魔法のカメラ(part1)

とある小さな町工場で社長が従業員に声をかけた。

「やあ山田くん、お母さんの具合はどうだね?」

「社長、お気遣いありがとうございます。

実はあまり経過がよくないんです。

最初は軽い胃腸不良かと思ったんですが、数ヶ月しても治らず心配で今度大きな病院に連れて行こうと思っています。」

「そうか、それは心配だな。

なにか困ったことがあったら私に声をかけてくれ。

できることなら何でもやるから。」

「ありがとうございます!」

「君も体を大切にしろよ。お母さん、お大事にな。」

そういって社長と従業員の山田は各々の仕事に戻ってった。

数週間後。

山田が社長室のドアをノックした。

山田が社長室まで来るのはすこぶる珍しい。

「社長、少しお時間よろしいでしょうか。」

「やあ山田くん、もちろんだとも。

なにか相談事かね?」

「はい、実は母のことなのですが、このあたりで一番大きな病院に連れて行って検査をしてもらいました。

その結果、どうやら胃に悪性の腫瘍があるみたいなのです。」

「それは大変だ。

それで医者は治る見込みはあると?」

「はい、幸いにもまだ大事には至っていなかったので、薬でなんとかなるだろうと病院の先生からは言われました。

ただ、もう少し早く悪性の腫瘍を発見する術が今の医療にはないのです。

あと少しでも遅かったらは母は手遅れになるところでした。」

「危ないところだったが、少なくとも助かる見込みがあって何よりだ。

しかし、昔からいわゆる胃がんで亡くなる人はあとを絶たない。

どうにかならないものか。」

「そこで本日社長にご提案があってお部屋までお邪魔しました。

社長、"胃カメラ"を作りませんか?」

「ほう、君から進言とは珍しいな。

はて、その胃カメラとはどんなものかね?」

「その名の通り、胃の中を撮影するカメラのことです。

レントゲンだけでは病気を発見することは難しいです。

胃の中を鮮明に撮影できるカメラがあれば、より早く病気を突き止めることができます。

それが多くの人の命を救うことにつながるはずです。」

「なるほど。それは確かに面白いアイディアかもしれないな。

確かにうちは顕微鏡や商業用フィルムカメラを製造していて、基礎的な技術と知見はある。

だが、どうやって胃の中をカメラで撮影するというのかね?」

「はい、それは口から細長い管を入れ、管の先に小さなカメラをつけるのです。」

「はっはっはっ、カメラはそんな小さな代物じゃないよ。

それはきみが一番よく知っているだろう。

君は優秀な従業員であると同時に優秀なエンジニアだ。

これまでの技術やいまうちが持っている技術はよく知っているだろう。

そんな小さなカメラはまだこの世にはない。

ああ、なるほど。だから私のところに来たのか。

研究開発費がほしいんだね?」

「ご推察のとおりです。

ぜひとも胃カメラの開発に着手したいのです。

きっと多くの人の命を救うことができます。

お願いします!」

「わかった。だが、私も今聞いたばかりのはなしだ。

少し時間がほしい。

それにもう少し実地調査が必要だ。

実際にこのカメラを扱うだろう医者に面談し、本当に欲しいものか、

ほしいとしたらどんなものがほしいのか、

形はどんなものがいいのか、

検査を受ける患者に負担をかけないためにどのような工夫を施すべきか、

そういった具体的な構想を組み立てる必要がある。

君は技術者だが、この提案の発案者だ。

君が色々と調査をやってくれ。

君が一番この件について情熱があるはずだ。

こういう新しいことには情熱も大事だからな。

僕も僕なりにもう少し考えてみるよ。」

「ありがとうございます、社長!」

山田は深々と一礼し、社長室のドアを締めた。

続く




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