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幸い(さきはひ) 第九章 ⑧
第九章 第八話
桐秋が喀血してから千鶴は夜、桐秋の部屋で休むようになっていた。
いつ容体が急変するか分からないからだ。
桐秋はベッドで、千鶴はその下に布団を敷いて横になる。
桐秋の体を考えれば、早めに寝なくてはと思いながらも、桐秋と千鶴は静かな夜の中、毎夜とりとめもない話をする。
残された刻を惜しむように紡がれる言葉は、何気なく発される言葉であっても一音、一音が、千鶴の耳に残る。
桐秋は夜中に喀血することもある。
そうなると千鶴は桐秋が血を吐き切り、気息が落ち着くまで背中を擦り、寄り添う。
容態が落ち着き、桐秋が再び横になると、千鶴はそっと布団をかけて、月明かりに浮かび上がる愛しい人の青白い顔をじっと見つめる。
しばらく呼吸が続いていることを確認するまでは眠らない、いや眠れないのだ。
——そんな千鶴が憂慮する毎日を過ごしていたある日のこと。
母屋に出向いていた千鶴が、桐秋の部屋に戻ると、部屋の中央に鎮座していたベッドがなくなっていた。
当の本人は畳の上に直に布団を敷いて寝ている。
千鶴がベッドはどうしたのかと尋ねると、桐秋は母屋に運んでもらったという。
ベッドの方が通気性など治療の面からしてもよい。
何か特別な理由があるのかと千鶴は重ねて問うが、桐秋は答えない。
理由は夜になって判明した。