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『ラッキーアイテム』 第12話


和:「ねぇ、どういうこと?」



練習場の外に記者の人って...

桜:「分からない。
でも、お母さんが大変な騒ぎって...。」



桜は電話を持ったまま、私たちと話す。

○:「2人とも少しここで待ってて。
コーチたちと話してくる。」

○○はそう言い残して、私たちから離れた。






桜:「はぁ...○○がまた苦しんじゃう...」

電話を切った桜はため息をつく。

和:「どういうこと?」

桜:「○○ってファンが多いでしょ?」

和:「うん。」

私は今まで知らなかったけど彼には多くのファンがいる。

引退を発表する前まではファンレターや
プレゼントを大量に貰っていたとこの前、彼が言っていた。

桜:「その中にはストーカーみたいなファンもいるの...」

和:「えっ⁈」



それって、ファンなの?

桜:「家まで着いてこられることはなかったけど...」


桜:「出待ちとか?もあったりして...
それに悩んでいる時期もあったから...」

和:「じゃあ、今、ファンが押しかけているのって...」

桜:「練習しているのがバレてしまったから。」

彼は氷上の天才だから注目を集めやすい。
だから、こんなに人が集まるのだろう。



彼の姿を見ようとする行動も頷ける。
彼は表舞台に立つことを辞めたし、
近況を見たいファンも記者も多いだろう。

桜:「和、気をつけてね...」

桜は私の手を握り、見つめてくる。

和:「えっ?何を?」



桜:「○○の過激なファンの人が
和に対して、悪口を言ってくる可能性あるから...」

和:「悪口って...どうして?」

私は何も悪いことなんかしてないよ?
私の父親が犯罪者というだけで...

桜:「前にも言ったでしょ?
桜と○○が付き合っていたとき...
桜が少しだけ悪く言われたから...」



和:「確かに聞いたけど...何で悪く言われるの?」

別に彼女が居てもいいじゃん...

桜:「分からないよ...。
でも、理不尽に言ってくる人はいるから...
桜の場合は幼馴染だし、スケートをやっていた事もあって
元々知られていたから、そこまでだけど...」



桜:「和のことは何も知られていないし
強烈に叩く人も出てくると思う...
だから、気をつけてね...」

和:「う、うん...」




数分後、彼が戻ってきた。





○:「明日の昼までに文章を書くことになった。」

和:「文章?」

○:「そのファンの人とかにここに来ないでと
僕の文章で伝えないといけないから...」

和:「なるほど...」

有名人は大変だね。



○:「とりあえず、今日は帰ろう。
協会の人がさっき来て、帰ってもらうように
集まっている人に言っているから。」





そして、彼、私、桜は練習場を後にして
桜の母が待つ車がある駐車場に向かったが...





ファンA:「○○君〜!」

ファンB:「こっち向いて〜!」

ファンの人が数人ほど駐車場の近くに来ていた。

和:「(何よこれ...○○...大変じゃん...)」

想像していたよりも負担がありそう。
こんなに追っかけられていたら練習に集中出来るのかな?

○:「...」

彼はファンのほうを向かずに淡々と歩く。



私と桜も黙って、彼の後をついていく。
ファンの人はそれでも○○を呼び続ける。



桜:「○○と和は後部座席に乗って?
桜は助手席に乗るから...」

和:「うん...」

私たちはすぐに車に乗り込んだ。




桜母:「○○君、大変だね。」

桜の母は車のエンジンをかける。

○:「はぁ...」

シートベルトをつけた彼はため息をつく。

和:「○○...大丈夫...?」

隣に座る私は彼の手を握った。

○:「うん...まあ...何とかなるかも...」



○:「競技復帰しようとしている事を
隠していた僕も少しだけ悪いと思うし...」

平然を装おうとしているのがバレバレだ。

和:「大丈夫だから...私が支えるからね...?」

私は○○の彼女。ちゃんと支えるんだ。



○:「ありがとう...和。」

彼は私に微笑みかける。



この笑顔をもっと見ていたいし
彼が苦しむ姿はもう見たくない。私が守ってあげるんだ。

桜母:「先に○○君を降ろすからね。
その後は和ちゃんの家に。」

○:「分かりました。」

私たちを乗せた車は病院に向かった。









翌日










和:「何これ...」

朝起きて、テレビを観ていると
○○に関するニュースが流れていた。

遠:「○○君は有名人だから仕方ないかもね...」


目の前に座る姉はテレビを観ながら、パンを食べている。

和:「仕方ないって...」

彼はまだ病み上がりなのに...



遠:「数字がとれる人なら、マスコミは追っかけるの。
○○君はメダリスト候補だったからね...」

ファンも熱狂的だから余計にそうなるのか...
でも、それによって彼は苦しむ。

和:「私が支えてあげなくちゃ...」

私が彼女だから、ちゃんとしなきゃ...




放課後



私はいつもと同じように彼の練習場に向かった。

和:「(彼のファンの人は居ない...)」

昨日の騒ぎは嘘のようで
練習場の周辺に人は居なかった。

和:「○○は練習中かな...」

練習場に入るためのパスを受付で見せて
私は練習場の中に入った。



○:「あ、和。」

彼はリンクの側の椅子に座っていた。

和:「練習してないの?」

いつもなら、ずっと練習していたのに
彼はジャージ姿でのんびりしているようだった。

○:「ちょっと、ゆっくりしたくて。
朝から文章考えていたから。疲れたの。」



○:「協会のホームページに載っていると思うよ。」

彼はスマホの画面をタップする。

○:「ほら。」

和:「どれどれ...?」

私は彼の横に座り、スマホの画面を覗く。





数ヶ月前、私は病気の治療を行いました。
現在は競技活動へ復帰するために日々練習をしております。
私の様子が気になる方々も多いと思いますが
まだ、皆様に見せられるような状態ではないですし
練習に集中したいので練習場には
近づかないでいただけると幸いです。
マスコミの皆様に練習を公開する日も設けようと思っています。皆様のご理解とご協力のほど、よろしくお願いします。

冨里○○






○:「とりあえず、これでいいのかな?
まあ、これで練習には集中出来そうだから...」

彼はスマホをリュックに仕舞う。

○:「和が僕を心配する必要はないよ。」

和:「そうだねっ...!」

私が思っている以上に彼は強かった。



○:「軽めの練習は終えたから、帰ろうかな。」

和:「えっ?じゃあ、私がここに来た意味は...」

学校から練習場まで意外と距離あるんだよ?

○:「デートしようよ。久しぶりに。」

和:「放課後デートってこと?」

○:「そう。僕は放課後じゃないけどね(笑)」




和:「やった...///」

私は小さくガッツポーズをする。

和:「でも、どこでデートするの?」

お金なんかほとんど持ってきてないし...

○:「イルミネーションの通りを歩いたり、
ウィンドウショッピングとか?」

和:「いいね...///」



○:「じゃあ、行こっか。」

彼は私に向けて、手を差し出す。

和:「うんっ!」

私はその手を優しく握る。
彼も握り返してきた。

○:「和の手は暖かいね。」

和:「ありがと...///」

私たちは手を繋ぎながら、練習場の外に出た。




○:「何かお揃いの物とか買いたいよね。」

彼は手すりをしっかりと握り、
私たちは練習場の外の階段を降りている。

和:「お揃いのもの...?手袋とか?マフラーとか?」

○:「マフラーにしようかな。
最近、首元が寒くて...ちょうど良さそう。」

ということでマフラーが売っているお店へ向かった。







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○:「どの色がいいんだろう...」

彼は店棚にあるマフラーを一つ一つ見ていく。

○:「和は何色がいい?」

和:「その赤と白のマフラーが気になってる。」

3段目に置いてあった赤色と白色のボーダー柄の
マフラーが私は欲しいと思っていた。

○:「これ?」

彼はそのマフラーを手にとり、尋ねる。



和:「うん。それ。」

○:「僕が気になっていたやつと同じだ。
じゃあ、これにしよっか。」

和:「うん!」

彼はマフラー2点をカゴに入れて、レジへ持っていく。

和:「あ、お金...」

私の財布にはお金がほとんど入っていない。



○:「大丈夫。僕が全部出すから。
普段の感謝も込めてね。」

和:「ありがと...!」

彼にはいつも貰ってばかりだから
何か恩返し出来たらいいなぁ...

彼がレジで会計をしているのを待っている間
私はそんな事を考えていた。






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○:「お揃いっていいね。」

購入したマフラーを首に巻いて
私たちは街中を歩いていた。

和:「うん...///」

周りの人からはどんな風に見えているのかな。
カップルに見えているのかな。

○:「似合ってるよ。そのマフラー。」

彼は私のマフラーを触りながら、微笑んだ。

和:「○○も似合ってるよ!」



彼とのやりとりは本当に楽しくて、心が躍るんだ。

○:「あっ...」

彼が何かを見て、立ち止まった。

和:「どうしたの?」

○:「スケートリンクがある...」

彼の視線の先を確認すると

和:「本当だ。こんなところにあるんだ。」



リンクの近くに向かうと期間限定と書かれていた。
特設されたものだろうと推測できた。

○:「ねぇ、和?」

和:「ん?」

○:「一緒に滑る?」

彼はリンクを指差して、私を誘ってきた。

和:「えっ?私、靴とか持ってきてないよ?」



○:「レンタル出来るみたいだから。」

和:「じゃあ、一緒に滑ろうかな...」

彼と居られるだけで私は楽しい。
彼との時間を出来る限り味わいたい。
だから、拒否する選択肢はなかった。





和:「よいしょ...」

靴を履いて、氷の上に踏み入れるが
上手くバランスをとることができない。

和:「ふらついちゃう...」

○:「大丈夫。僕が支えてあげるから。」

彼はずっと私の手を握ってくれていた。



和:「○○って凄いね...
氷の上で滑るのってこんなに難しいんだ...」

○:「慣れるしかないよ。」

和:「練習しようかな。
○○と一緒に滑りたいから。」

○:「じゃあ、今日は普通に滑れるようになろっか。」

彼の講義が始まった。



彼の教え方は分かりやすくて
数分後には私は彼の支えなしでも滑れるようになった。

和:「○○のおかげだよ!」

○:「和は元々運動神経がいいからだよ。
普通はこんなに早く出来ないから。」

和:「ふふっ...///」

彼に褒められるだけでニヤけてしまう。





彼の支えなしで滑れるようになったけど
彼の支えなしでは生きられなくなっていた。
彼が私の生きがいだった。

和:「でも、ただ滑っているだけだとつまらない...」

彼がくるくる跳んでいたのを
ずっと見ていたから、物足りなくなっていた。

○:「ジャンプなんかやらないでよ。」



○:「こんな不安定な場所で跳んだら、怪我するから。」

分かっている...けど...

和:「...」

○:「はぁ...一緒に写真撮る?」

和:「写真?」

○:「一緒に氷の上で滑った記念に。」

彼はスマホのカメラを私に向ける。

和:「撮りたい!」

彼と写真を撮れる嬉しさから
つい、声が大きくなってしまった。

○:「子どもか(笑)」

和:「○○と写真を撮れるのが嬉しいの!(笑)」

○:「そっか(笑)
ツーショットを撮りたいから
僕にくっついて?」

和:「うん...!///」

私たちはくっついて、写真を撮った。



写真の私は本当に幸せそうで
彼にゾッコンというのが丸分かりだった。

○:「今撮ったのをメールで送ればいいよね?」

和:「うん!」

先ほど撮った写真が彼から送られてきた。

和:「ふふっ...///」

ずっと見ていられるよ...///


和:「待ち受けにしちゃった...///」

待ち受けの画面を彼に見せた。

○:「同じことを考えているね。」

彼の待ち受け画面も私との写真に変わっていた。

和:「待ち受けもお揃い...///」

今日はずっとニヤけてしまう。







ただ、幸せだった。








私たちはリンクを後にして、通りを歩いていた。

○:「この後、どうする?
イルミネーション見に行く?」

和:「行きたいけど、時間ないよね...」

彼が病院に戻らないといけない時間が近づいていた。

○:「また今度にする?」

和:「うん!」


○:「クリスマスイブとか?」

和:「いいね!ありかも!」

クリスマスにデートはスペイベすぎる...///

○:「でも、イルミネーション見るだけだとなぁ...
ちょっと、物足りないかもしれないよね。」

それは思った。
クリスマスならもっとパーティーとか...
特別な日だから派手なことをしてみたかった。
もう一つ何かをやってみたかった。

和:「あのさ...もう一つやりたいことがあって...」

だから、私は彼に伝えることにした。

○:「やりたいこと?」

和:「うん...///」

私がやってみたかったことを。





和:「私の家に来てほしい...///」






○:「和の家?」

和:「うん.../// 前にハンバーグを作るって言ったでしょ?」

※第9話 参照

○:「うん。言った。」

和:「まだ作れていないから...やってみたいなって...///
あとはクリスマスだからプレゼント交換とか?」

○:「いいね。じゃあ、イルミネーションを見た後に
和の家に行くということでいい?」

和:「うん!それでいい!」

濃い一日になりそう...///

○:「プレゼントを持っていかないといけないか...。
うーん。何にしようかな。」

和:「私も何にしよう...」

文房具とか?
でも、身につけるものもありかも...
悩むよ...

○:「まあ、クリスマスイブまではお互い内緒ね。」

和:「うん!」

彼はどんなプレゼントを選んでくれるのかな?

○:「あと、これは僕のわがままなんだけど...」

和:「うん...?」







○:「その日、和の家に泊まってもいいかな?」









和:「えっ?私の家に泊まる?」

○:「うん。24と25は出来る限り、
和と一緒に過ごしたいから。」

和:「えっ?病院に居なくてもいいの?」

彼は春くらいまで入院しないといけないはずだけど...

○:「一日くらいはいいよって
この前、史緒里先生に言われて...
クリスマスがちょうどいいかなと思って...」

和:「そうなんだ!
じゃあ、お母さんとお父さんに聞いてみる!」

多分、泊まる許可は出してくれると思うし...

ん?待って...泊まるってことは...

和:「...///」

○:「どうしたの?」

彼が私の顔を覗き込む。

和:「な、なんでもないよ...///」

そういう展開になったりして...///
一応、あれも用意しておこうかな...///






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○○と別れて、私は帰宅した。

和:「ただいま〜。」

遠父:「和、おかえり。」

玄関で靴を脱いでいると、リビングから父が来た。

和:「あ、お父さん。今日は早いね。」

父が帰ってくるのはほとんど夜中だった。

遠父:「仕事が早く終わったからな。」

和:「お母さんはいる?」

遠父:「今、夕食の準備をしているよ。」

和:「ちょうどよかった...」

リビングに向かい、○○がクリスマスイブに
泊まりに来てもいいかどうかを聞いた。

和母:「泊まり⁈」

遠父:「お、おいっ...泊まりって...」

父は何故か慌てている様子。

和:「お父さん、何想像してるの...///
○○は私と一緒に過ごしたいだけだから...」

そういう素振りは見せなかった。

和:「泊まりに来てもいいかどうか聞いているだけ...」

遠父:「いいぞ。彼が来た時に挨拶だけをして...
俺たちは旅行にでも行くか?」

和母:「え?旅行?」

遠父:「和と○○君の邪魔をするのは申し訳ないだろ。
俺たちはさくらと一緒に温泉旅行にでも...」

和母:「でも、和は旅行に行けないけど。」

和:「いいよ!気にしないで!
私は○○と過ごす方が旅行よりも楽しいから...///」

ということで、私と○○が
二人きりで過ごすことが決まった。





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お風呂から上がった後

和:「2人きりで過ごせるよ...っと...」

泊まってもいいことを彼にメールで伝えた。

和:「ふふっ...///」

数秒後...

「良かった。2人きりのクリスマスは楽しもうね。」

と彼から送られてきた。

和:「はぁ...///」

おやすみとスタンプを送り、
私は待ち受け画面を眺める。

和:「好き...///」

彼への想いを呟いた私は眠りについた。

その日から私はクリスマスを楽しみに毎日を過ごそうとした...








しかし、3日後...







和:「(えっ...何だろう...)」

いつも通り、学校に行き、廊下を歩いていると
他のクラスの人にジロジロ見られていた。

和:「(気のせいかな...寝癖もないはずだし...)」

毎日、しっかりと身だしなみをチェックしているから
特に問題はないはず...

気のせいだと思い込み、教室に入った。


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桜:「あっ...和...」

教室に入るなり、桜が私の元に来た。



和:「ねぇ、私に何かついてる?
廊下を歩いている時に視線をずっと感じていたんだけど...」

桜:「もしかして、和、知らない...?」

和:「何が?」

桜:「あのね...」











桜:「今朝のネットニュースに...
○○と和の記事が出てるの...」









和:「えっ.......?」




【第13話に続く】








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