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旅のスパイス

先日、夫と沖縄に行ってきた。

せっかく沖縄に行くなら、那覇在住の先輩作家Aさんに会いに行こうと思った。Aさんとは数年前にお互いの知人を介して知り合い、私が本を送るたびに丁寧な感想を返してくれたりして交流が続いていた。Aさんは執筆の傍ら、ご主人がやっている飲食店を手伝っているという。お店で食事をしながらAさんとおしゃべりできたらいいなと胸を弾ませた。

問題は連絡手段だった。Aさんは携帯のメールしかやっておらず、その迷惑メールの受信設定の関係か、私のPCメールもGmailもはじいてしまうのだ。今まではもっぱら手紙のみのやりとりで、沖縄行きを知らせたのも手紙だった。

出発の半月前に初めてSMS(ショートメール)を使い、沖縄到着日の夜にお店に伺いたい旨伝えると、すぐに返事がきた。コロナで午後3時迄しか営業していないという。飛行機の到着時刻は14:30。3時迄にお店に行くのは難しそうだ。が、Aさんのご主人が「時間は気にしないで」と言ってくれていると知り、その言葉に甘えることにした。

出発日前日、リマインドメールのつもりで「明日よろしくお願いします」とSMSを送ったが、Aさんから返事はなかった。

当日、飛行機の到着が遅れ、タクシーに乗り込んだのは3時少し前。タクシーの中で「もうすぐ着きます」とSMSを送ったが、やはり返事はなかった。

3時20分頃、お店の前でタクシーを降り、Aさんの携帯に電話した。半月前のやりとりで「タクシーを降りたら電話して」と言われていたのだ。
ところが、「〇〇です。今、お店の前に着きました」と言うと、Aさんから思いがけない言葉が返ってきた。
「……どちらさまですか?」

Aさんはその日私たちが沖縄に行くことをすっかり忘れていたのだ。前日とさっき送ったSMSは、どちらもAさんの携帯に届いていなかったらしい(なぜかその日の夜になって届いたそうだ)。

そのとき自宅にいたAさんはすぐにお店に飛んできてくれて、ご主人も一旦閉めたお店を開けてくれた。その後、ご主人が作ってくれたお料理を食べながらAさんと楽しくおしゃべりできたので、私たち的には結果オーライだったのだが、Aさんは何度も私たちに「ごめんなさいね」と謝ってくれた。SMSに頼りすぎた私も悪かったのに……。

ただ、これも「旅のスパイス」のようなものかもしれないと思う。思いだすと少し苦い味がするが、いつか笑い話になればいいなと思っている。

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