おはようチロルさん
雨降りの朝、二条駅から傘をさして、とある喫茶店に向かった。
この喫茶店に来るのは、今回が2回目。最初に来たのは、去年の秋のことだった。久しぶりにモーニングを食べにきたというのに、あいにくの雨模様。
二条駅から自転車を押して向かうと、赤色と黒色のシックなテントが見えてくる。この色の組み合わせはどこかで見たんじゃないかなと思って振り返ってみると、思い当たる節があった。
1回目に来店した時に、接客してくれたベレー帽をかぶった店員さんの着ていた服の色である。今日もあの店員さんに会えるかなと思いつつ、ポツリポツリと雨が染み込むテントの模様を眺めていた。
「おはよう、チロルさん」
テントの下、お店の入り口付近にはチロルさんがいて、きょとんとした表情でぼくを迎えてくれる。アメリカンスタイルな帽子に、蝶ネクタイをつけた姿で。
折り畳み傘をパッとたたんで、お店の扉を開いた。
雨の日というのに、朝から老若男女が珈琲を片手に会話を弾ませている。京都旅行の朝にモーニングを楽しむカップルや、仕事の前なのだろうか、熱心に新聞を読むおじさん、土木工事現場で働いていて早めのお昼休憩をしているお兄さんらとか。
とにかく選べるほどの席が空いていなかったので、店員さんにすすめられるがまま窓側の席に座った。今日は、あのベレー帽の店員さんではなく、少し癖のあるエプロンを着たお兄さんだった。
その癖のあるエプロンにはお兄さんそっくりのイラストが描かれていて、お兄さんとイラストは活気のある店内を縦横無尽に歩いていく。忙しい頃合いにも関わらず、愛想のよいお兄さんは荷物置きを用意してくれた。
すすめられた席はガラス窓の近くで、天気が悪いながらもいい朝の光が差し込んでくる席だった。
窓の外の誰かの目線が気になると思って外を眺めると、チロルさんと目があって、思わずシャッターを切った。
一息ついてメニューに目を落とすと、モーニングメニューの中には「バタートースト」と「ジャムトースト」が書いてあった。
以前、モーニングで来店した時には「玉子サンド」を頼んだので、今日は違うオーダーにしようと思っていた。そう思っていたのだが、心の中で「玉子サンド」の声が聞こえてきたような気がして、店員さんに「玉子サンドとアメリカンコーヒーをください」と頼んだ。
モーニングメニューに書いていない玉子サンドを頼んでしまうのは、バーゲンに行ってバーゲン対象外の商品を買ってしまう自分らしいとつくづく思う。
2度目の玉子サンドは、1度目のそれと同じで、目がさめるような黄色の玉子サンドだった。
厚さ1.5cmほどのそれはツヤツヤしていて、それを挟むパンと一緒に食べようとすると、口を大きく開いてやっと食べられるサイズだ。キュウリがとても薄く見えるのはそれが分厚いせいなのか。時々、ぴょこっと出ているキュウリもどこか可愛い。
お味の方は、上品な薄味。
玉子焼きは、ほんのり優しい塩味で主張は控えめ。一緒に挟まっているキュウリや挟んでいるパンに歩調を合わせているような優しさが感じられた。
それが4山あるので、一緒にモーニングに行ったしかさんと分け分けして食べる。しかさんは、ジャムトーストを頼んだので2人で分けて両方を味わう。玉子サンドが主食で、ジャムトーストがデザートのような感覚で食べれた。
しかさんはそのまま食べていたけれど、ぼくは途中でこちらを玉子サンドにつけて食べた。
HEINZのトマトケチャップだ。
クッとした酸味が加わるのと、玉子の黄色の上に乗せると映えるのがいいところ。喫茶店のテーブルスペースに置いてもこけないくらいの抜群の安定感は筋金入りだ。
そうそう、忘れてはいけないベレー帽の店員さんはと言うと。今日は、奥の厨房の方で働いていた。以前お同じモダンな服装に可愛らしいベレー帽をかぶって。
いつかまた来たいな。
あの人に会いに。玉子サンドを食べに。チロルさんに会いに。