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幸い(さきはひ) 第十章 ⑦
第十章 第七話
西野から聞かされた真実に南山は己の罪を悟る。
「しかし、それを私たちが奪ってしまった。
そのせいで北川は研究を続けることが出来なくなり、血清は確保出来ず、北川の妻は亡くなってしまった。
さらにその妻が残した幼い娘にさえ、桜病の症状が出始めた。体中に紅い斑点が現れたのです。
北川は妻を殺した病に娘も罹ってしまったのではないかと焦った。
ところが、娘の病は妻の桜病と違い、それでひどく弱る様子も斑点以外に症状が出るわけでもなかった」
だが、まもなくして今度は北川の身体に異変が起こった。
「北川の身体に斑点と、気管支に関わる症状が出始めたのです。
妻の看病をしていた時には出なかった桜病の症状が娘の看病をしていたために出たのです。
そしてそれは娘の症状と違い、酷く己の身体を蝕むものだった。
北川はそこから再び一つの推察をしました。
桜の花粉に由来する桜病は幼児期に罹るものと、成人期に罹るものがあるのではないかと」
幼児期は当人に大した症状は出ないが、他者に病をうつす可能性がある。
花粉に耐性がある日本人にも同様。
成人期は誰かに病をうつすことはないが、症状が重篤化し、やがて死に至る。
また、幼児期の桜病を人から人(成人)にうつせば、成人期の桜病と同様、重篤化する。
「そして、北川はこの結果を基に、桜病の娘の血を使って恐ろしい感染症を作り出しました。
人から人へとうつり、桜が散る頃にその命を攫っていく死病、私たちが『桜病』と呼び、私たちの愛した人たちを奪った病を」