鼻先冷え性…その理由

 数年前、初めて面と向かって言われた。
「綺麗な顔してんなぁ!鼻筋通って…」
 言ったのは当時の女上司で、以後、言われたことは無い。
 親世代のおっちゃんおばちゃんに、見た目を褒められたことはある。大方、「お母さんに似てべっぴんさん」的な具合だ。実際、似ているのは輪郭だけで、この年になってようやく自覚したのは、母は祖父似で、私は祖母の血を引いた顔立ちだということだ。くっきり二重で睫毛にマッチ棒が乗るタイプの祖父方の顔立ちは、弟が引き継いでいる。祖母方は品のある顔立ち。しかし目元は和風だ。
 祖母の兄妹は写真を見ても雰囲気が良く、とても好感を持てるが、一般的に目を引くのは祖父方の顔立ちだろう。はっきりしているのに暑苦しくない。70過ぎた母のことを、「美人やな」「相変わらずキレイやな」と言う畑のおじさんや、母の旧友は未だに多い。言われている本人は年々自分を構わなくなっているだけでなく、それを素直に受け止められない田舎の純朴タイプなので、好意的に受け止められない性分。その控えめ加減も人を寄せ付ける所以かと思われる。
 目鼻立ちくっきりタイプの母の鼻は高い。小学生の頃、同級生から「あんたのお母さん、外人?」と言われてびっくりした。毎日当たり前のように見ている母親の顔を、美人だとか鼻が高いなんて思いながら見たことなどなかったからだ。他所のお母さんと顔立ちを比べたこともなかった。それに、母親の怒っているか放心している顔しか見たことがない子どもには、それを美しいと感じられるだけの度量はなかった。いつもにこにこして優しい、友達のお母さんの方が、何倍も美しいと思えたからだ。
 それなりに人生経験を積んで、自分の親の顔を客観的に批評できるようになってからは、その鼻がいかに高く筋が通っているか、しっかりと認識出来ている。たった一度「鼻筋通って…」と言われた私の鼻とは比べ物にならないほど、我が母の鼻は高く、そして細い。酷い花粉症やアレルギー性鼻炎で、年がら年中鼻水の処理に追われている私の鼻は、細かった時代があったのだろうか?と疑うくらい、横へと発達してしまった。実際、鼻水処理のせいなのか元々だったのかは最早わからない。今後、鼻水を除去せずに暮らせるような体質改善が叶ったなら、発達した鼻は退化していくかも知れないが、生きている間にその経緯を観察できる見込みはまるでない。
 鼻の高さは完全に親に負けているのに、冬になると私の鼻先は凍り付く。冷たくて仕方がない。鼻先が冷たすぎてじっとしていられないくらいなので、私より鼻の高い母親にあるとき聞いてみた。
「鼻…冷たくないの?」
 母の答えはこうだ。
「冷たくないことも無いけど、そんなに気にならない」
 鼻は、高ければ高いほど先端が冷えるのではないのか?というのは、私の思い込みだったらしい。
 ネットで検索をかけてみると、実際、鼻先の冷えは、手足の末端冷え性の一部だということがわかった。末端冷え性なら、末端らしい末端を持った細くて高い母の鼻の方が対象になるようにも思えるが、原因はそれだけではないらしい。腸内環境や女性ホルモンの乱れ、ストレス、低血圧、筋肉量の低下など、様々な要因が鼻先冷え性の原因となるのだと書かれてあった。
 現段階で私の対処療法とは、鼻が冷たいと感じたなら、室内でもマスクを着用する…ということだ。それで大方改善が見込める。
 コロナがインフルエンザと同じく5類に下げられ、マスク着用義務の緩和が実現する頃には、鼻先冷え性の心配から解放されているだろうと思っていたが、そんなことは過去の話になった今でも、室内にはひとりで居るのに、冬が巡れば厳重なコロナ対策を今年も自主的に行っている。防御するのはウイルスではなく、万病のもとである〝冷え〟ではあるが…。


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