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『ラッキーアイテム』 第1話



何かを願う時、人は神様に願う

時には御守りやパワーストーンを買い
人によっては占いを信じたり、財布やバッグの色を変える。

馬鹿馬鹿しいと思ってしまうけど仕方ない。
人は何かに頼らないといられない生き物だから。

"今日から4年に一度の祭典......"

2026年 2月4日の朝

和:「...」

私はトーストを食べながら朝の情報番組をぼーっと観ている。

スポーツニュースが終わり、今は星座占いのコーナー。

今日の1位は【みずがめ座】
ラッキーアイテムは【A4ノート】

"想いを寄せる人に会えるでしょう"

とアナウンサーが言っていた。

和:「...」

どんなにアイテムを買っても
占いの結果がよかったとしても願いが叶うことはない。
占いとラッキーアイテムは何も信用できない。

4年前、私は現実を見せられた。


~~~~~~~~~~~~~~~

2021年 9月1日 

時刻は午前6時30分

和:「眠い...」

眠い目を擦りながら
私はのそのそと這い上がるように
布団を抜け出し、パジャマを脱ぐ。

そして、クローゼットのハンガーに掛かった
シワがついていない新品同然の制服を着る

現在、私は高校2年生。

新品の制服を着ているのは身長が伸びたからでもなく
はしゃぎすぎてボロボロになったからではない。

今日から私は新たな高校に通うから新品の制服を着る。

そう。私は転校生だ。

和:「鏡でチェックしないと...」

和:「寝癖はなし...」

転校生はクラス全員の前に出て
自分の名前を紹介するという苦行が待っている。

そこで制服が着崩れていたり
寝癖があったりすると赤っ恥をかくのは間違いない。

だから、私は念入りにチェックをした。

和:「うんっ...大丈夫...あとは朝ごはんを食べて...」

私は朝食を食べるため、リビングに降り立った。



和:「お母さん…おはよう…」

和母:「おはよう。制服が似合っているわね。」

食器を洗う母は私の全身をジロジロと眺める。

心なしか母の機嫌が良さそう。

和:「寝癖とか大丈夫かな…?」

鏡では限界があるため、私は母に確認する。

和母:「大丈夫だよ。さあ、早く朝食を食べなさい。」

私は炊き立ての白飯と
湯気がうっすらと見える味噌汁の前に座る。

和:「いただきます…」

“冬季五輪のメダル候補…”

テレビはスポーツのニュースをやっていた。

横目に見ながら、私は白米を口に入れる。

?:「おはよう…」

一人の綺麗な女性がリビングに入ってきた。



和母:「おはよう。さくら。ご飯出来ているよ。」

遠:「ありがとう…”お母さん”。」

お母さんと呼んだ女性は私の向かい側に座る。


遠:「おはよう。和。」

女性は私に微笑みかける。

和:「お、おはようございます…さくらさん…」

遠:「もう…お姉ちゃんって呼んでよ…(笑)
私たちは家族になったんだよ?」

和:「慣れなくて…」

これが転校することになった理由。

母は私の幼少期に離婚した。
私は本当の父親の顔と名前を覚えていない。

女手ひとつで私を育ててくれていたが
夏休みの直前に再婚した。

そして、お姉ちゃんができた。

これがまた衝撃的でさくらさんは芸能人。
雑誌の表紙を何度も務めるモデルだ。

私はさくらさんの事を知っていたし雑誌も毎月購入していた。

だから、恐れ多くてお姉ちゃんと呼ぶことが出来ないのです…

遠:「徐々に慣れていけばいいからね?」

和:「う、うん…」

遠:「それにしてもその制服は懐かしいな…」

私が転校する乃木高校はさくらさんの母校。

遠:「私の青春を思い出す。」

和:「お、お姉ちゃんはどんな青春を…」

お姉ちゃんと意識して呼んでみた。

遠:「そんなに輝かしいものではないよ。」

姉はクスッと笑い、白米を口に入れる。

遠:「2人の女友達とずっと一緒にいたから。」

姉の友達の一人は美大に進学してデザイナーに。
もう一人は看護学部に進学して
今は乃木病院で看護師をしている。

和:「恋とかは…?」

遠:「んー?秘密かな?(笑)」

手を口に当てて、意味深な表情を浮かべた。

遠:「和はどうなの?恋愛事情は。」

和:「えっ?」

急な質問に私の声のトーンが高くなる。

和:「い、いや…特には何も…」

前の学校では良い雰囲気になる事も
少しはあったかもしれないが付き合うとかはなかった。

遠:「モテると思うけどなぁ…」

遠:「こんなに可愛い転校生が来たら
男子はメロメロになっちゃうよ?」

和:「そんなドラマみたいな展開はないから…」

ないない。うん。絶対にない。

遠:「お母さんに似て、和は可愛いからね〜」

和母:「あらやだ!褒め上手〜!」

母は手のひらで転がされているようです

遠:「お父さんもこんな美人さんと結婚するなんて…」

私の母は事務職で働いている。

姉の父は管理職として母と同じ会社で働いていて
お互い独身で子持ちということから
色々と話すようになり、距離を縮めたみたい。

遠:「和もお母さんを見習ってね?」

和:「うん…」

どこを見習うべきか分からないが
とりあえず、相槌を打つ。

遠:「ほら!星座占いも参考にして!」

姉はテレビの画面を指す。

和:「みずがめ座は…1位…
ラッキーアイテムは…プリント?」

私の星座の内容を真っ先に確認した。

遠:「よかったね!」

和:「う、うんっ…」

何がよかったのか分からないが
とりあえず、相槌を打つ。

遠:「新たな出会いがあるでしょう…
やっぱり、恋じゃないの?」

和:「恋じゃなくて転校するからだと思うけど…」

出会い=恋というわけではない。
それにしても凄いタイミング

和:「友達に恵まれたいなぁ…」

転校する唯一の懸念点は友人関係。
また新たに関係を構築しないといけないから
上手くいくかどうか不安です。

遠:「和は大丈夫だよ。良い友人に恵まれるから。
それと良い恋もできると思うよ?」

和:「最後の一言はいらない(笑)」 


___________________

午前8時

姉は昼からお仕事のため、家に待機しており
一方、私は母の車で新たな学校に向かっている。

和母:「和?今後は好きなように過ごしなさいよ。」

和:「どうしたの?急に。」

和母:「和に今まで迷惑をかけたでしょ?
ほら…お母さんが家を空けることもあったから…」

再婚する前の母は前の父が残した借金を返済するために
仕事に加えて、夜勤のバイトをしていた。

母は責任感の塊だ。

お風呂の掃除、洗濯物、食事などの家事を
私がする事も少なくなかった。

和:「お母さんのほうこそ…
体を壊さないようにゆっくり過ごしてよ。」

和母:「ありがとう。今日は友達を作ってきなよ?」

母は本当に優しい。

和母:「明日からは“
友達と一緒に登校する!”くらいの気持ちでね?」

和:「頑張る!(笑)」

車が学校の駐車場に着いて
母と一緒に私は事務室に向かう。


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和母:「2年1組担任の秋元先生はいらっしゃいますか?」

事務員:「少々お待ちください。」

母は事務室の人と話している。

和:「…」

特に何もすることがなかった
私は鞄を持ったまま、登校してくる生徒を眺めていた。

和:「(緊張する…)」


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・咲月サイド

一:「今日から2学期とか最悪…」

菅:「宿題は終わった?」

私はクラスメイトの美空と一緒に登校していた。

一:「あと少し残っている…だから、早くやらないと…」

菅:「頑張れっ」

私は宿題をきちんと終わらせました!

一:「ねぇねぇ、咲月。」

美空が私の腕をチョンチョンと人差し指で突いてきた。

一:「うちの学校にあんなに可愛い子いた…?」

彼女は事務室を指す。

菅:「私は見たことない。」

一:「転校生かな?ほら!2学期も始まるし!」

菅:「そうかもね。」

学期が変わる時は転校のタイミングに最適だよね。

一:「どのクラスに行くのかな…?」

美空は目をキラキラと輝かせている。
彼女は可愛い子が大好きだ。

菅:「あれ…?でも、うちのクラスかも。」

一:「本当に⁈」

菅:「うん…夏休みに真夏先生と話した時にね。」

菅:「新たな仲間がクラスに来るよ〜って言っていたから。」

一:「確定でしょ!!!」

菅:「いやいや、転校生は
他にもいるかもしれないから。あの可愛い子かどうかは…」

そもそも、同じ学年かどうか…大人びているし…

一:「委員長の言うことは信頼できる!」

菅:「ちょっと!やめてよ!」

まだ確定か分からないのに!

一:「これで違ったら…委員長剥奪ね?」

菅:「もう…」

一:「お友達になりたいな〜」

美空は完全にあの子が
私たちのクラスに来る転校生だと思っているようでした。


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・和サイド

秋:「弓道をやっていたんだね。」

母は手続きなどの話をした後に帰った。
今、私は担任の真夏先生と2人きりで話している。

和:「はい。でも、この学校には弓道部がないですよね…?」

秋:「そうなの…ごめんね…?
部活は入らなくてもいいけど…」

秋:「もしも、入りたい部活があったら言って?
その部活の顧問とかに後で伝えておくから。」

和:「じゃあ、美術部に入りたいです…!」

私は絵の予備校にも通っているからちょうどいい。
それに部活に入らないと寂しそうだから…

秋:「了解!後で伝えておくね!」

秋:「あっ…始業式の時間だ…」

真夏先生は壁掛け時計を確認する。

秋:「転校したばかりで
始業式に出てもつまらないと思うから
和ちゃんは、ここで待っていてね!」

和:「はいっ」

秋:「あと、自己紹介をどうするか考えておいてね!」

と言い残して、真夏先生は部屋を後にした。

和:「自己紹介か…」

シンプルに名前だけでいいよね…?

和:「いや、それだけだとインパクトが…」

弓道をやっていたことと
絵が得意なことも言う方がいいのかな…?

和:「うーん…悩む…」

一人になった部屋で私は悩んでいた。



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・咲月サイド

始業式のため、体育館に並んでいた。

桜:「眠い…」

私の前に並んでいる桜が眠い目を擦る。

菅:「大丈夫?」

桜:「うんっ…始業式は耐えられると思うから大丈夫…!
それに今日は早めに帰れるから!」

桜は笑顔で答えた。

秋:「咲月?ちょっといい?」

担任の真夏先生が私を呼ぶ。

菅:「はいっ。何でしょう?」

秋:「実は転校生がクラスに来るんだけど…
校舎案内とか頼んでもいいかな?」

菅:「分かりました!」

私は学級委員長なので当然引き受けます!

秋:「ありがとう…!」

菅:「あ、あの…その転校生は女子ですか…?」

秋:「うん!本当に可愛い子だよ!」

菅:「もしかして…朝に事務室に…」

私と美空が一緒に見た子かな?

秋:「多分、その子だと思うよ。
今学期の転校生は一人しかいないからね。」

よかった…委員長を剥奪されなくて済む…

秋:「話は終わりだから、列に戻っていいよ!」



桜:「何の話だったの?」

私が列に戻ると桜が話しかけてきた。

菅:「転校生が来るから校舎案内を頼みたいって。」

桜:「転校生か…楽しみだね…!」

菅:「うん…!あっ…そろそろ始まる…」

私は転校生を楽しみにしながら
眠くなるような長い話を聞き流した。 


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・和サイド

秋:「自己紹介をどうするかは決めた?」

先生に連れられて
私が在籍するクラスのある教室に向かっている。

和:「まだ決めてないです…名前だけでいいですよね…?」

結局、名前だけがベターかなと思った。

秋:「まあ、それでもいいよ(笑)」

秋:「クラスのみんなが質問してくるだろうから
細かい自己紹介をする必要はないかもね。」

あっ…質問攻めがあるのか…

秋:「和ちゃんは本当に可愛いから
たくさん質問されるかもね!」

和:「そ、そうですか…」

怖いなぁ…不安だなぁ…

そんな気持ちで頭の中がいっぱいだった。


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・咲月サイド

一:「あれ?空席が2つある。」

菅:「あー…転校生が来るから…」

始業式終了後に空き教室の机と椅子を
運んでおいてと真夏先生に言われたので私が運んできました。

一:「転校生って…事務室にいた可愛い子?」

菅:「そうみたいだよ。」


モブA:「転校生って女子なの⁈」

モブB:「どんな子なんだろうな〜」

モブC:「可愛い子かぁ…」

私たちの会話を聞いていたクラスメイト達が騒ぎ始めた。


菅:「あっ…まだ言っちゃいけなかったかな…」

一:「大丈夫だよ(笑)」

菅:「そうだよね…!」

真夏先生も内緒とは言っていなかったし…

一:「桜?○○君は今日来れないの?」

桜:「たぶん…来れないと思う…」

一:「残念だなぁ…転校生が来るのに…
次はいつ来るか知っているの?」

桜:「知らない…」

一:「そっか…」

菅:「…」

最後列の窓際の座席を私たちは見つめた。



秋:「席に着いて〜。」

真夏先生が教室に入ってきた。

秋:「早速だけど
転校生がこのクラスに来るよ!
本当に可愛い子だよ!」

先生の一言でクラスの男子が騒ぎ出す。

秋:「和ちゃん、入ってきて…?」



先生は廊下にいるであろう転校生に声をかけ、
転校生は教室に足を踏み入れた。


モブM:「か…かわいい…」

モブS:「オーラが…」

クラスの全員が転校生に見惚れていた。

秋:「黒板に名前書いて?」

転校生は先生に言われた通りに黒板に自分の名前を書く。

秋:「自己紹介…どうぞ…」

?:「はい…」


和:「井上和です…よろしくお願いします…」

転校生は自信なさそうに自分の名前を言った。

秋:「和ちゃんと仲良くしてあげてね?
えっと、和ちゃんの席は…咲月の後ろで美空の隣ね?」

和:「咲月…?美空…?ど、どこですか…?」

和ちゃんは知らない名前を言われて戸惑っていた。

一:「こっちだよ!」

菅:「先生!名前を言っても分からないと思いますよ!(笑)」

秋:「そうだった(笑)
じゃあ、和ちゃんはあの2人のところに…」

和:「はいっ…」

和ちゃんはこちらに歩いてきて、私の後ろの席に座った。

秋:「10分後に2学期の委員会を決めるから
それまでは和ちゃんに質問したり休憩してね!」

そう言い残して、真夏先生は教室を後にした。


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・和サイド

モブA:「部活は何に入るの?」

和:「えっと…美術部かな…?」

モブB:「好きな食べ物は?」

和:「みかんかな…?」

私はクラスの皆から質問攻めにあっていた。

正直、疲れます…無事に馴染めそうだからよかったけど…

モブM:「か、彼氏は?」

和:「彼氏⁈」

そんな質問もされるんだ…

和:「いないけど…」

モブS:「好きなタイプとかは…」

和:「え、えっと…」

私が困っていると…

菅:「みんな、質問しすぎ。和ちゃん困っているでしょ?」

咲月ちゃんが止めてくれた。

菅:「和ちゃんもこの学校に来たばかりだから
今は控えてね。答えづらい質問が多すぎ。
急に恋愛の質問をされても答えられないから。」

モブM:「ご、ごめん…」

和:「い、いえ…」

菅:「もうすぐ10分経つから、みんなも席に戻って。」

咲月ちゃんの一声で私は質問地獄から解放された。

和:「ありがとう…咲月ちゃん…」

菅:「いえいえ!こっちこそ
みんなが困らせてごめんね…?
あと呼び捨てでいいよ!」

和:「あっ…うん…咲月。私も呼び捨てでいいよ。」

菅:「了解!和!」

咲月は笑顔で私の名前を呼んだ。


一:「ズルいなぁ…一人だけ仲良くなっちゃって…」

私の隣の席の美空ちゃんが妬いていた。

菅:「この後、私は和に校舎案内をしなきゃいけないし…
それに私はクラスの委員長だから
転校生と早く話せるようにしないと。」

しっかりしていると思ったら、クラスの委員長なんだ…

一:「和ちゃん、私とも仲良くしてほしいな…」

美空ちゃんが上目遣いで私を見てくる。

この子はこういうタイプなんだ…(笑)
でも、悪い子ではなさそう…

和:「もちろん…!
席も隣だから仲良くしたい!美空って呼んでいい?」

一:「うん!私も和って呼ぶね!」

友達2人目!順調に出来ている!



一:「桜も和と友達になろう!」

美空は咲月の左隣の席の子に話しかける。

名前は桜っていうんだ…

桜:「う、うん…!」

透明感ある子だな…



っていうか、みんな可愛い…

和:「よろしくね!」

友達が出来るか不安だったけど…何とかなりそう!

和:「あと…私の左隣の席の人とも仲良くなりたいな…」

両隣の人とは普通に話せるようなりたいと
思ったけど私の左隣の席は空席。

和:「咲月?今日、ここの人は欠席なの…?」

菅:「う、うん…夏休み前から休みがちで…」

一:「色々とあって…」

咲月と美空の表情から訳ありの人なのかな?と推測できた。

桜:「…」

そして、桜は俯いて寂しそうな表情を浮かべていた。

和:「なんか、変なこと聞いちゃってごめんね…?」

何か話せない特別な事情でもあるのかな?
と思ったから、とりあえず謝った。

菅:「謝る必要はないよ!
あっ、そろそろ委員会決めが始まるよ!」

時間になったため、真夏先生が入ってきた。
そして、委員会決めが始まる。


転校したばかりだから
私は委員長のお手伝いという役職に…

始業式だったため、今日は委員会決めで終わり。
クラスの皆は早く終わったことを喜びながら、帰っていく。

ある者は遊びに行ったり
ある者は部活に向かったりと

私はこの光景を見て、青春だなぁ…と感じた。

秋:「教科書は明日渡すからね?」

和:「はいっ!ありがとうございます!」

真夏先生から書類を貰った。
学生証とかその他諸々…
厚い封筒に書類が入っていた。

優しい先生と優しいクラスメイトのおかげで
私の緊張はいつの間にか消えていた。

秋:「じゃあ、咲月?
和ちゃんに校舎を案内してあげてね?」

菅:「承知しました!」

咲月は敬礼をする。

秋:「あと、和ちゃん?
美術部の顧問に話をしたんだけど
校舎案内が終わった後に美術室に行ってほしいって。
部長とお話してみて〜だって。」

和:「分かりましたっ。」

秋:「ゆっくりと校舎を周ってね!」

真夏先生は教室を出ていき
教室内は私、咲月、桜だけになった。


美空は他校の友達と焼肉に行くため先に帰った。

菅:「桜はどうする?校舎案内来る?」

桜:「うーん…勉強したいから…」

桜は英語の参考書を読んでいる。

菅:「そっか…じゃあ、私たち2人で行こう!」

ということで2人きりでの校舎巡りが始まった。


菅:「へぇ〜…親の再婚でこの時期に…」

私は咲月に案内してもらっていた。

和:「うん。中途半端な時期に転校だよね。
だって、修学旅行も私は行けないし…
体育祭と文化祭も終わったでしょ?」

転校の影響で修学旅行のお金を積み立てていない。

菅:「体育祭は5月で文化祭は6月だからね…
2年の秋は修学旅行が目玉行事だけど…」

和:「私は行けない。」

といっても、前の学校でも
修学旅行に行くつもりはなかった。

修学旅行は意外とお金もかかるから
母に負担をかけさせたくなかった。

菅:「普段の生活を楽しむしかないね…!」

和:「うん!」

行事がなくても充実した生活は送れるよね!

菅:「あっ、ここが体育館ね?今はバスケ部の練習中かな?」

私は咲月に案内されて、体育館の入り口に来た。

和:「咲月は部活に入っているの?」

咲月が何の部活に入っているのかまだ聞いていなかった。

菅:「バスケ部に入っていたけど
1年の秋に派手に怪我をしたから
辞めちゃって…今は何も入っていないよ。」

和:「あっ…そうなんだ…」

菅:「だから、委員長をやるようになったの。」

菅:「何もしないのは後悔すると思ってね?」

咲月は目配せをしてきた。

和:「素敵な理由だね…!」

何もしないのは後悔か…私も後悔しないように生きなきゃ…

菅:「そんなに深く考えていたわけではないよ(笑)」

和:「ううん!何もしないのは後悔する...いいと思う!」

菅:「は、恥ずかしい…///」

彼女は自分の顔を手で扇いでいた。
恥ずかしそうなのが一目で分かるくらい
彼女の顔は真っ赤になっていた。

でも、それも可愛い。

菅:「早く別のところに行こう!///」

咲月は早歩きで私を次の場所に連れていく。


菅:「お姉さんがモデルのさくら⁈」

再婚して姉が出来たことを話した。

菅:「超有名人じゃん!!」

和:「お姉ちゃんって呼ぶのにまだ慣れなくて…(笑)」

菅:「でも、姉妹といっても違和感ないかも…
和も超絶可愛いからね!」

和:「いやいや…」

そんなに褒められると照れる…

菅:「和もモテモテになるよ?告白とかされるんじゃない?」

咲月はニヤニヤしながら、私の目を見る。

和:「うーん…拒否する台詞を考えないと…(笑)」

菅:「拒否前提なんだ(笑)」

和:「うん。好きと思える人なら拒否はしないけどね?」

このような雑談しながら、校舎案内は終わった。


________________________

私たちは美術室に。

瑛:「あなたが和ちゃん…?」

美術部の部長で3年生の瑛紗先輩がいた。

瑛:「歓迎するよ!ここで自由に絵を描いてね!」



部活と言いつつ、特に決められたことはしていない。

自由に絵を描いて、顧問の先生に見てもらう。
その繰り返しらしい。

和:「これが私の描いた絵です…」

美術部に行くことが決まっていたから
校舎案内中にずっと持っていたスケッチブックを見せた。

菅:「上手っ!!!」

瑛:「即戦力だ…」

2人は飛び出そうなくらい目を見開いていた。

瑛:「先生にガッツリ見てもらう必要はないかもね?」

こうして、私は美術部に入ることになった。

瑛:「活動日は特に決まっていないの。
好きな時に来て好きな時に見せてくれればいいよ。」

本当に自由な部活みたい。

瑛:「一応、このスケジュールで
チェックがついているところは美術室が使えない日。」

私はスケジュールの記された紙を貰った。

瑛:「自由がモットーだからね!」

瑛紗先輩は3年なのに
部活を引退せず、美術部に所属している。

美大を受験するからちょうどいいということで
顧問に許可を貰って卒業まで所属するみたい。

瑛:「私が卒業したら、和ちゃんが部長かな?」

和:「気が早いですよ…」

まだ入ったばかりなのに…でも、部長もありかも。

和:「瑛紗先輩は普段どんな絵を描いていますか?」

瑛:「普段?こんな感じの絵だよ。」

瑛紗先輩はスケッチブックの中身を私に見せた。

和:「男の人?これはスケートかな…?」

男の人の足にはスケート靴…

瑛:「そうだよ!実はモデルがいてね…」

菅:「これって…○○君…?」

咲月の口から私の知らない名前が飛び出した。

瑛:「正解!」

和:「○○君…?咲月の知り合い?」

菅:「知り合いというか…和も同じクラスだよ?」

和:「えっ?同じクラス?」

この絵に似ている人はいなかったような…

菅:「ほら。今日欠席している...」

和:「あっ…私の左隣の?」

私の隣だけが空席だった。

菅:「そうそう。」

和:「こんな雰囲気の人が私の左隣の席に…」

怖そうな人かと思っていたから意外だった。

菅:「でも、○○君の絵って…」

瑛:「練習場にたまに行って
彼に頼んで描かせてもらっていたの!」

瑛紗先輩はその人のファンみたい。

瑛:「メダリスト候補と
あれだけニュースで言われたら
描くしかない!と思って…(笑)」

和:「メダリスト候補って…
だから、今日は欠席なのかな?
ほら、練習とか忙しいって聞くし…」

どのアスリートも通常の高校生活を
送るのは難しいと聞くから…

菅:「ううん…彼は練習を辞めてしまったから…」

瑛:「メダリスト候補と呼ばれていたのは
数ヶ月前までだったからね…今は…」

2人の表情が曇った。


和:「ご、ごめん…変なこと言っちゃったかも…」

菅:「気にしないで!」

彼のことがますます気になった。
2人の表情が明らかに暗かったから。

メダリスト候補と呼ばれた人が辞めるのは何か事情が…

いや、私はニュースをボーッと見るから
知らなかっただけかもしれない。

そして、校舎案内が一通り終わった私たちは教室に戻った。


菅:「あぁ…○○君に渡すプリントがあるのを忘れていた…」

咲月は教室に戻る途中に
真夏先生に呼び止められて、封筒を受け取った。

菅:「そうだ。和?今から○○君に書類を渡しにいく?」

和:「えっ?いいの?」

菅:「うん!○○君にも転校生のことを伝えたいからね!」

和:「じゃあ、行かせてもらおうかな…」

彼のことは気になるし…

菅:「桜はどうする?」

咲月は世界史の教科書を読んでいる桜に話しかける。

桜:「ううん…来ないでって…
桜は○○に言われているから…」

桜の表情が明らかに暗かった。

菅:「そっか…じゃあ、2人で行こっか!」



私は咲月と一緒に彼のいる場所に向かっていた。

和:「どうして、来ないでと桜は言われているの?」

桜は彼を呼び捨てで呼んでいたから
親しい関係だと思ったけど…

菅:「色々とあったみたいなの…
桜と○○君は幼馴染で…付き合っていたけど…」

付き合っていたんだ。だから、呼び捨て。

菅:「2人の間に何があったのかは
私も詳しくは知らないけどね…」

和:「そっか…」

何があったのかな…?

菅:「さあ、着いたよ。ここが○○君のいる場所。」

学校から歩いて10分で着いたが

和:「乃木病院…?」

そこは病院だった。彼は入院しているとすぐに悟った。



病院内に入って、彼の病室に向かう。
彼の病室は8階にあるため、エレベーターに乗り、8階に。

菅:「彼の病室は4号室だよ。」

和:「来るだけでも大変だね。」

毎回8階に来るのは大変だと思う。

4号室の近くに向かうと

久:「はぁ…どうしようかな…」

白衣を着た人が4号室から出てきた。

菅:「あっ、史緒里先生。」

咲月は彼女のことを先生と呼んだ。
白衣を着ていることに加えて先生と呼んだこと
お医者さんだろうと容易に推測できた。

久:「咲月ちゃん!今日から乃木高は2学期なのかな?」



菅:「はいっ!
○○君に渡すプリントがあるので…
渡しに来たのですが…」

菅:「入っても大丈夫ですか?」

久:「うん!大丈夫だよ!診察も今終わったばかりだから。
それで…咲月ちゃんの横にいる子は…?見たことないけど…」

史緒里先生は私に視線を移す。

菅:「転校生の和です!
私や○○君と同じクラスになって…
だから、報告しようと思って、連れてきました!」

咲月は私を紹介してくれた。

久:「そうなんだ…!可愛いね!」

和:「ありがとうございます…///」

可愛いは何度も言われても、嬉しいし、照れてしまう。

久:「よかったら…○○君とお話ししてあげて?
彼は夏休みもずっとここに居て寂しいと思うから…」

和:「はい!」

私が返事をしたその時...


「僕は生きたくない!
何度も言わせないでください!!!
僕は×にたい!!!」


和:「えっ…?」

菅:「…」

4号室内から過激なワードが聞こえてきた。

久:「はぁ…ちょっと…待っていて…?」

史緒里先生は4号室の扉をノックして開ける。

久:「あやめ?彼を刺激するような言葉は言わない。
それと…○○君も他の病室の患者さんに
迷惑かけるから…大声は控えて。」

久:「あと、咲月ちゃんたちが
来ているから…中に入れてもいい?」

史緒里先生は○○君と中にいる看護師に確認をとった。

久:「2人とも入っていいよ。」

史緒里先生が手招きする。

菅:「はいっ」

和:「…」

許可を得たみたいで私たちは4号室に入った。


筒:「あれ?見たことない子…」

私は中に入った瞬間に看護師にジロジロと見られた。



菅:「転校生です!」

咲月は私を紹介してくれる。

和:「です…」

私は看護師さんにお辞儀をする

筒:「そっか…転校生…」

久:「あやめ?バイタルチェックは終わった?」

筒:「終わりました。4時間前に検査した時と
数値はほとんど変わっていません。」

久:「うんっ…よしっ…
今から咲月ちゃんと和ちゃんが彼と話すから
その間、私たちは他の病室に行くよ。」


筒:「分かりました。」


あやめと史緒里は病室を後にした。



病室内は3人だけになった。

菅:「はいっ。これ。真夏先生からのプリント。」

布団に潜る彼に咲月は声をかけた。

?:「いらない…学校には行かないから…」

布団の中から彼は咲月に返事をする。

菅:「はぁ…テーブルに置いておくよ。」

咲月は封筒を近くのテーブルに置く。

?:「それより…転校生って…?」

菅:「○○君も気になるんだ〜。
布団から顔出して、見てみれば?めっちゃ可愛いよ?」

和:「ちょっと、咲月…!!」

ハードルを上げすぎて、照れないよ!

?:「咲月さんの横にいるの…?」

菅:「いるよ?」

咲月の一言で布団がモソモソと動く。


○:「よいしょ…」

そして、彼は布団から顔を出した。



和:「…」

○:「…この人?」

○○君は私の顔を指す。

菅:「うんっ。ほら、和。自己紹介を。」

和:「和です…あっ、苗字は井上…」

○:「ど、どうも…冨里○○です…。
和さんでいいですか…?」

和:「あっ、はい…」

これが彼と初めて交わした会話。

菅:「敬語じゃなくてもいいでしょ?同じクラスなんだから。」

和:「初めてだから…敬語になっちゃうの…!」

それにさっきの過激な発言を聞いたら…
余計に敬語になってしまうし…

でも、想像していた人物像と違った。

瑛紗先輩の絵の○○君は明るくて輝いていたが
病室にいる○○君はまるで別人のようだった。

絵と同一人物というのは
瑛紗先輩が上手いおかげで伝わるけど雰囲気が全然違った。

今は絶望のオーラを全身に纏っている。

負のオーラしかなかった。

私はそんな印象を受けた。


【第2話へ続く】

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