幸い(さきはひ) 第十一章 ⑲
第十一章 第十九話
「私が、貴女様を苦しめた私が生きていていいのですか」
強い生に満ちあふれた桐秋に抱かれる美桜の想いは確実に生へと傾いてきている。
けれど、美桜の背負ってきた薄暗い部分がそれを素直に肯定できない。
どうしても、自分の罪を問う自分がいるのだ。
お前は一番大切な人を死の間際まで追いやったのだという顔をしてこちらを覗きこんでいる。
「いい。関係ない。
もし、君が桜病のことで引け目をかんじているのなら、君が発端となった最期の桜病患者として、私は君を許すよ。
だからもう君も自分を許してあげるんだ。
きみは、たくさんの人に愛されている。
生きていて悪いのではない。
生きていていいのではない。
愛される君は生きなければならないんだ」
その許しは、美桜のこれまで生きてきた意味をある意味で否定する言葉。
美桜はずっと自分は許されない存在なのだと思い、生きてきた。
しかし、その否定がなければ、きっと美桜は真っ向から桐秋に向き合うことは出来ない。
いつも桐秋をまっすぐに見つめる、あの光を集めた美しい宝玉と目を合わせることは二度と叶わないのだ。
「君はたくさんの人に愛されている。
両親に、西野先生に、お祖父様に、それから私に」
怪物ではなく、ただの美桜として、桐秋に向き合って貰わなければいけない。
罪深い人間ではない。両親に愛され、生まれてきたただの真白な美しい桜に戻すのだ。
「私たちが互いに純粋に想い合うには、すべてを取り除かなければならない。
桜病もそれに囚われている心もなにもかも取りはらって、そこからまた始めよう一人の、桐秋と、美桜として」
そして、とどめの一言のように告げられる言葉。
「頼む。
私は愛する君がいないと生きていけない」
美桜は、桐秋に頼まれれば、それを叶えたくなってしまう。
桐秋の願いには弱いのだ。