不明本発見!

 初めての蔵書点検で不明本の多さに脅威した。数千冊を超えたのがそもそも異常。踏ん張って、最終的に30冊強まで減ったが、どの程度が普通なのかわからないので、他所の司書さんに状況を伺ったところ、多くても両手で足りる程度、小規模校なら片手で余るくらい、中には0という優秀な学校もあって、少々落ち込んだ。やはりうちは異常だ。
 勤めて丸4年。専任になって2年目。週5日、毎日司書が図書室に居るというのに、今年も初年度同様、30冊強の不明本が出た。大分要領が解って来たので、誤って持ち出しているのであろう予測が付くようになり、慌てなくはなったが、前年度からの不明本が半分以上を占めていて溜息をつく。ずっと見つからないまま一年を経たのだ。
 前年度、授業で使う体で、4年生がある種の本を大量に学年貸出した。年度末の一斉返却で戻って来たのだが、一冊足りない。しつこく言って探してもらったが、見つからないまま、結局「見つからない」という言葉も「ごめんなさい」という謝罪もなく、取りまとめていた教員は異動して行った。
 人としてどうなのかと思った。
 大人としてもどうなのかと思った。
 教員としても勿論、どうなのかと思った。
 直接的に、その教員に非はないのかも知れない。学年で使ったのだから、クラスを跨いでいるうちに紛失した可能性も考えられるので、彼だけを責めることは出来ない。しかし仮にも学年主任。おい、なにしてんねん!っと心の中で憤った。しかもその本、その年に入れたばかりの新刊で、配架してからまだ半年足らずだったのだ。黙っていなくなるなよ、せめて「ごめんなさい」やろ!と心底腹が立った。
 学校の蔵書は私の持ち物ではない。私のお金で買った物でもなければ、謝ってもらったからって、私が許すとか許さないとか言える立場でもない。しかし彼が〝仮にも〟学年主任であるように、私だって〝仮にも〟学校図書を管理する唯一無二の司書である。私に責任はないかも知れないが、管理する者として、管理体制が行き届いていない現実を黙って見過ごせるほど無責任でいたくないのだった。
 彼は私に自分の印象を悪くしたまま去って行った。
 同じく私自身も、彼にとってしつこくて小うるさい悪い印象を塗り付けたまま、職場を違えたのだ。
 不明本リストを作り、全職員に配る。見たか見ていないか、数冊見付かった。恐らく見てはいない。細かい文字列のリストは、大人でも殆ど見ない。
貸出冊数より明らかに1冊余計に返却に来た1年生がいた。案の定、カウンターを通っていなかった。当たり前だ。貸出冊数の制限が掛かるので、カウンター、それ通れないもん。
「ごめんなさい、これ勝手に持って行ってました!」と、今年異動してきたばかりの教員が1冊持ってきた。彼女は図書委員会の担当になっている。担外なので、図書室にやって来るのは委員会の時くらいだ。何となく棚を見ていて、授業に使える!と持ち出したのだろう。
「大人として、公務員として、教員として有るまじき振る舞い!人の手本となる人間が、公共のルールを守らなくてどうする!」と激高したいのをぐっと堪える。
 同じく異動して来たばかりのベテラン教員に呼び止められる。リストについての質問。
「この本はいつから無いのですか?」
「書いてある通りです」と言いたいのを再び我慢。前年度から無い物には※印、今年新たに無くなった物は無印だと追記してある。ちゃんと見て欲しい。
 一時間後、ベテラン教員が図書室にやって来た。
「先生、これ…」
 前年度末、紛失したまま逃げた教員の、例の本であった。支援学級の書棚にあったという。
「新しい本やのにおかしいな…って、ずっと思ってたんです」
 ブラボー!ベテラン!
 想像するに、4年生を受け持っていた支援学級の担任が、学年の授業に添う為に学年貸出の本の山から1冊抜き取ったのだろう。指導に使ったまま、学年にも図書室にも返さず放置し、支援学級の本としてその本は暮らすことになった。誘拐されて他所の子にされてしまったようなものだ。違う家での生活から半年、ようやく元の家へ帰ることが出来たのである。感謝感激だ!おかえり!
 それにしても、支援学級受け持ちの担任は半数以上が前年度からの持ち越し。何方もきっちりもんの常識人揃いだと思っていたのに、案外ちゃんと見てくれていないのだな…とがっくり。見つけてくれたのが異動してきた人って…。時には新しい目が必要になることがあるのだという、異動のメリットに初めて気付いたのでした。まぁ、反対のことした人もいましたけれど…。
 
 その後、不明本の発見が途絶えたので、改めて書影付の捜査依頼を全職員に配布したところ、普段から頼りなさ気で弄られキャラの若者クラスで人気本が発見された。同じく、不明になって半年。予約が殺到するシリーズの中の1冊…一体何処に行ったのかと思っていたら、学級文庫の中から見つかったらしい。ここ数年、学級文庫の改新が進み、クラスの書架にも新しい本が増えていた為、なかなか気付かなかったようなのだが、でかした!若者!である。リストの時点で見つけていればハナマルだったのに、書影を出してからやっとって…と、少々贅沢を言いたくなる。職員室は大人の集団なのに、皆こういうところは子どもみたいで、先生という職業の精神年齢を問いたくなるのは、何も今に始まったことではないのだが…。
 とはいえその本、学級文庫の中に紛れていたってことは、前年度の担任が学級文庫の整理を怠っていたということではないのか?前担任の顔を思い浮かべながら、何処の世界も年功序列や経験主義が全てではないと改めて感じる。
 良い先生とは…素敵な大人とは…人として、教員として、どうあるべきか?etc…etc…etc…。
 教員の中の司書一人、決して侮るべからず。と思いつつ、私も色々と気を付けなければならないな…と、自らを振り返る出来事になりました。
 
 追記…
 司書の恨みを買いながら他校へ逃げて行った教員には、後日、例の本が発見されたことメールで知らせたが、未だ既読にならず。確認されたかどうかは夏休みが明けてからになりそうだ。

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