見出し画像

つわり談

つわりは個人差があるという。友人には「つわりは殆ど無かった」という人も多く、1週間程度の吐き気で終わるものだと勝手に思っていた。だから予備知識の全く無いまま第一子のつわりがやってきた。
それは突然始まり、私の日常を全く別物にした。正直こんなに大変だとは思っていなかった。

なんとなくムカムカして気分が優れない日が二日続いた翌日、昼間の数時間の間に3度嘔吐した。これはもしかして…。市販の検査薬で調べると妊娠陽性反応。翌日から海外旅行の予定だったが、この体調では到底無理だと断念。
このタイミングで?と喜びより衝撃のほうが大きい。赤ちゃんは、赤ちゃんの都合でタイミングを選ぶ、と言われる真意を思い知る。

さて、つわり。あくまで私の体験談で、私より辛い経験をされた妊婦さんは五万といることを承知の上で書かせて頂く。(というのが、自分が辛い時期に救われたのは、同じように苦しむ妊婦さんの体験談を読んだ時だったからだ)

例えるなら、「車酔い」。朝、目が覚めた瞬間からまた眠れに落ちれるその時まで、ずーーーっと、車酔い状態。車酔いなら、車を降りれば治るけれど、つわりのムカムカは何をしても治まらない。この「気持ちが悪い」という状態は想像より辛く精神的にヤバくなってくる。気持ちが悪いのにハッピーではいられない。

車酔いの最中には何も食べたくないのと同じで食欲が全くないのだが、それなのに空腹感が半端ない。相反する状態である。空腹感で更に気持ち悪く、仰向けに寝るとお腹が潰れそうで最悪である。仕方なく、食べれそうな果物などを食べてみる。吐く。吐かない時もある。その違いが、食べ物によるわけでもなさそうで、コントロールが出来ない。吐くことにもエネルギーを使うし胃が毎回痙攣して辛い。毎日どれだけの時間を便器の前にかがみこんで過ごしただろうか。

空腹感による吐き気か(食べると少し治まる)、吐く前兆の吐き気なのか、自分で区別がつかないから余計に苦しい。気持ち悪いながら折角口にしたものが出ていくのはとにかく悲しかった。
「吐くなら食べた意味ないじゃん!!それなら、空腹感を感じさせないでよ」自分の身体に腹が立ってくる。

眠っている間だけが、救いである。だから、朝になっても目が覚めないことを願う。どうせなら、つわりが終わるまでの数週間(何カ月もかかるなんて当初思ってもいなかった)、妊婦を仮死状態にするとか点滴したまま眠らせるとか、そんなテクノロジーは無いのかと考える。
この世に存在する人間の数だけ、つわりがあったはずである。なのに、現存の医学において、つわりのメカニズムは明確になっていないようで対処法も無い。「自然現象」で片付けられ妊婦はひたすら「耐える」ことが求められるなんておかしいと思う。
いつもの私なら、病院も薬も好まず風邪も自然治癒力で治すが、この時ばかりはどんなものにでもすがりたかった。ビタミン剤の点滴と漢方薬で緩和される「かもしれない」と産婦人科で勧められ処方してもらった。

ビタミン剤と電解水の3時間に及ぶ点滴を受けたその日は、吐かなかった。翌朝、起きた時の気持ち悪さが普段より軽くなっているのを感じて嬉しかった。
が、次の日にはいつもの通りに戻っていた。数日後、また点滴をしてもらいに行った。翌朝は寝起きざまに吐き気を催し胃酸を吐いた。今回は効かなかったかな…。初回の経験からは点滴には少なからず効果があると思うが、着替えて病院まで移動することや寒い病室のベッドに3時間も寝ることを考えると、その後はわざわざまた点滴を受けに行く気はもうしなかった。ちなみに漢方薬は飲んでもすぐ吐くことが多く、飲んでも体調に変化は感じられなかったことから間もなく飲むのを止めた。このころ、入院すれば毎日移動せずに点滴を受けられていいのでは?とも思ったが、つわりで入院をした妊婦さんの地獄の入院生活の体験談をネットで幾つか読んで、その思いは消え去った。

つわりの間は毎日が「地獄」に思えた。不要なものを吐くことは仕方がないとして、常に気持ちが悪いのは拷問で、どうしてそんなに気持ち悪い必要があるのか、答えが欲しかった。もちろん、赤ちゃんを授かったことは嬉しいはずだし赤ちゃんに話しかけたりもしてみるけれど、本心ではそんな気持ちの余裕がないのが正直なところだった。

だから毎日のように泣いていた。辛くて絶望的な気持ちになっては、いやいや、震災の避難生活や難民キャンプでつわりで苦しむ妊婦さんだっているのだから私はいかに恵まれているかと思うのだけれど、やっぱり自分なりに辛くて悲しくなるのである。この苦しみがいつまで続くのか、出産まで続くとしたら到底耐えられない。16週になったら安定?そんな先まであと何週間も、到底耐えられない、そう思っていた。

最悪の時期を過ぎ、スマホを見れるようになると、「妊婦 自殺」で検索してみた。考えちゃう妊婦さんは私以外にもいるはずだと思ったら案の定、複数の相談サイトが見つかった。
つわりが辛くて自殺したい、もしくは堕胎したい、実際に堕胎した人の話もあった。「堕胎」という言葉は考えもしなかったので衝撃だった。それらの体験談を読み、それに対する先輩妊婦さん達の励ましを読んでは涙が止まらず、でもいつか必ず終わるんだと、それでも子供が可愛くて3人産みましたなんて話を読んで、とても、とっても励まされた。

つわりが酷かった妊娠初期の2ヵ月間、食べていた量は非常に少なく、例えば1日に「親指サイズのおにぎり」を2個とバナナ1本、とかそんな程度だった。
看護師さんや母親は、吐いても食べた方がいいと言うのだが正直吐くものを食べたくないし、一応身体にも吐く理由があると思っている。元々、食品添加物やら農薬やら極力避けたい私にとって食べるモノの選択肢は広くない。
食べたいな、と思えるものの中から吐いたものは食べないように排除していき、残ったのは、「メロン」と「かぼちゃのポタージュスープ」だった。
毎日、メロンだけを食べていたのが3週間くらい、そこにかぼちゃのスープが加わってから2週間くらい、それだけしか食べない生活だったが、吐く不安が無いので精神的にも安定していた。もちろん、お腹はすいていた。
それでも毎日のように胃酸は吐いていて、朝目が覚めて数十分以内に胃酸を吐くようになってからは、夜、枕元にメロンを切ったものをスタンバイしておき朝すぐ食べるようにした。そうすることで、寝起きの胃酸吐きは無くなった。この習慣も3週間くらいは続けていたと思う。

16週目の今、車に乗った時、空腹のとき(特に寝る前)は若干の気持ち悪さがあるが、この記事を書けるくらい元気になった(つい2週間前くらいまでは、PCの前に30分と居れなかった)。
2週間前くらいから、野菜を煮たものも食べるようになった。納豆も同じ時期から1日おきに食べている。なんとなく食べたいな、と思ったものを試してみて吐かなかったらOK,そんな感じだ。
勿論失敗もあって、先週はアボカドとご飯(お米)、緑茶を試したら吐いた。たかが緑茶でもまだダメ?と結構ショックだった。
食事量は相変わらず少なく、一日に食べる量は元気な時の一食分に満たない程度だがお通じも良く安定している。
もう少し食べる量が増え、3時間置きくらいに食事をする必要がなくなれば、安心して外出もできるかな…と思う。食べたいものを食べれるようになること(つまり妊娠前の状態、笑)が今の夢である。

結局2ヵ月で体重が9kg減ったままだけれど、生きているし気持ち悪さもいつの間にか落ち着いてきた。母体はともかく、赤ちゃんは育つようになっているらしい。もともと胃腸が弱いらしい私は、きっと消化と活動のエネルギーを超省エネモードにさせる必要があったのだろう…。

ちなみにつわりの間、家事は全くできなかった。やろうとしなかった。
起き上がったら目まいがし、台所に立ってもすぐ座って休憩しなければならない。活動できるだけ食べていないから気力も体力も無いといった感じだ。旦那さんの食事は外食やコンビニで済ませてもらったが、家で焼き鳥やナポリタン等、匂いの強いものを食べられると辛かった。
食器洗い、洗濯は旦那さんにしてもらった。食事(かぼちゃのスープと野菜の煮物)は実の母が週に2回、作って持ってきてくれた。
ネットで読んだ、つわりが酷い人の傾向の中に、頑張り屋・人に甘えられない、というのがあった。正に昔の私のことだったので、今だけはとことん甘えさせてもらうことにした、しかも、罪悪感なく。
世の中の多くの妊婦さんはつわりでも仕事を続けているので本当に凄いと思いう。心底、尊敬する。
仕事を辞めていた私は毎日寝ているだけの超甘えっ子妊婦だったと思う。
それでも、自分のことでめいいっぱいで、もう耐えられないと毎日絶望し、弱音を吐き、そんな時、仕事を終えて夜中に食器を洗ってくれる旦那の姿や会いに来てくれる母の存在が心の支えだった。本当に有難かった。二人の為にも頑張ろうと思えた。赤ちゃんのため、だけではとても乗り越えられなかったと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?