歯科定期健診
歯科検診に行った。約半年に一回の割合で、今回は7ヶ月ぶりだ。
その昔、ストレスからとんでもない歯痛を引き起こし、眠れなくなった。しかしかかりつけていた医者に信用を無くして以来、歯医者というものに行っていなかったため、信頼出来る歯医者を見つけられずにいた。当時、歯科衛生士をしていた友人に泣きつき、比較的近い場所のその歯医者を紹介してもらった。以来、全幅の信頼を持って、かかりつけている。
このところ治療らしい治療をしていないが、半年に一回、葉書が届くので、予定を見合わせ、予約を入れる。メンテナンスをしているお陰で、大きな治療に至らずに済んでいるのだと思う。
コロナが流行して以降、先生がやたらと喋る。いつも大体30分程度で済んでいたメンテナンスが、先生が30分喋るので、結果、一時間かかる。
元々喋るような人ではなく、むしろ寡黙な医者だと思っていたのだが、変わったのは明らかに、コロナのせいだ。
勉強会や研究会で仕入れてきた情報を、やたらと熱弁する。最初は『勉強になるな…』と感じていた話も、半年に一回、計3回くらい聞かされた時には、4回目の予約を入れる際、思わず受付の女性に断りを入れてしまった。すると、「コロナの話はもうしていなくて、今は別の話になっています」と言われ、「手短にお願いします」と伝えたら、先生は怒ってはおらず、「何回も同じ話したみたいでごめんね」と言いながら、『それでも精一杯手短に…と努めたのだろうな…』と感じるスピードで、別の話を30分弱した。
今回、また話が長い気はしたが、敢えて事前の断りは入れなかった。無職で暇なので、たまには良いか…と余裕があったのだ。断りを入れるのも面倒だったし、2ヶ月近く、外出らしい外出といえば近所への買い物か図書館に行くくらいだったので、退屈な話も刺激になろうかと考えたのだ。
世の中はあまりコロナに対して口うるさく言わなくなったが、相も変わらず感染者は未だ、連日数百人単位で出ていたせいか、診察室の壁には、【コロナに配慮し、一日の予約人数を減らして診察しています】と書かれた張り紙がしてあった。私の他に患者はもうひとりだけだったが、これが減らした予約人数の結果なのか、平日の午前中だからなのかはわからない。
イソジンでうがいした後、歯科衛生士さんによる歯茎の検査があり、口の中の状態を写真に撮られる。磨き残しの説明や、歯間ブラシの上手な使い方について指導を受け、ようやく医師に代わったと思ったら、ラミネートされた新聞記事のコピーを持たされ、語りが始まった。今回は、歯科の定期検診を、3ヶ月に一度、義務化することを国が検討している…とかいうような内容だった。
がんや脳卒中、糖尿病など、生活習慣病のリスクを下げるためには、口内環境が正常であることが重要である…といった話は、確か前回聞いたような気がした。しかし新聞記事を持たされたかどうかまでは覚えていない。恐らく、前回のパワーアップバージョンを、今回、聞かされたのだろうな…と思った。
暇なので、何ならわからないことも質問してみようと、「歯石って、どのくらいの期間で付くんですか?」「歯石あり…って毎回言われるけど、写真を見てもどれが歯石かわからない」と突っ込んでみた。
すると、私の歯に、歯石は殆ど付いていないのだと言われた。「歯石あり」は、プロである衛生士さんが見るからわかるのかも知れない。約半年に一回スケーリングしてもらっているので、虫歯予防や生活習慣病対策には充分なっているらしかった。
結果、大して歯石が付いていなくてもスケーリング自体が口内洗浄を目的としており、それが“半年に1回”より、“3ヶ月に一回”の定期健診を義務化することで、生活習慣病のリスクを下げ、国民を健康にしたいというのが国だという。しかし真の目的は、国による医療費の支出を減らすことなのだとか…。口内環境を健全に維持することで生活習慣病リスクが下がり、国の医療費だけでなく個人の医療費負担も減るのなら、3ヶ月に一度、歯科の定期検診を受ける方が結果的にはお得なのだそう。唯、生活習慣病を患っていない立場としては、このところ一回の受診で3千円から4千円と、以前に比べて高額になっている受診料が、年2回から4回に増えるのは手痛い。それに、都合を考えながら予約を取るのも面倒だな…と思ってしまった。
“国の義務化”と言う言葉に、どれだけの効力があるのかは知らないが、義務とするならそれなりの補助や受診推進の戦略も練らなければならないだろう。見せられた記事を実現させるとしたら、どのくらい先になるのだろう…と考える。構想は想像止まりで、実際、現実になる道のりは長く遠いのではないかと読んでいるが、そうなりゃそうなったで3ヶ月に一度でも検診は受けるだろうから、それまでは半年に一回で充分かな…と思っている。主治医が引退するまでかかりつけを変えるつもりはないが、説法のような授業のような長話は、正直そろそろ遠慮したい。
再び衛生士さんにバトンタッチし、本日のスケーリングを終えた後、ばたばたと歯科医が戻って来た。どうやら私が「歯石がどんなのかわからない」と言ったことを、至極気に掛けていたようで、ずっと資料を探していたみたいだ。実際、“犬の歯石”は見たことがあるし、走り回っているのはわかったので「後でネットで調べます」と言おうとも思ったのだが、まさか用意してくるとは思わなかった。
私の口の中の写真が写っていたモニターに、何処からか移動させて来た歯石の写真は、他の患者のものだった。
「名前は出せませんので…」と、モニター上部の、恐らく患者名が表示されるのであろう場所を、私のカルテを使って隠す。ハイテクなのかローテクなのかわからない。しかし写真は、結構ヤバいことになっていた。
改めて説明を受けながら、昔、とある飲み会で話をした男性の前歯が、真っ黒だったことを思い出した。歯の付け根がやたらと黒く、虫歯ではないようなのに、何故こんなことになっているのかと不思議で仕方がなかった。あれ…歯石が悪化してヤバい状態になってたんじゃないかな…。
最後にフッ素を塗布されながら、幼稚園の時に塗られたフッ素が物凄く苦くて、苦痛で仕方がなかったことを思い出す。ここではずっと青リンゴ味だから、当時ほど苦しみは無いが、やはりフッ素は苦手だ。
歯科矯正とかは今更別に良いかな…と思うが、お金がたんまりあるなら、銀色の詰め物を全部白に変えたいな…とは思っている。こちらの方が実現する想像が難しいが、待合室の壁に貼られた保険適応外のセラミック製の案内を思い出しながら、フッ素の後はうがいが出来ないので、唾だけぺっと吐き出し、紙コップの水で流した。