『ラッキーアイテム』 第15話
2022年1月下旬
和:「うわっ...報道陣の数が凄いね...」
リンクの外には多数のテレビカメラ。
記者の人たちも100人くらいはいた。
桜:「○○が練習を公開するって言ったからね。」
そう。今日は彼が練習を公開する日。
今までは非公開にしてきた。
最後に彼がメディアの前で滑ったのは半年以上も前のこと。
注目度は高かった。
和:「いつも通り、特等席で見たかったなぁ...」
公開する日ということもあり
私と桜は2階の客席から練習風景を見る。
桜:「あっ...○○が練習を始めるみたいだよ。」
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・○○サイド
○:「ふぅ...」
僕はスケート靴を履いて、氷の上に足を踏み入れた。
首には和から貰ったネックレスをかけている。
○:「(まずは軽く滑ろう...)」
ゆっくりと僕は氷の上を滑る。
滑り始めると、カメラのシャッター音が聞こえてきた。
○:「(少し緊張してきた...)」
大勢の人に見られていると改めて感じさせられ
僕の心臓の鼓動は少しずつ速くなっていた。
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和:「ジャンプしないんだね。」
彼は5分くらい、氷の上を滑っていた。
ただ、滑っていた。
桜:「緊張してるのかな。」
横にいる桜が呟いた。
和:「あっ、メディアの人がいるからってこと?」
桜:「うんっ。久しぶりだからね...
○○がメディアの前に姿を現すのは...」
和:「そっか...」
桜:「あっ、そろそろジャンプするかも...」
彼は少し勢いをつけて、滑り始め...
桜:「あっ!トリプルアクセル!」
和:「私に最初に見せてくれたやつだ...」
彼は3回転半のジャンプを跳んだ。
桜は難しいと言っていたが、簡単そうに見えた。
それくらい彼の技術が凄いということだろう。
桜:「ふふっ...メディアの人も拍手してる。」
和:「本当だ...」
彼の滑りに見惚れているようだった。
○:「...」
彼は滑るのを辞めて、リンクから離れる。
和:「あれ?どこに行くのかな?」
桜:「さぁ...お手洗いとか?」
1分後...
○:「和、桜。」
彼が私たちのところに来た。
和:「えっ?練習は?私たちのところに来ていいの?」
○:「このネックレスを渡そうと思って...
今から4回転を跳ぶから...ちぎれたら困るし...(笑)」
和:「あっ...そっか。いつもそうだったもんね。」
4回転の練習をするときは
彼はネックレスを私に預けてきた。
○:「ショートプログラムも
一回通りやってみるから。しっかり見ててね。」
彼はそう言い残して、リンクに戻っていった。
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和:「ショートプログラムってなに?」
単語を聞いたことはあるけど
何なのかよく分からなかった。
桜:「フリーよりも短いプログラムのことだよ。
大体、2分40秒くらいかな?フリーは4分くらい。」
和:「へぇ...」
桜:「あとはどのジャンプをやるのかもほとんど決まってる。」
和:「ふーん。」
また、彼にちゃんと聞いておこっと...
桜:「あっ...4回転跳ぶかも...」
彼は再び勢いをつけて、滑っていた。
和:「おぉ...!」
彼が綺麗にジャンプを決め、私は思わず拍手をする。
桜:「うん。4回転サルコウね。」
和:「難しいの?」
桜:「難しいけど...4回転の中では簡単なほうかな?」
和:「あっ...また、跳んだ。今のは?」
桜:「今のは4回転トウループ。
4回転の中だと一番簡単なやつ。
○○が一番最初に跳んだ4回転だよ。」
和:「ジャンプの違いがよく分からない...」
彼にも説明されたけど、よく分かりませんでした。
だって、一瞬でクルクル跳ぶんだもん!!
桜:「それにしても
4回転を簡単に跳んじゃうなんて。
やっぱり、○○は凄いなぁ...」
和:「ねぇ、4回転って他にもあるよね?」
桜:「うん。ループ、フリップ、ルッツ、アクセルがあるよ。
でも、○○が今跳べるのはループだけだよ。
ルッツにチャレンジしたけど、出来なかったから。」
和:「ループってやつだけなの?
前にトウループとサルコウとは違うやつを跳んでたけど...」
桜:「えっ?本当⁈」
和:「うん...さっき跳んだのとは
違うやつが2つあったもん...」
1つは何度も転倒してたし...
桜:「あっ...ループだ...」
彼はジャンプを決めた。
和:「今のも見たことある。」
桜:「じゃあ、和が見たのはルッツかな...?フリップかな...」
和:「...」
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○:「はぁ...」
4回転ループを跳んだ僕は少しだけ立ち止まる。
○:「(今からやるジャンプが一番緊張するな...)」
桜と付き合っていたときは成功したことがなかった。
でも、和といる時に練習していると
何故か少しずつ感覚を掴めるようになってきた。
○:「うんっ...」
僕は決心をして、再び氷上を滑り始めた。
○:「...」
左足のアウトサイドエッジで後ろ向きに滑り...
右足のトウをついて、跳んだ。
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和:「おお...!」
彼は何度も転倒していたジャンプを決めた。
桜:「4回転ルッツだ!!!」
桜は興奮のあまり、立ち上がった。
和:「今のが4回転ルッツなの?」
桜:「うんっ...!世界でも数人しか跳べないのに...
それにまだ練習を再開して、2ヶ月弱で成功なんて...」
桜は普段よりも早口になっていた。
桜:「和と付き合ったからかな...」
和:「えっ...?」
桜:「和が○○をずっと支えてくれたから
難しいジャンプも成功できたんだと思う...」
和:「桜...」
桜:「ふふっ...なんか、悔しいな...
桜と付き合っている時よりも成長しちゃうなんて...」
桜は涙を浮かべる。
和:「...」
そうだ...桜はずっと○○のことが好きだった。
彼を救うために全力を尽くしていた。
それなのに...
転校生だった私が
ぽっと出の私が
○○と距離を縮めた。
そして、付き合った。
和:「桜...ごめんね...」
桜は辛いのに私と接してくれていた。
私は感謝と謝罪を込めて、桜にギュッとハグをした。
桜:「気にしないでいいよ...
○○も和のことが大好きだから...
あなたたち2人は両想いだから...」
和:「桜...」
桜:「○○の側にずっと居てほしい...
○○をこれからも支えてあげて...?」
和:「うんっ...もちろん...」
桜の想いもあるんだ...
私はこれからも○○の側に絶対にいると決意をして
彼の練習を黙って、見届けた。
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練習後
・○○サイド
僕は報道陣の取材を受けていた。
記者:「今年から大会に参加するのでしょうか?」
○:「分からないです。フリーを出来る体力を
作らないといけませんし、できる目処が立ったらですね...」
ショートだけでも今はキツいです。
記者:「4回転ルッツを着氷されましたが
フリップやアクセルに挑戦する予定は...」
○:「挑戦はしてみたいですが
今はルッツと既存のジャンプの完成度を上げたいです。」
記者:「ご家族の死と自分の病気もありましたが
心境の変化などはありますか?」
○:「...すみません。少しだけ考えさせてください...」
僕は1分程度、頭の中で整理をした。
振り返った。
前の自分と何が変わったのか...
○:「以前の自分は僕がやらなきゃとか...
抱え込むことが多かったです。
家族が死んだ時も自分だけ生き残ったことに
責任をものすごく感じていました。」
○:「でも、今は周りの人をもっと頼ってもいいかなって...
支えてくれる人がたくさんいることを知れて
もっと、わがままに生きてもいいかなって
自分の心が以前よりも軽くなりました。
だから、こんなに早く4回転を跳べているんだと思います。」
多くの人に支えられた。
名前を挙げればきりがない。
でも、一番は
和と出会ったから。
和が僕のそばに居てくれたから。
こんなに愛したいと思える人に出会ったことがなかった。
早く結婚をしたい。
一緒に暮らしたい。
お互い高齢になっても、ずっと側にいたい。
歳をとって、亡くなっても
天国で永遠に和と暮らしたい。
和と永遠に一緒にいたい。
僕の願いノートの1ページ目に
メダルを獲りたい、生きたいと
2つの願いごとを書いたけど
『和と永遠に一緒にいたい』と
病院に戻ったら、1ページ目に書こうと僕は決めたんだ。
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その日の夜...
・和サイド
遠:「○○君のニュースばかりだね。」
和:「うん。」
4回転ルッツを決めたことで
夜のニュース番組は○○の内容ばかりだった。
こんな凄い人が私の彼氏と思うと、誇らしい。
和母:「○○君も頑張っているんだから。
和も美大に合格するように頑張りなさいよ?」
和:「分かってるよ!」
来月から予備校に行く日を増やすから。
○○にもそれは伝えてある。
それはしょうがないね。
お互い頑張ろうねと○○は言ってくれた。
でも、寂しいと抱きつかれた(笑)
和:「(合格して、○○と一緒に
居られる時間を早く増やしたいなぁ...)」
この日から私は絵の勉強を真面目にやることにした。
○○も頑張っているから、私も頑張る。
いつか...○○の衣装をデザインしたいという夢もあった。
彼にはまだ明かしていなかったけど
美大に合格したら、伝えようと思っていた。
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そして、時は少し流れ...
2022年2月4日
彼が出場する予定だった
オリンピック開幕の日がやってきた。
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午前7時
"今日から4年に一度の祭典"
テレビからアナウンサーの声が聞こえる。
遠:「今日からオリンピックだね〜。」
姉はテレビを観ながら、ご飯を口にする。
和:「うん...」
本来であれば、○○が出場する予定だった。
そう思うと、寂しさを少し感じる。
遠:「○○君は4年後だから。それに彼なら獲れるよ。」
和:「そうだねっ。」
順調に彼は成長している。
寂しさを感じる必要はない。
彼は必ず金メダルを獲る。
願いを叶える。
アナ:「それでは、星座占いのコーナーです!」
和:「1位は射手座...」
スポーツニュースが終わり、今は星座占いのコーナー。
和:「ラッキーアイテムはネックレス...」
遠:「星座占いか...懐かしいね...」
和:「うん...」
私は星座占いを参考にして
茉央ちゃんと会うことを決めた。
彼を救うことができた。
今思えば、転校する日の星座占いも当たっていた。
私はプリントを渡すために咲月と一緒に彼の病室へ行った。
新たな出会いがあるということも当たっていた。
そう思うと、占いを参考にするのも悪くない。
フラれたと思い込んだ時の日の占いは外れたけどね。
占いは参考にしないほうがいいと彼に言われたが
ほとんどの機会で当たっていたから、参考にしたくなる。
和:「(ラッキーアイテムはネックレス...)」
私のあげたネックレスがラッキーアイテムになるだろう。
遠:「みずがめ座は2位だって。」
和:「うんっ...」
今は占いも運も神様も彼の味方だ。
彼が幸せになるような手助けをしてくれていた。
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放課後...
○:「あっ、和。」
和:「やっほ〜。」
私は普段と同じように練習場へ行った。
○:「来るの早くない?」
和:「今日は5限までだったからね。
いつもより少し長く居られるよ。」
2月に入り、私は予備校へ行く日が増えたこともあり、
彼と一緒に帰れる日も少なくなっていた。
でも、予備校へ行く前に
少しだけ練習場に寄るようにしていた。
○:「よかった。少しだけお喋りしよう。」
私たちはリンクの外にあるベンチに腰掛けた。
○:「今日からオリンピックだね...」
和:「寂しい?」
○:「寂しくないと言ったら、少しは嘘になる。
出たい思いが強かったから...。」
そうだよね...
奈央ちゃんや桜と約束していたもんね...
○:「でも、和と出会えたから良かった。
自分が成長出来た気がする。前よりも強くなれた。
だから、そこまで寂しくはないかな...」
○:「和と付き合えている今が一番幸せだよ。」
彼は私の手を握る。
和:「私も○○と付き合っていて、幸せだよ。
本当はもっと一緒にいたい。勉強なんか辞めたい。
何も考えずに○○と一緒にずっといたい。」
○:「わがままだね。」
彼はクスッと微笑む。
○:「でも、僕も同じだよ。
メダルを獲ったら、何も考えずに和と一緒にいたい。」
和:「私たちの願いだね。」
○:「うん。和との時間が永遠に続いてほしい。
ずっと、一緒にいたい。僕は井上和依存症かもね...(笑)」
和:「私も冨里○○依存症だよ(笑)」
顔を見合わせながら、私たちは笑った。
それから、私たちは他愛もない話をしていた。
それが心地よくて、幸せだった。
幸せな時間はあっという間に過ぎるもので
気がつけば、予備校へ向かう時間になっていた。
和:「そろそろ、行かなきゃ。」
○:「本当は離れたくないけど...しょうがないね...
和も頑張らなきゃいけないもんね...」
和:「うん...明日は休日だから、もっと喋れると思うよ!」
今日は金曜日。
明日も予備校はあるけれど、午前中は全て空いていた。
○:「楽しみにしてるね。」
和:「うんっ!じゃあ、練習頑張ってね!」
私は荷物を持って、椅子から立ち上がろうとした。
○:「あっ...待って...?」
和:「ん?」
彼に呼び止められて、私は振り向き...
ちゅっ...
和:「ん...」
彼は何も言わずに私の唇にキスをした。
時間にして、10秒弱。
彼の唇は優しかった。
○:「なんか...キスをしたくなった。」
唇を離した彼は照れていた。
和:「ふふっ...///」
○:「ごめんね。何も言わずにしちゃって。」
和:「いいよっ...///」
私も幸せだから。
本当は私もしたいと思っていたから。
和:「予備校へ行ってくるね!
○○も練習頑張ってね!また明日来るね!」
○:「うん。和も頑張ってね。また明日。」
なんでだろう。彼の笑顔が普段よりも印象的だった。
今までで一番眩しかった。
和:「また明日っ!」
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・○○サイド
○:「疲れた...」
練習を終えて、僕はベンチで横になっていた。
○:「和はまだ予備校だよね...」
電話をしたかったけど、僕は我慢した。
和の邪魔をしたくなかったから。
○:「会いたいな...和。」
なぎの笑顔を脳内再生していた。
再生するたびにニヤけてしまう。
気持ち悪いと思われるかもしれないけど
その時間が幸せだった。
和と関わる時間の全てが幸せだった。
プルルルル...(着信音)
僕のスマホに電話がかかってきた。
○:「もしもし?」
桜:「ごめん!!
道路が渋滞していて、少しだけ遅くなりそう!」
桜からの電話だった。
○:「あー。うん。了解。」
桜:「本当、ごめん!少しだけ待ってて!」
ツーツー...
桜の母親に病院まで車で送ってもらっている。
桜が予備校から帰るついででちょうど良かった。
○:「はぁ...お腹空いたな...」
練習後はお腹が空いてしまう。
○:「今日くらいはいいかな...」
普段なら食事を我慢していたけど
今日くらいは良いかなと思い、
僕はコンビニへ向かうことにした。
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○:「寒っ...」
練習場の外に出ると寒さを感じた。
○:「雪降っているんだ...」
しんしんと雪が降っていた。
○:「だから、渋滞しているのかな...」
雪の時は付近の道は渋滞していた。
昔からそうだったから、容易に想像できた。
○:「寒いけど...マフラーがあるおかげでだいぶ暖かいな...」
和とお揃いのマフラーをずっと使っている。
和と手を繋げば、さらに暖かくなるのにと思うと
少しだけ寂しくて、和に会いたい気持ちが強くなった。
和と手を繋ぎたかった。
○:「よいしょ...」
僕はコンビニへ向かうために
練習場の外にある階段を降りていた。
○:「雪で滑るから注意しないと...」
昔、桜がこの階段で転びそうになった。
だから、慎重に歩くことを意識していた。
○:「慎重に...」
手すりを持って、足元を見て、慎重に歩こうとした...
その時だった....
ズキッ.......
○:「うっ...何だこれ...」
急に目が回る感覚に襲われた。
○:「今までこんなことなかったのに...」
めまいの影響で足元がよく見えなかった。
自分の見える世界が揺らいでいるように見えた。
○:「やばっ...手すりはどこ...」
手すりも見失った...足元も見えなかった...
僕は必死に手すりを探して、目眩が治るのを待とうとした。
でも...
○:「あっ.................」
手すりは見つからなかった........
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○:「はぁ...はぁ...」
気づいた時には僕は階段の一番下で横になっていた。
目が回る感覚はなかった。
でも、頭が痛くて、体の色んな部分に痛みを覚えた。
○:「はぁ...はぁ...」
そして、目も少ししか開けていられなかった...
息をするだけで精一杯だった。
○:「(こんな目眩が起きたことはなかった...
病気がまだ完全に治っていなかったのかな...)」
必死に目眩の原因を探そうとした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ep.6
筒:「それなら、良かった。
薬の副作用があったら色々と変えなきゃいけないから。」
和:「副作用ってどんな感じですか?」
筒:「目眩や吐き気かな。あとは眠気とか。
今まで以上に強烈な目眩が来る事例もあるから
本当に注意しないとね。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あっ...これか...
薬の副作用...
今まで何もなかったのに...
どうして、こんな時に起こってしまうのかな...
本当に自分は運がないんだな...
家族は殺され、病気も抱えて...
こんな形で怪我をするなんて...
いや、怪我だけじゃ済まない...
もう...人生が終わったかも...
僕はこういう運命だったんだね....
○:「はぁ..」
和と出会えてよかった...
○:「へへっ...」
もっと...生きていたかったな...
メダルを獲りたかったな...
和と永遠に一緒に居たかったな...
和と結婚したかった....
ごめんね...和...
○:「なぎ...あ...いし...てる...」
バイバイ.......
首元のネックレスを握りしめて...
○:「...」
○○は意識を失った。
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・桜サイド
桜:「やっと着いた〜。」
お母さんが運転する車は駐車場に着いた。
渋滞だったため、15分遅れの到着です。
桜母:「○○君の姿が見当たらないわね。」
桜:「ほんとだ...」
いつもなら、駐車場で待っているのに...
桜:「電話してみるね。」
私は○○に電話をした。
桜母:「どう?」
桜:「ううん...出ない...」
何でだろう...今までこんな事なかったのに。
○○はすぐに電話に出てくれたのに。
桜:「お母さん、探しに行こっ!」
桜母:「そうね。」
嫌な予感がした。
だから、私はお母さんと一緒に○○を探すことにした。
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桜母:「こっちは居なかったわよ。」
桜:「こっちも...」
手分けして探したけど、
練習場の中にはいなかった。
桜母:「おかしいわね...探す場所を少し広げてみる?」
桜:「そうだね。外の階段の周辺とか...」
私とお母さんは練習場の外に出た。
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お母さんと私は外の階段を降りる。
桜母:「ねぇ?誰か倒れてない?」
階段を少し降りると、母が言った。
桜:「えっ...?」
桜母:「暗くてよく見えないけど...
あれって...赤と白のマフラー...」
桜:「ちょっと待って...。それって...!!!」
赤と白のマフラー...
○○は和とデートした時に
赤と白のボーダー柄のマフラーを買ったと言っていた。
桜母:「桜!急がないの!滑るよ!」
桜:「分かってる!!」
ここの階段は滑りやすいし、注意しろと○○に言われた。
ちゃんと覚えている。
だから、私は手すりを持って、駆け足で階段を降りた。
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階段を降りて、倒れている人の近くに行くと...
○:「...」
桜:「○○!!!!」
倒れている人が○○ということがはっきりと分かった。
桜:「なんで、ここで倒れてるの...?
ねぇ!寝てるの?ねぇ!」
寝ているだけと思い、私は彼を起こそうとする。
桜:「なにこれ...血...?」
彼の体を揺らすと、彼の頭部から血が流れているのが見えた。
桜:「嘘だ...まさか...この階段から落ちたの⁈」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ep.2
桜:「嬉しいな…○○と
2人で過ごせるなんて…///」
○:「ほら。この階段はちゃんと足元を見る。」
桜:「あっ、そうだった…」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
なんで...?○○がこの階段を一番注意していたじゃん...
桜母:「桜!」
桜:「お母さん!救急車呼んで!!!」
桜母:「分かった。もしもし...」
母は携帯電話で救急車を呼ぶ。
○:「...」
桜:「やだよ...こんな形で居なくならないでよ!!
○○!生きてよ!和もいるでしょ!
和を残して、このまま死ぬとか許さないから!」
私は○○に呼びかけた。
でも、彼は返事を返してくれなかった。
桜:「○○!!起きて!!!!」
__________________________________________
・和サイド
遠:「開会式だね〜」
和:「うんっ...」
予備校を終えて、帰宅した私は
夕食を食べながら、姉と一緒にテレビを観ていた。
和母:「珍しい。和がスポーツ観るなんて。」
和:「だって、4年後は○○が出るかもしれないから...」
流石に何も知らないのはマズいと思うし。
プルルルル(着信音)
遠:「和のスマホだよ。」
姉に言われて、私はスマホを確認する。
和:「あっ、○○だ。」
噂をすれば...
でも、何の用だろう。
この時間は電話をかけてこないはずだけど...。
和:「もしもし〜?○○、どうしたの?」
○○も開会式を観ているのかな...?
そんな事を考えながら、応答した。
桜:「あっ...なぎっ...」
しかし、電話からは桜の声が聞こえてきた。
和:「えっ?桜?なんで?○○のスマホだよね?」
桜の声が聞こえるのはおかしかった。
桜:「うんっ...なぎなら、○○のスマホから
かけたほうが出てくれると思ってかけた...」
和:「えっ?○○に何かあったの?」
桜:「落ち着いて聞いてね...
実は...○○が意識不明の重体で...
乃木病院に救急車で運ばれたの...
だから、今すぐに来てほしい...」
和:「えっ...............?」
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2026年 2月4日
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和:「時が経つのは早いね...○○...」
私は彼の願いノートのページを閉じて、
彼のノートを両手で抱きしめていた。
和:「あの日から...ちょうど4年だよ...?」
そう。あれから4年が経った。
和:「あなたが.........」
和:「天国に旅立ってしまってから......」
和は窓の外に広がる青空を見ながら、涙を流した。
【最終話に続く】
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