯の光が道路を照らしていた。
○:「帰りは大丈夫?近くまで送っていく?」
暗い道では不審者が出る可能性がある。
僕が守ってあげる必要があると思っていたが
桜:「大丈夫だよ?桜は一人で帰れるから。」
と彼女は言ったので同じ駅で別れることになった。
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駅に着き、僕たちは改札に入った。
桜:「○○くん、今日は楽しかったよ。」
○:「こちらこそ。今日はありがとう。」
僕たちの家は逆方向だったため、ここで別れる。
○:「じゃあ、課題頑張ってね。」
彼女は課題がまだ残っていると言っていた。
桜:「その事なんだけど...○○くんに頼みたいことが...」
彼女ははにかみながら、俯き、ぼそっと言った。
○:「頼みたいこと?」
桜:「桜と一緒に課題をやってほしいの...」
彼女は僕の目を見て、頼んできた。
○:「えっ?一緒に課題?でも、学部も大学も違うよ?」
一緒に課題なんて、さくたんと学部も違うのに
どうやってやればいいのか分からなかった。
桜:「そ、そういうことじゃなくて...
その...同じ時間に課題をやると効率いいかなって...」
ようやく彼女の意図を理解した。
高校や中学時代は一緒に集まって課題をやる人たちがいた。
そんな風に僕と課題をやりたいということだろう。
○:「それは別に構わないけれど...」
断る理由も特にないし、推しの頼みだ。
快く引き受けるべきだと思う。
○:「でも、どこでやるの?あと、日にちとか...」
一緒に課題をやるということはカフェ?
いや、カフェだと長時間滞在できないし、図書館?
と考えていたが、彼女は僕の想定を超える提案をしてきた。
桜:「○○くんの家でやりたいなぁ...なんて。」
彼女は頬を赤らめ、はっきりと僕の家でしたいと口にした。
○:「ほ、僕の家...⁈」
流石にその選択をされるとは思っていなかったから
思わず、声が上擦ってしまった。
桜:「ダメかな...?」
彼女は涙を目に浮かべて、首を傾げる。
○:「ダメじゃないけど...なんで...僕の家?」
他にも選択肢はあるだろうに僕の家って。
それにさくたんは女性だ。
男である僕の家に来たいと言うなんて
僕がそういう事をする気がないからいいものの
何も考えていないのかな?と思っていたりした。
桜:「○○くんの生活が気になって...
あと、勉強の環境とかを知りたいなぁって...」
そういうことか。
先ほどのカフェで基本的に僕は家で勉強していると話した。
僕の家に物はあまりないと言ったり
さくたんに家の話を聞かれたため、色々と話した。
○:「そういうことなら。うん。いいよ。」
僕の家は学生寮でもなく、人を自由に呼べる環境だった。
だから、快く引き受けた。
桜:「本当に⁈ ありがと!!!」
彼女は笑顔で僕の手を両手で握る。
○:「ちなみに課題を一緒にやるのはいつにする?」
3日後とか1週間後とかかなと想像していたのだが
桜:「明日がいいの。」
彼女は翌日と言った。
○:「えっ⁈ 明日⁈ 」
桜:「うん...急なお願いで本当に申し訳ないんだけど...
明日がいいの...ほら、課題も早めに終わらせたいから...」
○:「うん。いいよ。何時に来る?集合場所とかは。」
彼女は僕の家の正確な場所を知らない。
その為、どこかで待ち合わせすることになると思っていたが
桜:「○○くんの家の前に直接行くよ!」
彼女はさらに僕の想定を超えてきた。
○:「え?僕の家のことは知ってるの?」
僕の家の情報を伝えたことはない。
桜:「ううん。知らない。
だから、後で位置情報を送ってほしいなって...」
○:「うん。分かった。今夜、送るよ。
僕が住んでいるマンションの外観とか目印とか。」
さくたんが道に迷わないように
なるべく正確な情報を伝えなければならない。
桜:「本当にありがと!
あ、もうすぐ、電車の時間だ...
明日のことはまた夜、メールで連絡するね!」
○:「分かった。僕の家の情報とかも送るよ。
気をつけて、帰ってね?」
桜:「うん!○○くんのほうこそ!
今日は本当にありがとう!楽しかったよ!」
彼女は僕に手を振り、2番線のホームへと向かった。
僕は彼女の姿が見えなくなるまで手を振った。
僕もまた電車の時間が近づいていたため
自宅の最寄り駅へと向かう電車が発車するホームへ向かった。
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帰宅後、僕は自分の部屋の掃除をしていた。
明日は推しが来る。
綿ぼこり一つも残してはいけないと思ったから
必死に掃除機をかけたり、雑巾掛けをしていた。
○:「ふぅ...元々物が少なくてよかったぁ...」
僕は彼女のグッズをあまり買っていなかった。
部屋にあるのはタオル、ペンライト、キーホルダー3つ。
そして、壁に掛かったポスターだけ。
生写真も少ししかなかったため、片付けは楽だった。
棚に軽く戻すだけで済み、掃除は1時間ほどで終わった。
○:「疲れたぁ...」
掃除も終わり、お風呂に入ろうかなと思っていると
ブブッ...ブブッ...と僕の携帯が鳴り始めた。
○:「誰?」
掃除をするため、机の片隅に置いてあった携帯を確認すると
○:「和ちゃん...?」
発信元は乃木坂46の井上和だった。
ピッ...
○:「もしもし?」
彼女から電話ということは
何かあったのか?と思い、電話に出た。
和:「もしもし。お久しぶりです。」
電話越しに落ち着きのある声が聞こえてきた。
○:「和さんから電話ということは何かありました?」
和:「ええ。伝えたいことがあったので掛けました。
安心してください。今、私は自分の部屋にいるので
この会話は誰にも聞かれていません。」
わざわざ言わなくても、容易に想像がつくのに
彼女は丁寧に現在の状況を伝えてきてくれた。
○:「で、伝えたいこととは?」
和:「メンバーの瑛紗が
さくたんのことを思い出しました。」
彼女は嬉しそうに報告してきた。
○:「えっ⁈ 本当ですか⁈」
こんなにも早く、思い出すなんて、驚いた。
最低でも一週間はかかると思っていた。
和:「はい!最初は諦めていたんですけど
○○さんの私にしかできないという言葉を思い出して
みんなを信じて、やったら、上手くいきました...!」
彼女は本当に嬉しそうだった。
○:「良かったです...流石、和さん...」
僕も嬉しかった。さくたんのことを思い出す人が増えて。
5期生にさくたんの記憶は絶対残っているという
僕の読みは正しかった。
和:「○○さんが私の背中を押してくれたおかげです!
この調子で5期生メンバーの記憶を戻していって
いつか、桜を探せるように頑張ります!」
彼女の最後の言葉を聞いて
○:「あっ...そ、そうですか...」
僕は返事に詰まった。
だって、僕はさくたんの場所も連絡先も知っているから。
和:「どうかされましたか?」
○:「い、いえ...何でもないです。
この調子でみんなの記憶を戻していってくださいね。」
でも、この事を話せなかった。
和:「はい!あ、電話を切りますね。
もうすぐ、紅白でバタバタしているので...。
夜遅くに電話をかけて、すみません。」
現在は大晦日数日前。
乃木坂46は紅白歌合戦の出場が決まっている。
そして、齋藤飛鳥のラストステージだ。
○:「いえ、大丈夫です。
わざわざ、報告してくださりありがとうございます。
紅白、頑張ってくださいね?」
和:「はい!おやすみなさい!」
○:「おやすみなさい。」
僕は電話を切り、スマホを充電器の上に置く。
○:「はぁ...」
さくたんのことはいつ話そう...
先ほどの電話で和ちゃんに話すことができなかった。
○:「いや...僕がさくたんの真実に
辿り着くまでは待つしかないか...」
現状、彼女は僕に信頼を置いてくれている。
ここでさくたんを変に刺激してしまうと
僕から離れていってしまいそうで怖かった。
○:「しばらくは様子見で...
彼女との生活を普通に楽しむか...」
乃木坂のことは触れずに純粋に彼女と向き合う。
彼女との生活を普通に楽しむ。
それがベストなのかなと判断した。
○:「今日は風呂入って、もう寝よう...」
掃除も終わったため、僕は風呂に入り
今日一日の疲れをゆっくりと癒した。
浴室から上がり、スマホを確認すると
さくたんからメールが届き、
明日の10時に行くと連絡が来た。
僕は自分の家の位置情報と了解というスタンプを送った。
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・桜サイド
桜:「ふふっ...」
○○くんが自分の家の位置情報を
送ってきたメールを確認して、私は布団の中に潜り込む。
桜:「今日は楽しかったなぁ。」
彼とのデートは本当に楽しかった。
今まで過ごしたどんな時間よりも楽しくて
辛いことを何もかも忘れられた。
桜:「○○くんとふたりでよかった...///」
やっぱり、私は彼のことが...
桜:「ふふっ.../// 明日も楽しみだなぁ...///」
私は小学生が遠足に行く気分で眠りについた。
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・美空サイド
一:「むにゃむにゃ...」
美空は自室のベッドで深い眠りについていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
?:「みーきゅん...」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一:「へっ...?」
美空は何かを見て、一瞬、目を覚ましたが...
一:「夢か...むにゃむにゃ...」
再び、深い眠りについた。
第4話『ふたりでよかった』Fin
【第5話へ続く】
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