【ショートショート】トイレが開かない
もう一度ノックしてみる。
返事はない。
どういうつもりなのだ。そろそろ我慢の限界なのもあるが、それより何より、腑に落ちないことがある。
ここは僕の家なのに。
眠れないので、ひとりでホラー動画をみていた。
真っ暗になった部屋から立ち上がり、電気のリモコンをさがす。
みつからないので面倒くさくなって、トイレの電気だけつけてドアノブに手をかけた。開かない。
洗面台の鏡に何かの気配を感じて、急いでそこら中の明かりを点けた。
気配の正体は当たり前のように僕だった。だけどトイレのドアは依然として閉じたままであった。
馬鹿げている。そう思いながら、ノックをした。返事はない。
めんどくさいな。そう思った。もうそろそろ眠くなってきたし、あとは用を足して布団に入りたいだけなのに。怖さとかそういうのよりも、生理的な不快さのほうが勝っていた。
仕方がないから、コンビニに行こう。
とりあえず、僕はトイレに行きたいのだ。
ザバスとピザポテトと買って帰った。
明かりをつけたままの部屋に入って、ザバスをひとくち飲む。
ふと横をみたら、トイレのドアが開いていた。
息子がグレて「こんな家、出てってやるよババァ」と言ったあと、「何言ってもいいが大学にだけは行っておけ」と送り出し、旅立つその日に「これ持っていけ」と渡します。