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【おはなし】カラスの子

「こんなの、もうやだよ!」
カラスの子は突然泣き出しました。
「お母ちゃんの持ってくるごはん、ゴミばっかりじゃないか!ぼく、…ぼく、学校でみんなから笑われるんだ。ゴミ食いカラスって…」

「母さんのメシが食えねぇってんなら、出てっちまえ!」父さんカラスの大声が響きます。

カラスの子は、悲しいやら悔しいやらで、家を飛び出しました。
とぼとぼと歩きながら辿り着いたのは、おばあさんガラスの家です。

「坊や。どうしたんだい?」
おばあさんが出してくれたココアを飲みながら、カラスの子はおばあさんに話しました。まいにち、ごはんがゴミばかりになってきていること。そしてみんなから笑われること。

「そうかいそうかい。それは嫌だったねぇ。」
カラスの子の頭を撫でます。

「ワシらが小さい頃は、森の中で死んだ動物がいれば、その肉を食べておった。けれども今は森から動物がいなくなってしまっただろう?それで、街まで探しに行ったのがワシらの祖先じゃ。」

おばあさんガラスは、少しうつむきます。
「街には、動物の死骸がたくさんある。どういうわけか分からないが…とにかく、そうして、ワシらは生き延びてこられたんじゃよ。どうやらそれは、他の子達にとってはゴミだったらしいねぇ。」

カラスの子は、だまってカップを見つめていました。おばあちゃんの言うことも、お父ちゃんが怒ってる理由も、お母ちゃんが頑張ってるのも、みんなみんな、よく分かる気がしました。
それでもみんなからゴミ食いと呼ばれるのはきっと変わらないんだろうけど…

「坊や、ワシらの本当の名前を知っているかい?」
おばあさんガラスが、カラスの子の背中に布団をかけます。
「"ハシブトガラス"。カラスっていう鳥は、本当はいないんじゃよ。」
おばあさんガラスは眼鏡の奥で悪戯っぽく笑って、ウィンクしてみせました。

「ハシブトガラス?」
「そう、ハシブトガラス。でもね坊や。これはワシらだけの秘密。誰にも言わなくていいし、坊やの胸の中にだけしまっておいで。」

ハシブトガラス…カラスの子は小さく口の中で繰り返しました。
「さあ!もうお家へ帰り。お父さんもお母さんも、心配しているよ。」

カラスの子の背中を見送りながら、おばあさんガラスは、同じ事で泣いていたむかしのお父さんガラスを思い出していました。

────
「おかえり」
はじめにそう言ったのは、お父さんガラスでした。
「ごめんねお父ちゃん。ぼく、ぼく…」
「ご飯が冷めちまわないうちに、はやく食べな」
「…うん」

ひとくち食べたご飯はおいしくておいしくて、カラスの子はすこし目に涙をにじませました。

おしまい。

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ハパ
息子がグレて「こんな家、出てってやるよババァ」と言ったあと、「何言ってもいいが大学にだけは行っておけ」と送り出し、旅立つその日に「これ持っていけ」と渡します。