『桜は散り、歯車が止まる』第15話
第15話 『結局は君自身どうしたいか』
○:「会場の中は暖かいね。」
桜:「うん......」
僕たちは会場に入り、自分たちの席につく。
桜は不安そうな表情をしていた。
○:「ごめん。ちょっと、お手洗い行ってくるね。」
桜:「う、うん。早く戻ってきてよ。」
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○:「送信っと......」
桜と一緒に横浜アリーナに来ました。
と僕は井上和にメールをした。
彼女の連絡先は削除したが、電話番号は全て暗記していた。
だから、メールをすることができた。
○:「早く戻らないと。」
僕は足早に客席へと戻った。
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和:「メール......この番号って......」
楽屋で振り付けの確認をしていた私に一通のメールが届いた。
この電話番号には見覚えがある。これは○○さんのものだ。
今、送ってくるって何なんだろうと思い、振りの確認を一度ストップして、メールを開いた。
和:「み、みんな!桜が横アリに来てるって!」
メールの文章を見た私はみんなにこの事実を伝えた。
一:「ほんとに⁈」
姫:「来てくれないかと思ってた......」
奥:「よかった。必死に頑張ったことを桜に伝えられるね。」
彩:「桜はどこにいるのかな?」
あれから、私たちは5期生ライブのために必死に頑張った。
桜に私たちの想いを伝えたい。その一心だった。
菅:「桜もそうだけど、観てくれるファンの人たちに後悔させないようなパフォーマンスをしよう!」
和:「そうだね!」
私たちの頑張りが今後の乃木坂の未来にかかっている。
ここで頑張らなきゃいつ頑張るんだ。
そんな気持ちだった。
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桜:「......」
ライブが始まり、私は遠く離れたステージを見ていた。
乃木坂46の5期生は10人だけ。
ここにいる人たちはみんなそう思っている。
私はその世界を望んだのに複雑な気持ちだった。
絶望の一秒前〜 星は微かに光り〜
5期生のライブを客観的に見るのは初めて。
改めて、同期の凄さを感じられた。
○:「......」
隣に座る彼は黙ってステージを見守る。
今日のライブは声出しありなのに彼は声出ししない。
ペンライトも振らない。
桜:「ねぇ。コールとかペンライト振らなくていいの?」
気になった私は彼に尋ねた。
○:「今は振らなくてもいいかな。ここは関係者席だから。
それにじっくりとみんなのパフォーマンスを見たいから。」
これが彼のポリシー。
他のファンの人たちとちょっと違う。
本当に乃木坂46が好きなんだろうな。
○:「桜は何を思う?みんなのパフォーマンスを見て。」
桜:「凄いって改めて思う。」
○:「それだけ?」
桜:「えっ?」
○:「本当にそれだけなの?何か感じないの?」
桜:「何か......」
この瞬間は彼の言うことがわからなかった。
私は彼の言う何かを探すため、再びステージに目を向けた。
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ライブは順調に進んでいった。
でも、私は彼の言う何かが分からなかった。
そして、ライブは終盤に入り
和:「聴いてください。17分間。」
私のセンター曲が披露されることになった。
この世界では茉央と奈央がセンターを務める曲。
でも、この日は違った。
和がなぜかセンターのポジションに立っていた。
ファンの人も驚いていた。
桜:「なんで、和は......」
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私は今、桜のポジションで踊っている。
和:「......」
私は数日前に演出家の人に
17分間のセンターは私がやりたいと伝えた。
この世界では五百城茉央と冨里奈央のセンター曲だから
どうして?と目を見開いて驚かれたが
茉央と奈央も許可してくれたから、私が務めることになった。
和:「たった〜17分〜」
桜?この会場のどこかで見てるかな。
あなたの悩みも全て分かった。
乃木坂を辞めたいというのも分かる。
でもね、あなたが分かっていないことがあるの。
桜は私たちの大切な仲間だよ。
桜には私たちにはない魅力がたくさんあるの。
私たちにとって、乃木坂にとって、欠けちゃいけないの。
だから、お願い。
私たちが過ごした日々を思い出して。
私たちの想いを理解して。
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桜:「みんな......」
この数ヶ月間、乃木坂を拒絶していたのに
私は乃木坂に見惚れていた。
桜:「思い出した......」
私の脳内にいくつもの映像が流れる。
その映像には
辛かった日々、悲しかった日々、楽しかった日々
乃木坂46のメンバーとして過ごした日々がいくつもあった。
今まで気づかなかった。
私は辛かったことばかりに目を向けていた。
でも、こうして、外から乃木坂をしっかりと見て気づいた。
あの日々は私にとってかけがえのないもので
楽しくて、充実していて、キラキラしていたんだって。
桜:「○○......」
○:「どうしたの?」
桜:「桜は......乃木坂に戻ったほうがいいかな......」
私は彼にアドバイスを求めた。
○:「結局は君自身どうしたいかだよ。
乃木坂に戻るのを決めるのは僕じゃない。桜だ。
僕は桜の決断を尊重する。
だからね、自分のやりたいようにして?」
桜:「うん......」
彼との日々も楽しいし、離れたくないが
アイドルを卒業した後も彼と過ごせる。
でも、乃木坂46でいることは今しかできない。
あの充実した日々を味わえるのは今だけ。
桜:「私は......あっ......」
和:「......!」
気づいた時にはアンコールになっており
トロッコに乗っている和と目が合った。
和:「......」
和は私の目を見ると口を動かすことなく、頷いた。
桜:「なぎ......」
彼女の目が印象的だった。
あなたを待ってると言ってきているような気がした。
桜:「私は......」
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ライブ終了後
○:「良いライブだったね。」
関係者席から見るライブは初めてだったから新鮮だった。
○:「桜、帰ろっか。」と言い、僕は席を立ったが
彼女は黙ったまま、席を立たなかった。
○:「桜?」
僕はもう一度、座り、彼女の顔を伺うと
桜:「○○......私......」
ゆっくりと彼女はこう言った。
「乃木坂46に戻りたい......」
○:「そっか......」
桜:「ごめん......」
○:「謝ることじゃない。それが桜の決断。
じゃあ、みんなに会いに行こっか。」
桜:「うん......」
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僕たちは関係者しか入れない部屋に入った。
そんな部屋に僕たちだけで入れるわけがなく
悠:「もうすぐ、みんなが来るって。」
北川さんに協力してもらい、入ることができた。
北川さんはスタッフさんたちに
僕たちのことを親戚と話したらしい。
しばらくすると、扉がノックされ
和:「あっ、桜......○○さん......」
和ちゃんを先頭に5期生が入ってきた。
桜:「み、みんな......」
久しぶりに会う同期に彼女は少々緊張していた。
菅:「よかった。見に来てくれて。」
彼女たちもまた緊張していた。
悠:「さくたんがみんなに話したいことがあるって。」
北川さんがそう言った瞬間、5期生全員が桜に視線を向ける。
桜:「あの......こんな状況になって
言うことじゃないかもしれないけど......
私、もう一度、アイドルをやりたい。
乃木坂46に戻りたい。
みんなとまたアイドルがしたい。」
桜は自身の想いをみんなにはっきりと伝えた。
桜:「今まで、みんなに迷惑をかけてごめん......」
そして、彼女はみんなに謝罪した。
和:「よかった。」
桜:「えっ......?」
和:「忘れてるかと思ってた。私たちとの思い出も何もかも。
このライブを見たら、きっと思い出してくれる。
また、アイドルをやりたいと思ってくれる。
そう信じて、私たちはこの5期生ライブのために頑張ったから。」
瑛:「来てくれなかったらどうしようかと思ってたよ。」
5期生みんなは桜を責めなかった。
ただ、温かく、桜を迎えてくれた。
その温かさに桜は涙を流していた。
桜:「ありがとう......みんな......」
涙を流す桜を一ノ瀬さんと菅原さんが抱きしめる。
○:「はぁ......」
僕は桜から少し離れて、彼女たちの様子を見ることにした。
悠:「よかったね。」
僕の様子に気づいた北川さんが話しかけてきた。
○:「ええ。この後、歯車を戻すんですよね。」
悠:「うん。さくらと美月さんにも来るように伝えるよ。」
と言い、北川さんは携帯電話を取り出し、部屋を後にした。
○:「......」
桜がみんなと話している様子を黙ってみていると
和:「お久しぶりです。」
和ちゃんが僕の隣に来た。
和:「全部、あなたの狙い通りだったんですね。
咲月と美空にもヒントをあげたり。」
○:「あなたの気のせいですよ。」
和:「ふふっ。バレバレです。」
和ちゃんは少し笑っていた。
○:「これで僕たちの協力関係は終わりです。」
和:「ですね。ちょっと寂しいですが。」
○:「それと最後に和ちゃんに一つ頼みたいことがあるんです。」
和:「頼みたいこと?」
○:「______________」
和:「えっ......?」
第15話 『結局は君自身どうしたいか』Fin
【第16話に続く】
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