合わない病院 ①
病院嫌いである。病院代にお金を費やすことがすごく嫌なので、余程のことが無い限り不調があっても自力で治そうとする。薬など、ドラッグストアで買うより、実際に医者に掛かって処方してもらう方が割安だという話もあるが、そもそも医者に行くのが嫌なのだ。時間を制限され、待ち時間も長く、終わった後ぐったり疲れる。余計病気になりそうだ。
そうは言っても、どうしても病院に行かねばならないことはある。何十年も前、極度のストレスから酷い歯痛を起こし、掛かり付けていた歯科医がとんだヤブ医者だと自覚して以来、信頼出来る歯科を見つけられずにいた。当時まだ付き合いのあった歯科衛生士の友達に泣きつき、紹介してもらった病院がとても良くて、以来、半年に一度、メンテナンスに通っている。歯痛は自分の力だけではどうにもならなかったのだ。
また、十数年前に、これまた極度のストレスから慢性蕁麻疹を発症し、以来、抗アレルギー剤が手放せない。いつまで飲み続けなければならないのだろうと…通っている皮膚科に疑いすらかけたくなるが、少し改善したと思っても、薬が無いと落ち着かない。結局、薬がなくなりそうになる度に訪れざるを得なくなっている。
それなりの年なので、定期検診や年齢に応じたがん検診などを受けるようになって久しい。現在、定職についていない為、職場での健康診断を受診できる立場に無いのだが、市の無料検診の受診票が届いていたので、思い立ったのを機に受けておくことにした。
実は色々手違いがあり、春に受けた乳がん検診が中断していたのだ。
その検診も、すったもんだであった。
前回受診した時、誕生日年の一年間が受診期間だったと記憶していたのだが、今回受けようと、前回と同じ最寄りの指定病院を訪れたところ、受診期間が期限切れであると言われたのだった。
私は早生まれ。因って、誕生日を越した翌年度に届いた受診票は、その4月から年度最後の3月まで有効だと思っていたのだが、指定病院曰く、誕生日を越した時点で、受診期間は無効になると言われたのである。ということは、4月生まれなら4月に届いてその誕生日までに受診しなければならない…ということになるのではないか?と思うのだが、4月生まれの人にはもっと早く受診票が届いているのかも知れない。私に届いたのが年度始めの春だと記憶しているため、勝手に年度の一年間が有効だと思い込んだ可能性もある。真偽は怪しいが、いずれにせよ、わざわざ仕事を休んでまで受診の時間を割いたというのに、思い通りにならず、がっくりした。
その後、市の健康センターで再手続きを取れば受診出来ると説明され、走り回ることになる。健康センターなど行ったことがないので、市役所内に部署があると思って出向いたのだが無く、扱い慣れないスマホで調べ捲り、自宅から近いその場所を通り過ぎて役所まで来ていたことを知った。結局、病院→市役所→健康センター→病院…と、走り回り、何とか受診出来たのだった。
後日、マンモグラフィの結果が電話で知らされ、異常なしと言われてホッとする。毎回何かしら引っかかるのだ。
しかし電話には続きがあった。
「マンモグラフィは異常なかったのですが、エコー検査も無料で受けられます。どうなさいますか?」
なら何故いっぺんにやってくれなかったのか?と若干イラっとしたが、異常なしとはいえ少なからず気になるところがあったからエコーを勧められているのかも知れず、無料なのなら…と、受診の意思を伝えた。
指定病院は乳腺外来の専門医が、他所の病院から巡回で訪れる。検査を受けられるのは、その医師の巡回日である水曜の午前中だけだと言われ、電話を受けた木曜日の翌週に受診しようと決めた。
そして翌水曜日。俄かに騒然とした受付で、検診関係は無期限停止となったと伝えられる。丁度前日、コロナの影響で緊急事態宣言が発令されたのだった。
事務から、他の指定病院の一覧を受け取ったものの、この状況なので、何処も検診業務を停止している可能性が大きいと言われた。恐らく、八月ぐらいまではこの状況が続くだろうと…。
一覧に記された病院は、何処も遠方で、気軽に足を向けられる場所に無い。緊急事態宣言から一夜明け、何処も彼処も混乱しているのが目に見えてわかったため、仕方なく落ち着くまで見送ることにした。
もし大きな病気に罹っていたとしたら、検診業務停止中に悪化する可能性も無いとは言えない。そんな場合、その責任は誰が負うのだろう…と、ふと過る。きっと誰も負ってくれないだろうが、そのせいで死んでしまうようなことになったら、素直に死ねる気がしなかった。