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『ラッキーアイテム』 第11話



翌日

桜が僕の病室に来た。

桜:「へぇ…和のお父さんが…」

○:「うん。」

桜には昨日のことを話した。
他の人には話していない。話す必要がなかった。

○:「正直、びっくりした。」

桜:「○○は平気なの…?」



○:「平気だよ。
和が僕を救ってくれたことを桜も分かっているでしょ?」

桜:「うん…」

○:「だから、何も気にしていない。」

和は僕の救世主。
僕が感謝しないといけない人だから。

桜:「そっか…でも、良かった。
和と○○が再び仲良くなって…」


桜:「このまま別れていたら
○○はトレーニングを諦めていただろうし…」

確かにそれは言えている。
僕は和と会っていない期間は
トレーニングをかなりサボっていた。

桜:「でも、今日、和は学校を欠席と…」

○:「本当にね。何しているんだろうね(笑)」

桜:「うん(笑)」



・和サイド

和母:「情けないわね。
昨日の夜が嬉しすぎて、食い意地張って
今日は腹痛で学校欠席とは…」

母が私の部屋に来た。

和:「反省しています…」

キスが嬉しすぎて、昨日の晩御飯を食べすぎました。



和母:「どうだったの?初めてのキスは。」

和:「幸せだった…///」

母に聞かれたことで私は昨夜のキスを思い出す。

和母:「惚気ているわね。
○○君が居なくなったら、どうなっちゃうのか
私は心配なんだけど…」

和:「それは分かんない。」

想像したくもないから、考えたことがなかった。

和母:「まあ、彼と過ごしなさいよ。
今度、家に連れてきてもいいから。」

和:「本当に⁈」

やった…!彼にハンバーグを作ってあげられる!

和母:「ただし、部屋の片付けをしておきなさいよ。」


和母:「この部屋で○○君とそういう雰囲気になった時
部屋が汚かったら、興醒めするから。」

和:「うん…///」

そういう雰囲気か…////

いずれくるであろう雰囲気を想像して
私の胸はキュンとなった。

和:「(いつになるんだろう…///)」

和母:「(完全に妄想している…笑)」



・○○サイド

○:「明日、来てくれることを願うよ。」

流石に明日は来られるでしょ。

○:「そうだ。桜に見せたいものがあって。」

桜:「えっ?なに?婚姻届?」

○:「違うわ。これだよ。」

僕の願いノートを桜に見せた。

桜:「○○が作ったの?」



○:「そう。中身はまだ見せないけどね。」

僕は表紙を見せた後、引き出しにノートを仕舞う。

桜:「奈央ちゃんと同じように
メダルを獲ったら、見せてくれるの?」

○:「うん。それで桜に頼みたいことがあるの。」

桜:「なになに?」


○:「もしも、僕がメダルを獲れずに
和の元から離れたり
あの世に行ってしまうことがあったら
このノートを和に渡してくれないかな?」

桜:「あの世って…縁起でもないこと言わないでよ!」

桜は声を荒げた。



○:「可能性の話をしているの。」



○:「僕の病気は完全に治ったわけじゃない。
まだ経過観察中。あの世に行くこともあり得る。
そうなった時にこのノートを勝手に処分されるのは嫌。
だから、和に渡してほしい。」

桜:「分かった…でも、言われなくても
そういう状況になったら、和に渡していたと思うよ。」

○:「流石。桜。」

桜:「幼馴染を舐めないでよね?」

○:「あぁ…そうだね(笑)」

桜:「○○のことは何でも分かっているんだからね!」

桜はドヤ顔を見せてきた。

○:「怖い幼馴染だ。」

桜:「ふふっ。」



時は少し流れ…

2021年 12月7日

○○は17歳の誕生日を迎えた。

そして、○○はその日から
スケートリンクで滑ることになった。

私は学校帰りにみんなと一緒に彼の練習場に向かった。


和:「○○はどこにいるの?」

リンクの客席に腰掛けたものの彼の姿が見当たらない。

桜:「多分、裏で準備しているのかな。」

菅:「久しぶりだなぁ。
○○君が滑っているのを見るの。」

和:「えっ?咲月は見たことあるの?」



菅:「2、3回だけどね?
メダリスト候補を生で見たかったの。」

和:「羨ましい…」

私は過去の映像でしか見たことないのに。

菅:「別に今から見られるんだから良いでしょ?」

和:「そうだね…!」

桜:「あっ…○○だ…」

桜がリンクの入口を指す。

○:「ふぅ…」

彼は深呼吸をして、リンクに足を踏み入れた。

○:「…」

ただ、無言で彼は氷の上を滑る。
場内は静寂に包まれていた。

彼によって、場の空気が支配されていた。

和:「…」

病室の彼とは別人のようだった。
顔は同じだけど、表情が全然違う。
悪戯っ子で寂しがり屋の彼はいない。

堂々としていて、佇まいが美しい。

和:「かっこいい…」

言葉に出してしまうくらい魅了された。

桜:「そうだね。」

菅:「和の恋人だよ?」

和:「私の恋人…」

桜:「うん。和の恋人。」

和:「ふふっ…///」

嬉しすぎて、笑みが溢れる。

桜:「ねぇねぇ、○○が和を呼んでいるよ?」

彼を見ると、口パクで「和、こっち来て。」
と言っているのを確認できた。



和:「どうしたの?」

急いで、客席から離れて
リンクにいる彼の元に駆けつけた。

○:「和に一番近くで見てほしくて。
今から一度だけジャンプをするから。」

和:「う、うん…」



○:「一度だけだからよく見ていてね。」

彼は私に微笑みかけるとすぐに氷の上を滑っていく。


○:「…」

彼は真剣な表情で左足で前向きに踏み切り
踏み切りと反対の足で後ろ向きに着氷した。

和:「凄っ…」

何回転回っていたのか分からないけど
私には完璧なジャンプに見えた。

和:「かっこいい…」

○:「どうだった?」


彼が靴を脱いで、私の隣に座る。

和:「凄かった。かっこよかった。」

○:「良かった。成功できて。」

彼は照れくさそうに笑う。
いつもの病室の彼だった。

和:「ねぇ、あれってなんていうジャンプ?
すっごいクルクル回っていたけど…」

○:「あー…えっと…」


?:「トリプルアクセル。」



○:「そう。トリプルアクセルって…えっ⁈…桜…⁈」



いつの間にか、桜が私たちの背後にいた。

桜:「何で跳ぶのかなぁ?」


○:「い、いや…」

○○の表情が曇っていく。

和:「桜、どういうこと?」

桜:「和は分からないかもしれないけど。」

桜:「3Aは相当難しいジャンプで
体にかかる負担も大きいの。」

和:「へぇ…」

全く知りませんでした。

桜:「なんで、跳んだの?
史緒里先生に止められているよね?」

○:「和にかっこいいところを見せたくて…」



○:「一度だけなら良いかなって…」

彼は拗ねていた。
私のために見せてくれたんだと
少しだけ優越感を得ていた。
ちょっぴり、いや、かなり嬉しい。

桜:「無理だけはしないでよ。」

○:「分かっている。コーチとも相談しているし。」



桜:「それにしても、初日に3Aとか
4年後の大会はメダルいけるんじゃない?」

和:「本当に⁈」

私、全然分からないけど!!

桜:「うん。順調にいけば、4回転とかも。
今月には出来そうな…」

和:「へぇ〜!」

○:「4回転は無理だよ。」

○:「3Aが跳べたのは僕が一番得意だから。
4回転はやっぱり別物なの。」

和:「そうなんだ…」

やっぱり、難しいんだなぁ…

○:「まあ、来月辺りには
チャレンジできるように調整する。
だから、楽しみにしててね。」

和:「うん!」



数日後

彼は毎日のように
練習場に行っていたため
私が放課後向かう先も病室ではなく
彼の練習場になっていた。

和:「…」

今日も私は彼の近くで見守る。


山:「よいしょっ…」


和:「えっ⁈ 美月さん⁈」

私の横に人気女優が座る。

山:「今日はたまたま時間があったから
遊びに来たの。あっ、彼の許可も得ているから。」

和:「なるほど…」

山:「それでどう?彼との日々は。」


美月さんはニヤニヤしながら、私に聞いてきた。

和:「幸せです…///」

あの出来事があってから
私たちの絆は深まるばかり。

たまにキスをするようになった。
その先はまだだけどね。

山:「いいねぇ。青春しているねぇ。」

山:「でも、気をつけなよ?
○○君にはファンがいるから。」

彼には美月さんを筆頭に多くのファンがいる。
ほとんどの人が熱狂的で彼を応援する。

だから、彼の恋愛がバレると色々と面倒らしい。
桜も少し悪く言われたと言っていた。

山:「私は和ちゃんが彼に必要なのが分かっている。」


山:「でも、ファンの人は
和ちゃんのことも2人の絆も知らない。
だから、気をつけてね。」

美月さんの言った言葉が印象的だった。
数分で美月さんは帰っていった。




○:「へぇ…そんな事を言われたんだ…」

和:「うん。気をつけてって…」

練習後に彼と少しだけお話をする。
これが最近のルーティン。

○:「大丈夫だよ。
僕が練習していることは極秘だから。」


○:「大体、僕は世間から見ても終わった人。
そんなに注目もされない。だから、大丈夫。」

和:「うん…」

彼は私の頭を撫でる。
不安を消そうと彼は撫でてくれたが
私の不安は消えなかった。

嫌な予感しかしなかった。


そして、数日後…嫌な予感は的中した。


○:「疲れた。」

今日は桜と一緒に彼の練習場に来ていた…

和:「お疲れさま!」

桜:「前よりも慣れてきた?」



○:「うん。感覚も少しずつ戻ってきたかも。」

和:「良い感じ?」

○:「とっても。和が毎日来てくれるおかげでね。」

和:「良かったっ。」

桜:「桜の前でイチャイチャしないでよ…」

桜は頬を膨らませ、怒っている動作を見せる。
でも、全然怖くないし、可愛い。

桜:「あとさ、今日の夜はどうする?」



桜:「お母さんがパーティーしようって!
○○の誕生日のお祝いもちゃんとしていないし
今日は金曜日。明日は休みだから、
ちょうど良いかなって。」

和:「どうする?私は行きたいけど。」

2人でイチャイチャするのもいいけど
パーティーも楽しそう!

○:「うん。僕もパーティーしたい。」



桜:「○○なら、そう言うと思って
お母さんに迎えに来るように頼んであるよ!」

流石、桜。行動が早い!

桜:「あっ、グッドタイミング♪
お母さんから電話だ!もしもし〜」

桜は電話をするため、私たちから少し離れる。



和:「○○の誕生日プレゼント買ってないや…」

何にしようか悩みまくっていたら
誕生日を大幅にオーバーしてしまった。

○:「いや、いらないって。
和と普段から居られることがプレゼントだから。」

和:「んー…不満…」

ちゃんとプレゼントを渡したいのに。
カップルってそういうやりとりもするでしょ!
それも楽しみでしょ!

○:「クリスマスプレゼントと一緒でいいから。
僕も和にプレゼントを渡す。
プレゼント交換でいいよ。」

和:「プレゼント交換…ありだね!」

彼はどんなプレゼントを私にくれるのかな?
いや、その前に彼にあげるプレゼントを考えなきゃ。

クリスマスも意外とすぐだから
なるべく、早めに…と考えていた時

桜:「○○!和!大変!」

電話を持った桜が走って、私たちの元に来た。

和:「どうしたの?焦って。」

桜:「この練習場の外に…
○○のファンの人たちや
記者の人たちがたくさん…」

和:「えっ…?」

○:「…」

【第12話に続く。】

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