推しとのお家デートで泣きながら抱きつかれた彼女持ちの僕は理性を保てるのか?
・桜サイド
桜:はぁ...
楽屋の片隅でため息をつく私。
ここ最近はずっと気分がブルーだった。
一:桜、どうしたの?
桜:みーきゅん...
同い年で相談相手の美空が私の真横に座る。
一:ここ最近、元気がないように見えるけど...
何か辛いことでもあったの?
桜:実はね...
私は気分がブルーな理由を話した。
私のファンの人が急にお話し会に
来なくなってしまったことを。
一:普通にリアルが忙しいんじゃないの?
桜:ううん!前にお話し会に来てくれた時に
"毎回来るよ"と言っていたのを思い出したの。
一:だから、お話し会の日に
たまたま予定が入って、来られなくなったり...
桜:それなら、ブログにコメントしてくれるもん...
来られなくなった理由とか...でも...
○○君はコメントで何も触れていない。
桜:毎日コメントしてくれていたのに
最近は全然コメントしてくれなくて...
彼のコメントの数も減っていた。
一:うーん...それは推し変したんじゃ...
桜:えっ...⁈
推し変...○○君が推し変...
桜:そんなわけないもん!!
彼はずっと私を見てくれると言っていたし
私以外のお話し会も行かないと言っていた。
一:でもね?桜。推し変は突然来るんだよ?
桜: ...
推し変...なんで...私が何かしたのかな...
美空に言われた一言が脳内にずっと残っていた。
桜:推し変...
彼はいつも私のお話し会で感謝を伝えてくれるから
推し変をするわけないと信頼していたのに...
でも、本当に何かがあったとしか思えない。
単なる推し変ではない気がする。
私の直感がそう言っていた。
桜:カフェ...
ふらふらと道を歩いていた私はカフェを見つけた。
桜:入ってみよう...
何かに導かれた私はカフェの扉を開けた。
和:だーいすき...///
和は僕の耳元で囁く。
○:僕も大好き。
和:ねぇねぇ...
和は僕の肩を人差し指で突くと
○:ん?
和:んっ...///
僕の唇にキスをする。
和:本当に好きだよ?//
彼女は僕だけにこんな姿を見せてくれる。
一番人気の子が僕の彼女。
その事実が僕の理性をどんどん崩していく。
和:あっ...///
僕は彼女をギュッと抱きしめる。
○:本当に好き。
和:私もだよ...///
サイン会なんかどうでもいい。
お話し会なんかどうでもいい。
推しもどうでもいい。
ただ、彼女と居られることが嬉しかった。
○:そろそろ時間だ...帰るね...
和:うん...また今度ね...?
僕は彼女の家を後にする。
彼女の家に行くのは週に1回。
デートは彼女の家でする。
それ以外の時はメールやビデオ通話をする。
バレてしまったら大変なことになるから
ルールをきちんと守っていた。
○:疲れたぁ...
家に帰り、僕はソファーに寝転がる。
そして、彼女とメールでやりとりする。
バイトも勉強も彼女のおかげで頑張れていた。
推しのことなんか本当に忘れていた。
和が居れば、他はどうでもよかった。
○:ホットコーヒーです...
さらにお洒落にも磨きがかかり、カフェの客も増えていた。
給料は上がったけど、ヲタ活には使っていない。
使う必要がなくなっていた。
さくたんのことはどうでもよくなっていたから。
僕は淡々と業務をこなしていた。
カランコロン...
○:いらっしゃいませ...
どうでもいいと思っていたのに
○:何名様で...えっ...
桜:えっ...⁈
神様は悪戯をするんだ。
桜:○○君...
○:こちらの席でお願いします。
動揺を隠して、僕は推しを席に案内する。
○:ご注文が決まりましたら、お声掛けください。
・桜サイド
○:ご注文が決まりましたら、お声掛けください。
彼は私を席に案内して、去っていく。
桜:...
完全に彼だった。私が探していた彼。
桜:(あとで聞こう...)
どうして、来なくなったのか
彼に聞きたいことがたくさんあった。
桜:すみませーん...
注文するため、彼を呼んだ。
○:何でしょうか。
桜:カフェオレをお願いします。
○:かしこまりました。
桜:○○君...?
あとで聞きたいことがあるんだけど...いいかな...?
○: ...
彼は私の問いかけに答えることなく去っていった。
・○○サイド
○:(どうして、さくたんが...)
桜: ...
カフェオレを淹れながら
窓際の座席に座る彼女をチラ見する。
○:(はぁ...聞きたいことって...)
和と付き合っていることがバレたのかな?
そんな不安が心を占める。
○:お待たせしました。カフェオレです。
桜:ありがとう...
彼女はカフェオレを口にする。
○:それで聞きたいことというのは...
桜:どうして、桜のお話し会に来なくなったの...?
○:...
・桜サイド
桜:どうして、桜のお話し会に来なくなったの...?
私は単刀直入に彼に尋ねた。
○: ...
しかし、彼は黙ったまま。
桜:ブログにもコメントしてくれないし...
本当に何があったの...?推し変...?
○:ち、違いますよ...大学が普通に忙しいので...
桜:○○君ならブログに
そうやってコメントしてくれるよね?
彼は真面目だと思っているから、逐一、報告してくれるはず。
○:し忘れたんですよ...
桜:ううん。違う。あなたが忘れるわけない。
彼は今まで毎日コメントしてくれていた。
桜:ねぇ、何があったか教えてよ...!
絶対、何かあったはず。私の直感が言っているの!
○:何があったって...何もないですよ...!
逆に何があったと思っているんですか...
彼はそう言い残して、去っていった。
桜: ...
その日の夜
和:今日はね?雑誌の撮影で...
○:そうなんだ...
僕はテレビを見ながら、彼女と電話をしていた。
和:どうしたの?
○:何が...?
和:声が元気ないよ?バイトで何かあったの?
○:別に何もないよ...ちょっとだけ眠くて...
彼女には桜さんと会ったことを隠した。
和:そっか...大学忙しいんだよね?
○:まあまあかな...
和:今日は早めに寝なよ?
○○は何でも全力頑張っちゃう癖があるから。
○:うん...ありがとう。
彼女との電話を切って、天井を眺めた。
○:今の僕には和がいる...
さくたんなんか居なくてもいいと思っていたのに
さくたんのあの表情を見てしまったから...
僕を信頼してくれていたことを知ってしまったから...
○:さくたんに話すべきかな...
僕は罪悪感を覚えたんだ
一方、その頃...
桜:絶対、何かあった...
桜はベッドに寝転がりながら
スマホで○○の働くカフェの口コミを見ていた。
桜:彼は人気店員...
みんな思っていたんだ。
彼がかっこいいって...
桜:彼に彼女が出来たのかな...?
その彼女が私を応援しないでと言った可能性もあるけど
それでもブログのコメントを
避けるようなことはしない気がする。
桜:考えられる可能性は...
私は脳をフル回転させる。
彼がお話し会に来なくなったのはここ最近。
いや、ブログのコメントが途切れ始めたのは1ヶ月前。
彼はカフェの店員...
桜:待って...
和がカフェの店員にモバイルバッテリーを
借りたと1ヶ月くらい前に美空に言っていた。
桜:その店員が○○君だったら...
彼と和は接触していたことになる。
そこから距離を縮めていたとしたら...
桜:全然あり得るじゃん。
和はここ1ヶ月くらい妙に機嫌が良かった。
桜:和と○○君は付き合い始めた...?
突拍子もない発想だけど、辻褄が合いすぎている。
桜:今度、彼に聞いてみよう...
彼の勤務時間を調べて、再び会いに行くことにした。
数日後...
○:いらっしゃいませ...⁈
僕はいつも通り、バイトをしていたのだが...
桜:1名です。
再び、さくたんが入店してきた。
○:こちらにどうぞ...
平然を装い、僕は業務をこなす。
内心は何でまた?と思っていた。
再び来る理由なんかないのにと思っていた。
桜:カフェオレで。
○:かしこまりました。
彼女はメニュー表を指して、淡々と注文する。
淡々としすぎていたのが違和感を覚えた。
○:(僕をあんなに問い詰めていたのに...?)
○:お待たせいたしました。
カフェオレを淹れ、彼女の元に運ぶ。
桜:ありがとうございます。
○:ごゆっくりとお過ごしください...
と引き下がろうとしたが
桜:和にモバイルバッテリー貸した?
○:えっ...?
彼女が急に放った一言に思わず、動揺してしまった。
桜:...
彼女は真っ直ぐな視線を僕に向ける。
彼女が淡々としていた理由はこれだったのかな?
と納得がいった。
○:...
桜:桜の仮説が合っているのか分からない。
だから、今夜、電話しよ?○○君と話をしたいの。
彼女はそう言うと、連絡先の書かれたメモを渡してきた。
○: ...
僕はメモを眺め、佇んでいた。
桜:ごちそうさまでした...お会計お願いしますね。
○:あっ...はいっ...
○:レシートです...
お会計をして、レシートを彼女に渡す。
○:ありがとうございました。
桜:うん...じゃあ、今夜の21時ね...
少し微笑んだ彼女は店を後にした。
○:...
そして、21時となった。
僕は桜さんの連絡先を追加する。
追加した1分後、彼女からビデオ電話がかかってきた。
○:もしもし?
1コール目で僕は電話に出る。
いきなりのビデオ通話に戸惑いはなかった。
桜:ふふっ...もしもし?
お話し会よりも距離感が近かった。
彼女はパジャマ姿だった。
桜:お話し会みたいだねっ。
久しぶりにこうやって話せて嬉しいよ。
彼女は微笑んで、幸せな笑顔を見せる。
桜:まあ、いいや...
桜の仮説が合っているのか聞きたいの。
○:うん...
さくたんの仮説はこうだった。
和にモバイルバッテリーを貸した店員は僕。
僕が貸したモバイルバッテリーの
袋の中に僕がファンである証拠が入っていた。
和は僕に一目惚れをしたから、距離を縮めようとした。
そして、和と僕が付き合い
僕はさくたんのお話し会に行くことをやめて
ブログのコメントもしなくなった。
桜:これが桜の仮説。どうかな...?
○:なんで...そこまで分かるの...
否定しようがなかった。
否定するよりも彼女が何で
こんなに読めているのかが気になってしまった。
桜:○○君だからだよ?
○:僕だから?
桜:○○君はいつも桜のことを応援してくれている。
○○君はいつも真面目に感謝を伝えてくれる。
だから、急に辞めるってことは何かあったのかなって。
桜:○○君がカフェの店員という点と和がカフェで
充電器を借りた点を合わせると一致すると思ったの。
○:そうなんだ...
僕はサイン会にも行けていないのに
他のファンよりもお金を使えていないのに
桜さんは僕のことをこんなに考えてくれていた。
その優しさに申し訳なさを感じるばかりだった。
桜:和と付き合っているんだよね...?幸せ...?
悲しそうな表情で彼女は尋ねる。
○:う、うん...
この電話をするまでは幸せと心の底から思えていた。
でも、今は幸せと素直に言えなかった。
桜:桜じゃダメなの...?
○:えっ...?
桜:ううん...なんでもない...
ごめんね...明日のお仕事が早いから切るね...
○:うん...
彼女との電話が終了した後、僕は和とビデオ電話をしていた。
和:明日はMVの撮影があるの!
○:そうなんだ...
和:○○になら言ってもいいかなと思って。
楽しみにしていてね!
○:うん...
和が話しかけてくれているのに
僕の頭は先ほどの桜さんの言葉でいっぱいだった。
和:ねぇ?元気ないよ?どうしたの?
○:ちょっと...バイトでね...ミスしちゃって...
和には嘘をついた。
桜さんのことを言うと、彼女は不機嫌になってしまうから。
和:そうなんだ...大丈夫だよ?私が励ましてあげる!
和:よしよし...
○:ありがとう...
今までは和の励ましの言葉で
頑張れていたのに頑張る気力も湧いてこない。
それどころか頑張る気力が減るばかり
桜さんへの罪悪感でいっぱいだったから...
○:はぁ...
和と電話をした後はぐっすりと眠れていたのに。
今日は全く眠気が来ない。
○:この先、どうすればいいのかな...
結局、僕が眠ったのは朝の4時だった。
・桜サイド
私たちはMVの撮影をしていた。
一:寒い〜!
和:ちょっと、美空!
美空が和に抱きついていた。
桜: ...
私は複雑な気持ちだった。
和は昨日も○○君と電話をしていたのかなって。
和:桜、どうしたの?もうすぐ撮影始まるよ?
和が私の心配をしてくれる。
桜:う、うん...!
普段なら有難いと思っているけど
私のファンを奪った悪魔という印象に変わったから
有難いと思わなかった。
私は撮影中もずっと○○君の事を考えていた。
このまま、和に○○君を渡してたまるものか。
私のファンは誰にも渡さない。
○○君は誰にも渡さない。
私の闘争心にメラメラと火がついていた。
だから、私は帰宅後に彼にメールを送った。
○:"明日の夜に桜の家に来ませんか..."
さくたんからメールが届いた。
○:...
僕は迷うことなく、"分かりました"と送った。
和のことは頭から消えていた。
だから、その日は和と電話をしなかった。
翌朝、和からメールが届いていたが
講義の課題をやっていて話す時間がなかったと
メールで嘘をついた。
何故なのか分からないけど、罪悪感はなかった。
そして、翌日の夜、僕はさくたんの家へ行った。
・桜の家
桜:どうぞ...どうぞ...
彼女は僕を部屋に案内する。
桜:飲み物はいる?
○:いや、大丈夫です。
桜:そっか...じゃあ、桜だけ...飲んじゃおうかな♪
彼女はカフェラテを口にする。
○:どうして、僕を家に...?
桜:色々とお話ししてみたくて...///
髪を耳にかけ、上目遣いで彼女は話す。
○:そうですか...
プルルルル...
桜:○○君の携帯電話だね...
○: ...⁈
ポケットからスマホを取り出すと、和からの電話だった。
しかも、ビデオ通話。
○:あっ...
桜: ...切っちゃった。
桜さんが通話拒否のボタンを押した。
桜:今は桜のことだけを見て?
桜さんは僕のスマホの電源も切った。
桜:ううん...今だけじゃない...
桜のことをずっと見ていて?(涙)
桜さんは僕に抱きついてきた。
○:桜さん...
桜:お願いだから...和に行かないで...
○○君は桜のファンだよ...?
香水の匂いが僕の嗅覚を刺激する。
桜:桜は○○君のおかげで頑張れていたから...
○○君が居なくなったら、桜は頑張れないよ...
彼女は涙を浮かべる。
桜:桜はね...○○君のことが大好きだよ...
○:さくたん...
推しに泣きながら抱きつかれて
理性を保てるわけなかった。
僕は彼女を抱きしめていた。
○:僕も好き...
桜:うん...///
○:ごめんね...本当に好き...
桜:いいよ...これからも桜を見て...?
推しにこんな事を泣きながら言わせてしまった。
謝罪の気持ちを込めて、僕は彼女に愛を伝えた。
言葉じゃなくて、物理的に。
僕は翌朝に彼女の家を後にした。
数日後
和:(既読のつくペースが遅い...)
数日前から○○にメールを送っても
既読がつくのは最短で3時間後だった。
いつもは長くても10分だったのに...
おまけに電話の時間も短い。
和:(大学が忙しいのかな...)
楽屋の片隅で私はメールの履歴をスクロールする。
桜:みーきゅん〜
一:しゃく〜
視線の先で桜と美空が戯れあっていた。
桜:着替えてくるね〜
一:うんっ!行ってらっしゃい!
桜は楽屋を後にして、美空が私の近くに来た。
一:楽屋の隅にいるけど、どうしたの?
和:どうもないよ?
彼とのやりとりは誰にもバレてはいけないから平然を装った。
一:桜が元気になったのに
和が元気じゃなくなったら悲しいなぁ...
確かに桜は数日前から元気になっていた。
和:桜、ずっと落ち込んでいたよね?
○○のことで落ち込んでいたけど
○○のことは綺麗さっぱり忘れたのかな?
と思っていたが...
一:あー、うん。なんかね?
昨日、桜から聞いたんだけど...
一:たまたま入ったカフェの店員が
離れていったファンだったみたいで。
和:えっ...?離れていった?
もしかして...
一:うん。その人は別の子に推し変はしてなくて
普通に忙しかったみたいでね?
これからは桜をちゃんと応援していくよって
そのファンの人は言ってくれたみたい。
一:それがまあ、桜にとっては
嬉しかったらしくてウキウキで話してくれたの笑
だから、元気になったのかなって。
あっ、私も着替えに行ってくるね?
和:うん...
美空も更衣室に向かい、私は一人になった。
和:(何よそれ...カフェの店員って...)
絶対、○○のことじゃん...
○○と桜は連絡をとっているってこと...?
この前、電話した時は○○は通話中だったし...
既読が遅くなったのも桜と繋がっているから?
桜とのやりとりが楽しいか?
私なんかどうでもいいから?
私の○○だったのに...
結局、桜に行っちゃうの...?
私は○○に愛をたくさん伝えてきたのに...
和:(そんなの...私は認めない...)
和の闘志に火がついていた。
To be continued
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