シンデレラの靴

今どき、シンデレラが靴を探しに行く時代

「福井さんの足、細いですねー! EEE履いてたんですか!? 目が飛び出そう!」
「23.0cm、ワイズB! ほら、言った通りでしょう?」

目が飛び出そう、はこっちのセリフだ。今のサイズになって20年、それをひっくり返すような結果だったのだから。

3月のある日、知人がFacebookでとある靴屋さんを紹介していた。「シューフィット神戸屋」。そこでは「靴は売らない靴屋」として、足の計測で正しいサイズを知り、自分の足の形にぴったりの靴を提案してくれるのはもちろん、手持ちの靴にインソールを入れて調整してくれたりもする。知人は、「これまで履いてきた靴のサイズが全然違ってたー!」と驚きを隠せない様子だった。知人の感動っぷりから、私はどうしてもこの靴屋さんに行きたくなってすぐに予約を入れた。

24.0cm、ワイズEEE。

私が高校生の頃から、ずっと履いてきた靴のサイズ。高校はずっとスニーカーだったから、初めて革靴のパンプスを履いたのは大学の入学式だった。大学生になってもラフな私服に合わせて、スニーカーばかり。ボロボロになったら新調するけれど、価格が一番、デザインは二の次。ミュールを初めて履いたのはいつだっけ。覚えていない。それくらい、自分の足や靴というものに、大して興味を持ってこなかった。

社会人になってからは制服があったので、スニーカーというわけにはいかなかった。そこで選んだのは1足3,000円の黒い事務用サンダル。7時間以上履くんだから、楽チンが一番。買い換えるにも安い方がいい。そう思っていた。

そんな私の意識が変わり始めたのは、それから3年後だ。福岡で就職して、このままずっと福岡で生きていく。そう決めて地元の会社に就職したはずなのに、自分の成長とともに仕事が徐々に面白くなって、もっといろんな仕事をして経験を積んでみたいと思うようになった。

人生を選ぶということと、靴を選ぶことは似ている、と思う。

社会人になるまでの私は、自分の心から欲するものを選ぶ、というよりは、今の状態で手に届くもの、もしくは楽チンなものを、「これでいいや」と思って選んできたフシがある。親の庇護のもとで育ってきたから、ある意味それも仕方のないことなのかもしれない。でも、自分の力で生きていかれるようになってからは、楽チンでは満足できなくなってしまった。靴が合わなくてマメや靴擦れで痛くてモヤモヤするように、私は福岡での仕事に物足りなくなって、いつの間にかモヤモヤしていたのだ。今の自分が欲しいものを、ちょっと背伸びになるかもしれないけれど、手に入れたい。もう事務用サンダルでは我慢できない。背伸びをしてパンプスが欲しい。上司の勧めと会社のタイミングも重なり、私は東京に転勤することを決めた。

それから7年、東京で仕事漬けの青春を謳歌した私も、結婚・妊娠をきっかけに再び世界が変わった。仕事を続けたい気持ちもあったけれど、様々な事情が重なり、会社を退職して専業主婦の道を選んだ。足によく馴染むスニーカー2足が再び私のメインとなり、当たり前の日常になって、パンプスもほとんど捨ててしまった。

産後1年近く経ったころ、「育児の息抜きにアフタヌーンティーしようよ!」と独身時代の友人が誘ってくれた。新宿のホテル最上階でのアフタヌーンティー、一人でのお出かけ。ワクワクが止まらない。久しぶりのスカートとギリギリ一足残したパンプスを履いて、夫と息子に見送られて軽い足取りで出かけた。

ところが、産前産後合わせて2年近く経っていた私の足は、完全にパンプス初心者に戻っていた。帰る頃には足はマメと靴擦れで赤く腫れて、「スニーカー持ってくればよかった……」と後悔しながら、足を引きずるように帰った。

もうこれから日常でパンプスを履くことはないんだろうか? 冠婚葬祭の時だけ? でも、母になったって、女性なんだけどなぁ。パンプスを履いた時に感じた、「母」とは別の、「一人の女性」としての自分に感じたウキウキ高揚する気持ちと、雑誌の「産後、ヒール復活しました!」という特集とのギャップに、とてもモヤモヤした。

また、自分の人生に靴擦れを起こしていた。専業主婦という道も自分で選んだのだけれど、出かける前の鏡の中のキリッとした自分は、「もう一回、自分の人生を選びたい」と言っていたのだ。
その後、私は起業をする道を選び、個人事業主として1年間仕事をした。でも、また少し迷いが生じてきた。そんな時に「シューフィット神戸屋」と出会った。

計測の結果には心底驚いた。自分が思っていたサイズと、実際の足のサイズが1.0cmも違っていたし、幅に至っては5段階も違っていた。私の足がパンプスを履くたびに傷だらけになっていたのは、大きすぎる靴の中で歩くたびに足が動いて、それが靴擦れを引き起こしていく、ということだった。

人の足のサイズは、体重の変化や生活スタイル、色々な条件によって刻々と変化するそうだ。永遠に「定まる」ということはないから、その時によって、靴を選んだり、インソールを入れて調整していい。そうして、正しく、快適に歩けるように調整するものです、と教わった。

店主に勧められたピッタリサイズのパンプスを履くと、難なく歩ける! なんと、「さすがに自分にはご縁がない」と思っていたヒール7.5cmのパンプスまでも履けて、歩けてしまった。店主は「これがあなたのシンデレラシューズですよ」と言ってくれた。さながら、魔法使いのように。

姿見の中にはシャンと背筋を伸ばして、「自分の人生を選ぼうよ」と言ってくれたあの時の自分がいた。

今どきのシンデレラは、自分で靴を探しに行く時代なんだ。合わない靴に無理に収めることも、あきらめることもしなくていい。これからの靴選びは楽しいものになる、そんな予感がしている。

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