『桜は散り、歯車が止まる』第2話
第2話 『桜を知る者たち』
・○○サイド
○:「はぁ...」
今日は授業がないため、ゆっくり起きた。
○:「夢じゃないんだよな...」
枕元に置いてあったスマホを手にとり
乃木坂46の5期生ブログを開くが
やっぱり、さくたんは居なかった。
○:「はぁ...」
今までと違う現実に体がついていかない。
○:「とりあえず、把握しなきゃ...」
さくたんが居なくなったこの世界はどうなっているのか。
変えようとする前に現状を把握する必要があった。
○:「まずはミーグリ...」
僕は普段からさくたんのミーグリに参加している。
さくたんが居なくなったことで
僕が所持していた券はどうなっているのか。
僕はミーグリのサイトを確認した。
○:「井上和...3枚...」
先日まで川﨑桜3枚となっていたのに
全日程が井上和3枚に代わっていた。
○:「今まで消費した券も和ちゃんに代わっている...」
どうやら、僕の推しは井上和になっている。
ミーグリの券と△△の発言で断言出来る。
○:「えっ。明日、ミーグリじゃん。」
日付を確認すると、明日、井上和とのミーグリがある。
1部と2部に券があった。
○:「券もそこそこあるから...どうしようかな...」
今まで話したこともないのにどうすればいいか。
和ちゃんはさくたんのことを覚えているのか。
僕は何を話せばいいか、一日をかけて考えることにした。
○:「その前に課題をやらなきゃ...」
さくたんの生写真を横に置いて、僕はパソコンを開いた。
○:「うげっ...3000字...今日は一日潰されるかな...」
一方、その頃...
和:「(桜がいた痕跡はあるのかな...)」
桜がいなくなった次の日、私は事務所に来ていた。
ここには何かヒントがあるはず。
私はそう考えた。
でも...
和:「ない...」
桜がいた痕跡は何一つ残っていなかった。
いつもは写真とかが事務所に残っていた。
でも、桜がいる写真は残っていない。
諦められなかった私はマネージャーに聞いた。
「5期生は10人ですか?」って...
複数のマネージャーやスタッフさんに聞いたけど
全員が「そうだよ。」と答えた。
私は
「そうですよね...変なこと聞いてすみません」
と何故か謝った。
変なのはマネージャーの人たちなのに...
変なのはこの状況なのに...
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和:「桜...どこ行っちゃったの...」
私は事務所の一室にあるソファに座り、天井を見上げた。
和:「ここで2人で写真を撮ったのに...」
私のスマホにあるフォルダには桜との写真があった。
和:「はぁ...手がかりがあればいいのに...」
ため息をついた私は桜の写真を眺めた。
ガチャ...
眺めていたその時、部屋の扉が開き...
久:「あれ?なぎちゃん?」
和:「久保さん...」
私たちの先輩である3期生の
久保史緒里さんが部屋に入ってきた。
久:「ここで何してるの?」
和:「ちょっと、ゆっくりしたくて...」
私は慌てて、ソファから立ち上がる。
くつろいでいるところは先輩に見せられません!
久:「ねぇ?」
久保さんが私の目を覗き込む。
和:「は、はい...何ですか...?」
少しだけ圧をかけられた私は畏ってしまった。
久:「何か悩んでる?」
和:「な、悩みですか...?」
久:「うん。なぎちゃんの表情が
悩んでいるように見えたんだけど。」
久保さんは凄いと思った。
久保さんも桜のことを忘れているのか
確認したかったから、私は悩みを話すことにした。
和:「実は人探しをしているんです...」
久:「人探し?」
和:「私にとって、大切な人なんです...。
急に居なくなっちゃって...それで...悩んでます...」
川﨑桜が乃木坂からいなくなったと最初に言ってしまうと
5期生たちと同じような反応をされてしまうと思い、
私は桜のことを隠し、人探しと伝えた。
久:「手がかりとかは?」
和:「何もないんです...
だから、どうすればいいのかなって...」
この時点で久保さんは桜のことを覚えていないと確信した。
桜を覚えていれば、すぐに桜のことだと気づくから。
久:「その子の名前とかは?」
和:「川﨑桜っていいます。」
久:「川﨑桜ちゃんね...分かった。
私も探すのを手伝うよ。」
和:「本当ですか⁈」
久:「うん!後輩が悩んでいるのを助けたいからね!」
和:「ありがとうございます!」
私は頭を下げた。
久:「といっても...
私はその子について何も知らないし...
助けになれるかは分からないけど...」
和:「そうですか...」
やっぱり、久保さんも覚えていない...
久:「また、手がかりがあったら教えてね!
あと、悩みがあったら、いつでも相談して?」
和:「はいっ!ありがとうございます!」
でも、嬉しかった。
この世界にたった一人の仲間が出来たようで...。
私の暗かった気持ちがほんの少しだけ明るくなった気がした。
私は事務所を後にした。
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数時間後...
・久保サイド
私は楽屋の椅子に座っていた。
久:「...」
?:「なに、思い詰めているの?」
久:「えっ?」
私は顔を上げた。
久:「梅...」
梅:「よっ。」
同期の梅澤美波だった。
与:「せっかくの撮影なのに表情暗かったら台無しだよ?」
蓮:「美月もそのクマを直してよ。」
同期の与田祐希、岩本蓮加も楽屋に入ってきた。
山:「分かってるよ(笑)」
同期の山下美月は眼の下にクマを作っていた。
美月は忙しいのにどの仕事にも全力だ。
本当に凄いと思う。
梅:「で?冴えない表情だったけど?」
梅が私の右隣に座る。
与:「5期生が頑張ってきてるから焦っているとか?」
蓮:「私たちも負けてられないもんね。」
与田と蓮加は私の向かい側に座る。
久:「いや、焦っているというか...助けたいというか...」
山:「助けたい?」
美月は私の左隣の椅子に座る。
梅:「確かに助ける立場だもんね。私たちは。」
梅の言う通り。
私たちはもう後輩じゃない。
これから、引っ張らないといけない立場だ。
後輩が悩んでいたら、助けないといけない。
久:「それでね?さっき、和ちゃんが悩んでいたけど
私が力になれなくて、どうしようかなと思って...
思い詰めていた感じかな。」
和ちゃんの表情が明らかに冴えていなかったから
私は力になりたいと思っていた。
山:「...和ちゃんが?」
与:「和ちゃんが悩むって何だろう。
堂々と振る舞っているのに...」
蓮:「どんな悩みだったの?センターの重圧とか?」
久:「いや、乃木坂に関係ないことかな。
和ちゃんの大切な人が急にいなくなったみたいで。」
山:「大切な人...?」
梅:「どういうこと?人探しってこと?」
久:「うん。そんな感じだと思う。」
山:「誰を探していたの?何か言ってなかった?」
久:「和ちゃんが探している子の名前は聞いたの。」
梅:「女の子なの?」
久:「うん。川﨑桜って子だって。」
山:「えっ...?」
蓮:「誰?」
与:「それ以外に何か言ってなかったの?」
久:「いや、名前しか聞いてないから...
でも、本当に大切な人っぽかったよ。
和ちゃんの表情が明らかに暗かったから。」
梅:「グループのことじゃないと...
私たちは助けられないよね...」
山:「う、うん...地元の友人かもしれないし...
ちょっと、私は手伝えそうにないかな...」
梅と美月の言う通り、地元の友人の可能性も全然ある。
私たちが介入できるのはグループに関することだけ。
久:「だよねぇ...」
だから、助けたくても助けられない。
梅:「まあ、私たちは活動のことをサポートしよう?
5期生10人が今後も活躍できるように。」
山:「...そうだね。誰も欠けないように。」
与:「5期生は期別ライブもあるし
私たちも出来る限り手伝おう!」
久:「そうだね!」
2月にはバースデーライブがある。
グループの大切なライブの一つだから
グループ全員で乗り越えないとね。
蓮:「そういえば、美月...そのペンダントどうしたの?」
山:「これ?」
美月は首からペンダントをかけていた。
梅:「どこのブランド?
私、そのペンダントを見たことないんだけど。」
山:「どこのブランドだろう...分かんない。」
美月は微笑み、首を傾げる。
与:「分かんないって...どこで買ったの?」
山:「...これは貰い物だよ。」
久:「朝ドラ女優になれると
そんなに良いものを貰えるんだね。」
山:「いじってる?」
美月は微笑み、私に視線を移す。
久「いじってないよ。」
本当は少しだけいじった。
山:「あのさ、撮影まで何分くらいあるかな?」
美月がスマホを持って、立ち上がる。
梅:「20分くらいあるけど、どうしたの?」
山:「んー?外の空気を吸いたくて。」
そう言い残して、美月は楽屋の外に出た。
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・山下サイド
山:「...」
美月は外のベンチに腰を掛け、スマホを触る。
山:「さて...」
そして、??に電話をかけた。
?:「もしもし...?」
山:「明日の夜、空いてる?」
?:「明日の夜ですか...?
空いてますけど...どうかされましたか?」
山:「あなたと少しだけ話したい。
場所はまた後で連絡する。」
?:「分かりました。失礼します。」
ツーツー...
山:「後輩を助ける立場か...」
私はスマホを仕舞い、再び楽屋に戻った。
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翌日
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12月25日
桜が居なくなって、3日が経った。
今日はオンラインミート&グリート。
ファンの人と話せる大切なイベント。
和:「...」
私は楽屋の隅にある椅子に座っていた。
和:「(他の先輩方は覚えていないのかな...)」
久保さんは覚えていなかったけど
他の先輩は覚えているのかもしれない。
和:「(よし...聞きに行こう...)」
私は席を立ち、先輩たちのいる楽屋に向かった。
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遥:「和ちゃんが私たちの楽屋に来るなんて珍しいね。」
楽屋に行くと、賀喜さんが話しかけてきた。
和:「ちょっと、相談したいことがあって...」
柴:「相談?」
柴田さんも私たちの近くに来た。
和:「はい...私の大切な人が急に居なくなって...」
遥:「大切な人?」
柴:「それが私たちに相談したいこと?
私たちが助けになれるかな?」
和:「本当に大切な人なんです!」
私は訴えた。桜は大切な人だって。
乃木坂にとっても大切な人。
遥:「そんなに大切なら警察に行ったほうが...」
和:「いや、警察は...」
警察は使いたくない。
私は川﨑桜が何で乃木坂から
居なくなっているのかが知りたいだけ。
和:「自分で探したいんです...」
これは私がやるべきこと...
?:「自分で探したいのなら
相談しても意味ないんじゃない?」
和:「えっ...?」
後ろから話しかけられて、私は振り向く。
遥:「あっ、さく。」
和:「さくらさん...」
遠:「私たちに相談しても意味がない気がするよ。
それに大切な人って抽象的すぎるよ。」
さくらさんが微笑みながら、私の目を見た。
和:「...」
柴:「確かに。抽象的すぎるね。」
さくらさんの言う通り。
私は賀喜さんと柴田さんに桜について何も話していない。
遥:「その人について何も手がかりはないの?」
和:「えっと...私の大切な人の名前は...川...」
私が桜の名前を言おうとした時
遠:「川﨑桜?」
さくらさんが桜のフルネームを言った。
和:「えっ...どうして...?」
なんで、さくらさんが桜のフルネームを...
遠:「この前、和ちゃんが変なことを言い出したって
さっき、五百城ちゃんから聞いた。」
和:「茉央が...」
変なことって...変じゃないよ...
桜は乃木坂だよ...5期生だよ...
遠:「幻覚をまだ見ているのなら
今日のミーグリは休んだほうがいいよ。」
和:「...」
終わった...もう無理だ...
絶望しかなかった。
この様子だと他の4期生さんにも
私が変なことを言い出したと伝わっていそう...
もう、これ以上、桜のことを探せない...
和:「失礼しました...」
遥:「う、うん...」
私は賀喜さん、柴田さん、さくらさんに
頭を下げて、先輩たちの楽屋を後にした。
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・遠藤サイド
遥:「ねぇ、さく?
あんな風に突き放してよかったの?」
和ちゃんが居なくなった後、遥香が話しかけてきた。
遠:「えっ?」
遥:「和ちゃん、困っていそうだったじゃん...」
遠:「じゃあ、遥香は川﨑桜という名前に聞き覚えあるの?」
遥:「それは無いけど...」
遠:「そういうこと。
聞き覚えのないものに首を突っ込んでも
かえって迷惑になるだけ。」
遥:「そうだよね...」
そう言い残して、遥香は私から離れていった。
遠:「...」
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・和サイド
和:「(何よ...さくらさんも覚えていないじゃん...)」
私は涙を堪えながら、自分たちの楽屋に向かっていた。
和:「(賀喜さんも柴田さんも桜のことを知らなかった...)」
?:「和ちゃん、どうしたの...?」
和:「あっ...北川さん...」
悠:「泣いてるよね?」
桜と仲良しの北川悠理さんが私の目の前にいた。
和:「い、いえ...なんでもないです...」
悠:「あっ...」
私は北川さんを避けるようにその場を離れた。
和:「(もうこれ以上...先輩たちに迷惑をかけられない...)」
私一人で頑張るんだ...
悠:「和ちゃん...」
和:「...」
私一人で桜を探すんだ。
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ファンA:「バスラ落ちちゃったよ...
二次先行で当たるように頑張るね!」
和:「うん!待ってるね!」
私はすぐに切り替えようとした。
今日はミーグリ。
ファンの人と話すイベントだから
暗い表情をしているとファンの人にも迷惑をかける。
ファンB:「スタ誕ライブ良かったよ!」
和:「あ、ありがとう...!」
切り替えようと思っても、頭の片隅には桜がいた。
今日はスタ誕ライブの感想を伝えられることが多い。
私の記憶では、桜がセンターで
桜がみんなを引っ張って、ライブを終えた。
でも、他の人の記憶がどうなのかは分からない。
ファンの人は桜のことを何も言ってこなかった。
だから、ファンの人も忘れているんだろうなって
何人ものファンの人と話すたびにそう思わされ、
和:「(はぁ...桜...)」
私は諦めモードになっていた。
和:「(あ、次の人が来る...)」
私は表情をアイドルモードに切り替えて
次の人を待っていた。
○:「あ、初めまして...」
画面が切り替わり、ファンの人の顔が映る。
和:「はじめまし...えっ⁈」
その人の背景を見た時に私は思わず、声を上げた。
○:「...?」
だって...
和:「そ、その...ポスター...桜の...!!」
その人の背景には川﨑桜のポスターがあったから...
○:「えっ⁈
和ちゃんはさくたんのことを覚えているの⁈」
和:「○○さんのほうこそ...」
嘘だ。桜を覚えているのは私だけだと思ってた。
○:「ねぇ、何でさくたんはいないの...?」
和:「わ、分かんない...
私以外のメンバーは誰一人桜のことを覚えていないの...
だから、どうすればいいのか分からなくて...」
桜を覚えている仲間がいた。
その嬉しさから私の声のトーンは少しだけ高くなっていた。
○:「そうなんだ...」
○○さんの声のトーンも少しだけ上がっていた。
和:「あ、時間になる...」
私の画面から残り7秒表示されていた。
和:「この後もまた来ますか⁈」
○:「えっと、第2部だけ...」
和:「待ってます!その時にまたお話ししましょう!」
○:「うん。分かりました。」
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第1部終了後
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和:「(どうしようかな...)」
私は楽屋の椅子に座り、悩んでいた。
和:「(一緒に桜を探そうって言おうかな...)」
でも、ファンの人と繋がるって...
そういう関係にはならないと分かっていても
やっぱり、躊躇ってしまう。
和:「...」
五:「遠藤さんのペンダントが可愛かった〜」
冨:「あれ、どこのブランドだろうね!」
隣の席に座る茉央と奈央が話している声が聞こえてきた。
和:「(さくらさん...)」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
遠:「自分で探したいのなら
相談しても意味ないんじゃない?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
和:「...」
メンバーは誰一人覚えていないから
覚えている人で探すのがいい。
さくらさんはああいう風に言ってきたけど
自分一人で探す必要なんかない。
桜を見つけだして、助ける。
そして、この狂った世界を元に戻す。
その為にはがむしゃらにやらないと...
桜は私たちにとって大切な人だから。
和:「よし...」
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・○○サイド
○:「なぎちゃんだけはさくたんのことを覚えていた...」
第1部と第2部の間
僕は自室の壁に掛かっている
さくたんのポスターを眺めていた。
正直、賭けだった。
さくたんのポスターを掛けていれば
何か気づいてくれるのかなって。
仮になぎちゃんが覚えていなかったら
僕はさくたんのことを諦めるつもりだった。
○:「これで一歩前進なのかな...」
なぎちゃんが覚えていてくれてよかった。
○:「第二部は何を話そうか...」
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第2部
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・○○サイド
○:「ふぅ...」
第2部、僕はなぎちゃんのレーンに並んでいた。
次が僕の番だ。
数秒後
3・2・1とカウントされて
和:「○○さん。」
なぎちゃんが画面に映る。
○:「あっ、なぎちゃん。」
なぎちゃんが手を振ってきたので、僕も手を振った。
和:「○○さんは都内に住んでいますか?」
なぎちゃんが間を空けずに質問してくる。
○:「あ、そうですけど...」
和:「じゃあ、今日の21時に
乃木坂駅のホームに来てください。」
○:「えっ?乃木坂駅?」
和:「桜のことを一緒に探したいんです!
その時に連絡先を交換してください!お願いします!」
彼女は頭を下げた。
彼女は必死そうだった。
本当に僕に助けを求めていた。
だから、僕は
○:「分かりました。
目印にさくたんの缶バッジをリュックにつけて行きます。」
その誘いに乗った。
和:「はい!じゃあ、また21時に乃木坂駅で!
その時に詳しいことをお話ししましょう!」
お時間ですと表示され、なぎちゃんはフェードアウトした。
○:「なぎちゃんと会うのか...」
ファンとしてどうなのかなと思う。
アイドルとプライベートで会うなんて。
でも、さくたんを探す為なら...
○:「手段は選ばない。」
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20時50分 和サイド
__________________________________________
和:「はぁ...はぁ...」
私はミーグリを終えた後に急いで
乃木坂駅に向かっていた。
ミーグリをやっている最中もこの約束だけを考えていた。
この世界を早く戻したかったから。
桜に乃木坂46に戻ってほしかったから。
今日はクリスマスでみんなと
パーティーをやろうとか話していたけど後回しにした。
桜が優先だったから。
和:「(あっ...)」
改札に入り、ホームに向かうと
○:「...」
あの人が椅子に座っていた。
ミーグリで数十秒しか見てなかったけどすぐに分かった。
雰囲気が他のファンの人とは違っていたから。
私は○○さんの座る椅子に近づく。
○:「あっ...」
近づくと、彼は少しだけ私に会釈をした。
和:「○○さんですよね?」
私は彼の隣の隣の椅子に座り
彼のほうを見ないで問いかけた。
○:「はい。」
彼も私の方を見ることなく
ただ、駅の壁を見ながら、はいと返事をした。
○:「このまま、近くで喋っていると
あなたに迷惑をかけてしまうかもしれないので
私の携帯電話の番号を口頭でお伝えします。」
彼はそう言うと、電話番号を言い始めた。
私はその電話番号を携帯の電話帳に登録した。
和:「じゃあ、今からあなたに送りますね。
私たちの目的である彼女の必殺技を...」
私ほ彼の電話番号にメールを送った。
○:「さくたんさん...」
彼の携帯電話が鳴り、彼はメールの文章を読んだようだ。
和:「届いたみたいですね。」
彼に送ったのはさくたんさんしゅわしゅわ〜という文章。
乃木坂46の川﨑桜を知っている人間なら
この言葉は誰でも知っている。
○:「じゃあ、ここからはメールで...」
彼がそう言うと、私の携帯電話が鳴った。
[本当に5期生はさくたんのことを
覚えていないんですか?]
彼からこんな文章が送られてきた。
和:「...」
私は急いで、文字をスマホに入力する。
和[はい。誰一人覚えていないです。
どうすればいいと思いますか?]
と、私は送った。
○[さくたんの記憶を持つ者が僕たちだけならば
あまりにも少なすぎるので協力者が欲しいです。]
和[というと?]
○[5期生にさくたんのことを思い出させてください。
それしか解決策はないと思います。]
和[でも、桜がいた記憶がみんなに残っているとは...]
みんな、何も覚えていなかった。
本当に桜の記憶が残っている保障はあるのか。
○[必ず残っていると思います。
だって、さくたんは5期生ですから。
5期生は11人だから。
大切な仲間のことは必ず残っているはずです。]
和:「...」
そうだ。桜は仲間なんだもん。
私にとっても、他の5期生にとっても。
だから、○○さんの言う通り、必ず残っているはず。
いや、残っていなきゃおかしい!
○:[5期生の中で唯一彼女のことを覚えている
和さんにしか出来ないと思います。
だから、お願いします。みんなの記憶を戻してください。]
彼の言う通り、これは私にしか出来ない。
和:「分かりました。」
彼が送ってきた文章に対して、私は口頭で返答した。
和:「私が必ずみんなの記憶を戻します。」
○:「お願いします。
僕も出来る限り、さくたんを探してみます。」
彼も口頭で返答した。
和:「お願いします。じゃあ、この辺で...」
私は荷物を持って、立ち上がり
○:「ええ...話したいことがあったら、
メールでお願いします。」
和:「はい。」
そして、1番線に来た電車に乗り込んだ。
_________________________________________________
和:「(どんな時だって...笑っているから...)」
電車に乗った私はヘッドホンをつけて
彼女のセンター曲である『17分間』を
サブスクで聴いていた。
しかし、彼女のソロパートを歌っているのは茉央と奈央。
和:「(彼女のソロパートを元に戻したい。)」
桜が何かに巻き込まれているのなら、助けたい。
5期生全員で桜のことを探したい。
そして、戻すんだ。
この世界を。
止まった歯車を。
__________________________________________
・○○サイド
○:「さて...」
和ちゃんに5期生全員の記憶を戻すように頼んだ。
○:「僕に出来ることは何なのか...」
和ちゃんは乃木坂46のメンバーだ。
しかも、さくたんと同じく5期生。
でも、僕はただのファンでしかない。
そんな僕に何が出来るのか。
○:「...」
と考えていたその時だった。
カランコロン...
駅のホームに音が響いた。
ホームは静かなため、小さな音でもよく聞こえた。
○:「えっ、何の音?」
僕は音がした方向に向かった。
___________________________________
?:「あわわ...」
ホームへ繋がる階段付近で女性が屈み込み、慌てていた。
慌てる女性の目の前には鞄と筆記具が散乱していた。
先ほどの音は物を落とした音だと推測できた。
○:「拾いましょうか。」
僕は女性の元に駆け寄り、声をかけた。
?:「あっ、ありがとうございます...」
女性は下を向いたまま、返事をした。
○:「これで全てですね。どうぞ。」
僕は拾った筆記具を女性に渡す。
?:「本当にありがとうございます...」
女性が筆記具を受け取るために顔を上げた瞬間
○:「えっ...」
?:「えっ...」
僕は女性の顔を見て、止まった。
だって...
そこには...
○:「さくたん...」
桜:「○○くん...」
僕が探していた彼女がいたから。
第2話 『桜を知る者たち』Fin
【第3話へ続く】
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